三好輝のマンガ「憂国のモリアーティ」(集英社)の連載10周年を記念した特別なステージ「ミュージカル『憂国のモリアーティ』緋色の研究 Reprise(リプリーズ)」が、6月から7月にかけて天王洲 銀河劇場で上演される。
「ミュージカル『憂国のモリアーティ』」(以下モリミュ)シリーズは2025年に新たな展開を迎え、今回の「緋色の研究 Reprise」では、2019年に上演されたモリミュの原点「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.1」が再構成される。さらに本公演では、モリミュシリーズ初の2チーム体制が導入されるほか、モリアーティ陣営とホームズ陣営のキャストを入れ替えた“陣営シャッフル公演”が実施されるといった新たな試みも行われる。
ステージナタリーでは、「Op.1」から現在に至るまで、W主演としてモリミュの屋台骨を支え続けるウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役の鈴木勝吾とシャーロック・ホームズ役の平野良にインタビュー。モリミュシリーズに長く携わってきた2人だからこそ語ることができる、本公演にかける熱い思いを聞いた。
取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤田亜弓
ヘアメイク / 古橋香菜子、吉田梨々花スタイリスト / MASAYA
人生をかけた闘いだった「大英帝国の醜聞 Reprise」
──2020年上演の「Op.2 -大英帝国の醜聞-」を再構成した「大英帝国の醜聞 Reprise」が2025年に上演され、新たなモリミュシリーズが動き出しました。2023年上演の「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件-」では、犯罪卿ウィリアム・ジェームズ・モリアーティと名探偵シャーロック・ホームズが行き着く結末を知ったうえで「大英帝国の醜聞 Reprise」に臨まれましたが、同公演を振り返っていただきつつ、新シリーズで特に変化を感じた点について教えていただけますか?
鈴木勝吾 新シリーズに入り、僕たち以外のキャストが変更になったことに伴って、座組の雰囲気や芝居の感触がまったく違うものになりました。原作ものの作品を再演に近い形で再構成して上演することは、自分の中であまりない経験だったので、すごく新鮮に感じましたね。
平野良 自分としては、広崎うらんさんを迎えて新たな振付がついたことが一番大きな変化だったんじゃないかと思っています。モリミュの世界観を構築するうえで、アンサンブルはすごく大切な存在なのですが、彼らが紡ぎ出す世界観がガラリと変わったことが、シャーロックを演じる中でも特に違いを感じる部分でした。もちろん、メインキャストが刷新されたのも大きな変化だったと思います。ジョン・H・ワトソン役のケンケンさん(鎌苅健太)と真一(橋本真一)とのアドリブでの掛け合いの違い、ミス・ハドソン役の奏音ちゃん(七木奏音)と愛未(能條愛未)のお芝居の質の違いも面白かったです。たとえるなら、ケンケンさん&奏音ちゃんコンビは紅茶とチョコレートみたいな優雅さがあって、真一&愛未コンビはカラフルなグミのようなやんちゃなイメージ(笑)。モリアーティ陣営はどんな印象だった?
鈴木 教室の窓際に集まって騒いでいるのがOp.チーム(笑)。Repriseチームは席に座って本を読んでいるイメージですね。
平野 Repriseチームがクラスメイトだったら、みんなちゃんと給食係をやってくれそうなメンバーだもんな(笑)。
鈴木 そうそう。一方のOp.チームはいっぱいおかわりをするし、嫌いなものは一切食べないみたいな感じがします(笑)。
──「大英帝国の醜聞 Reprise」上演前に取材させていただいた際、お二人は「心機一転、ゼロからキャラクターを作り上げる」「フラットな感情で舞台に立ちたい」とおっしゃっていましたが、新たな座組の中でそれぞれウィリアムとシャーロックを演じた手応えはいかがでしたか?
鈴木 正直なことを言うと、ウィリアムの役作りについては厳しい声もいただきました。「ウィリアムはポケットに手を突っ込まないのでは?」とか「ポケットに手を突っ込むのはシャーロックのほうなのでは?」とか。お客さんが言っていることの意味もわかるんですよ。でも、僕の俳優人生をかけた闘いでもあったから、そこは譲れなくて。皆さんそれぞれの中に“ウィリアム像”があるのは重々承知したうえで、フラットでいることを意識して舞台に立ちました。演出の西森(英行)さんが「モリミュを古典作品にしたい」とおっしゃっているんですけど、僕たちキャストもモリミュを再演可能なミュージカルに育てていくために、どうしたら良いのかということをずっと考えていて、たとえば「ウィッグを被らない公演をやってみたらどうか?」と思ったこともあります。本物の英国紳士がいたとして、普通に生きている人間だったらポケットに手を突っ込むかもしれないし、四六時中ずっとビシッとしていられるわけではないから。
平野 日本だとポケットに手を入れるのはあまりお行儀が良くないイメージだけど、むしろ本物の英国紳士はやっていそうじゃない?
鈴木 そうですね。原作で描かれているわけではない部分に普遍性を出せたら良いなと思ってトライしたところでした。
平野 なるほどね。自分としては、「大英帝国の醜聞 Reprise」は、僕自身のシャーロックとしての芝居がどうこうというよりも、周りのみんなと一緒にシャーロックというキャラクターを作り上げてきたことを認識した公演でした。バイオリン演奏で参加している周ちゃん(林周雅)と相談しながら、「楽譜に指示はないけど、この小節からBPMを少し上げてみよう」「ここは弾くような音を出してみては?」みたいに、音楽面でもさまざまなアプローチをしてみました。周ちゃんは耳が良いから、「今、歌い方を変えましたよね」とか「この場面は心情の変化があったんですか?」とか、全部見抜くんです。周ちゃんは本当にすごい音楽家ですよ。
モリミュを再演可能なミュージカルに
──今回上演される「緋色の研究 Reprise」では、2019年に上演されたモリミュシリーズの原点「Op.1」に新たな演出を施し、再構成します。19世紀末、大英帝国最盛期のロンドンを舞台に、“犯罪卿”ウィリアム・ジェームズ・モリアーティはいかにして生まれ、“名探偵”シャーロック・ホームズと出会ったのか、宿命の2人の物語が改めて描かれますが、新たに立ち上げられた脚本や楽曲香盤表を読んで、どのように感じましたか?
鈴木 まず、僕は「Op.1」当時のことをよく覚えていて、「『至高の誘惑』に登場する三拍子、慣れるまではすごく大変だったなあ」とか「『三兄弟の秘密』は稽古場で何度も何度も試行錯誤を繰り返して、あの形に落ち着いたんだったな」とか、いろいろなことを今でも鮮明に思い出すことができます。
平野 「Op.1」のときは、まだモリミュがシリーズ化するかわかっていなかった時期だったので、「この作品を面白くしよう」という一心で作っていたなと。シャーロック陣営に関しては、「Op.1」ではアドリブを多用していて、今考えると「このシーンはシャーロックではなくて、もはや“役者・平野良”だったよね」というシーンもあります。当時はそれが最適解だと思っていたけど、一度物語の結末を見届けたあとだから、どのキャラクターよりもシャーロックの居方が一番変わるかもしれません。
鈴木 シャーロックは、ウィリアムという人間を深く知っていく中で、自分自身もどんどん人間味が増していく。「Op.1」のシャーロックはウィリアムと出会ったばかりで、ウィリアムのことをほとんど知らないけれど、ウィリアムは自身が思い描いた物語の結末を知っているんですよね。シャーロックだけが“知っていてはいけないこと”が多いから、シャーロックを演じる良くんが一番大変かもしれない。そこが、僕たち2人の中で大きく違うところだと思います。
平野 そうだね。それと、「Op.1」には、レニー・ダブリン男爵役の山岸拓生さんのような“演劇の怪物”がいたから、彼と渡り合っていくには“シャーロックの皮”を剥いで、“役者・平野良”の顔を出さないといけないときがありました。経験を積み重ねた今、しっかりとシャーロックのまま舞台上に存在できると思うし、作品全体もより洗練されたものになると良いなと思います。
鈴木 「緋色の研究 Reprise」では新曲が追加されることに伴い、時間的な制約も出てくるから、「ここは役から降りてアドリブをしないほうが良い場面だ」「ここはアドリブが必要な場面だ」というふうにしっかりと取捨選択をして、お客さんに見せたいポイントをしっかりと浮き彫りにできたら良いですよね。誤解を恐れずに言うと、“お客さん受けを狙った蛇足“を削って、再演可能な普遍的なミュージカルを目指したい。アドリブを大切にした演劇は今後もやるけど、モリミュに関してはそこに頼らず、別の“武器”で勝負したいと思っています。
平野 そうだね。モリミュが役者に依存しない、強い作品になったら良いなと自分も思います。
──モリミュシリーズに最初期から参加されているお二人が、モリミュへの出演を経て獲得したご自身の“武器”は何だと思われますか?
鈴木 何かの“武器”を磨いたというより、常にみんなと一緒にトライし続けて、モリミュという作品に育ててもらった、というニュアンスのほうが正しいかもしれません。それぞれがほかの現場で経験したことをモリミュに持ち寄って、「もっと自分のお芝居が良くなれば」「もっと自分の殺陣がうまくなれば」「もっと自分の歌がうまくなれば」というふうに、いろいろなものをモリミュに反映してきたところが大いにあると思います。
平野 自分としては、モリミュを通して、変拍子が入っている難しい譜面を読むことに慣れたのが一つの変化かな。
鈴木 そうですね。ミュージカルをずっとやってきた方からすると些細なことかもしれないけど、モリミュの譜面は今まで出会ってきた中で最難関の譜面だったから。
平野 今までドリルをやっていたのに、急に六法全書を渡されたみたいな感覚だったよね(笑)。「Op.1」のときに比べたら、アップデートできたんじゃないかなと思います。大体の楽曲は変更があるようだけど、シャーロックの「真実」、ジョンの「僕だけは」、ウィリアム、アルバート、ルイスが歌う「三兄弟の秘密」は「Op.1」のときとあまりテイストが変わらないみたいだね。
鈴木 テイストが変わらない曲こそ演出の妙が見られるよね。ぜひ楽しみにしていてください。
連載10周年を一緒に祝いたい
──「緋色の研究 Reprise」では、モリミュシリーズ初の2チーム体制が導入され、Op.チームとRepriseチームに分かれて公演が行われます。また、ただすけさんが生演奏で参加する公演や、モリアーティ陣営とホームズ陣営のキャストを入れ替えた“陣営シャッフル公演”が実施されるなど、シリーズ初の試みが盛りだくさんになりました。
鈴木 しゅんりーさん(髙木俊)や裕一さん(伊藤裕一)のように、ジョージ・レストレードとジェファーソン・ホープの2役をスイッチしながら演じる方もいるし、お客さんにもあらゆる角度で楽しんでいただけるんじゃないかと思います。Wキャストで出演すると言っても、年齢も違えば経験値も違うし、得意なことも苦手なことも人それぞれ。プライドを捨てて、Wキャストの相手からいろいろなことを教わり、良いものを提示し合って、刺激し合っていただけたら良いなと思います。シングルキャストの僕と良くんは彼らに負けないようにしないとですね! 今、自分の首を自分で絞めました(笑)。
平野 以前モリミュに出演したキャストが戻ってきて、戻ってきたキャストが別のキャストとWキャストで出演することはあまりないと思うので、そこにモリミュカンパニーの愛情を感じました。シングルキャストの僕らとしては、相手役が誰であっても、目の前にいる人の芝居に本気でリアクションをして、真摯にお芝居をするのみです。
──原作「憂国のモリアーティ」の連載10周年を記念した特別なステージ「緋色の研究 Reprise」に向けて、改めて意気込みを聞かせていただけますか?
鈴木 連載10周年という、僕らには想像できないくらいの荒波を、原作者の三好輝先生が乗り越えてきたことを一緒にお祝いしたいです。「憂国とは?」「今この時代に、この作品を演劇・ミュージカルにして届ける意義とは?」ということを考えながら、作品を作っている僕たちの思いがしっかりと伝わるように、かつお客さんが求めているもの届けられるような作品にできれば。今回は特に、原作の第1話から物語を作り上げていくので、原作が持つ魅力を改めて演劇の力で伝えられたらと思います。
平野 連載が始まって10周年、ミュージカルが始まってから7周年、この年月で出会った仲間と深めてきたものをお見せできることがすごく楽しみです。やっぱりモリミュではアンサンブルの存在が特に大切だと思っているので、「今回『緋色の研究 Reprise』は、このメンバーでこういう振付で作品世界を構築するんだ」ということに注目していただけたら。“再演”“再構築”“再現性”という面で言うと、ブリッツ・エンダース伯爵役の小南光司が再びズボンのチャックを全開にして登場するのかどうかが気になります(笑)。
鈴木 ははは!
平野 前の公演でそういうハプニングがあって、「やっぱり人をあやめるときはチャックを全開にするぐらい狂っていないといけないんだ……」ということを表現しているのかと思いきや、単純にミスだったらしいです(笑)。
鈴木 小南くんに関しては、とある筋から「歌がうまくなりたい!」とがんばっているという情報を耳にしましたよ。あるミュージカルに出演したときに悔しい思いをしたから、今回とても気合いが入っていると聞きました。僕らも体調に気をつけてがんばりましょう!
平野 そうだね!
プロフィール
鈴木勝吾(スズキショウゴ)
1989年、神奈川県生まれ。俳優。2009年から2010年にかけて放送された特撮ドラマ「侍戦隊シンケンジャー」のシンケングリーン / 谷千明役で俳優デビュー。Theatre Polyphonic 第7回公演「ミュージカル『翼の創世記』Genesis of Wings」、ミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」などの本格ミュージカルをはじめ、「ミュージカル『薄桜鬼』」「ミュージカル『東京リベンジャーズ』」、ミュージカル「SPY×FAMILY」など人気シリーズにも多数出演。2023年、饗宴「世濁声(よどみごえ)~GOOD MORNING BEAUTIFUL MOUSE」で脚本・演出を初担当し、クリエイターとしても才能を発揮している。5月に音楽劇「OLD WATERCOLOR FISH」に出演予定。
鈴木勝吾[Official] (@Shogo_Suzuki_) | X
平野良(ヒラノリョウ)
1984年、神奈川県生まれ。俳優。テレビドラマ「3年B組金八先生」(第5シリーズ)で映像デビュー。2008年に「ミュージカル『テニスの王子様』1stシーズン」に出演。近年の出演舞台に、舞台「文豪とアルケミスト」シリーズ、舞台「時をかけ・る~LOSER~」、舞台「黒蜥蜴」、舞台「羽州の狐」などがある。





