コクーン アクターズ スタジオ第2期生が挑んだ「アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―」公演レポート 杉田未央・行定勲・堀越涼が振り返る「アンサンブルデイズ」

コクーン アクターズ スタジオ第2期生による発表公演、COCOON PRODUCTION 2026 Bunkamura オフィシャルサプライヤースペシャル「アンサンブルデイズ─彼らにも名前はある─」(以下「アンサンブルデイズ」)が、3月19日から22日まで、Bunkamura シアターコクーンにて上演された。コクーン アクターズ スタジオ(以下CAS)はBunkamura シアターコクーン芸術監督の松尾スズキが学長を務める“若手を対象とする演劇人の養成所”。本作は、松尾がCASのために書き下ろした作品で、アンサンブル俳優たちが夢と現実の間で葛藤する様が描かれる。第2期生の「アンサンブルデイズ」は、演劇的手法によりシンプルかつ大胆に作品を立ち上げるノゾエ征爾が演出を担当した。ここではその公演の様子をレポート。さらに後半は、「アンサンブルデイズ」の音楽を手がけた杉田未央、CAS特別ワークショップのゲスト講師を務めた映画監督・演出家・脚本家の行定勲、CAS第3期の常任講師で、第3期生の「アンサンブルデイズ」演出を手がける堀越涼が観劇後の思いを語っている。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 細野晋司

第2期生が全力で挑んだ
「アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―」
公演レポート

客席にも特別な緊張感が漂う「アンサンブルデイズ」

コクーン アクターズ スタジオ(CAS)第2期生による発表公演「アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―」(以下「アンサンブルデイズ」)が、3月19日から22日まで、休館中のBunkamura シアターコクーンで特別に上演された。「アンサンブルデイズ」は昨年、CAS主任講師である松尾スズキが作・音楽を手がけたミュージカル作品で、俳優を志す若者たちが夢と現実の間で葛藤する様が描かれる。昨年の初演では杉原邦生が演出を担当し、今回はCAS立ち上げから専任講師を務めるノゾエ征爾が演出を手がけた。出演者には荒木穂香、石橋真理愛、伊藤優杏、尾崎京香、笠井涼乃心、久保嗣、粂野泰祐、倉元奎哉、河内洋祐、古賀彩莉奈、酒向怜奈、佐々木春樺、澤田陸人、思方、大河杏、樽見啓、堤麻綾、德重舞、中川大喜、吉岡苑恵と20名のCAS第2期生が名を連ねた。

2024年4月に始動したCASでは、2023年4月に休館したシアターコクーンを活動拠点に、1年間にわたりレッスンが行われる。この2年、シアターコクーンを取り囲む環境はかなり様変わりした。以前は渋谷駅からシアターコクーンまで、東急百貨店本店の白地に赤で描かれたロゴマークを目印に文化村通りを進んだが、今はパイプが剥き出しになったグレーの壁がシアターコクーンの道標だ。ただ、渋谷駅前の雑踏からBunkamura1F正面入り口に入ると、流れている時間は以前のままで、3月に開催されていた写真展目当てにザ・ミュージアムに向かう人と、シアターコクーンを目指す人が行き交い、賑わいを見せていたほか、劇場前に掲出された「アンサンブルデイズ」の大型ポスターの前で写真を撮ろうとする人たちや、偶然会った知人との会話に花を咲かせる人たちなど、活気に満ちていた。また客席には出演者と同世代と見られる若い観客から、出演者の親世代までの幅広い観客と、俳優や劇作家、演出家など舞台人たちの姿も多く見られ、通常の公演とは違う緊張感が漂っていて、本公演が、いわゆる養成所の発表会という域を超えて、多くの人の注目を集めるものだということが感じられた。

稽古での奮闘が本番での成功に

当日パンフレットに目をやりながらぼんやりと開演を待っていると、遅れてきた若い男性が客席通路を歩いて前方の客席に着く……と思ったらそのまま舞台上に上がって、客席に向かって「おはようございます!」と大声で言って頭を下げた。その後も続々と舞台に人が上がり、それぞれのトーンで「おはようございます!」とあいさつ。渋谷の街の風が劇場に流れ込むように、客席から舞台に人が流れ込み、やがて全員が横一列になると、口々にセリフを発しながら前進してきた。そこに「オーディションのみなさん。それでは会場の方にご案内します」とアナウンスが入って、芝居はいつの間にか始まっていた。

物語は、デリヘル嬢のミナミと、アンサンブル俳優でデリヘルの運転手・焼海苔のやり取りからスタート。うまくいかない毎日にうんざりしている2人は、月が明るい晩、そのまま寄り道をすることに。一方、アンサンブル俳優の青山、虎井、式は、ミュージカル版「リア王」のオーディションに参加した帰り道、自分の目指す姿と現実のギャップに悶々としていた。偶然出会った彼らは、業界人が集まるバーで一緒に飲むことになるが、そこにプロデューサーや演出家たちもやってきてオーディションの合否を決め始める。アンサンブル俳優のすげない扱われ方を目の当たりにした虎井らは、自分たちで劇団を立ち上げることを決意して……。

現状に半ば流されるままになっていたアンサンブル俳優たちが、自分たちの意思を持ち意欲的に行動し始める中盤、物語の展開に合わせて振付稼業air:manのダンス、松尾と杉田未央の音楽もより密度を増していく。たとえば虎井たちが旗揚げ公演に向けてあくせくと動き回るシーンでは、「忙しい、忙しい……」と歌いながら多様に形態移動し、素早い連携プレーで箱馬をタワーのように積み上げていった。実はこのシーン、稽古の初期段階では段取りが細かくテンポも早くてなかなか動きがそろわなかったのだが、本番では迫力ある見事な見せ場に仕上がっていた。また旗揚げ公演「ゴッホ・スクワッド」に向けてイメージを膨らましていくシーンでは、現実からフィクションの世界に飛躍していく様を、俳優たちが全身全霊でスピーディかつ熱っぽく表現し、新しい作品の胎動を感じさせた。

塊から1人ひとりに…それぞれの道を進むCAS生たち

ノゾエ演出版の「アンサンブルデイズ」は、小道具や舞台美術をほとんど用いないところも特徴的だ。これまでもノゾエは、チョークや椅子、ジェンガのような直方体の箱など、可変性の高いアイテムで舞台を豊かに立ち上げてきたが、本作でも箱馬を使った“見立て”によってシアターコクーンの空間をさまざまに変化させていく。当日パンフレットにノゾエは「今回の舞台セットは彼らへのエールとも言えて。うつろい、決して寄りかかれない。なんとも頼りきれないモロい世界で、その身一つをむき出しに立つその姿は、我々が今一番求める、人の立ち姿なのかもしれない」と記していた。そんなノゾエのエールを一身に受け、第2期生たちは歌い、踊り、演じ、生き生きと舞台を立ち上げていく。稽古で、歌とダンス、段取りを同時進行させることに四苦八苦していたのが嘘のように、舞台は軽やかに展開していった。

さらにノゾエ演出版は、“笑い”も印象的だった。何気ないセリフの中にある可笑しみが、俳優たちの声や身体を通すことでスパークル。最初は控えめに笑っていた観客が次第に声を出して笑うようになり、客席の温度が上がっていくのが感じられた。またCAS生たちの表現方法がさまざまで、声のトーンや“間”で笑わせる人もいれば、身体の柔軟性や演技で魅せる人もいて、CAS生20人それぞれの個性が感じられたのも良かった。上演前のインタビュー(参照:コクーン アクターズ スタジオ第2期生の「アンサンブルデイズ」稽古場レポート / 松尾スズキ・ノゾエ征爾対談)で、松尾とノゾエは本作について「微妙にありそうでない世界観で書いている」(松尾)、「現実の“あるある”がエンタメになる距離感にショックを受ける」(ノゾエ)と語っていたが、台本だけでなく演出面でもリアルな展開や演技の中にフィクション性の高い表現が織り交ぜられることで、作品の普遍性とクリエイティビティが広がった。なお今年も朱雀ver.と玄武ver.の2バージョンでの上演だったが、共通の柱をシングルキャスト7人が作り、13人のWキャストメンバーが作品それぞれの幅を広げていたように思う。そんなさまざまなアプローチで臨んでも決してブレない松尾作品の強度に改めて驚きつつ、「第3期生はどんな『アンサンブルデイズ』を見せてくれるんだろう」と早くも期待が湧き上がってしまった。

ラストでは、シアターコクーンを象徴する舞台奥の搬入口が開き、CAS生たちは登場したとき同様、それぞれの荷物を持って渋谷の街へと消えていく。その後ろ姿には、「アンサンブルデイズ」登場人物たちと共に、第2期生たちの未来が重なって見えた。シアターコクーンに集まり、シアターコクーンでレッスンを重ねて、巣立っていくCAS生たち。芝居が始まったときには1つの塊に見えたCAS生たちが、20人それぞれの余韻を残して街へと消えていった。

終演後、駅へ向かう道の前で、出演者の家族らしい親子が前を歩いていた。興奮冷めやらない様子で、「最初はどこに出ているかばかり気にしていたけど、忘れてのめり込んじゃった」「何にもない舞台であんなふうに見せちゃうのはすごい」「普通に、“観に来て良かった”ね」と口々に話す親子の後ろを歩きながら、心の中で思わず大きくうなずいた。