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「日出処の天子」は雑誌「LaLa」で1980年4月号から1984年6月号まで連載された、山岸のマンガ。飛鳥時代前夜、権勢を誇る蘇我氏の後継者たる毛人が、出仕した朝廷で厩戸王子と出会い……。作中では、毛人と厩戸の激動の物語が繰り広げられる。本日公演のビジュアルが公開されたほか、厩戸王子役を萬斎、蘇我毛人役を福王和幸、刀自古郎女役を裕一、布都姫役を鵜澤光、物部守屋役を
山岸は、今回の能 狂言化と、関わるアーティストたちのことを知って「舞い上がってしまった(笑)」と打ち明け、「静けさの中に何かを見つけるような能 狂言は、世界に誇る芸術だと思う」と言う。山岸は原作の連載時を「1980年代当時、聖徳太子といえば1万円札の肖像。“ジェンダー”や“性同一性障害”といった言葉も知られていない時代に、同性愛の要素がある物語を連載することで、編集部とは揉めた。でも私は『相手が誰だろうと愛することの尊さを、誰にはばかることなく描くべき』と思っていた」と振り返りつつ、「描き上げておいて良かった」と、改めて舞台化の喜びをかみ締めた。
本作では萬斎が厩戸王子を演じる。これについて山岸は「萬斎さんが演じてくれないかなと思っていた。引き受けてくださり、作者冥利に尽きます」と萬斎への厚い信頼をのぞかせ、「原作はもはや、萬斎さんのまな板の上の鯉。文藏先生、裕一さんというよく切れる“刃物”で、お好きなようにぶつ切り、みじん切りにして料理してほしい。“おいしい”舞台を楽しみにしています」と顔を輝かせた。
穴穂部間人媛役で出演する文藏は、2005年の「桐葵」、2008年の「河勝」、2021年の「聖徳太子」と、3回にわたって聖徳太子が登場する新作能を手がけてきた。梅原猛が台本を手がけた「河勝」では、劇中に“河勝が流された先を訪ねるのに、新幹線に乗る。新幹線のベルが鳴る”という記載があったという。文藏は「梅原先生に『ここどうするんですか』と聞いたら、『(ベルを)鳴らしてよ!』とおっしゃっていた」と懐かしそうに語りつつ、「おこがましいようですが、舞台人として聖徳太子とご縁をいただいてきた。今回も大変ありがたいお話」と話した。
また「能 狂言『鬼滅の刃』」にも携わった文藏は「マンガを能 狂言にする路線を目指しているわけではなく、たまたま続けて素晴らしい原作に出会うことができた」とコメントし、「能は1人の主人公の思いを、相手役が聞くというのが基本。そのため『日出処の天子』では、厩戸王子の思いをどのように集約するのかがこれまでの作品よりも複雑になりそうだが、期待してほしい」と語った。
2人の姉の影響で、十代の頃に原作を読んだという萬斎は「当時の私にとってはショッキングな内容に驚きつつ、とても惹き込まれた」と話す。また自身が演じる厩戸王子について「シンパシーを感じるか?」と司会に尋ねられた萬斎は「厩戸王子は人だけど、人と同じではないという存在。私も“人外”と言われることがありますが、思春期の頃クラスで1人だけ体幹が強かった。みんな背中を丸めて机に向かっている中、1人だけ背筋を伸ばして何か書いているやつがいると(笑)。『どうやら自分は人と違うらしい』と悩んだ時期もあるので、恐れ多くも厩戸王子に共感するところがあります」とエピソードを披露した。
「陰陽師やゴジラのように、“どこかとつながっている”役をいただくことがありますが、今回は皆さんにとっての厩戸王子を演じることが最大の難所」と萬斎。演出の構想については「活劇というよりは、宇宙観を含んだ哲学的な作品になりそう」「原作を読んで『ぶっ飛んでいる』と感じた。飛躍を描くことは能 狂言の真骨頂だと思います」と述べ、「飛鳥の都に生きた人々にとっては鎮魂になり、我々にはカタルシスを与える作品になれば。山岸先生のファンも、今回初めてこの作品に触れる方もうならせたい」と言葉に力を込めた。
1997年生まれの裕一は「私は1万円札といえば福沢諭吉の時代に育ちました(笑)」と前置きしつつ、「上演発表の際の反響が大きく、多くの方に愛されている作品だと感じました。私が演じる毛人の妹・刀自古郎女は、初めはおてんばですが、あるところからそのイメージが一変するキャラクター。刀自古郎女の中にある光と影を舞台で表現できたら。大作に携わるプレッシャーを感じていますが、能 狂言でしか表現できないことにたくさんチャレンジしたい」と意気込みを語る。また本作を能 狂言として舞台化することについて、裕一は「細密な力強い絵が“動”で、白い背景が“静”だと感じた。そのような画面で物語が表現されていることに、私は能との親和性を強く感じました」と考えを口にした。
また会見では「奈良に行くと、よく不思議な気象現象を目にする」という山岸が、4月上旬に奈良県高市郡明日香村を訪れた際の出来事を語る場面も。山岸はこれまでにも奈良で、太陽の周りに浮かぶ虹色のリング・日暈(ひがさ)が、まるで横倒しになった虹のように見えたことが複数回あると語る。明日香村を訪ねた際も山岸は、石舞台古墳の近くを車で通ったとき、広範囲に白い日暈が出ているのを見たのだという。山岸はこれに触れて「『日出処の天子』の能 狂言化を奈良に受け入れてもらえたように思えて、うれしかったです」と晴れやかな笑顔を浮かべた。
公演は8月7日から10日まで東京・二十五世観世左近記念観世能楽堂で行われる。
-能 狂言-「日出処の天子」
2025年8月7日(木)〜10日(日)
東京都 二十五世観世左近記念観世能楽堂
スタッフ
出演
厩戸王子:野村萬斎
蘇我毛人:福王和幸
刀自古郎女:
布都姫:鵜澤光
物部守屋:
蘇我馬子:
泊瀬部大王:
白髪女:
額田部女王:観世淳夫
穴穂部間人媛:大槻文藏
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「-能 狂言-『日出処の天子』」製作発表
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「1980年代当時、…同性愛の要素がある物語を連載することで、編集部とは揉めた。でも私は『相手が誰だろうと愛することの尊さを、誰にはばかることなく描くべき』と思っていた」。野村萬斎主演は「作者冥利」(山岸凉子)