東京バレエ団プリンシパル秋山瑛とミュージカル界で活躍する三浦宏規が愛してやまない「くるみ割り人形」を語る

クリスマスの時期の風物詩としても知られるバレエ作品「くるみ割り人形」。東京バレエ団の公演が12月に、今年も東京文化会館で上演される。舞台上では、きらびやかな衣裳や荘厳な舞台美術に彩られ、少女マーシャが体験する一夜の冒険が、ファンタジックに繰り広げられる。

ステージナタリーでは、本作にマーシャ役で出演する東京バレエ団プリンシパルの秋山瑛と、バレエを自身の原点に、現在はミュージカル界で活躍する三浦宏規の対談を実施。それぞれの「くるみ割り人形」に対する思いを語ってもらった。

取材・文 / 富永明子(サーズデイ)撮影 / 平岩享[秋山瑛]ヘアメイク / 藤原リカ(Three PEACE)衣裳協力 / mila schön by chika kisada

秋山瑛は「意外とおっとりさん」

──秋山さんと三浦さんは2024年、上野で毎年開催されている「上野の森バレエホリデイ」のトークイベントでお話しされたことがあるそうですね。お互いにどんな印象を持ちましたか?

三浦宏規 秋山さんのバレエを拝見したら、踊りはシャープだし、高貴なオーラが漂っていたので、勝手に口数が少なくて近づきがたいタイプなのかなと思い込んでいたんです(笑)。話してみたらすごくフレンドリーな方で、優しく接してくださってうれしかったですね。

秋山瑛 ファンの方とお話ししたときに、「強めの性格の方だと思っていました」と言われることがあって……(笑)。

左から秋山瑛、三浦宏規。

左から秋山瑛、三浦宏規。

三浦 お話してみたら、意外とおっとりさん。すごくいいギャップでした。

秋山 三浦さんは人懐っこい方という印象でしたね。みんなに好かれる方。一緒にトークイベントに出た(池本)祥真くん(東京バレエ団プリンシパル)が「めっちゃカッコいい!」と喜んでいたのを覚えています。

三浦 いえいえ、そんな。ダンサーさんにそう言っていただけるなんて恐縮です。

──その池本さんをパートナーに、12月に秋山さんは東京バレエ団の「くるみ割り人形」で主役のマーシャを踊られますね。

三浦 それはぜひ観たいな!

秋山 お忙しいと思いますが、よろしければぜひいらしてください。

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。左から秋山瑛、宮川新大。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。左から秋山瑛、宮川新大。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

三浦 「くるみ割り人形」が大好きなんですよ。クリスマスになると動画でバレエを観たり、音楽を聴いたりして「くるみ割り人形」の世界に浸ります。街中でも音楽がよくかかっているので、バレエを観たことがない人でも「これって『くるみ割り人形』の曲だよね」と知っているのはすごいことだなと思います。僕は今バレエの世界から離れているから、余計にそう思います。

秋山 三浦さんは長くバレエを習っていらしたんですよね?

三浦 中学2年生くらいまで続けていました。通っていた教室の発表会で、毎年「くるみ割り人形」を上演していて、僕もフリッツ役(マーシャ / クララの弟)で出演していたんです。発表会のバージョンでは緞帳の前でピルエットを回るシーンがあって、そこに命を懸けてました(笑)。いつも練習では失敗していたのに、本番では6回転に成功したこともあるんですよ!

秋山 緞帳の前ってあんまりスペースがないから、回転するのが難しいのに、成功したのはすごいです!

三浦 うれしくて先生に「できたよ!」と報告したら、「つま先を膝に引っ掛けて、ひどい姿勢で回ってた」って逆に怒られちゃいましたけどね(笑)。

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。(Photo by Shoko Matsuhashi)

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。(Photo by Shoko Matsuhashi)

「くるみ割り人形」は胸のトキメキや夢見る幸せを感じさせてくれる

──秋山さんは毎年「くるみ割り人形」に出演されていますが、この作品のどんなところがお好きですか?

秋山 私は7歳のとき、当時、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団にいらした吉田都さんが出演している「くるみ割り人形」のビデオを観て感動して、その日から何度も何度も観ました。テープが擦り切れて、金平糖の精が出てくる直前のシーンの画像が乱れるくらい(笑)。夢があって、今でも大好きな作品です。

三浦 わかるなあ。「くるみ割り人形」は夢の世界に連れていってもらえる気がします。観ると童心に帰れるんですよね。

秋山 私は「くるみ割り人形」のラストシーンが大好きなんです。本当に起きたことなのか、夢の中の世界なのかわからないけれど、一晩の夢のような幸せをかみしめているシーンで終わります。お客様にもマーシャと一緒に、夢見るトキメキや幸せでたまらない気持ちを体験していただけたら……と思いながら毎年踊っています。

秋山瑛

秋山瑛

──そもそも、お二人がバレエを始めたきっかけは?

秋山 私は7歳のとき、レニングラード国立バレエ(現ミハイロフスキー劇場バレエ)の「白鳥の湖」を観てすぐに「やりたい!」って思ったんです。母にお願いして、始めてみたらすごく楽しくて、一度もやめたいと思うこともなく続けて今に至ります。

三浦 僕は5歳のとき、熊川哲也さんのドキュメンタリー映像を観て「僕これになる!」って宣言して(笑)。男の子が1人もいない教室でしたけど、先生が丁寧に教えてくださって14歳まで続けました。バレエが大好きでやめたいと思ったことはなかったですね。コンクールも楽しかったし。

秋山 男性ダンサーから、コンクールでほかのお教室の男の子たちに会えるのが楽しかった!というお話をよく聞きます。

三浦 普段、教室に男子がいないからうれしいんです。コンクールでも圧倒的に女の子が多いから、男子は居場所がなくて、隅っこに固まって技の見せ合いをしていましたね。小学校4年生の頃には週6回もレッスンして、当時住んでいた三重から名古屋の教室まで1時間かけて通っていました。

秋山 レッスン多い! 私はあんまりコンクールに力を入れるほうではなかったんです。ただ、興味があることとないことがはっきり分かれていて、興味があるとまっすぐがんばるタイプだったとは思います。

三浦 絶対プロになるって決めていたけど、僕はやんちゃというか、“はっちゃけボーイ”でした。レッスンが終わってからも、後ろのほうで動き回ってたから、先生にいつも怒られてたし。(笑)

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。左から秋山瑛、柄本弾。(Photo by Shoko Matsuhashi)

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。左から秋山瑛、柄本弾。(Photo by Shoko Matsuhashi)

──三浦さんはけがによってミュージカルに転向されたのですよね。

三浦 14歳のときに「白鳥の湖」のジークフリート王子のバリエーションを練習していたら、着地に失敗して膝を壊してしまったんです。手術をして半年間はほとんど踊れず、ポール・ド・ブラだけの日々が続きました。やっと治って踊ろうとしたら、膝が伸びなくなっていて、タイツをはくと膝が出てしまうのでもうやめようと決意したんです。

秋山 そこからどうやってミュージカルに出会ったんですか?

三浦 たまたま声をかけていただいてお芝居を観る機会があったのですが、僕はバレエ以外の舞台を観るのが初めてだったんです。「あ、舞台上でしゃべっていいんだ」って思って、そこで目覚めましたね(笑)。

秋山 セリフや歌のないバレエから、ミュージカルの世界に飛び込んで大活躍されているのが本当に素晴らしいなと思います。昨年、出演されたミュージカル「ナビレラ」を拝見して感動しました。

三浦 バレエダンサー役だったのでがんばって踊りましたが、秋山さんがいらっしゃると聞いて、プリンシパルの前で踊ると思ったら緊張してしまって。その日だけは、本番前にバーレッスンをしました(笑)。

三浦宏規

三浦宏規

秋山 普段レッスンをしないであんなに身体が動くなんて! しかもバレエを踊る以外に歌もお芝居もされるなんて、すごい才能だと思います。

三浦 いやいや、そんなことないです。踊りしかできないってバッシングされたこともあるし、苦労はしました。ただ、基本的にポジティブな性格なので、バレエをやめたことも、批判されたこともバネにすることができた。あと、バレエで地道な練習を続ける癖がついていたのもよかったですね。発声練習もコツコツ続けられました。

秋山 どのあたりから、“ミュージカルをやり始めた頃の自分”とは違うなと、お稽古を続けた成果を感じるようになりました?

三浦 やっぱり本番を重ねるうちに変わっていったと思いますね。どれだけ裏で自主練しても、本番中にいきなりアカペラでソロを歌わされるような経験には適わない(笑)。バレエもそうじゃないですか?

秋山 確かに全然違いますね。本番でしか見えない景色ってありますよね。

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

ミュージカルをがんばっていたら、大好きなバレエと再会できた

──三浦さんは間もなく「デスノート THE MUSICAL」が始まりますね。

三浦宏規がL役を演じる「デスノート THE MUSICAL」のビジュアル。

三浦宏規がL役を演じる「デスノート THE MUSICAL」のビジュアル。

秋山 L役で出演されると聞きました。しかもシングルキャストなんですよね、すごい!

三浦 Lは常に猫背でいないといけないのが大変なんですよ! 猫背だと息が入らないから歌いにくくて、あの姿勢で歌えるように特訓中です。あと、原作のLが瘦せ型なので体型を管理しないといけなくて。秋山さんやダンサーの皆さんがどうやって体型をキープされているのか、教えを請いたい!(笑)

秋山 ダンサーは運動量が多いからなあ……。たくさん動くから、食事はみんな普通に食べたいものを食べてますよ。

三浦 しかも僕、来年2月にジュリアン・マッケイさん(バイエルン国立バレエ団プリンシパル)のガラ公演で踊ることになって。それもあるから大変です。

秋山 バレエを踊られる姿、ぜひ拝見したいです!

三浦 けがが原因でバレエから離れましたけど、ミュージカルの世界でがんばっていたら、最近こうしてバレエダンサーの方と対談をしたり、バレエを踊る機会に恵まれたりと、大好きなバレエの世界に片足踏み込ませていただくことが増えてうれしいです。こういう関わり方ができるなんて、思ってもみませんでした。

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

東京バレエ団「くるみ割り人形」より。(Photo by Kiyonori Hasegawa)

──最後にお二人が「くるみ割り人形」で踊ってみたい役を教えてください。

三浦 また弟のフリッツは踊ってみたいなあ。あとは、ねずみの王様もやってみたいです! 戦いたい!

秋山 私もフリッツを踊ってみたいんです。実は子供の頃、あんまり女の子っぽいタイプではなくて、半袖半ズボンで外を走り回っているような子だったので、男の子役にシンパシーを感じていて。

三浦 意外です(笑)。

秋山 東京バレエ団ではフリッツ役を女性ダンサーが踊るのですが、私はまだ配役されたことがないので、いつかフリッツとして女の子たちを追いかけたいと思います(笑)。

左から秋山瑛、三浦宏規。

左から秋山瑛、三浦宏規。

プロフィール

秋山瑛(アキヤマアキラ)

埼玉県生まれ。7歳よりバレエをはじめる。東京バレエ学校を2012年に卒業後、リスボンの国立コンセルヴァトワールに留学。卒業後はイタリアのカンパーニャ・バレット・クラシコに入団。在籍中にイタリアのmabコンクールで特別賞受賞。2016年1月東京バレエ団入団。2024年に芸術選奨文部科学大臣賞新人賞を受賞。金森穣「かぐや姫」のかぐや姫役でブノワ舞踊賞2024の最優秀女性ダンサー賞にノミネートされた。主なレパートリーに「眠れる森の美女」オーロラ姫、「くるみ割り人形」マーシャ、スペイン、「ドン・キホーテ」キトリ、キトリの友人、キューピッド、「ラ・バヤデール」ニキヤ、「ジゼル」ジゼル、ラコット版「ラ・シルフィード」ラ・シルフィード、エフィー、「海賊」メドーラ、「ザ・カブキ」おかるなど。

三浦宏規(ミウラヒロキ)

1999年、三重県出身。5歳でクラシックバレエを始め、数々のバレエコンクールで入賞を果たす。「ミュージカル『テニスの王子様』」3rdシーズンで跡部景吾役、「ミュージカル『刀剣乱舞』」シリーズで髭切役を務め、「恋するブロードウェイ♪」シリーズ、「Nostalgic Wonderland ~song & dance show~」シリーズに出演。主な舞台出演作に、ミュージカル「レ・ミゼラブル」「GREASE」「のだめカンタービレ」「ナビレラ」「ジェイミー」、舞台「千と千尋の神隠しSpirited Away」「キングダム」など。2025年11月から2026年1月にかけて「デスノート THE MUSICAL」に出演。2025年12月31日に「カウントダウンミュージカルコンサート2025→26」、2026年2月7日に「Julian MacKay presents -The Art of Dance- ジュリアン・マッケイ&フレンズ バレエガラ -アート・オブ・ダンス-」が控える。