本作はヘルマン・ヘッセの小説「シッダールタ」をベースにした舞台作品。劇作を
原作小説「シッダールタ」は、古代インドの上位階級に生まれた青年シッダールタが、精神的に満たされず、人生の本質を探す旅に出る物語。舞台の第1幕では、学生だったシッダールタが家を飛び出し、修行者たちとの極端な苦行や、性愛による快楽などを経験する様が描かれる。今回の舞台では、シッダールタが次のステージに進むたび、現代を生きる1人のカメラマンのシーンが挿入され、彼とシッダールタの姿が重ねられることで、現代の我々にも通じるテーマだと実感できる構造になっている。
客席に座り目に飛び込んでくるのは、銀のお椀を半分に割ったような形状の舞台と、その底の隅に貯まった茶色の土。お椀の底にあたる部分が1階、お椀のフチ部分が2階となっていて、演者はその斜面を上り下りして1階と2階を行き来できるようになっている。開演と同時に、シャツとズボン姿で現れた草彅は、大きな足音を立てて斜面を駆け降り床に倒れ込むと、自身を見失ったあるカメラマンとしての葛藤を語り始めた。そこへ入ってきた友人デーミアン(鈴木)と同僚エヴァ(瀧内)は彼にそれぞれ声をかける。
2人に促された男がカメラのシャッターを切ると、静かなシーンから一転、激しいビート音と光の点滅に包まれ、大勢の人々がなだれ込んでくる。土にまみれて激しく動くダンサーたちの中を、男が軽やかにすり抜けたり、ぶつかりにいったりとスリリリングに駆け回るうち、場面は明るい森へ。草彅が、シンプルながら重厚感のあるドレープカーディガンを羽織り、現代の男から青年シッダールタへと姿を変えると、古代インドの壮大な物語が幕を開けた。
周囲に迎合しないシッダールタは厄介者のように捉えられてもおかしくはないが、旅の途中で出会ったブッダ(釈迦)でさえも、やがて彼の知性と熱心さに心を動かされていく。軽やかな身のこなしと穏やかな口調を兼ね備えた草彅は、若くして思慮深いシッダールタの役がよく似合った。自身と向き合い続けるシッダールタが他者にかける言葉はどれも奥深いのだが、草彅の落ち着いた語り口によりさらに実感を伴って押し寄せ、人生の指針となるような気づきが与えられる。
杉野演じる青年ゴーヴィンダは、シッダールタに魅了されている彼のいとこ。シッダールタに「君は完璧だ」と言う場面では愛おしいものを触るように優しくシッダールタに触れる一方、シッダールタが旅に出ることを決めたときには「自分はどうするべきか」と声を荒らげるなど、杉野は繊細な演技でゴーヴィンダの若者らしい葛藤を見せた。しなやかな身振りで登場し、場が一気に華やいだのは、瀧内扮する高級娼婦・カマラー。瀧内は、挑発的な視線を向けながら、草彅扮するシッダールタと軽やかに会話を繰り広げ、カマラーが美貌だけでなく教養で確固たる地位を築いた女性であることに説得力を持たせていた。
出会いと別れを繰り返すシッダールタが、第2幕ではどんな旅路を歩むのか。草彅演じるシッダールタとカメラマンの男は、最後にどんな景色を見せてくれるのか。ぜひ最後まで見届けてみては。
開幕に際し、白井は「この混沌とした世界の中で私たちはどう生きていけば良いのか。草彅さん演じるシッダールタの静かなる叫びに耳をすませていただけると幸いです」とコメント。草彅は「この何にも変えられない感覚だけど、もともと私たちが持っていて知っている感覚。是非皆さんと一緒に深く感じ合いましょう」と呼びかけた。
上演時間は休憩含む約2時間35分。本作は12月27日まで世田谷パブリックシアターで上演されたのち、来年1月10日から18日まで兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールでも上演される。
白井晃コメント
100年前のヘルマン・ヘッセの小説「シッダールタ」を現代社会を投影した作品にしたいと言う思いでここまで創作してきました。主人公・シッダールタは、今を生きる私たちの姿そのものだと思います。草彅さんの驚異的な集中力から生まれる表現は、私たちの心を捉えて離さない力強さに満ちています。この作品に関わったすべての俳優、ダンサーの献身的な努力により、想像力をかき立てる舞台芸術ならではの作品になったと確信しています。この混沌とした世界の中で私たちはどう生きていけば良いのか。草彅さん演じるシッダールタの静かなる叫びに耳をすませていただけると幸いです。
長田育恵コメント
ヘルマン・ヘッセの原作と向き合い、白井晃さんから炎を受け取り、作劇に挑みました。舞台「シッダールタ」、いよいよ開幕いたします。100年前に書かれたこの物語は、人間の普遍的な悩みに満ち、現代の苦悩をも内包しています。だからこそ今、シッダールタが語るひとつひとつの言葉が、私たちの心を照らすのです。
演劇が果たすべき究極の役目は、人が生きていく上で核心となるような、シンプルで、強く、美しいものを手渡すこと。本作は、最高の座組で、その至高に挑みます。
草彅さん演じるシッダールタの旅──その果てを、共に見つめていただきたいです。
草彅剛コメント
未知なる世界の扉が今まさに僕の心で開こうとしています。
皆様が劇場に来てくれた瞬間にコンプリートされると思います。
この何にも変えられない感覚だけど、もともと私たちが持っていて知っている感覚。
是非皆さんと一緒に深く感じ合いましょう。
あとは楽しむだけです!
杉野遥亮コメント
遂に初日を迎えるのだな。と、感慨深い気持ちです。
ほんとうに素敵な芸術になっていると思うので、期待してほしいですし、僕自身も期待しています。
舞台シッダールタ! よろしくお願いします!
瀧内公美コメント
無事、初日を迎えられることを嬉しく思っております。
“自我の旅”という壮大なテーマを掲げたこの作品が手元に届いたとき、未知の旅路を歩み始めようとしていた私にとって、希望の光のように感じたことを覚えています。
白井さんにとって、創作の原点となるこの作品に携わり、共に重ねてきた創作の時間は、何にも代えがたい経験でした。
素晴らしいスタッフ・キャストの皆さま、そして愛に満ちた日々を与えてくださった白井さんとともに、今日から新たな一歩を踏み出します。
皆さまの心に残るひとときをお届けできるよう、心を込めて演じてまいります。
シッダールタ
開催日程・会場
2025年11月15日(土)〜12月27日(土)
東京都 世田谷パブリックシアター
2026年1月10日(土)〜18日(日)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
スタッフ
原作:ヘルマン・ヘッセ「
作:
演出:
音楽:三宅純
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