左から吉田晴登、演出の寺十吾。

テンミニ!10分でハマる舞台

吉田晴登と演出・寺十吾が語る、月波兎「いつものオーロラが割った夜」

ギャグマンガ家のおじいちゃんと、その家族の物語

PR月波兎「いつものオーロラが割った夜」

文学座同期の石井麗子と奥山美代子が、“次世代に続いていく演劇の創造”を目的に2023年に立ち上げた演劇集団・月波兎が、山崎元晴の書き下ろし「いつものオーロラが割った夜」を上演する。ギャグマンガ家の杉夫は、家族や近隣住民たちの私生活をネタに創作し、生計を立てている。家族や周囲の人たちと衝突が絶えないが、杉夫の孫・ケンイチは、そんな祖父に興味を持ち……。

ステージナタリーでは、ケンイチ役を演じる吉田晴登と、演出を手がける寺十吾にインタビュー。さまざまな膨らみを持った本作について、2人の思いを語ってもらった。

取材・/ 熊井玲

キーワードは、“ギャグ”!?

月波兎「いつものオーロラが割った夜」チラシ

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まず、作品のタイトルが不思議だ。「いつものオーロラが割った夜」とは、一体どういうことなのだろうか。

本作の台本を手がけた山崎元晴は、父・山崎一が主宰する劇壇ガルバに旗揚げ当初から携わり、自身も劇団を主宰するほか、文学座など外部にも精力的に作品を書き下ろしている若手劇作・演出家。以前、ある作品のアフタートークで別役実に対する興味を語っているのを聞いて、納得した覚えがある。本作は、入り口はいわゆる微笑ましいホームドラマのようだが、芸術と現実、老いと家族、個人と社会など、さまざまな要素が垣間見え、一筋縄では行きそうにない。最初に台本を読んだとき、2人はどのような印象を持ったのだろうか?

吉田は「人間の内面がちょっとずつ変わっていくような、静かな熱量がある作品だなと感じました。登場人物たちはそれぞれ不器用で勝手で、でもどこか憎めない人たちばかり。彼らが少しずつズレを感じながらも懸命に生きている姿が、この戯曲の魅力なんじゃないかと感じます」と作品の印象を語った。

寺十は「物語の軸となる杉夫は、ギャグマンガ作家。吾妻ひでおさんの(自身の過酷な体験をつづった)『失踪日記』然り、悲惨な現実であったとしてもマンガにすると少し客観的に観られたり、現実を一度見直せたり、ということはよくあると思います。ただ今回、作家の山崎さんが作品全体を『ギャグっぽくしたい』とおっしゃっていて、“ギャグ演劇”ってあんまり聞いたことがないなあ、どうすればいいかなあと、今悩んでいる最中です(笑)」と笑顔を見せた。

吉田晴登

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吉田が演じるケンイチは、杉夫の長女・みどりの息子で、5浪中という身。しかしケンイチの言動にはあまり切羽詰まった様子がなく、自分自身の生き方を模索し続けているアクティブさやユーモアも感じられる。ケンイチという役について吉田は「若さゆえの危うさとか未熟さ、真っ直ぐさ、純粋な部分がありますが、人生の中に小さな希望を見つけて、自分がやりたいことは何かを模索し続けている人」と鋭く分析。「そのケンイチにとっておじいさんの杉夫は、暗闇の中で手を差し伸べてくれた存在。とても尊敬していると思います」と穏やかな表情で話す。

寺十もケンイチについて「明るい引きこもりというのかな。5浪もしてはいるんだけれど自分を否定しすぎない感じがあり、おじいちゃんのギャグマンガを読んで、社会を見る目が変わっていく。この“ギャクマンガである”っていうことが大切で、ギャグは、普通の人があまり見ない角度で社会を見ていないと思いつかないものですから、この後ケンイチがどう変わっていくのかは気になる部分です……というようなことを、僕が特別説明しなくても吉田さんは直感で感じてくれているので、いい意味で手がかかりません(笑)」と述べ、吉田に信頼を寄せた。

とにかく笑いに来ていただきたい

今回、月波兎の石井と奥山は、杉夫の2人の娘を演じる。長女のみどりは4回離婚歴があり、ケンイチと共に実家から離れて暮らしている。次女の秀子は結婚歴はなく、父の世話を焼きながら共に暮らしている。寺十は「みどりはわりと攻撃的な発言をする人で、秀子はおっとりとしたタイプ。みどりは石井さんが普段あまりやらないタイプの役だそうで、そのせいか稽古中はどうしてもご自身の人の良さ、可愛らしさが役ににじみ出てしまって(笑)、その点に葛藤されていました。が、お二人の掛け合いは微笑ましく、もちろん面白いシーンになると思いますよ!」と太鼓判を押す。

寺十吾

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ある家族の物語でありつつ、人生や芸術に対する問いも垣間見える本作。どの作品を演出する際も、作家の感性や笑いのベクトルを丁寧に掬い取り、人間のおかしみや切なさを描き出してきた寺十が、吉田をはじめキャスト10名と本作をどう立ち上げていくのか。期待が膨らむ。

吉田は「この作品は、観てくださった方の心の中に余韻を残す物語なんじゃないかなと思っていて。観てくださる方の人生観や価値観によって受け取り方は変わると思いますが、観てくださる方と一緒に呼吸しながら、瞬間瞬間を生きていけたらいいなと思っています」と静かに意気込む。寺十は「タイトルから予想される内容とは、少し違う作品になっていまして……とにかく笑いに来ていただきたいなと。観ていただく中で、このタイトルの意味も明かされるのですが、その“明かされ方”もこれまでにないものになっています(笑)。ぜひ楽しみにしていただけたらと思います」と微笑んだ。

吉田晴登(ヨシダハルト)

2000年、東京都生まれ。子役時代から多くのテレビドラマ、映画などに出演。最近の主な出演作にテレビドラマ「なんで私が神説教」、「ウルトラマンオメガ」ホシミコウセイ役、映画「6人ぼっち」「SPIRIT WORLD -スピリットワールド-」、舞台は名取事務所「ホテル・イミグレーション」「ハイスクール・ハイ・ライフ3」など。

寺十吾(ジツナシサトル)

京都府出身。演出家・俳優。1992年に劇団tsumazuki no ishiを旗揚げし、主宰として演出・出演を担当。外部演出・出演も多数。主な演出作品にワタナベエンターテインメント「関数ドミノ」、「お染与太郎珍道中」、新国立劇場「誰もいない国」、名取事務所「メイジーガダンの遺骸」、演劇集団 円「ピローマン」、西瓜糖「ギッチョンチョン」、オフィス8次元「春鴬囀」、鵺的「おまえの血は汚れているか」、Nana Produce「ラストシーンを探して」、On7「マライア・マーティンの物語」、シス・カンパニー公演「やなぎにツバメは」、パルコ・プロデュース「桜文」など。シス・カンパニー日本文学シリーズでは全作品の演出を担当している。

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