松竹創業百三十周年「三月大歌舞伎」が去る3月4日に東京・歌舞伎座で開幕。ステージナタリーでは、Aプロの昼の部・夜の部をレポートする。
既報の通り、歌舞伎座では今年、松竹の創業130周年を記念し、三大名作である「仮名手本忠臣蔵」「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」の通し上演が3月、9月、10月に実施される。「三月大歌舞伎」では「仮名手本忠臣蔵」をAプロ・Bプロの2通りの配役で展開する。「仮名手本忠臣蔵」は、江戸時代に実際に起こった赤穂浪士の討入り事件を原作にした作品。時代背景を江戸時代から「太平記」の舞台ともなる南北朝時代に置き換え、発端から討入りまでが描かれる。
昼の部がスタート、大序は尾上松緑演じる高師直の憎めない悪役っぷりが見どころ
昼の部の開幕10分前には、口上人形による、昼の部・夜の部を合わせた配役の読み上げがあるので、ぜひ早めに席に着こう。出演者の名前が読み上げられるごとに拍手が起こるが、最後に大星由良之助役の
通し上演に向けたムードが高まる中、いよいよ大序がスタート。幕が開くと、そこは鶴ヶ岡八幡宮の社頭。兄・足利尊氏の代わりにやってきた足利直義(
三段目では、大序では泰然としていた判官が、すべての発端となる刃傷事件を起こしてしまう様が描かれる。その舞台は、宴が行われている足利館の松の間。社頭での禍根から、師直を斬ろうと息巻く若狭之助だったが、媚びへつらいながら詫びてくる師直の情けない姿に、斬る気を削がれ立ち去る。すると、そこに判官が現れ……。松緑は、若狭之助に不本意ながら詫びたことで鬱憤が溜まっている上に、思いを寄せる顔世御前からも手紙越しにつれなく振られた師直が、すべての怒りを判官にぶつける様子を、小憎たらしくも迫力たっぷりに演じ、場の緊張感を高めていく。勘九郎は、師直の止まらない悪口雑言に、我慢が利かなくなる判官を、唇を噛んだりうつむいたり、徐々に落ち着かなくなる素振りで生々しく立ち上げる。刀を鞘から抜きかけた判官に対し、師直が「殿中だァ」「お家は断絶だァ」と憎たらしく煽る場面では、勘九郎はハッと我に返り、目を閉じてぐっとこらえる姿で、判官の心中を表現。しかしなおも煽られ、こらえきれずに刀を抜くと、素早い身のこなしで師直に斬りかかる。すんでのところで大名らに取り押さえられると、勘九郎は迷いない素振りで刀をブンと師直めがけて投げ、判官のすごみのある殺意で客席を圧倒した。
由良之助はまだか…主君への深い愛情が伝わる片岡仁左衛門の由良之助
四段目は、判官が死の間際に、家臣の大星由良之助にその無念を告げる場面が見どころ。殿中で刃傷沙汰を起こしたことから切腹を言い渡され、粛々とその準備を進める判官に、部屋の前で待機している家臣たちは、最期の対面を求める声を上げるが、判官は「国家老の由良之助が到着するまでは控えるように」と突っぱねる。判官が刀を腹に突き立てた瞬間、由良之助は到着し……。判官が「由良之助はまだか」と何度も繰り返す中、ようやく仁左衛門扮する由良之助が花道から現れると、客席の視線は焦燥感に満ちた仁左衛門の芝居に釘付けになる。勘九郎は、由良之助を視界に入れると、安心したかのようにふっと微笑み、判官の由良之助への全幅の信頼を表現。仁左衛門は、事切れた判官の装束を整える手つきや、腹切刀を握りしめた判官の手を、大事そうにギュッと握りしめる仕草などに、由良之助の判官への深い愛情をにじませ、家臣たちにとって判官がどれだけ大きな存在だったかを観客に知らしめる。四段目の切の、家臣たちが判官の館から立ち去る場面では、仁左衛門は懐から判官の形見の腹切刀を取り出したあと、空を強く睨みつけ、由良之助の師直への強い憎しみを示す。最後の由良之助の花道の引っ込みでは、仁左衛門は佇まいに悲哀と覚悟を漂わせ、遠のいていく判官の館を背景に、三味線の音色に乗せて、情感たっぷりに歩みを進めていった。
昼の部は、
夜の部幕開け、菊之助がピュアな佇まいで早野勘平の悲哀を表現
夜の部は、「落人」でも登場した勘平を主人公にした五・六段目、師直の屋敷から遠く離れた祇園町を舞台にした七段目、そしていよいよ浪士たちが討入りを果たす十一段目が披露される。五段目は、おかるの実家に身を寄せ、猟師に身をやつした勘平(
六段目は、切腹したあとに舅殺しの疑いが晴れる、勘平の悲劇が描かれる。矢市兵衛の家では、祇園町の一文字屋お才(
祇園町で遊び呆ける由良之助の本心は?愛之助が緩急ある芝居を見せる
七段目は、祇園町の一文字屋で、お座敷遊びにうつつを抜かす由良之助(
十一段目は、いよいよ討入りの場。1日を通して巻き起こってきた、さまざまな人間ドラマがここに収束する。雪が降りしきる中、高家の表門に、愛之助演じる由良之助を中心に、勘平を除く46人の浪士たちがぞろりと集まるのは圧巻だ。左近演じる力弥が、まだ元服前の子供ながら、紫色の羽織を身にまとい、精悍に戦う姿は観客の心を打つ。敵方ながら、巧みな剣さばきを見せる小林平八郎(松緑)と、竹森喜多八(
昼の部は11:00から15:40までで、夜の部は16:30から21:02まで。公演は、3月27日まで東京・歌舞伎座にて。
松竹創業百三十周年「三月大歌舞伎」昼の部
2025年3月4日(火)〜27日(木) ※公演終了
東京都 歌舞伎座
スタッフ
通し狂言 仮名手本忠臣蔵
作:並木千柳 / 三好松洛 / 竹田出雲
出演
「大序」「三段目」Aプロ
高師直:
塩冶判官:
桃井若狭之助:
鷺坂伴内:
加古川本蔵:
顔世御前:
足利直義:
「大序」「三段目」Bプロ
高師直:中村芝翫
塩冶判官:
桃井若狭之助:
鷺坂伴内:
加古川本蔵:嵐橘三郎
顔世御前:
足利直義:中村扇雀
「四段目」Aプロ
大星由良之助:
塩冶判官:中村勘九郎
顔世御前:片岡孝太郎
薬師寺次郎左衛門:
赤垣源蔵:
富森助右衛門:
矢間重太郎:
小汐田又之丞:
大鷲文吾:
佐藤与茂七:
勝田新左衛門:
大星力弥:
斧九太夫:
原郷右衛門:
石堂右馬之丞:
「四段目」Bプロ
大星由良之助:尾上松緑
塩冶判官:尾上菊之助
顔世御前:中村時蔵
薬師寺次郎左衛門:坂東彦三郎
赤垣源蔵:中村松江
富森助右衛門:市川男女蔵
矢間重太郎:中村亀鶴
小汐田又之丞:中村橋之助
大鷲文吾:中村歌之助
佐藤与茂七:澤村宗之助
勝田新左衛門:中村吉之丞
大星力弥:中村莟玉
斧九太夫:片岡亀蔵
原郷右衛門:中村錦之助
石堂右馬之丞:坂東彌十郎
「道行」Aプロ
早野勘平:
鷺坂伴内:
腰元おかる:
「道行」Bプロ
松竹創業百三十周年「三月大歌舞伎」夜の部
2025年3月4日(火)〜27日(木) ※公演終了
東京都 歌舞伎座
スタッフ
通し狂言 仮名手本忠臣蔵
作:並木千柳 / 三好松洛 / 竹田出雲
出演
「五・六段目」Aプロ
早野勘平:尾上菊之助
女房おかる:中村時蔵
千崎弥五郎:
斧定九郎:尾上右近
判人源六:市村橘太郎
母おかや:
一文字屋お才:中村萬壽
不破数右衛門:
「五・六段目」Bプロ
早野勘平:中村勘九郎
女房おかる:中村七之助
千崎弥五郎:坂東巳之助
斧定九郎:中村隼人
判人源六:片岡松之助
母おかや:中村梅花
一文字屋お才:中村魁春
不破数右衛門:中村歌六
「七段目」Aプロ
大星由良之助:片岡愛之助
寺岡平右衛門:坂東巳之助
赤垣源蔵:中村松江
富森助右衛門:市川男女蔵
矢間重太郎:中村亀鶴
大星力弥:
仲居おつる:
鷺坂伴内:片岡松之助
斧九太夫:片岡亀蔵
遊女おかる:中村時蔵
「七段目」Bプロ
大星由良之助:片岡仁左衛門
寺岡平右衛門:尾上松也
赤垣源蔵:中村松江
富森助右衛門:市川男女蔵
矢間重太郎:中村亀鶴
大星力弥:尾上左近
仲居おつる:中村歌女之丞
鷺坂伴内:市村橘太郎
斧九太夫:片岡亀蔵
遊女おかる:中村七之助
「十一段目」Aプロ
大星由良之助:片岡愛之助
小林平八郎:尾上松緑
竹森喜多八:坂東亀蔵
赤垣源蔵:中村松江
富森助右衛門:市川男女蔵
矢間重太郎:中村亀鶴
木村岡右衛門:
大鷲文吾:中村歌之助
大星力弥:尾上左近
勝田新左衛門:中村吉之丞
佐藤与茂七:澤村宗之助
杉野十平次:中村光
近松半六:市村竹松
倉橋伝助:
織部弥次兵衛:
寺岡平右衛門:坂東巳之助
原郷右衛門:中村錦之助
服部逸郎:
「十一段目」Bプロ
大星由良之助:片岡仁左衛門
小林平八郎:中村萬太郎
竹森喜多八:中村橋之助
赤垣源蔵:中村松江
富森助右衛門:市川男女蔵
矢間重太郎:中村亀鶴
木村岡右衛門:中村玉太郎
大鷲文吾:中村歌之助
大星力弥:尾上左近
勝田新左衛門:中村吉之丞
佐藤与茂七:澤村宗之助
杉野十平次:中村光
近松半六:市村竹松
倉橋伝助:大谷廣太郎
織部弥次兵衛:大谷桂三
寺岡平右衛門:尾上松也
原郷右衛門:中村錦之助
服部逸郎:尾上菊五郎
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ryugo hayano @hayano
【公演レポート】片岡仁左衛門が“主君への深い愛”で由良之助立ち上げる「三月大歌舞伎」Aプロレポート(舞台写真あり) https://t.co/yGGGARArMA