坂口涼太郎

恐るべき舞台俳優たち 第4回 [バックナンバー]

舞台でも舞台の外でも、感性をひらき続ける“表現者”坂口涼太郎

初舞台で覚悟した。「表現とは命懸けでやらなあかん」と

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映画やテレビドラマ、舞台で強烈なインパクトを残す俳優たち。ここでは舞台に軸足を置きつつ、あらゆるステージで異彩を放ち続ける“恐るべき舞台俳優たち”を紹介する。

第4回に登場するのは、坂口涼太郎木ノ下歌舞伎「勧進帳」の富樫左衛門、「三人吉三廓初買」のお嬢吉三で、奥行きのある演技と敏捷かつ端麗な動きで鮮烈な印象を残した坂口だが、舞台から離れても、音楽や絵画、書籍などのインプットに余念がなく、メイクやファッションに並々ならぬこだわりを見せ、毎週更新しているWeb連載では、自身の体験を顧みつつ社会に対する思いを真摯に綴る……と、まさに“表現者”という言葉がぴったりな存在だ。

1月末に福田雄一監督「アンダーニンジャ」公開、2月から3月にかけてKAAT神奈川芸術劇場プロデュース 音楽劇「愛と正義」出演と活躍が続く坂口に、その活動の原点や、今後の目標を聞いた。

坂口涼太郎(サカグチリョウタロウ)

Q. あなたが一番最初に影響を受けた舞台、または初舞台を教えてください。

プロとしての初舞台は2007年、高校2年生のときにダンサーとして出演した森山未來さん主演・演出のダンス公演「戦争わんだー」でした。私はすずめの役を担当したので公園のベンチに座り、ずっとすずめの動きを観察していました。おじいちゃんにすずめが跳び蹴りされるシーンがあり、未來さんがそのお手本を見せてくださったのですが、そのお手本が全身を粉砕骨折していないかと心配になるほどの吹っ飛び方だったので、「表現とは命懸けのものなんや…」と静かに震えながら学びました。

その公演を鑑賞してくださった、がんを罹患していた母の同級生が、「今まで舞台をあまり見てこなかったけれど、すごく元気をもらった。もう治療はせずにこのままがんを受け入れて残りの日々を過ごそうと思っていたけれど、もっともっといろんなものを見てみたい」とおっしゃり、治療を再開されたことを知りました。

私には計り知れない、命に関しての大きな決断を左右するほどの力が舞台にはあるのだということを実感して、「表現とは命懸けでやらなあかん」と、やっぱり震えながら覚悟しました。

初舞台「戦争わんだー」で坂口涼太郎が演じたすずめ役。

初舞台「戦争わんだー」で坂口涼太郎が演じたすずめ役。

Q. 舞台、映像問わず、これまでで一番忘れ難い作品、あるいはターニングポイントになった役を教えてください。

2016年から繰り返し出演している木ノ下歌舞伎の「勧進帳」です。

義経と弁慶の正体に気づきながらも安宅の関を通すことを決める富樫左衛門という関所の番人を務めました。「酒を注ぐ器が小さい」という弁慶に富樫がたらいを差し出すところはお客様から笑いが起きる場面なのですが、ある稽古の時に主宰の木ノ下裕一さんが「そのたらいは富樫がこのあと切腹するときに首桶として使おうと買ってきたものかもしれませんね」というひと言で、それまでは弁慶たちが踊る姿を笑顔で楽しく羨ましそうに見ているという私のお芝居が、死を覚悟してまで関所を通した富樫の決意を思うと、笑いながら涙が溢れて止まらなくなり、お客様に届く物語の強度がぐっと深まったと思います。私をそこへ導いてくださった木ノ下先生と演出家の杉原邦生さんに感謝すると共に、自分の想定外、想像以上のお芝居が湧いてくるという体験ができ、とてつもない喜びを感じさせていただきました。

そして、その後のパリ公演では「言語や文化やルーツが違っても、同じ人間なのだから心の機微は必ず伝わる」と信じていたことが、フランスのお客様の反応でそれが確かな事実であるということを身をもって実感できたことは私にとって宝物であり、お守りになりました。

Q. 舞台、映像問わず、あなたが作品に臨むときのマストアイテムを教えてください。

タンブラーです。

どこにいても自宅にいるときのように居心地よく、リラックスしながら稽古場や現場にいられるように、自宅で飲んでいるハーブティーやコーヒーや中国茶などを出かけるまえに用意して持参しています。

坂口涼太郎が愛用しているタンブラー。

坂口涼太郎が愛用しているタンブラー。

Q. 今後の目標をお願いします。

世界中のおもしろいひとたちとおもしろいことをしながら、いつまでも市井の一員として生活をしていくのが目標です。

境界線をなくすための知性や思想や経験をどんどん育んでいき、鑑賞してくださるお客様が生活していくなかで直面するいろんな悔しさや喜びや葛藤をお芝居を通して代弁できるように、しっかりと自分もこの社会のなかで起きていることに目を向けて、普通とは何なのかを疑って生活していきたいです。

まだまだ私は道半ば。気がついたらちゃぶ台の前でお茶を飲みながらごろごろしてしまう極上の怠惰を有する者ですが、そんな自分も受け入れながら、やるときもやらないときも「命懸け」で生活していきたいと思います。

プロフィール

1990年、兵庫県生まれ。中学生時代にダンスを始め、2007年に初舞台。2010年に映画「書道ガールズ!!わたしたちの甲子園」で俳優デビューする。主な出演作にNHK連続テレビ小説「おちょやん」「らんまん」、映画「ちはやふる」シリーズ、テレビドラマ「罠の戦争」など。また連載エッセイ「今日も、ちゃ舞台の上でおどる」の執筆なども行う。出演映画「アンダーニンジャ」が1月24日公開、2月から3月にかけて舞台「愛と正義」に出演。

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読者の反応

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坂口涼太郎 @RyotaroSakaguTw

インタビューしていただきました。
ただいま2月21日から本番の音楽劇「#愛と正義」の稽古をしております。ちょっとこれは一体となって楽しんでいただけると思います。歌い踊ります。よろしければ横浜KAATで"命懸けで"お待ちしております。@kaatjp #kaat
🎫https://t.co/pzNL0CMnWY https://t.co/dLVCc3JY4C

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