俳優の
今回は、昨年の夏、故郷の大阪を訪れた際に撮影した竪山の実父の写真を軸に、家族を撮る面白さ、難しさを竪山と平岩が語る。
取材・
写真好きの父を納得させたカット
──まずは、なぜ昨夏、お父さんの撮影をすることになったのでしょう?
竪山隼太 そもそもは、ストリートフォトに挑戦してみようと思っていたのですが、なかなかそういうチャンスもなくて、だったら家族を撮ってみようか……という流れだったと思います。うちの父は自分も昔から写真を撮る人だったので、撮られるのも嫌いではなく、それで近所の公園に行って撮ろうということになったんですけど、父を“ちゃんと撮る”のはこのときが初めて。僕がカメラに興味を持っていることやこの連載のことは父も知っていて、前に横浜の公演を観に来てくれたときに、横浜を背景に両親を撮ったこともあるんですが、改めて撮影したことはこれまでなかったです。
──帰省時の写真には、街の風景や海の写真なども多数ありましたが、その中で平岩さんが特に「面白い!」とおっしゃったのが、お父さんの写真でした。どんなところが良いと思われたのでしょうか?
平岩享 まず冒頭に使われた、このモザイクタイルのオブジェとの写真。お父さんがちょっとタダモノじゃないっていう感じがすでにしますよね?(笑) 隼太くんのお父さんはアートディレクターなんだっけ?
竪山 うーん、もともとは絵を描く人ですね。
平岩 そうなんだ。だからかもしれませんが、たいていの大人は家族写真でポーズは撮らないですね。自分をあまり表現したがらない傾向にある。でも隼太くんのお父さんは、例えばモザイクタイルの噴水の前でどういうポーズを取ったら良いか、場所のイメージからパッと頭にアイデアが浮かんで自ら動いている。そこがもう、タダモノじゃないです。お父さんの自我がいい感じに現れて、常人離れしていることが前半のカットからすでにわかります。
竪山 あははは!
平岩 またこれは隼太くんのカメラマンとしての成長でもあるんですけど、モザイクの噴水の前でまずは全身が入るように引きで撮って、そのあとお父さんが手を上げてセリフを言っているようなポーズを取っているところは寄りで撮っているのが良いですね。僕はこういう積極性のある被写体は大好物なんですけど(笑)、バストアップで撮り始めた途端、ただ撮られるんじゃなくて噴水のタイルを左手で触りつつ右手は上げてみたり、自分の胸に手を当ててみたり……1カット1カット、お父さんの異常に高い直感力が滲み出ていると思います。
竪山 ……これまで撮ってきた中で、一番撮りづらい被写体でした。
平岩 あははは! 続く、新緑を背景にしたカットもいいですよね。「緑をバックに」というのはお父さんのリクエストだったそうですが、お父さんが最初に提案した場所で撮ったらイマイチで、隼太くんが「ここで撮りたい」って言った場所で撮ったのがこれ。
平岩 この緑を背景にしたカットは、以前小沢道成さんを撮影したときの逆光とか斜光の技術を生かしていると思います。それをお父さんに見せたら「おお、確かに」となった、って話してたよね?
竪山 そうそう、そうなんですよ。
平岩 実際に撮影したものを見せてお父さんを唸らせた(笑)、そこに僕は静かな感動を覚えました。
竪山 (笑)。父は仕事の一環で自分でも撮影していたそうですが、きっとスタジオ撮りが多くて、外ロケではあまり撮ってないんじゃないかなと思うんです。それもあって、ちょっと認めてもらえたかなって。父と僕は普段からよくしゃべるし、仲は良いほうだと思うんですが、今回、写真を通してまた違う話もできたし、この公園も小さい頃からよく知っている場所ではあったけれど、カメラを通して見ることで「こんなに面白い公園だったんだ!」と再発見しました。
平岩 次の花畑の前の写真は、場に合わせてか、お父さん、ちょっと腕を伸ばして可愛らしいポーズをしているのが面白いですよね。
竪山 少女のイメージ、なんだと思います(笑)。
平岩 (笑)。このふわっとした色の草を背景にした写真も面白いよね。その場所に立って、まずは1枚撮って見てから角度や構図を変えてみている。これは被写体とカメラマンの信頼関係ができているからだと思うし、隼太くんのポートレートを撮る技術や感情がどんどん出てきていると思います。お父さんが徐々に乗ってきているのも、写真から伝わってくるよね。
写真が感覚や感情をタイムスリップさせる
竪山 ここ、面白かったんですよ! 花を撮りたいと思って最初の1枚目を撮ったところで大きな蜂が出てきて、2人で逃げて(笑)。「怖いから次に行こう」って言ったら「いやいや、撮りたいんやろ」って言われて、戻ってまた挑戦したんです。その後、けっこう歩いて疲れたからベンチに座ろうってなったんですけど、カメラを向けるとまたカッコつけるから「ちゃんと休んで!」ってケンカしたり……ああ、写真を見るといろいろ思い出してきたなあ(笑)。
平岩 本当にそうだよね。写真の素晴らしさってまさにそこで、10年後、20年後に見ても、感覚や感情ごとタイムスリップして、撮影したときのことが生々しく思い出せる。僕も息子を撮ることがよくあるんだけど、例えば50年後、僕はもうこの世にいないかもしれないけど、息子たちは僕が撮影した写真を見て、あのとき自分たちを撮っていたお父さんやその日のことを思い出すんじゃないかなって。そういう意味で、隼太くんが撮ったお父さんの一連の写真は、すごい良いセッションだったと思います。
平岩 このお父さんのアップも良いよね。お父さんの生き様がよく顔に出ていると思います。
竪山 そうですか? まあ昔、ジャッキー・チェンの映画を見て「お父さんだ!」と思っていましたけど(笑)。ピンク色の壁の前で撮ったカット、この対談の前にちょっと平岩さんに見てもらったときに、「被写体をもう少し壁から離して手前に立たせて撮ったほうが、背景の壁の感じがぼやけて見えたと思うよ」と教えていただいて「なるほどな」と思いました。
平岩 これは35mm(のレンズ)で撮ってる?
竪山 新しいカメラを買う前だったので、そうですね、35mmです。でも今だったら、85mmで撮るだろうな、そのほうが良いですよね?
平岩 そうだね。35mmだといわゆるコンパクトデジカメの距離感で撮れるけど、85mmになるとこの写真みたいに屋外で少し離れて撮るのに良いよね。また35mmの距離感で50mmで撮ると、圧縮効果で人物の立体感が出やすくなる。だから白い花を背景にしたカットを35mmじゃなくて50mmとか85mmで撮ると花が白の玉のようになって、お父さんはより立体的に撮れると思います。
竪山 そうか、それも面白かったかも。
仕事とプライベート、撮影するときの意識の違いは?
──ちなみにこの連載の初期で、平岩さんから「被写体とコミュニケーションを取ることの大切さ」というお話がありました。お父さんとの撮影の間、お父さんと隼太さんは何か会話はしていましたか?
竪山 まあ普段からよく話はするので、撮影中もずっと会話していました。で、最後はカメラの電池も尽きてしまって(笑)。平岩さんがよくおっしゃる、“カメラが会話のツールになる”みたいな感じは確かにありましたね。
──平岩さんもよくご自身の家族の写真を撮影されますが、仕事で撮るときと家族を撮るときはどんな違いがありますか?
平岩 仕事のときは、特に初めての方からの依頼の場合、そのメディアやアーティスト、ディレクターがどういう写真が欲しいのかをよく聞いたうえで、自分ができるアウトプットの可能性を提示してしっくり来たのを選んでもらい、そこに合わせて撮っていきます。“野菜を作る”みたいな感覚があって……つまり野菜が美味しければプロの料理人はテンションが上がりますよね? しかもその野菜がめちゃくちゃ美味しかったら素材を生かして、火を通さずに出せる料理になるし、クセが強かったらちょっと火を通して加工もして、美味しい料理にするっていうことがあると思うんですね。写真もそれと同じで、良い素材を作る感覚で撮ることが多いです。
平岩 一方、家族写真に関しては「こう撮ってほしい」という依頼があるわけではないし、自分の表現としての写真を狙って撮ることもしないので、その瞬間瞬間の思い出を雰囲気と一緒にぎゅっと閉じ込める感覚というか。その写真を見るとそのときのことをすぐ思い出せるような写真を撮りたいなって心がけています。アート性とか表現ってことはさほど考えてなくて、ただ撮るみたいな意識がすごく強いですね。ただ、子供を撮るときに“技術の練習”をすることはあります。例えばデジカメを買い換えてミラーレスにしたときには、子供の撮影をする際にオートフォーカスの使い方をいろいろ試してみて、「こういう表現は仕事にも生かせるな」と発見したり。あと家族は、なるべく早く撮るかな(笑)。
竪山 めっちゃわかります(笑)。僕も子供の頃、父に撮られるときに「早く撮ってくれー!」って思ってました。
平岩・竪山 あははは!
竪山 うちは父も写真が好きだけど、おじいちゃんも写真が好きだったみたいで、実家にはいろいろな写真があります。子供の頃は当たり前のもの、として見ていたけど、改めて昔のアルバムを見ると、フィルムならではの味わいもあるし、いい写真だなって思うものも多い。改めて写真って面白いですね。
師匠・平岩と竪山父が選ぶベストショット
今回竪山が撮影した写真群の中から、カメラ師匠である平岩が選んだベストショットはこちら。
セレクト理由について平岩は、「この1枚だけで普通のお父さんでないということがよくわかる写真。お父さんがこの場所に反応、感応して出てきたポーズに感動すら覚えます。息子が撮影しているという関係性を超えてしっかりと自分の表現をしているお父さんが格好良いと思いました」と教えてくれた。
また、竪山父にもベストショットを選んでもらった。それが、こちら。
セレクト写真と共に竪山父から、撮影を振り返ってのメッセージが届いた。
「当日、シャッターを切りながら、『ムズイ被写体やな~』を連呼する隼太に呼応しつつ、リズミカルに互いの身体がシンクロし躍動?していたようで、とても面白かったです。隼太がテキパキと手際良くレンズ交換等をし、私に悪態を突きつつ指示しまくるのが笑えるのですが、まじめ過ぎるその対応に、も少し肩のチカラ抜いても良いのになって思うのですが。又、舞台に対しても、やはりストイックな隼太が垣間見えたようで父! 納得の、貴重な時間でした。この様な時を頂けた事に企画に、多謝有るのみ、本当にありがとうございました」。
撮影者の竪山だけでなく被写体の竪山父にとっても、記憶に残る時間となったようだ。
プロフィール
竪山隼太(タテヤマハヤタ)
1990年、大阪府生まれ。2000年に劇団四季ミュージカル「ライオンキング」ヤングシンバ役でデビュー後、「天才テレビくんワイド」にレギュラー出演し子役として活動。2009年に蜷川幸雄率いる演劇集団さいたまネクスト・シアターで活動。最近の出演作に「ガラスの動物園」(上村聡史演出)、さいたまネクスト・シアター最終公演「雨花のけもの」(細川洋平作、岩松了演出)、「桜の園」(ショーン・ホームズ演出)、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」ロン・ウィーズリー役など。6月から7月にかけて新国立劇場で上演される「デカローグ 10」、12月に二兎社「こんばんは、父さん」に出演する。
平岩享(ヒライワトオル)
1974年、愛知県生まれ。フォトグラファー。時代の顔となるポートレートを数多く撮影。岩井秀人が代表を務める株式会社WAREのサポートメンバー。近年は個別指導の写真塾や平岩記念写真館(家族写真撮影)にも取り組んでいる。
バックナンバー
竪山隼太 Hayata Tateyama @hayata_tateyama
いろいろあって自分のおとんを撮りました!みてやってください!!! https://t.co/zeiMDzFC45