隼太からHAYATAへ 第9回 [バックナンバー]
今回の“被写体”はレトロな喫茶店、竪山隼太はその魅力をどう引き出すのか
どこを切っても画になる店内&王道メニューにカット数が増す
2023年5月5日 17:00 8
舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」で活躍中の俳優・
今回のテーマは“喫茶店”。「もしも喫茶店を紹介する特集の担当カメラマンになったら」という仮定のもと、お店の魅力を引き出すべく、店の内外を撮影する。そして初の“物影り”にも挑んだ。
取材・
“被写体”を知るべく、まずはお店を訪問
竪山がカメラを始めたのは、「俳優仲間のより良い表情が撮りたい」というポートレートへの強い興味からだった。そんな竪山にとって、“喫茶店”を撮影するということは、実は大きなチャレンジだ。いつもなら被写体との対話を通して距離を縮め、コミュニケーションの中で感じた相手の魅力をカメラを通して引き出していく……のだが、今回はどうすればお店の魅力を引き出せるのか。まずは相手を知ろう、ということで、撮影の数日前に竪山と平岩は、今回取材の場となる喫茶店Amberを訪れた。
神奈川県横浜市の郊外にあるAmberは、最寄駅から5分程度の場所にある可愛らしいお店。平日は地元の“常連さん”でにぎわい、週末はレトロ喫茶好きな若い人たちも集まってくる人気店で、客足が絶えない。お客さんに混ざってテーブルに着いた竪山と平岩がさっそくコーヒーを注文すると、テーブルにはそれぞれ別のカップでコーヒーが用意された。改めて店内に目をやれば、厨房とカウンターを仕切るように作られた棚には、1つひとつ異なる色柄のコーヒーカップが整然と並んでいた。
カメラマンになっていなかったらコーヒー店をやっていたかもしれないというほどコーヒー好きの平岩は、喫茶店をはじめ、これまでもさまざまな雑誌でお店の特集に携わってきた。Amberの店内に置かれていた雑誌のカフェ特集ページを開きながら、平岩はお店の特徴をどう見つけたら良いか、具体的に竪山に伝えていく。さらにほかのお客さんたちをぐるっと見回して、画になりそうなメニューは何か、人気商品が何かもチェックした。そんな二人のところへ、忙しい合間を縫ってオーナーの狩俣さんがやって来てくれた。すると竪山はさっと立ち上がって、にこやかにあいさつ。取材協力に感謝を述べながら、お店の雰囲気の良さやコーヒーの美味しさを丁寧に伝えていた。
どこを切っても画になる店内、竪山が特に惹かれたのは…
撮影はお店の定休日に行われた。誰もいない店内に照明が灯ると、モスグリーンの壁や天井に乳白色の光の輪ができ、ふわっと温かな印象に一変する。竪山と平岩はさっそく準備を整え、まずは店内の全体像を捉え始める。アンティーク家具とステンドグラスが印象的なAmberは、それぞれ別の個性を持つものが並んでいるにも関わらず、不思議な統一感がある。テーブルや椅子、床板の木の風合い、椅子の座面と壁の色合いが、深みと温かみを生み出しているのだ。1つひとつのテーブルに何気なく置かれたグリーンも、照明に反射して小さな煌めきを見せる……つまりどこを切っても画になる空間だが、以前来店した際にヒントを得ていたのか、竪山は迷うことなくシャッターを押していった。
そこへ、第8回に登場した佐野家の由佳里さんと三男くんが突然来店。実はAmberのオーナーと佐野さんは友人関係で、撮影のことを知った2人が見学に来てくれたのだった。三男くんの登場で、場の緊張感がふっと解ける。最初は真剣な表情で撮影に徹していた竪山も、カメラを構えた背後から脚を掴まれたり、撮影しようとした小物を三男くんに持っていかれたりと予想外の展開に、表情が和らぎ、言葉数も増えて、いつものペースに戻っていった。
店内の全体像をある程度撮り終えると、雑誌のカフェ特集を参考に、お店の外観も撮影。正面から撮ると自分もガラスに映り込んでしまうので、平岩のアドバイスで角度をつけて店の入り口を撮影した。
その後、再び店内に戻り、今度は竪山が気になるポイントを寄りで撮影していくことに。可愛い小物が多数飾られている店内でまず竪山の目を引いたのは、窓枠風の鏡。実は事前打ち合わせのときにもこの鏡の存在が気になっていて、どの角度から見たときに何が写り込むのかを確認していたのだった。竪山はまず、コーヒーカップが陳列されたカウンターを映り込ませる撮影に挑戦。照明の当たり具合、カップの入れ込み方を考えて、何度もシャッターを切る。
続けて180度向きを変え、正面からカウンターの撮影に挑む。Amberの顔ともいうべきカップの陳列棚に照明が反射して、味わい深い印象のカットが撮影できた。そのままカウンターにあったコーヒーミルとコーヒーサイフォンを使って、喫茶店らしさを演出。ここで“物撮り”の楽しさをちょっとつかんだ竪山は、次々と小物の撮影を始めた。柱時計、花瓶、ステンドグラス……竪山が撮影する後ろから平岩もカメラを構え、「すごく良いね!」「今度はこっちの角度から!」と声をかけつつ、「物撮りは縦位置で撮ったほうが綺麗に撮れるよ」とさらっとアドバイスを織り交ぜる。その一言、本当に勉強になります。
撮影を開始して30分。“物撮り”熱が上がっている竪山が、今度はお店の人気メニューを撮影することになった。オーナーの実姉で一緒にAmberを切り盛りする秋元充代さんがコーヒーの準備を始めると、店内にふわっといい香りが漂い始めた。竪山はカウンターの近くに寄って、まずは棚と棚の隙間からコーヒーを淹れている様子を撮影。続けて後ろに回り、手元を近くで捉える。お湯がコーヒー豆の隙間に注がれていく時間、フィルターを通してポットにコーヒーが落ちていく時間、ポットのコーヒーがカップに移される時間、その香りが店内に広がっていき、カップがテーブルに届けられるまでの時間を、竪山は丁寧に収めていく。
テーブルに置かれたカップの撮影に竪山が奮闘している間に、お店の看板メニューの1つ、特製プリンも用意された。脚つきの器に乗せられた“これぞプリン!”な姿に、竪山も平岩も思わず「おおー!」と声を上げる。ステンドグラスのカラフルなライトに照らされ、プリンとコーヒーがキラキラと輝き、竪山のテンションがさらに上がっていく。と、さらにきらめきながら登場したのはメロンソーダ! グリーンのシュワシュワにチェリーの赤が映えて、なんとも美しい。
「料理は向き!」という平岩の金言に従い、メロンソーダのグラスの向きを変えながら撮影を続けていたところ、竪山が「あ、でもこれ、こっちで撮ったらどうだろう」と思いつき、窓辺のテーブルにメロンソーダを移動してみた。すると、自然光でソーダの色がさらに透明感のある輝きを見せ始めた。
「わあ、これはいいよ。隼太くん、良いポイントを見つけたよ!」と夢中で撮り続ける竪山を褒めながら、「全体を入れる以外にも、例えばこうやって撮ってみると……」と言ってグラスにグッと近寄った構図を平岩が提案すると、まさに雑誌でお目にかかりそうなメロンソーダのカットが撮れた。
「こういう1枚があると、例えば編集さんが特集の扉ページに採用してくれることがあるんだよね」と、数々の特集を撮影してきたプロカメラマンならではのアドバイスが飛び出し、竪山も納得の表情を見せた。そして、話と撮影に夢中な竪山と平岩の背後で、役目を終えたプリンとメロンソーダは、佐野家三男くんのお腹にしっかりと収まった。
最後はいよいよ店員さんの撮影に
店内と人気メニューの撮影は無事終了。最後はお店にとって一番大切な、店員さんの撮影だ。カウンター奥にいた充代さんに協力してもらい、撮影をスタート。「どのくらい勤められているんですか?」「お店のどんなところが好きですか?」などと話しかけ、充代さんの笑顔を引き出していく。ある程度の枚数を撮ったところで竪山は、「……あの、これは僕の趣味なんですけど、撮影してみたい構図があって……」と恐縮しながら、自分のアイデアを切り出した。それは、最初のほうで撮影した窓枠の鏡を使い、充代さんがコーヒーをサーブしている様子を、鏡越しに撮るというもの。充代さんは快く撮影に協力してくれ、竪山はこれだ!という角度が決まるまで、粘り強く撮影を続けた。
撮影後、オーナーや佐野家の人たちも交え、しばしの団らんタイムがあった。2017年にオープンした喫茶Amberは、オーナーがどうしても喫茶店を経営してみたくて始めたお店なんだとか。レトロなものが好きで、アンティーク家具を少しずつ買い集めたり、昔ながらの喫茶店にありそうな“王道メニュー”をラインナップしていくうち、現在の雰囲気が出来上がった。店の看板メニューは、竪山が物撮りしたコーヒー、特製プリンをはじめ、エビピラフやクロックムッシュといった軽食メニューも。横浜にありながら、どこか遠くへ旅したような気分になれるのがうれしい。すっかり店になじんだ竪山と平岩は、オーナーに求められて、サインをプレゼントすることに。喫茶Amberに立ち寄った際は、ほかのサイン色紙と並んで掲示された2人のサインを、ぜひ探してみてほしい。
喫茶Amber(キッサアンバー)
神奈川県横浜市緑区台村町367-2、TEL.045-298-1883
営業時間:10:00~17:00(日・月曜定休)
プロフィール
竪山隼太(タテヤマハヤタ)
1990年、大阪府生まれ。2000年に劇団四季ミュージカル「ライオンキング」ヤングシンバ役でデビュー後、「天才てれびくんワイド」にレギュラー出演し子役として活動。2009年に蜷川幸雄率いる演劇集団さいたまネクスト・シアターで活動。最近の出演作に「Take Me Out 2018」、「ガラスの動物園」(上村聡史演出)、さいたまネクスト・シアター最終公演「雨花のけもの」(細川洋平作、岩松了演出)、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」ロン・ウィーズリー役など。8月から9月にかけてPARCO劇場開場50周年記念シリーズ「桜の園」に出演。
平岩享(ヒライワトオル)
1974年、愛知県生まれ。フォトグラファー。時代の顔となるポートレートを数多く撮影。岩井秀人が代表を務める株式会社WAREのサポートメンバー。近年はドローンを使った動画など、新しい手法にも取り組んでいる。
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竪山隼太 Hayata Tateyama @hayata_tateyama
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