BellyJay「MONTAGEM HIKARI」ジャケット

徹底検証「Japanese Funk」 (後編) [バックナンバー]

「MONTAGEM HIKARI」の作者BellyJayやドバイのレーベルに取材してわかったこと

J-POPのグローバルヒットとAI生成が生んだ新ジャンル、しかしそこには大きな問題が……

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TikTok音楽ビジネスの荒野で

……という最後の段落はAIが書いたが、こんな**二重アスタリスク**のポエムで締めてはならない。未解決の問題が残っている。5つ挙げた要素のうち、⑤アートワークについてである。

AIボーカルによりクリアランスを乗り越えたと書いたのは私であるが、見た通り、ジャケットに関して問題は山積みだ。しかし、ここまで紹介した中にもあったような怪獣8号やソニックなどの直接的なアニメ / ゲーム表象の引用は「Japanese Funk」において前景化したわけではない。TikTokのPhonk / Funkシーンから引き継いだのである。

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なぜこのような事態になったのだろう? アメリカ発の掲示板型SNS・Redditにて「Phonkはどうして似たジャケばかりなの?」と聞いた者がおり、これに対して「レーベルがデザインを手がけているからだ」と答えた者がいた。これはまったく不確かな情報ではあるものの、先に回答があったように、0to8がアートワーク制作を行っていることと符合する。

オンラインの音楽シーンにおける版権物の濫用はSoundCloudに親しんだ私も理解するところであって、若いプロデューサーがノリでやっているのなら、ことさら騒ぎ立てたくもない。だが、これを企業が推進するのなら、何か常識の底が抜けたような気にもなってくる。

私は0to8に質問してみた──。0to8が作るアートワークについて、権利関係の対策はしているのか?

「すべてのカバーアートはオリジナルのイラストです。私たちは数年前よりビジュアルを担当するクリエイティブチームを抱えており、適切な許可なしに既存のキャラクターを使用しないよう努めています」

私はひっくり返った。もしもIPと個別に契約をしているならば、そう説明するだろう。しかし「オリジナル」なのだそうだ。ついでに言えば、所属アーティストはSpliceなど著作権フリーのライブラリのみを使っており、サンプリングにも問題がないというが、それも疑わしい。どうしてここまで強弁できるのだろうか?

その手がかりは、0to8がインタビューに応じたドバイのビジネス誌の記事にあった。

「0to8のデータは、ヒット曲のライフサイクルの圧縮を示している。現在、多くの楽曲がリリース後最初の1カ月以内にピークに達する。5、6カ月経過後には、1日のストリーミング再生数が80~90%減少することが多い。

しかし、その短期間に、かつて1、2年かけて蓄積されたのと同等の再生数を獲得することが可能である。新奇性が絶えず求められる環境下で、視覚トレンドは楽曲と寿命をともにする専用サウンドトラックとなっている」

要するに焼畑農業なのである。不法な“新たな美学”なりで拡散するだけ拡散し、もしも問題が起きてマズいことになったら、その曲を削除すればいい。なぜなら国境を超えて権利者の怒号が届く頃には、圧縮されたバイラルで十分な稼ぎを得ているのだから。そして、痛手を負うのはレーベルではなく、プロデューサーだけである。なぜならレーベルは、次のプロデューサーを抱えているのだから──それこそ世界中に。

今回のリサーチ中に出会った白々しいリアクション動画やら、BellyJayが日本語詞の作詞について回答を控えたことやらで、私はどうも疑心暗鬼になっている。

けれど頭を冷やせば、「Japanese Funk」がプロデューサーたちの自律的な制作によって生まれたことは信じられる。BellyJayがYOASOBIの大ファンだという証言や、これまでに見たPhonk / Funkシーンの変遷を振り返れば、「Japanese Funk」が世界のベッドルームから生まれてくる用意は十分にできていたはずだ。

ならば、SNS上では言葉少なな印象もあるBellyJayが、月間リスナー100万人突破の際に語った喜びは本当だろう。しかしこれが本当だからこそ、何かやり切れなさも感じてしまう。

「100万人に到達する夢がようやく実現し、とてもうれしく、本当に恵まれていると感じます。過小評価されていた頃から、ついに認められるようになって……2026年にこれを達成できたことが、まだ信じられません。(略)自分の愛する楽曲で、もっと多くの人を幸せにしたいです。みんな愛しています。本当にありがとう!」

思うに、2020年代の特異なビジネスモデルで100万人に聴かれることと同じくらい、Discordサーバーで彼と彼のファンが日本語でチャットする光景もファンタジーである。彼らがそんな対話の先で、やたら紛らわしいジャンル名が起こす波乱に気付いたならば、多くの人の頭痛のタネを取り除いて幸せにできるだろうし、さらに先、国境こそがファンタジーなのだと真に思わせてくれるような作品ができたとき、もっと多くの人を幸せにできるのだろう。(了)

※追記

この原稿の提出後、知人より記事が送られてきた。「Japanese Funk」におけるAIボーカルについて、ここに記述したより事態はもっと複雑かもしれない。

TikTokに上がっている日本語楽曲のデモを、他者が生成AIによって引き伸ばし、完成・流通させるケースがあるという。さらに、それを「オリジナル」としてディストリビューターに申請することで、元のデモ制作者を退けて収益を独占するのだという。そして、そのコピー版をもとにPhonk / Funkのリミックスをする場合があるという(「BEAUTIFUL MOON FUNK」がそれにあたる)。

これは「AIボーカルによりクリアランスを乗り越えた」という記述の反例となるばかりか、AIによりサンプリング手法が巧妙になったことを示す事例だろう。そもそも本稿では「Text-to-Audio」(文章から音声へ)でのAI使用を前提に記述していたが、この場合は「Audio-to-Audio」(音声から音声へ)で生成されている。こうなると、もはや制作のプロセスにおいて、言葉が言葉として理解される必要はなくなる。日本語の響きがあれば、それで日本語楽曲が完成するのである。

なお、上記noteの筆者によれば、このスキームにおいてはほかにも被害者がいるらしい。「MONTAGEM HIKARI」に元楽曲となるものは見つけられなかったため、このテキストを欄外の追記とするが、実際のところはまったくわからない(BellyJayは作詞について回答しなかった)。

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namahoge

2021年より音楽ライターとして活動。国内外のインターネット音楽文化を中心に、ハイパーポップ、ボカロ、ラップ、アニメ、中華料理について執筆。ほか、ライブイベント「internethood」を開催し、PAS TASTAワンマンライブ「GRAND POP ODYSSEY」の幕間劇の脚本を手がける。

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嘯(しゃお, 𝕏iao)🩺🎨 @xiao_signo028

日本語楽曲のデモを、他者が生成AIによって引き伸ばし、完成・流通させるケースがあるという。さらに、それを「オリジナル」としてディストリビューターに申請する

「MONTAGEM HIKARI」の作者BellyJayやドバイのレーベルに取材してわかったこと | 徹底検証「Japanese Funk」 https://t.co/6tPihNZbWl

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