かねてからロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説「ジキル博士とハイド氏」に登場するジキルとハイドのように、二面性を打ち出した音楽を追求してきたHYDE。この数年は激しさや“動”の側面にフォーカスしてきた彼が、2026年は内省的な“静”の表現にシフトするという。その皮切りとなるのが、2026年1月に開幕する5年ぶりとなるオーケストラツアー「HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL」だ。
1stアルバム「ROENTGEN」(2002年発表)の続編的な位置付けとなる、来春リリース予定のニューアルバム「JEKYLL」を伴うこのツアーに向けて、音楽ナタリーではHYDEにインタビュー。自身の中で“激しいライブ”のピークを記録した千葉・幕張メッセ公演「HYDE [INSIDE] LIVE 2025 WORLD TOUR -JAPAN FINAL-」を振り返ってもらったのち、AIが台頭する時代における生音のオーケストラ公演の醍醐味、自身の歌の変化などを分析してもらった。
取材・文 / 中野明子
公演情報
HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL
チケット料金
全席指定:税込12000円
車いす席:税込12000円
FC限定 アップグレードシート:税込30000円(※チケット料金 12000円+アップグレード料金 18000円。各会場の前方席を保証するチケット)
チケット先行予約期間
プレイガイド最速先行 チケットぴあ(抽選)
申込期間:2025年11月27日(木)18:00~12月7日(日)23:59
チケット一般発売
2025年12月21日(日)10:00~
Overseas Ticket Sales (Lottery)
Application Period: November 27th (Thu) 6:00pm (JST) - December 7th (Sun) 11:59pm (JST)
※This is a raffle for fans residing OUTSIDE of Japan.
※Credit Card ONLY
“激しいHYDE”のピーク
──まずは、先月国内編が完結したワールドツアー「HYDE [INSIDE] LIVE 2025 WORLD TOUR」を振り返っての思いを聞かせてください(※取材は11月上旬に実施)。
ここのところライブを重ねるごとに、さらに激しくなっていって。体力の限界があるのに、クレイジーなものをどんどん欲するようになっていたんですよね。このスタイルのライブを続けるのはちょっと考えないといけないなと感じていて。だから、今までで一番激しいライブをすることで、一度“激しいモード”のピークを作ろう、一旦最後にしようという思いがありました。
──歯止めが効かなくなっていたところも?
あるかもしれませんね。去年リリースした最新アルバム「HYDE [INSIDE]」は「LAST SONG」を中心に据えて、ライブで盛り上がるアッパーな曲を集めた作品で。ライブを盛り上げるために、必要な曲が全部そろった状態でツアーを回れている感覚がありました。幕張公演は自分としてはこれまでで一番のカオスを作れたと感じられる、やりがいのあるライブでした。
──ご自身の中で「HYDE [INSIDE] LIVE」は完結した?
そうですね。ファンの子たちも僕の意図を理解してくれていて。海外を回ってても、日本から来た子たちが現地のお客さんを盛り上げてくれている。幕張のライブでも言ったんですが、Zeppのような柵がある会場でも、工夫しながらカオスな空間を作っていて。ステージから見ていて面白いなと思いました。日本のライブ、コンサート文化ってどうしても右へならえじゃないけど、周りの人に合わせるところが強いですよね。もちろんその文化も理解できる。ただ、感情を解放させるような激しい音楽を聴くのには、ちょっと合わないなとずっと思っていたんです。それがやっと変わったというか、お客さんが成長して、いい感じでそれぞれに盛り上がってる。それによって僕らも負けじとどんどんクレイジーになっていきました。
心に刺さるような歌を届けるオーケストラ公演
──「HYDE [INSIDE] LIVE」の余韻を残しつつ、1月には「HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL」が開幕します。HYDEさんがオーケストラツアーを開催されるのは5年ぶりですね。
はい。「HYDE [INSIDE]」もそうだったんですけど、アルバムの締め切りがライブを開催するうえでの目安になるというか。自分の気に入ったものができるまでは、締切をどんどん伸ばしていくというYOSHIKIさんの悪い影響を受けまして(笑)。今回はなんとか春までにアルバムを完成させられる見込みが立ったのでツアーを企画したところがあります。もちろんオーケストラツアーのようなコンサートは1年以上前から会場を押さえて準備しないと開催できないので、だいぶ前からやることは考えていましたけど。オーケストラツアーが決まっていたからこそ、「HYDE [INSIDE] LIVE」をやり切れたというところもありますね。激しいライブと並行してオーケストラ公演もやるとなると、一度自分の限界を出そうという覚悟はできなかったと思うので。だから新たな気持ち、生まれ変わるような気持ちで、静のHYDEとしてのスタートが切れるんじゃないかな。
──今では“動”と“静”の二面をそれぞれ打ち出す表現がHYDEさんのアーティスト性として認識されていますが、そもそもそういったコンセプトはいつ頃誕生したんでしょうか。
アメリカを拠点にしていた頃からありましたね。せっかくHYDEを名乗っているんだから、小説の「ジキル博士とハイド氏」のように二面性をもっと打ち出してもいいんじゃないかというミーティングをスタッフとしたことがあって。もともといろんなジャンルを作っていたので、わかりやすくする意味で。そのときから、HYDEはHYDEで行ききって、JEKYLLはJEKYLLでちゃんとアルバムやライブを作ろうという意見が上がりました。
──となると、10年くらい前から具体的な構想はあったと。
そうですね。VAMPSの活動休止後くらいからあったと思います。
──前回のオーケストラツアーから少し空いていますが、心持ちに変化はありますか?
ありますね。前回のツアーはコロナ禍の時期だったので、どうしてもハンデがあっていろいろ配慮する必要がありました。でも今回は、自分の芸術を遠慮なく完全な形で表現できる予感がしています。
──今回のツアーの大半がホール公演となりますので、「HYDE [INSIDE] LIVE」とはまったく異なる環境ですね。
歌や演奏の繊細な部分を堪能してほしいので、お客さんには着席していただこうかなと。もちろんコンサートとしての展開は考えます。例えば最後の曲は、皆さんが立ち上がりたくなる雰囲気や盛り上がりを作るかもしれない。でも、基本的にはじっくり聴いてもらう形にしたいなと。
──ライブハウス公演と比べて、ライブ制作においてはどういう部分が共通して、どういった点が違いますか?
ライブハウス公演にしてもオーケストラコンサートにしても、ラストに向けてクレッシェンドしていく流れは変わらないです。それが肉体的に出るのか、精神的に出るのかというのが最大の違いだと思います。例えば「HYDE [INSIDE] LIVE」は“肉体が動く”のが目的だった。僕にしてもお客さんにしても。でも、オーケストラ公演の場合は、精神的な部分を重視する。座りながら聴いて、観ていても、心に刺さるような歌を届ける。ちゃんと歌と演奏で感動させることを意識しますね。
──今回の編成はどのようなものに?
前回のオーケストラツアーと一緒かな。弦楽ダブルカルテット、コーラス2名、ドラム、ピアノ、サックスやトランペットなどの管楽器を含む、総勢20名以上になるかと思います。
「JEKYLL」と「ROENTGEN」の違い
──これまでのオーケストラ公演との違いを挙げるとしたらどのようなものですか?
まずセットリストがまったく変わります。ニューアルバム「JEKYLL」の全曲を組み込みつつ、「ROENTGEN」の曲を足す感じになるかなと。ツアーが始まるタイミングは「JEKYLL」発売前なので、新曲をコンサートでお披露目することになるんですけど、お客さんはびっくりするんじゃないかな。「こういう曲がくるんだ!」って。
──「JEKYLL」は「ROENTGEN」の続編とは銘打たれているけれど、そのまま踏襲しているわけではない?
「ROENTGEN」を作っていた頃からマインドが変化していますからね。同じ人間なので、変わらず好きなサウンドというのもあるし、もちろん延長の部分もあります。ただ、25年も経ってますから(笑)。「ROENTGEN」はHYDEとしての1stアルバムで、L'Arc-en-Cielがお休みに入ってすぐの作品だったので、皆さんの期待値も高かったし、今も好きだと言ってくれる人が多いんです。でも、「ROENTGEN」の流れをイメージするとちょっと違うかもしれない。“今のHYDE”が反映される形になります。
──25年間の変化がサウンドや歌に影響しているんですね。
僕ももういい大人ですから(笑)。
──そのアルバム「JEKYLL」の完成度は?
今80%くらいです。あと2、3曲レコーディングが残ってて、なんとかできそうなんですけど、できなかったらどうしよう……最初は2025年内にレコーディングが終われば余裕じゃんと思ってたら、もう年末が近付いてきて。けっこう焦ってます(笑)。
──25年前と今とでレコーディングや制作はどう変わりましたか?
いずれもクオリティが違いますね。「ROENTGEN」を作っていた頃は、僕が作詞も作曲も、すべてを自分1人でやらないといけないと思ってた。ソロというのはそういうものだと勘違いしていたんです。1人で完結させる欲求と面白さもありましたが、当時の自分の技術だけでやっていたので拙いところもあった。それをイギリスで才能のある方々がオーケストラで録ってくれた、お金が膨大にかかったアルバムなんです(笑)。今回はイギリスで録ってはいませんが、楽曲のクオリティがぐっと上がってるので楽しみにしていてほしいです。
──その「クオリティ」を具体的に言葉にするとどういうものですか?
緻密に作られた、構築された楽曲という点かな。簡単に言うとね。シンプルなメロディの曲もありますが、それもすごく練られている。「ROENTGEN」は自分の若さゆえの強引さが面白い形になった作品なので、今は作ることができないよさがあるとは思うんです。今回はちょっと大人になって、いろんな人の力を借りながら、僕は監督として楽曲を制作している感覚ですね。自分の理想を形にするには自分の力だけではできない。そのためには優秀なスタッフ、ミュージシャンが必要であることに気付けた。そこは25年前と違うところですね。
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美しい声と美しい演奏で100%の歌を届ける




