沖縄出身5人組ヒップホップクルーSugLawd Familiar、メジャーデビューで立ち返った「音を楽しむ」という原点

沖縄出身の5人組ヒップホップクルーSugLawd Familiarが10月に1stシングル「HOPE」でワーナーミュージック・ジャパンからメジャーデビュー。11月には早くも2ndシングル「DAMN」をリリースした。

2020年にリリースした楽曲「Longiness」が再生回数2億回を超える大ヒットを記録し、その名を知らしめたSugLawd Familiar。メジャー1stシングル「HOPE」は、メッセージ性の強いリリックや、レゲエ、ヒップホップ、ロックの要素を取り入れた重厚感のあるビートが印象的な1曲で、2ndシングル「DAMN」は2000年代に一世を風靡したダンスホールレゲエを巧みにサンプリングしたラガヒップホップチューンとなっている。

音楽ナタリーではメジャーデビューを記念してSugLawd Familiar全員にインタビュー。クルー結成の経緯からメジャーデビューのきっかけ、新曲に込めた思いまでを詳しく聞いた。

取材・文 / 渡辺志保撮影 / 斎藤大嗣

高校の球技大会後に体操着で集まった

──いろんなところで語られているとも思いますが、なぜこのメンバーになったのか、というところから聞かせてもらえますか?

OHZKEY 結成したのは高校生のときだったんですけど、その前からみんなラップが好きで。高校1年のときに僕とXF MENEWが同じクラスに、Vanity.KとOichiが同じクラスになったんです。その前からXF MENEWとVanity.Kは中学校が同じで、一緒にサイファーもしていて、「RAPSTAR」を一緒に見たり、ラップについて話したりしていたんですけど、いつしかOHZKEY & XF MENEW派閥とVanity.K & Oichi派閥のような感じになって敵対していったんです。そんな状況の中で、お互いSoundCloudに曲をアップして……みたいな。

OHZKEY

OHZKEY

──けっこうバチバチな雰囲気だったんですか?

OHZKEY はい。見る人が見たらバチバチしていたと思います。俺たち、高校2年生のときに同じクラスになったんですけど、ある日、球技大会があって。それがきっかけで仲よくなって、球技大会の放課後に体操着のままみんなでうちに集まって1曲作ったんです。そうしたら、派閥とか関係なく「楽しいじゃん」って。それがスタートですね。

Caster Mild 僕は高校が違うんですけど、Oichiと地元が一緒で、中学時代からラップやいろんな音楽を一緒に聴いて話したり、イベントに行ったりしてました。僕の高校にはイベントに行くような子があんまりいなくて、Oichiのつながりでメンバーのみんなとも友達になって遊ぶようになった、という感じです。そのとき、もう1人DJとして活動していた仲間に「お前ら、クルー組めよ」って言われて。

Caster Mild

Caster Mild

──地元には、ほかにもラップやDJをやっているプレイヤーの高校生は多かったですか?

OHZKEY XF MENEWとVanity.Kは那覇市で、ほかの3人はその隣の浦添市というところの出身なんですけど、ぶっちゃけ、俺らが組んでから同世代のクルーが増え始めた感じはあります。実際、同級生のラッパーはいっぱいいました。でも「僕らが一番ヤバいでしょ」っていうヴァイブスで過ごしてましたね。

──沖縄と言えば数々のラッパーを輩出していている土地ですけど、そうした先輩たちの影響もあるのでしょうか。

Vanity.K あると思います。当時、「高校生ラップ選手権」にOZworldさんが出ていて。沖縄のラッパーが出ていることに対して「すげえ、いるんだ!」って。

OHZKEY 中学生の頃、サイファーをがんばっていたときには、「高校生ラップ選手権」を目指してやっていたという時期はありましたね。僕はかつて「RAPSTAR」にも応募したことがあって、2019年のSEASON3と2020年のSEASON 4に応募したんですけど落選しました。でも、そこから音源を作ることに火が着きました。

「Longiness」の大ヒットは予想外だった

──クルー結成直後の2020年には「Longiness」の大ヒットがありましたよね。ミュージックビデオは現時点で3000万回を超える再生数ですし、Spotifyでも2億回以上の再生回数を誇るほどの異例のヒットでしたが、皆さんの中ではどのように受け止めていたのでしょうか?

OHZKEY ここまでヒットするのは予想外でした。MVを出すときに「絶対に10万回再生を目指そう」と言っていたんです。でも、気が付けば50万回、100万回……とどんどん数字が上がっていって、だんだん怖くなってきて。

Vanity.K 「ヤバいね」って。

OHZKEY TikTokを開いたとき、やけに自分の曲が流れてくるなって。こうやって広まっていくんだ、って実感したんです。

Vanity.K 進路とかも決めなきゃいけない時期だったんですけど、その頃には「Longiness」の再生回数が100万くらいになっていたんです。それまでは先のことは考えず楽しくやっていたんですけど、「これを続けていくのか」という不安にぶち当たって。でも「行けるっしょ」とも思いましたね。

──大学への進学とか就職とか、そういった具体的なことは考えていた?

XF MENEW 1mmも考えていなかったですね。

Vanity.K  SugLawd Familiarが新聞に紹介されていたくらいだったから、進路相談の先生にも「俺、これで行くんで」って。

5年経て制作されたChamplue REMIX

──「Longiness」はAwichさんとCHICO CARLITOさんが参加したリミックスバージョンも作られました。

OHZKEY 広がり方が目まぐるしかったですね。

──私もAwichさんのライブなどで皆さんが「Longiness」を歌っている様子を観て「高校生が作った曲が、地元のアンセムのように広がっているんだ!」とすごくエモい気持ちになったんですよね。そんな「Longiness」も、今年に新バージョンがリリースされました。

OHZKEY 原曲は俺とVanity.Kしかラップしていなかったので、もともと「全員でラップしているバージョンを作りたいね」って話していたんです。そのタイミングでメジャーのお話をいただいたこともあって、イチからトラックを選んで作りました。オリジナルバージョンを作ってから5年経ってますけど、もともと、僕が歌詞の中で「5年後いや4年後?これは余命宣告」とラップしている。なので、実際に5年経った自分からのアンサーという形にもなっていて、面白いな、と。

──ビートにもいろんな音が乗っかっていて、より迫力ある仕上がりですよね。

OHZKEY 元の曲がピカイチなので、原曲は絶対に越えられないなと思ったんです。だから、EDMやダブステップ、三線などいろんな要素をごちゃ混ぜにして、まったく新しいものを作ろうというコンセプトで作っていきました。それで、“Champlu(チャンプルー、ごちゃ混ぜの意)Remix”というタイトルにして。

──OichiさんとXF MENEWさんは、今回のリミックスに参加してみてどう感じましたか?

Oichi すごいなあって。当時は何も感じていなかったんですけどね。今になって、楽曲のすごさがわかります。

XF MENEW 原曲が強すぎるので、それを超えたい気持ちもありつつ、さすがに超えることはできないんじゃないかっていうプレッシャーもありました。原曲の中身は気にせず、ただ自分の言いたいことを言おうと思って歌詞を書いていきました。大事な曲なので、今、自分がこのシーンに対してどう思っているかを伝えようと。明言しているわけじゃないんですけど、無駄なものが多すぎると自分は思っていて。「とにかく俺らに着いてくればいいから」っていう気持ちで書きました。

Vanity.K ちなみに原曲のフックと今回のフック、歌い方が全然違うんですよ。原曲のまま歌うとちょっと違くて。そしたらOHZKEYが「もっと跳ねる感じで歌ってみたら?」と言ってくれて。歌い方を変えたら、もっといい感じにハマって、面白かったですね。何より、もともと2人で歌っていた曲だったのが、新たに2人が入ってくる。このリミックスを作るのは、最初から最後までめちゃくちゃ楽しかったです。

OHZKEY 今回は僕ら2人も新たに歌詞を書いているんですけど、吹っ切れたというか、ちょっとカッコつけたり、隠したくなったりする弱さみたいなところもさらけ出すことができたなと思っています。

沖縄の先輩はカッコいいのにみんな優しい

──「Longiness」のヒットを受けて、Awichさんら沖縄の先輩ラッパーたちと大きなステージに立つことも少なくなかったと思います。そこから学んだことはありますか?

Vanity.K ステージに向き合う真剣さを学びましたね。それまでは自分たちのやり方しか知らなかったけど、例えば楽屋でも本気で大声で発声していたり、CHICO(CARLITO)さんからも、「ライブの前はあんまりごはんを食べないほうがいいよ」とか、そういう細かいこともいろいろ教わったり。みんなで手を取り合って助け合っていく──沖縄の言葉で“ゆいまーる”って言うんですけど、ゆいまーる精神がみんなから出ていて。「カッコいいのにみんな優しいな」と思っていました。

SugLawd Familiar

SugLawd Familiar

OHZKEY 前にAwichさんのワンマンライブの客演に呼んでもらって、そこでSugLawd Familiarの「Paradise」という曲をやったんですけど、そうやって後輩をフックアップする姿勢が一番の学びでしたね。俺らもそれくらいの存在になって、後輩をフックアップしていかないと、っていう。

──皆さんは今も基本的に沖縄にいらっしゃると思うのですが、現在の沖縄、特に若い世代のヒップホップシーンはどんなふうに映っていますか?

OHZKEY 正直、10代くらいの若いアーティストのことはわからなくて。ただ、沖縄にはCHOUJIさんやMuKuRoさん、唾奇さんといった揺るぎない先輩たちの層がある。だから、みんなそこをヒーローとして信仰しながら、ラップを始めていく感じなのかなと思います。