楠木ともりの2ndアルバム「LANDERBLUE」がリリースされた。
楠木がアルバムを発表するのは2023年5月発売の「PRESENCE / ABSENCE」以来2年半ぶり。「LANDERBLUE」には「優等生」「それでも」など楠木が自ら作詞作曲した10曲、楠木が大好きなアーティスト・AAAMYYYが手がけた「浮遊」の全11曲が収められている。アルバムのタイトル「LANDERBLUE」は成功や繁栄、自由という石言葉があるターコイズの1種・ランダーブルーを表している。
「LANDERBLUE」において「アーティストとしての5年」というより「自分が生きてきた25年の中の、アーティストとしての5年」を表現したと言う楠木。彼女自身が抱えるもどかしい気持ちや届けられなかった思いも反映した収録曲についてじっくり語った。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 星野耕作
ターコイズの石言葉は
──2ndアルバム「LANDERBLUE」を制作する際、コンセプトや方向性についてどのようなことを考えましたか。
「PRESENCE / ABSENCE」は2枚組という1stアルバムにしてはちょっと特殊な形で、内容もベストアルバム的な感じだったので、2ndアルバムはそもそもどういうアルバムにするか、いろいろ悩みました。かつ、1stアルバムは「存在」をテーマにしていたんですけど、作っている最中に「もっとわかりやすいモチーフでもよかったかも」と思ったことがあって。特に今年はアーティスト活動5周年というタイミングですし、「5」に関連付けることも考えてはみたんです。それで「アーティストとしての5年」というよりは「自分が生きてきた25年の中の、アーティストとしての5年」をアルバムとして落とし込みたいなと思ったときに、自分に密接に関わるアイテムの中で誕生石がキーワードになるんじゃないかと気付いたんです。
──12月生まれの楠木さんの誕生石はターコイズで、アルバムタイトルの「LANDERBLUE」もそのターコイズの1種を意味する言葉です。
私はターコイズがすごく好きで、透き通っていなくてちょっと傷っぽい模様とか、あまり宝石らしくないところも含めて美しくて素敵だなと思っていました。石言葉は自由とか成功とか繁栄というポジティブなものなので、今回のアルバムの1曲1曲が皆さんにとってのお守りというか、聴いたときに心が強くなれる……そんな存在になっていったらいいなという思いを込めて、アルバムコンセプトを決めていきました。
──「PRESENCE / ABSENCE」は曲ごとにポジティブさ、ネガティブさが色濃く表現されていて、それがアルバムにグラデーションを付けていましたが、今作はダークな曲調やネガティブな歌詞も含まれているのに、アルバム全体を覆う空気からポジティブな印象を受けました。そこが前作との大きな違いなのかなと。
大前提として、前向きなテーマをもとに「LANDERBLUE」を作ったというのがあるんですけど、曲の書き方自体が変わった影響もあるかもしれません。今までは自分の好きなようには書くものの、「広く共感される曲を書こう、むしろそうしないといけないのかな」とビジネス的な考えもあったんです。でも、5th EP「吐露」は自分本位であったり「これは広くは刺さらないけど、わかってくれる人もいるだろう」という視点で作ったにもかかわらず、聴き手の皆さんに受け入れてもらえたことが自分にとってはすごく自信につながって(参照:楠木ともりインタビュー|ありのままの感情を吐き出したデビュー5年目の5th EP「吐露」)。なので、今作では1曲ごとにターゲットを絞って、リスナーの方々に「これ、自分のことを歌っている感じがする」とか「自覚はなかったけど、こういう自分いるよな。なんか共感できる」と思ってもらうことを期待して、歌詞を書くことができました。
──なるほど。
例えば、今までは広く共感されるダークさをイメージしていたんですけど、今回はそのダークさをより狭めたことで、表向きにはダークさが出ているけど、「そこに至るまでに何があったのかな」と過程を含めいろんな側面を想像する余地を作ることができたんです。その結果、ネガティブの中からポジティブなニュアンスを見つけ出してもらって、逆に「背中を押してもらえた」とか「孤独を感じない」とかそういう受け取り方をしてもらえるんじゃないかなと思います。
──抽象性よりもより具体性を持たせたからこそ、くっきりと際立つものが見えてきて、結果的に響く人にはよりわかりやすく響く。そういう特化のさせ方によって、1曲1曲の強度がより増したんでしょうね。タイトルの「LANDERBLUE」には青という色が含まれていますが、楠木さんは青にどんなイメージを持っていますか?
美しいという印象が強いんですけど、自由や晴れやかな気持ちも与えてくれて、でもどこか悲しみを表す色でもある。自分にスッと入ってくる色という感じがします。
──青春やブルースといった言葉にも関連付けられる、とても多面的な色ですよね。
青にすごく特別な感情を持っている人が多いのかなと思うことがあって。ほかの色よりも不思議な魅力を持つ色のような気がしています。
CDだから表現できること
──アルバム資料には「CDを手に取ってほしい」という楠木さんの言葉が掲載されていますが、「LANDERBLUE」を制作するうえでもそこはかなりこだわった?
そうですね。年々デジタルが主流になってきましたが、「音だけでは表現できないものがCDにはあるから」と自分はCDを出す意味をこれまでも伝えてきていて。特に「LANDERBLUE」にはお守りにしてほしいという思いも込めているので、パッケージ=モノとしてあったほうがよりお守りのように感じてもらえるのかなと思います。
──パッケージを開けるときのドキドキや手に取ったときの感触含めて、デジタルでは味わえない体験ですものね。だからこそ、持っているだけで喜びが得られるような。そういう意味では、今作のパッケージがお守りになるという意味もわかります。ちなみに、楠木さんは初めて買ったCDを覚えていますか?
覚えてますよ。テゴマスの「ミソスープ」です。小学生のとき、地元のCD屋さんに母と一緒に行って、お年玉で買いました。当時はCDの探し方もわからなくて、見つけたときのあの輝いて見える感じとか、パッケージを開けたときのワクワクとか、自分だけの宝物を見つけたような高揚感があったことをよく覚えています。懐かしいですね(笑)。
──最近もCDってちょくちょく買っていますか?
なかなかじっくり探せてなくて、あまりCDをゲットできていないんです。ただ、最近姉に誘われてレコードを見に行ったりしました。姉のほうが音楽に詳しくて、お目当てのレコードを前にして「あ、これあった!」と宝物を見つけたように喜んでいましたね。
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