寿美菜子と高垣彩陽がともにソロアーティストデビュー15周年を迎えたことを記念し、コラボレーションシングル「Beyond Days」をリリースした。
スフィアのメンバーとして16年にわたって、手を取り合い走り続けてきた寿と高垣。2人で歌詞を共作したシングルには築き上げてきた強い絆と、アニバーサリーイヤーの先にある未来への思いが込められている。
音楽ナタリーでは2人のソロアーティストデビュー15周年を記念して、“寿と高垣が今話したい人”との鼎談を企画。「どなたとお話ししたいですか?」と2人に話を持ちかけたところ、今年声優活動40周年を迎えた大先輩であり、これまでお世話になってきたという山寺宏一の名前が挙がった。寿と高垣のソロアーティストデビュー15周年を祝うべく、山寺は「20周年記念 ボイスシネマ声優口演ライブ2025」の東京公演千秋楽を終えたその足で駆け付けて鼎談に参加。愛情とリスペクトあふれるトークが繰り広げられた。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作
我々3人は重婚している仲なので
山寺宏一 今日はありがとうございます。私でいいんですか?
高垣彩陽 こちらこそ本当にありがとうございます!
寿美菜子 山寺さんじゃなきゃダメなんです!
高垣 山寺さんと美菜子は、ついさっきまで「声優口演」に出演していて。私は観劇させていただいたんですけど「山寺さんも美菜子もすごい! わあ、面白い!」と思うたびに「でも、このあとインタビューが……ごめんなさい!」という気持ちに……。
山寺 たった22分しか出ていないですから。
高垣 いやいや、あの内容は「たった」じゃないです。司会もされていましたし。
山寺 あれは司会じゃないんだよ、本当は。一応、公演の後半は若手が仕切ることになっているんだけど、「声優口演」の企画者である羽佐間道夫さんのそのときの気分に左右されるから、ほぼお任せなの。
高垣 それは、羽佐間さんが山寺さんを信頼しているからこそですね!
山寺 羽佐間さんは、自分にとってはもう親みたいなもんなのよ。養成所時代からずっとお世話になっている本当の師匠だし、「声優口演」も20年一緒にやっているから。
高垣 数々の妙技を拝見したので、今日はその感想だけで終わっちゃうんじゃないかぐらいの気持ちで……。
山寺 違うでしょ!? 今日は「Beyond Days」というね、2人のソロアーティストデビュー15周年記念コラボシングルの話をしにきたんだから。おめでとうございます!
寿・高垣 ありがとうございます!
山寺 大好きな2人のアニバーサリーのタイミングに呼んでいただいて、本当にうれしいです。なんといってもね、我々3人は重婚している仲なので。
寿 ワードだけ聞くと危ない(笑)。
高垣 今は3人とも既婚者なので、余計に複雑。
山寺 だって初めて2人と深く関わったのは、それだもんね。
寿・高垣 「Run for Your Wife」!
山寺 というね、僕と水島裕さんと演出家の野坂実さんでやっている舞台「ラフィングライブ」の第2回公演で、僕が演じる重婚男性の妻役をそれぞれ演じてくれて。それが2016年だったんで、初めて稽古をやってからほぼ10年の付き合いになるのかな。だから2人には大きなご縁とご恩を感じています。
寿・高垣 私たちもです。
山寺 「ラフィングライブ」は2015年からやっているけど、実はコロナ禍で途絶えてしまって、まだ5回しかやっていないんだよね。でも、そのうち4回は2人、もしくはどちらか1人に出てもらっていて。
高垣 私も美菜子も、それぞれ3回ずつ出させてもらいました。
山寺 しかも2人の役柄が、いつも僕の妻 or 愛人という。
寿 私も彩陽も、山寺さんの妻か愛人しか演じていない。
山寺 すごいよね。2人のファンに何を言われても反論できない。
一緒に乗り越えてきたよね
寿 山寺さんの妻または愛人を演じるというプレッシャーもある中で、舞台上でのセリフのやりとりだけでなく、オフのときも山寺さんは「ここ、どう思う?」と話しかけてくださったりして。いろんな刺激や気付きを得ながら「一緒に乗り越えてきたよね」という感覚を私たち2人の中で共有し続けてきたのが、「ラフィングライブ」という舞台だったんです。その感覚が「Beyond Days」の歌詞にもつながっているので、今回の対談企画で「どなたとお話ししたいですか?」と聞かれたとき、2人とも迷わず「山寺さんで!」と。
高垣 「Beyond Days」の歌詞を2人で書くにあたって「2人の共通点はなんだろう?」と考えたとき、ストレートプレイを一緒にやらせてもらったことがまず浮かんで。それが2人の強い絆にも、私たちの役者人生を語るうえで外せない大きな出来事にもなっているんです。
山寺 「ラフィングライブ」に1回出てもらったあと、2人から「もう二度とごめんだ」って言われたらどうしようと思ってたの。僕と裕さんが中心にやっているから、出演者の年齢層も高めだったりするんだけど、2人は若手でありながら演技も本当に素晴らしくて、稽古も真面目だし、一緒にやっていてすごく楽しかった。なので「またぜひ」と頼りきっていたというね。不思議なもので、アニメで共演するよりも、舞台のほうが関係が密になるところもあって。
寿 本当に、密度が濃くて。
高垣 ほぼ毎日、稽古場でお会いしていたので。
山寺 朗読劇とかだと、何度か読み合わせして本番みたいなケースもあるけど、「ラフィングライブ」はとんでもなく難しい舞台で。ドアを開け閉めするときの、ほんの1秒の“間”とかを、毎日ものすごく細かく稽古したからね。
高垣 しかも、当時の山寺さんは「おはスタ」に出演されていて。誰よりもお忙しい山寺さんの前で「大変だ」なんて口が裂けても言えない。誰よりも大きな声を出して、誰よりもたくさんしゃべって、誰よりも汗をかいてお芝居をしている先輩の姿に大きな力をいただきました。
寿 そして誰よりも早口でした。
山寺 やけにテンション高かったよね。でも、それを支えてくれたのが2人だったの。僕は当時、平日は毎朝「おはスタ」に出ていたけど、その分ほかの仕事はある程度セーブして稽古の時間を取っていたからなんとかなっていたんです。だけど、2人はめいっぱい仕事をしながらちゃんと稽古に来ていたし、来られなかったら稽古の録画を見て、次回までに万全の状態にしてくる。「え? 前回来てないのにどうした? 俺と裕さんより先にセリフ覚えてんじゃねえか!」っていうぐらい吸収力がすごかったから、逆に引っ張ってもらっている感じもあって。2人ともセンスがいいし、それでいて個性はまったく違うのが面白かったんですよ。ブッキー(寿)は、まだ若かったのに大人っぽいというか色気があって、ドキドキしちゃった。
寿 「Run for Your Wife」のときは20代半ばかな? だから余計に、山寺さんの妻役を任されるなんて思ってもいませんでした。
山寺 そして彩陽は、とにかくおかしい。
高垣 え! おかしい!?
山寺 「こんなコメディエンヌいたのか!」っていう。戸田恵子さんのポジションを狙っているみたいな。
高垣 その言い方は誤解を招きます!(笑) 私にとって戸田さんは雲の上の存在ですし、直接ご挨拶したことはないんですが、雰囲気が似ていると言っていただけることがよくあって恐縮です。
山寺 もちろん「色気がある」とか「おかしい」というのは2人の個性の1つに過ぎないし、もっと深い魅力もたくさんあるんだけど、それは芝居をやっていて感じることなんで言語化するのは難しいんです。とにかく、本当に楽しかった。
2人に対してはつい“同志”と言いたくなっちゃう
高垣 山寺さんは大先輩で、全声優の憧れと言っても過言ではない方ですけど、常に葛藤も抱えていらっしゃったりして……。
山寺 よく愚痴っていたもんね。
高垣 いやいや(笑)。山寺さんはお芝居に向けられる努力だったり、その努力をステージで実らせる胆力だったり、そういう強さだけじゃなくて、弱さも見せてくださる方なんです。
寿 私たちは演出の野坂実さんからのたくさんのダメ出しに凹んでいたんですけど、山寺さんも同じように……いや、同じと言っていいのかわかりませんが、「ああ、できなかった」「もっとこうしたいのに」とおっしゃっていて。
高垣 悔しさをストレートに表に出してくださったので「まだまだひよっこの自分たちがここで打ちのめされてちゃいけないんだ」と。
山寺 2人より俺へのダメ出しのほうが多かったからね。
高垣 いやいやいや!
寿 セリフの量が違いますから。
山寺 確かに俺は出番も多いけど、2人にはそんなに激しいダメ出しは……あったか。
寿 いっぱいありました(笑)。
山寺 やっぱりコメディって難しいんだよね。ちょっとした間とか表情、セリフの言い方1つミスっただけで台無しになるというか、笑いが来るはずの場面で笑いが来ない。微妙な演技が要求される中で、2人は本当によくやってくれた。だから、2人に対してはつい“同志”と言いたくなっちゃう。
寿・高垣 えええええー! 恐れ多い……!
山寺 声優業界の、しかも歳の離れた後輩でそう思える人ってそんなにいないんだけど、やっぱり芝居を何回も一緒にやったこともあってか、本音で話したくなる。普段の俺は「これがうまくできないんだよ」とかって、そうそう言わないから。
寿 そうやってオープンに接してくださったこともすごくうれしくて。自分たちも、若さもあってか、「できない」と言っちゃいけないという気持ちがどこかにあったんです。でも、ときにはそれを打ち明ける勇気も必要だと教わりましたし、逆に打ち明けたほうが周りの人から「じゃあ、こうしたら?」とアドバイスしてもらえたりして、いい方向に転がることもあるというのを最近ひしひしと感じるんです。
高垣 私たち2人は来年で声優活動20周年を迎えるので、ようやく山寺さんの半分に届くんですけど、そんな私たちにも心を開いてくださって。だから私たちも、お芝居のうえでも心を開いてぶつかっていけるし、お芝居から離れてお話ししたりする中でも、ものすごい信頼感と安心感を覚えるんですよ。
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