デビューから10年を超えた今も、Daokoは変身を止めない。前作「Slash-&-Burn」では、初期の鋭さとダンサブルな熱を融合し、自身の中にある陰をも音楽に昇華してみせた。あれから1年、このたびリリースされた最新EP「meta millefeuille」で彼女が手にしたのは、“kawaii”というキーワードだ。Vtuberへの愛、TikTokカルチャー、インターネット世代の作家たちとの共作──ここにはDaokoの素直な“好き”と“ときめき”を前面に出した曲が並んでいる。
哲学よりも感覚へ、重さよりも甘さへと傾倒しているという最近のDaoko。「意味を込めすぎず、感覚で楽しめるポップスを」と語る彼女の言葉通り、「meta millefeuille」は、軽やかな“今を生きるポップ”そのものだ。
取材・文 / つやちゃん撮影 / 梁瀬玉実
魂の次元で愛する、推しへのラブソング
──昨年5月にリリースされたアルバム「Slash-&-Burn」が、デビュー期のDaokoさんの色も入れつつ、新しいダンサブルなDaokoさんも打ち出していくようなとてもユニークな作品で。ライブツアー「Daoko "Slash-&-Burn" Tour 2024」もすごく踊れる感じになっていたのが印象的でした。そこから、今作はどういう方向性で作っていこうと考えたのでしょうか?
まず、ざっくりと“kawaii”というのがコンセプトとしてありました。作品の色も、水色を中心としたパステルカラーのイメージ。私が普段持っているダークな要素は、今回は意識的に減らそうかなという考えはありましたね。
──確かに、「Slash-&-Burn」のちょっとドロドロしたメンタルをさらけ出したところから比べると、少し明るくなってますよね。kawaiiというテーマが出てきたのはなぜでしょう?
若い子や海外のリスナーにもっと届けたいという気持ちがあったのかもしれないですね。海外のファンの方も多いので……。あと、TikTokをけっこう観てたかな。フリッパーズ・ギター的な渋谷系の音楽をバックに自撮りする、みたいな文化がけっこう流行ってるんだなと傍観者として見ていて、「前世は武将」(2025年7月リリースの配信シングル)といった曲の背景にはそういうモードがありました(参照:Daoko「前世は武将」インタビュー)。
──なるほど。若いTikTokカルチャーと、海外のリスナーですね。
そうです。それと2025年の年始に、今年はどんな1年にしたいだろうかということを考えて年賀絵を描いたんですけど、そのときに浮かんだのが「LOVELY LITTLE STARS」という言葉だったんです。小さい星たち。かわいいですよね。今年の私の中のテーマとしてそういうワードがあって、そこから今回のEPのkawaiiというコンセプトにつながっていった気がします。一般的なDaoko像ってちょっとクールで怖い感じじゃないですか? でも、会ったら「思ったよりも面白い人なんですね」と言っていただくことがあって。“お茶目さ”や“かわいげ”も自分の中に存在しているんだと思えたんです。なので、そういったところももっと出していっていいのかなって。
──前回のアルバムの取材で、ゲームつながりで若いアーティストと交流するようになったという話をされていました。そういった要因もあったんですか?
そうですね。それもあって、今年はインターネットミュージックばかりを聴いていて。今作にはその影響が出ているかと思います。
──確かに、今回はネット音楽的なテイストやボカロ色が強いですね。1曲目の「MeeM」からインターネット感のあるタイトルです。
これは、推しへのラブソングなんです。私自身、Vtuberさんのコンテンツにものすごく救われていて、タイトルは、MeとMeが向き合っているという鏡文字のようなモチーフを意識しました。ネットミーム的な意味も含ませながら、どちらかというと(科学者の)リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」のほうが念頭にありましたね。
──「鏡を心に向かい合せ」という歌詞もありますね。
Vtuberの方のお話を聞いていると、魂でしゃべってるように感じる瞬間があるんですよ。すごく個人的な感じがする。私はテレビとかだと「自分の顔って今どうなってるんだろう?」と考えちゃうタイプなんです。恥ずかしいし。でもVtuberの場合、そういうのがすべて取っ払われた素の言葉を感じる。Vtuberさんの映像を家で観ている自分も自然体なので、魂と魂が向かい合っている状況のように感じられて。
──姿が見えないからこそ。
そう。こちらとしては、もはやどんな姿でもいい、みたいな。顔を出したくなったら出してもいいし、それはそれで愛し続けるだろうなって。魂の次元で愛している感じがするんです。だから、推しという存在には、ずっと幸せに笑っていてほしいなと思う。そういう切実な思いで作った曲です。推しのいる方に共感していただけたらうれしい曲です。若干エゴ気味なのですが……。EPの中では唯一の自作曲なのですが、GuruConnectさんに編曲していただいたことによって、サウンドがハイパーになりました。ドラムにビートさとしさんをお呼びしたので、ライブのサポートメンバーということもあり、楽曲のグルーヴ感がある曲だと思います。
このさわやかさは私からは出てこない
──「いいよ」は、アニメ「ある日、お姫様になってしまった件について」の曲ですね。キラキラ感があります。
もともと韓国原作のマンガが中国でアニメ化され、日本語吹き替え版が作られるということでお声がけいただきました。最初に絵だけをいただいたので、それを見ながら曲を作っていきました。歌詞もサウンドもそこからインスピレーションを得て広げています。歌詞は、主人公の気持ちを描きつつも自分のことも重ねて書いていますね。原作のコミックも読み込んで、作品の一部という意識で制作しました。アニメーションにあわせて歌詞を考えるのは初めてだったのですが、新鮮な感覚で楽しかったです。
──この曲はGuruConnectさんとの共作なんですね。
Guruさんってアンダーグラウンドなイメージが強いと思うので、こういうキラキラしたかわいい曲ってちょっと意外かもしれないんですけど。ただ、アイドルグループのばってん少女隊に私とGuruさんで楽曲提供させてもらったことがあって。そのときに、かわいい系の曲もできる人であることがわかっていたので、お声がけして、一緒にこの曲を作りました。むしろ、このさわやかさは私からは出てこない。自分だけで作るとどうしても摩訶不思議な感じにしちゃうので。
都市伝説の中の存在とコラボ
──「いいよ」のあとに収録されている、「前世は武将」は永井聖一さんとの曲です。永井さんとはQUBITで一緒にバンド活動もされていますね。
永井さんは意外にかわいいもの好きで、今回のEPにぴったりなんじゃないかと思って。永井さんのギターってキラキラしていてかわいいところがある。ウサギ愛がすさまじかったり、持っている小物がかわいかったり、そういう面もあります。永井さんはkawaiiを音楽に落とし込むのが上手なんですよ。一方で、メタルが好きでカッコいいお兄さんの一面もあるんですけどね。サウンドはkawaiiのお話しをしたら「オッケー!」という感じだったので、円滑なやりとりでした(笑)。永井さんの得意分野ですね。
──ローマ字表記のkawaiiって、ちょっと“毒”も入っていると思うんですよ。「前世は武将」にはそういうニュアンスもちゃんとありますよね。「僕だけのフォトン」を聴いていても、そう感じます。
「僕だけのフォトン」を一緒に作ったx0o0x_さんは私がもともとファンで、数年前から日常的に聴いている尊敬するアーティストさんです。ご自身の出自や活動も含めてオリジナリティを感じられて、すごく面白いです。核P-MODELの曲の歌ってみた動画を上げられていたり……都市伝説の中の存在という感じで、唯一無二な作風に惹かれますね。なので、念願叶ってのコラボレーションでした。x0o0x_さんの持つ世界観が好きなので、インスピレーションの多くは彼の曲自身から受けました。この曲は物語を紡ぐように作詞させていただきました。舞台設定は“不凋花”という花が咲くような場所なので冥界で、ファンタジーさを意識しました。
──なるほど。
x0o0x_さんは本当にインターネットの人って感じで。完全に独学で音楽をやってるらしいんですけど、だからなのか、ほかのアーティストとは違ったリズムがある。独自性があって難解さもあるのですがそれがすごく好きなところです。ちなみにEPのジャケットは、x0o0x_さんのミュージックビデオなどを描いている游さんにお願いしました。それぞれの曲から連想するモチーフを私からお伝えしたんです。「前世は武将」はウサギで、「僕だけのフォトン」は不凋花という歌詞に出てくる植物で、って。游さんはとにかく絵がお上手で、EPの世界観を拡張してくださいましたね。目を引くし、とっても気に入っています。
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