多種多様な人種が集まったLA公演
ロンドン、パリ、ニューヨークを経て、ツアーファイナルはロサンゼルスで行われた。会場のYouTube Theaterは巨大スタジアムに隣接する6000人収容のベニューだ。この公演も、米津の海外での人気を如実に示すものとなった。
開演前のロビーで目を引いたのは、予想以上の客層の多様性だ。交わされる会話のほとんどは英語。おそらく現地のファンと見られる観客は、アジア系アメリカ人をはじめ、白人もかなりの数で、黒人の姿も見受けられた。男女比はほぼ半々で、若年層が中心だったが、年配の人や家族連れの姿もあった。「チェンソーマン」のコスプレをした観客もわずかに見られたが、いわゆるアニメファンの集まりという雰囲気はまったくない。さまざまなきっかけで米津の音楽に触れた多彩なファンが集まった場という印象だ。
セットリストはソウル公演とほぼ変わらない24曲。会場によって照明や特殊効果は異なるものの、基本的な演出も共通だ。TEAM TSUJIMOTOのダンサーたちによるダンスと背景のLEDビジョンに映し出された映像が楽曲を彩りその多彩な世界観を伝える、総合芸術のようなステージが米津のライブの真骨頂である。
ロサンゼルスのオーディエンスも情熱的だった。冒頭の「RED OUT」から観客全員が立ち上がり、一体となって歌う。「感電」や「マルゲリータ」、「LADY」では、イントロが流れた瞬間から会場に高揚感が広がり、米津の音楽が長らく待ち望まれていたことが伝わってきた。
「Hello everyone !」「Nice to meet you ! So happy to be here」と英語で呼びかけ、大きな歓声を浴びた米津は、「初めてのライブにこんなに集まってくれて、非常に光栄です」と笑顔で感謝を伝えた。
ロサンゼルス公演で特に心に残ったのは、米津の多彩な音楽性がアメリカのファンにも深く浸透している様子だ。「地球儀」では観客が息をのんで聴き入り、「LADY」では自然と手拍子が生まれ、「Azalea」では心地よさそうに身体を揺らしていた。
ソウルの会場全体が沸騰するような熱狂とは少し異なり、ロサンゼルスの観客は日本の客席に近い反応を見せていたように思う。日本語の歌詞であってもそれはまったく障壁とはならず、むしろ楽曲の持つ情感やムード、世界観そのものがアメリカのリスナーにも伝わり熱気を生んでいることを強く感じた。
15年ぶりの渡米、最新曲に込めた親友への思い
「ありがとう、すごい、熱い!」と笑顔を見せた米津は、MCで「ロサンゼルスは15年前に来て、今回は2回目なんです」と明かした。そして「来るたびに思うけれど、とてもいい気候ですね。今回のツアーはここが最後だけれど、素晴らしい天気や開放的な街並みも全部含めて、最後にふさわしい場所だと思います」と語る。
米津が初めて海外に渡航したのも15年前。2011年7月に行われた初音ミクの海外初ライブコンサート「MIKUNOPOLIS in Los Angeles」に参加したときだ。米津はその際に、初めて海外ファンと直接交流した思い出が今も鮮明に残っているという。「そこから15年経って、今、こんなにたくさんの人が来てくれたということには、本当に感動的なものがあって。すごくうれしいです。今日は来てくれてありがとう」と、思いを噛み締めるように語った。
ソウル公演と同じく、ロサンゼルス公演のクライマックスも「KICK BACK」だった。イントロが流れた瞬間、会場からは歓喜の叫びが上がり、観客は高揚感に包まれながら体を揺らし、ともに歌った。「ピースサイン」では一斉にピースサインを掲げる光景が広がり、会場全体の熱気は最高潮に達した。
アンコールのMCで米津はワールドツアー全体を振り返り、「これだけの人が異国の地に集まってくれて、本当にうれしいです。日本語の歌で、言葉も何を言っているかわからないかもしれないけれど、それでも熱烈に迎え入れてくれるということに、本当に感激しました」と心からの喜びを表現した。
「I love you !」と叫び「また来ます」とアメリカのファンとの再会を約束した米津は、さらに特別な思いを打ち明けた。「もう1個だけ」と切り出し、「15年前、人生の一番の親友みたいなやつと一緒にここに来たんです。そいつが6年前に亡くなってしまって。昨日がその人の命日だったんですよ。だから、次の曲はそいつに向けた曲としてもやりたいんだけれど、いいですか」という言葉に続けて「Plazma」を披露した。「Plazma」は「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」の主題歌として書き下ろされた1曲。この日この場所でこの曲を歌ったことには深く胸を震わすような感動があった。
そしてツアー最後の曲は「LOST CORNER」。ダンサーたちに囲まれながら、軽やかなメロディのこの曲を歌い終えた米津の表情には、充実感と晴れやかさが混ざり合っていた。
「また会いましょう!」という言葉とともに米津がステージを去った後も、会場には熱狂の余韻が残り続けた。公演後、会場の外ではそこかしこで、観客たちが興奮冷めやらぬ様子で感想を語り合っていた。きっとこの日のライブは訪れた1人ひとりの胸に、深く刻み込まれる体験になったのではないだろうか。そう強く感じた一夜だった。
世界中から“祝福”を受け、米津は何を思ったのか
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柴 那典 @shiba710
米津玄師ワールドツアー「KENSHI YONEZU 2025 WORLD TOUR / JUNK」のレポートを書きました。
「こんなに熱いライブ、人生で初めてでした」と米津さん自身が語ったソウル公演、特別な思いを打ち明けたツアーファイナルのLA公演、そして今回のツアーの意義について。是非読んでみてください。 https://t.co/gygxNlmTOg