ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.10 [バックナンバー]
アウトロダクション:KEN THE 390の回想
13人のラッパー、オーガナイザーとの対話を振り返って
2024年11月27日 19:00 4
“全員がシーンの参加者である”というのがヒップホップのいいところ
──一方、“MCバトルの新人発掘”という側面は、以前よりも難しくなっているというのも、今回の連載で話題になったことで。
自分をアピールする方法が増えていくなかで、ほかの方法を取る人も増えたと思うんですよね。MCバトルに加えて、そこで活躍する人をメディアがフォローアップするみたいな、現場とメディアの両軸で新しいラッパーを注目させる仕組みができるといいですよね。
──今回の連載でいえば、
ネットでの議論も含めて、やっぱりヒップホップには議論する文化というのが、しっかり残っているんだなと思いましたね。僕としてはBBPのディスカッションを思い出したんですよ。
──初期のBBPでは、代々木公園でのライブやダンスに加えて、パネルディスカッションがありましたね。
アーティストだけが話すんじゃなくて、ファンやヘッズも参加してヒップホップについての意見交換をする時間が、BBPのプログラムにはあって。それはほかの音楽イベントでは考えられないですよね。
──ロックフェスで「ロックとは何か?」みたいな意見交換をする企画はないですよね。
そういうディスカッションパートだけじゃなくて、2003年に
──MCバトルのシステムがブラッシュアップされていく過程にも、プレイヤーや運営だけではなく、リスナーの反応も大きかったというのが、漢さんをはじめ、今回の連載でも明らかになったことで。
だから、そこにも“ヒップホップ的な要素”が反映されたということですよね。また、もし若いラッパーの参入が減ってるんだとしたら、MCバトルと流行のヒップホップとの乖離も影響してるのかなと。それはサウンドや感覚の部分で。
──よく「現行の楽曲はトラップ以降のサウンドが中心」「MCバトルはブーンバップが中心」と言われますね。それは一面的な判断ではあるんだけど、ただトラップとブーンバップという概念が、ある意味では“新旧”を象徴するものとして捉えられて、MCバトルは比較的オールドなビート感が中心になっている部分もあります。
ただ、サウンド的にブーンバップが伝統的なヒップホップかというと、またそれも違うと思うんですよね。あれは特に90年代的なヒップホップの流行の形だと思うし。
──80年代だともっとTR-808(Rolandが1980年に発売したリズムマシン)がドラムとベースの基本なってたりするから、むしろより古典的なヒップホップのほうが、サウンド構造的には今に近いですからね。
ヒップホップのサウンドは時代とともに流行が変わっていくものだし、特に最新のヒップホップに影響を受けてるような若い子は、ブーンバップが多いからという部分で、MCバトルと離れてる可能性もあるなって。だから、MCバトルも例えばオートチューンを使ったり、ビートやBPMも流行に合わせるような、今の美意識を取り入れたり、流行とバトルの溝を埋めるような作業があってもいいと思うし、そのギャップの解消が、MCバトルシーンの課題なのかなと思いますね。現行のビート感がもっと前に出るバトルがあれば、そこにコミットする若いラッパーも増えて、そのバトルのノリをそのまま楽曲のほうにもスライドできる可能性もあると思うし。
──選択肢も多いほうがいいですしね。
そう。サウンドは趣味や興味の問題でもあるから、自分のふさわしいところをチョイスすればいいし、それができれば規模も広がると思う。
MCバトルの中毒性と“圧”
──「MCバトルを卒業した」と宣言する人にも今回の連載に登場していただいたけど、ほとんどの人が「(今後MCバトルに出る)可能性はゼロではない」と話していたのも興味深くて。KENさんもそうですか?
ゼロではないですね。僕が改めて出るとしたら……なんかめちゃくちゃ炎上するような事案を起こして、そのステートメントとか説明を発表する場として出るみたいな(笑)。
──目的が独特すぎるし、怖いよ(笑)。
ははは! それは冗談としても、やっぱりバトルに出ること自体にも、改めて興味が湧いた部分もある。同じ即興でも、フリースタイルの興奮とMCバトルの興奮は違うんですよね。やっぱりMCバトルは自分でわかるぐらいアドレナリンが出るんです。精神的なプレッシャーがかかる中で、ラップで勝ち筋が見えたり、着地点をひらめいた瞬間は、最高に興奮するし、勝った瞬間だけじゃなくて、ヴァースごとにアドレナリンがドバドバ出る。あのときの快感は、ほかのことではなかなか味わえないし、中毒性がありますよね。だからパブロが「自分に気合いを入れたくてバトルに出た」という気持ちはすごくわかる。
──ライブとは違う快感や興奮があると。
「あいつには勝ちたい」「みっともない負け方はできない」とか、いろんな“圧”がバトルにはかかるわけですけど、バトルに勝つと、その圧が一気に開くんですよね。逆に負けてその圧が抜けなかったときは、すごくモヤモヤした気持ちがずっと残る。トーナメントで上にいけばいくほど名勝負が生まれやすいのは、ノッてるという部分以外にも、お互いに圧がかかってるから、その相乗効果で、という部分はありますよね。
“自分自身のやり方”を発見できた人が、最終的に強くなる
──「BATTLE SUMMIT II」決勝の般若 VS Benjazzy戦は、お互いに興奮度と精度が高まっていくのが観てる側にも伝わってきたし、それにはそういう理由があったのかもしれないですね。最後に、この連載を読んでバトルに興味を持った人へのメッセージをお伺いして、ひとまずこの連載を閉じたいと思います。
全員が全員、考えてることや方法論が違うということが伝わるとうれしいですね。バトル強者と言われる人はみんな考え方が違うし、MCバトルには必勝法や大きな定番のスタイルがあるわけではなくて、“自分自身のやり方”を発見することができた人こそが、最終的に強くなるんだと、改めて理解できました。だから、この連載でみんなが話してる考え方は、むしろ避けてくれたほうがいいのかも(笑)。
──“逆参考書”だったという(笑)。
でも、事実としてそれは大いにあると思うんですよ。確かに、最初は誰かの真似や、システムを参考にしてもいいけれども、結局強くなる、勝てるようになるには、自分のスタイルを発見して、自分の言いたいことが言えるようにならないとダメなのは確かだと思う。そして、それは“自分が自分であることを誇る”という、ヒップホップの考え方や醍醐味でもあると思うんですよね。それがMCバトルにも通底していることが伝わるとうれしいです。
KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。12月28日には「
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