悟空の仲間たちと血縁者
シリーズ1作目から関わるヤムチャや亀仙人、サイヤ人のベジータなど、悟空にはクリリン以外にも多くの仲間がいる。また、悟飯や悟天といった血縁者たちも悟空譲りの戦士として実力を発揮。彼らはラッパーたちのリリックでも活躍してきた。
Joey Bada$$「Christ Conscious」
ジョーイ・バダスが2015年にリリースしたアルバム「B4.DA.$$」に収録。セルフボースト系のこの曲では、「Got dragon balls like my name was Vegeta(俺の名前がベジータだったみたいにドラゴンボールを持っている)」とラップしている。ここでのドラゴンボールは恐らくワカ・フロッカ・フレイムが言うそれと同じ文脈だ。なお、このラインは過去のフリースタイルからのセルフ引用となる。余程気に入っているラインなのだろう。
Kodak Black「Why You Always Gotta Be」
コダック・ブラックはこの曲で、「I'm runnin' with my Z like my name Gohan(俺の名前が悟飯みたいにZを仕切っている)」というラインを披露している。「Z」とはコダック・ブラックの地元であるフロリダを拠点に置くハイチ系ギャング「Zoe Pound」の頭文字で、「その中心にいるのが俺だ」とボス感をアピールしているのだ。「ドラゴンボール“Z”」の部分に着目し、第二の主人公である悟飯に自身を重ねた名パンチライン。
JPEGMAFIA, Danny Brown「Steppa Pig」
曲者2人の個性が見事なフュージョンを聴かせるアルバム「SCARING THE HOES」より。ジェイペグマフィアはここで「Bet if I let off these shots, no games, you finna just dance like Gotenks(俺がここで撃つか賭けてみろよ、ゲームなしだぜ、お前は最終的にまるでゴテンクスのように踊るようになる)」とラップしている。物騒でありながらユーモラスな味のある巧みなラインだ。
個性豊かなヴィランたちが生んだユニークな表現
フリーザや魔人ブウ、セルといった悪役たちも主人公サイドに劣らず魅力的で濃いキャラクターがそろっている。個性派ヴィランたちはメタファーとしてもおいしい存在であり、多くのユニークな表現を生んできた。その一部を紹介していく。
Danny Brown「Handstand」
ダニー・ブラウンの2013年作「Old」より。「Smoking on that Frieza, nigga, got a nigga amnesia, nigga(フリーザを吸って記憶喪失)」と、ハイになりすぎて記憶を失う様子を惑星ベジータを消滅させたフリーザに例えている。なお、ダニー・ブラウンは2010年に発表した曲「Shootin' Moves」では「Smoking on some Goku, buds like Dragon Balls(悟空を吸う、ドラゴンボールみたいなバッズ)」とラップしており、ドラゴンボールキャラクターを吸うのが好きなようだ。
IDK「MORAL(feat. Maxo Kream)」
IDKが2018年にリリースしたEP「IDK & FRIENDS :)」に収録。ここではIDKが「Pretty pussy pink and it's fat, it look like Majin Buu(ピンク色でファットなかわいいプッシー、まるで魔人ブウみたい)」と衝撃的なリリックを披露している。なお、魔人ブウの「ピンク色」に着目したラインはほかにもフランク・オーシャンやドレイコ・ザ・ルーラーなどの曲で登場する。魔人ブウはピンク色の代表なのかもしれない。
Denzel Curry「ZUU」
魔人ブウネタをもう1つ。この曲のフックではシンガーのトゥエルヴ・レンが「M's all on my belt, I'm feelin' like I'm Majin Buu(ベルトに付いているものは7桁の金額のものでいっぱい、まるで魔人ブウになったみたいな気分)」と歌い上げている。「Million(100万)」を「M」と略すことで、「M」と書かれたベルトを着用している魔人ブウとつなげるユニークなラインだ。初めて聴いたときに思わず魔人ブウの画像を検索し直したリスナーも多いだろう。
Trippie Redd「Super Cell」
曲名にもなっているセルに関するラインはフックの「she sucked them Dragon Balls (Z), bitch, I feel like Cell (彼女はドラゴンボールをしゃぶる、ビッチ、セルみたいな気分)」の部分。「cell(独房)」とかけたラインもいくつか残している。しかし、この曲もドラゴンボールネタのバーゲンセール状態で、セル以外にも悟空やクリリン、フリーザなどの固有名詞が大量に聞こえてくる。作品への愛あふれる1曲だ。
キャラクター名だけではなく技名やアイテム名もたびたび引用
キャラクター名だけではなく、かめはめ波や元気玉といった技名、仙豆のようなアイテム名が登場するリリックもたびたび確認できる。なんとなくの知識で引用するのではなく、本当にドラゴンボールに親しんできたラッパーが多くいるということだろう。ラッパーたちが使いこなす「ドラゴンボールネタ」という技の威力を味わってみよう。
Domo Genesis「SS4」
タイトルの「SS4」は「Super Saiyan 4」の略。ドラゴンボールネタ満載のこの曲では、「Popping Senzu beans till I go unconscious(意識を失うまで仙豆を食う)」、「Too powered up for the scouter shit to read us(スカウターで俺らを測るにはパワーアップしすぎた)」などのラインが次々と飛び出す。ドラゴンボールとセルフボーストの相性のよさが感じられる1曲だ。
Tee Grizzley「Beef(feat. Meek Mill)」
ティー・グリズリーとミーク・ミルというハードなラッパー2人によるコラボ曲。この曲ではティー・グリズリーが「Blue beam on that choppa Kamehameh. I throw them dragon balls at you like I'm Kakarot(このショットガンかめはめ波の青いビーム。カカロットみたいにお前にドラゴンボールをお見舞いしてやる)」と、ショットガンをかめはめ波に、銃弾をドラゴンボールに見立ててビーフ相手を追い込んでいる。
BAD HOP「I Feel Like Goku(feat. T-Pablow, Vingo & G-k.i.d)」
最後に国内での例を。
ACE COOL「EYDAY」
そのほかにも悟空を名乗るGOODMOODGOKUのようなラッパーの活躍、Elle Teresa「Bulma」やSEEDA「Sai Bai Man」などさまざまな曲でドラゴンボールと国内ヒップホップの関係を見ることができる。
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1984年に連載を開始したドラゴンボールは、その後アニメ化されて1995年にアメリカでも放送。そこからそのストーリーがアフリカ系アメリカ人の心を捉え、ヒップホップ史も彩ってきた。ここまで引用機会が多い作品は、ほかには映画「スカーフェイス」くらいだろう。
- アボかど
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1991年生まれ、新潟県出身・在住の音楽ブロガー / ライター。2012年から新譜のレビューを中心とした音楽ブログ「にんじゃりGang Bang」を運営。メディアへの寄稿やプレスリリースの執筆なども行う。専門分野はヒップホップ、特にアメリカのギャングスタラップ。
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ドラゴンボールラップ名曲ガイド
RZAからBAD HOPまで……ラッパーたちに愛された「ドラゴンボール」ネタの曲を一挙紹介
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