TuneCore Japan「著作権管理サービス」にインディーズアーティストから称賛の嵐
このサービスの何が画期的なのか、水口瑛介弁護士に解説してもらいました
2022年10月27日 18:00 86
9月末、TuneCore Japanが、著作権管理事業者(JASRAC)を通して収益を受け取る管理業務をアーティストやソングライターなどに代わって行う「著作権管理サービス」を開始することを発表。インディペンデントな活動を行うアーティストたちから「一番欲しかったサービス」「革命的」「まさに神」など賛辞の声が挙がっている。このサービスのいったい何が画期的なのか。音楽家のために無料法律相談サービスを提供している団体・Law and Theoryの代表を務める水口瑛介弁護士に解説してもらった。
取材・
著作権と原盤権とは何か
──TuneCore Japanが著作権管理サービスを始めましたが、「そもそも著作権とは?」という大前提から教えていただけますか?
著作権は、英語ではコピーライトと言われる通り、簡単に言うと楽曲をコピーする権利ですね。ここで言うコピーとは、楽曲データを複製する場合に限らず、楽曲を演奏したり、弾き語ったり、広い意味でのコピーを含みます。TuneCoreの著作権管理サービスの理解の前提として、2つの権利について知っておく必要があります。まず1つがこの著作権。そしてもう1つは原盤権というものです。
──こちらの図で描かれてる部分ですね。
原盤権は音源に関する権利で、なんらかの形で固定化した音源を利用する権利のことです。著作権法的には「レコード製作者の権利」というのが正式名称ですが、音楽業界では原盤権と呼ばれています。既存の楽曲を弾き語りしても音源そのものは使ってないので原盤権を使用することにはなりません。つまり、その曲の著作権しか使わないということですね。他方で、DJをするときは楽曲だけでなく音源そのものも使用するので、著作権と原盤権の両方を使うことになります。このように著作権と原盤権は異なる権利ということになります。そのうえで、それぞれ誰がその権利を持っているのかを考えるということになりますね。
──作詞した人と作曲した人。
はい、著作権は作詞・作曲した人のもとに発生します。一方の原盤権は、原盤を作る際にお金を出した人のもとに発生すると考えられています。昔はレコーディングするのにたくさんのお金が必要だったので、レコード会社が費用を払って原盤権を持つことが主流でした。ですが今は時代が変わり、アーティストが自分の機材を用いてDTMで楽曲を作った場合など、アーティスト自身が原盤権を持つパターンもあります。
──原盤権を持っているアーティストは、TuneCoreのようなデジタルディストリビューションサービスを使って楽曲を配信し、その収益を得られるという構図ですね。
そうですね。これまでTuneCoreを利用して受け取れるお金というのは、サブスクとダウンロード販売の収益のうち原盤権使用料に相当する部分だけだったんです。著作権使用料に相当する部分を受け取ることはできませんでした。アーティスト自身がJASRACに登録すれば、JASRAC経由で著作権使用料を受け取ることができるんですけど、それがいろいろな意味で簡単ではないので今回のサービスが生まれた。そういう流れかなと思います。
著作権収益が発生するケース
──どういうケースで著作権使用料を得られるのか、具体的な話も伺えますでしょうか。
著作権は総称でして、音楽に関して細かく言うと録音権、演奏権、公衆送信権などから構成されています。録音権とは楽曲を録音して固定化する権利のことですね。CDやレコードに録音して販売を行う場合には、原盤権だけでなくこの著作権のうち録音権についても許諾が必要、つまり著作権使用料の支払いが必要ということになります。次に演奏権は人前で演奏する権利のことですね。ライブハウスで楽曲をコピーする場合にはもちろんのこと、クラブで楽曲の音源を流す場合にも原盤権とは別に演奏権について問題になります。公衆送信権は、サブスクやダウンロードなどインターネットを用いて配信を行う場合に関するものですね。このように楽曲を利用する場合には、利用者が著作権使用料を支払う必要があるのですが、これをアーティストが直接徴収するのは不可能なので、JASRACなどの著作権管理団体に代わりに徴収してもらい、アーティストはそこから分配を受けるということになります。
JASRAC登録のハードル
──先ほどちょっとお話に出ましたが、個人でもJASRACに登録すれば著作権収入を受け取ることはできるんですよね?
できますが、“超えようと思えば超えられたハードル”と“超えられなかったハードル”があります。超えられたハードルは手間ですね。JASRACに申込書を請求して戸籍謄本や印鑑登録証明書などの必要書類を用意し、それらを郵送する作業が必要で、できる人にとってはなんの苦労もなくできることではありますけど、事務作業が著しく苦手なアーティストにとってはこれだけでもかなりのハードルになっているのではないでしょうか。著作権管理サービスを利用すれば簡単ですし、全部オンラインで完結するのでまったく手間がかからない。超えられなかったハードルは利用実績ですね。過去に楽曲が使われたことある人しかJASRACには登録してもらえないので、実績のない人は実績ができるまでは超えられないハードルになっています。著作権管理サービスでは利用実績がなくても登録できるとのことですので、このハードルがなくなることになりますね。
──利用実績がなくても登録できるのはうれしいですね。特に創作活動を始めたばかりのアーティストは利用実績は当然ないでしょうし。
あとはもう1つ、JASRACを利用した場合にはクライアントワークとの関係で問題があって。
──どういうことでしょう?
JASRACに登録をすると、自分の過去の曲とこれから作る未来の曲も全部の著作権をJASRACに信託する、言い換えると著作権がJASRACに移転することになります。著作権が自分の手元にないわけですから、例えばゲームやアニメ用に楽曲を制作してほしい、そして二次利用などもしたいから楽曲の著作権を買い取らせてほしいというオファーがあっても受けるのが難しいんですよ。でも著作権管理サービスなら楽曲ごとに著作権の信託をするか否かを判断できることになるので、その問題もクリアできることになりそうです。
柴 那典 @shiba710
TuneCore Japanが「著作権管理サービス」を始めたことの意義、水口弁護士のインタビューですごく明快になった。インディペンデントなアーティストの方法論が旧来のレコード会社や事務所だけじゃなく音楽出版社やJASRACの旧弊的なあり方も塗り替える可能性があるということか。https://t.co/MSTT5iLQmB