おんがく と おわらい 第5回 [バックナンバー]
スカート澤部渡が考える、音楽とお笑いの“上品さ”と“身体性”
芸人さんに囲まれたときに、自分のポップソングは何ができるんだろう
2022年9月2日 18:00 60
大鶴小肥満が感じたお笑いの身体性
──今年1月に行われた
「出ませんか?」って連絡がきて、「マジかよ」と(笑)。肥満さんの実際の衣装を着たんですけど、ブカブカだったんですよ。本物は格が違うなと思いました(笑)。
※動画は現在非公開です。
──音楽のライブとは違いましたか?
全然違いますね。痺れますよ。直前の舞台袖で、
──確かにアドリブパートでもない限り、「俺、サビ前のリフ変えるから合わせて」とはならない(笑)。
やっぱり、バンドは基本的に練習してきた成果を見せるものなんだなと。バンドでもそういう自由度の高いやりとりがあったら面白いとも思いますけど、5人でやってるとなおさら難しいですよね。
──コンビだからこそ、その自由度でも成立している。
僕が大好きなすきすきスウィッチ(
──すきすきスウィッチの曲は、いわゆるジャズのようなアドリブがあるわけではなく、歌が中心になってますよね。
そうなんだけど、なんて言えばいいんですかね。身体性というか、瞬発性というか。すきすきスウィッチが持つ身体性と、今の
──お笑いとバンドの身体性。めちゃくちゃ興味深いです。
お笑いにも、ネタがあって「こう言ったらこう応える」という枠組みはありますけど、バンドだとあそこまで軽妙にできないですよね。「何かが欠けている」ということが関係するのかな。すきすきスウィッチは時期にもよるんですけど、ベースがいない時期が長くて。
──バンドはギター、ベース、ドラム、キーボードと、役割がはっきりしすぎてるのかもしれないですね。
それはあるかも。僕自身はその役割が崩れてほしいとも思ってないし(笑)。ライブ中にメンバーが突然いつもと違うフレーズを弾いて、それが「最高!」となることもありますよ。でも、そういうハプニングは望むものじゃないですよね。
──結果としてハプニングが起こるのはいいけど、ハプニングを狙っちゃうとダメというか。
そういうのは一番みっともない。自分のバンドで、あの軽妙な「お笑いの身体性」みたいなものをどうやって出せばいいのか。悩みますね。
“本物のポップ”藤井隆
──
藤井さんや後藤さんの話し声って、我々がよく知っている声じゃないですか。毎日聞くような声が、全然知らない表情を持って歌声としてこっちに向かってくる瞬間。あれはやっぱり最高ですよね。シンガーだと、練りに練った自分の表現になるんだけど、そうではなくて。ある種、役者としての表現だと思うんです。後藤さんの歌入れのときも、藤井さんのディレクションがもう冴え渡ってて、「この曲はこういうイメージ」って伝えると「うーん?……まあ、やってみますわ」と。それで歌うと、イメージ通りになっているんですよ! ミュージシャンだとある程度自分の中の引き出しがあって、「この曲だったらこういうニュアンス」という目論見があって歌うと思うんですけど、お笑いの方だとそうじゃない部分が見えてくる。これは表現としてすごいなと素直に思います。
──曲に対して明確なイメージを持っている藤井さんもすごいですよね。
子供の頃から「藤井隆さんは本当にすごい」と思っていて。この人のお笑いには叶わないですよ。「ガキの使い」の「ハイテンション・ベストテン」でやっていた「返品’98」っていうネタがすごくて。「♪お客様困ります~返品’98~」って歌ってるんですけど(笑)。学生時代に、これと「わたしの青い空」という曲を聴いてから藤井さんのことは常に尊敬しています。
──藤井さんはネタにも音楽にも1000%の熱量を注いでいるのに、決して暴力的にはならないのもすごいですよね。
本当のポップだと思います。あんな人はほかにいないです。
お笑いに飛び込む人体実験から始めたい
──音楽とお笑いが組み合わさったもので、澤部さんが成功していると思うものはありますか?
「増殖 - X∞ Multiplies」(1980年6月にリリースされたYellow Magic Orchestraの4thアルバム)ですね。今はスネークマンショー以外ちょっと思い付かない。
──このアルバムはなぜ成功していると思いますか?
単純に何度も聴けるんです。
──それは重要ですね。スネークマンショーの笑いは、プロットが重要な構造ではないから何度も聴けるのかもしれない。ネタバレとか、そういう問題ではないというか。
何回聴いてもどこに向かってるのかわからない面白さって、ロックと一緒なんですよね。ロックは謎が多ければ多いほどいいと思う。そこに想像の余地ができて、表現の強度につながるんですよね。そういうドキドキがこのレコードにはあると思います。
──今後一緒に何かやってみたい芸人さんはいますか?
めちゃくちゃいます。でも、お笑い好きになったときからずっと考えてるんですけど、やれることと言ったら7inch切るくらいしか思い付かなかったんですよ。
──A面がスカートで、B面に芸人さんのネタが入っているような?
そうです。そういうレコードを作るぐらいしかマジで思い付かなくて。一緒にライブをやるのも難しいじゃないですか。同じステージでやるなら、バンドセットの前でやってもらうことになるから、単純にネタの世界観の邪魔になっちゃいますよね。
──ただ一緒にライブをやればいいというわけではないですよね。
そういう意味で僕は悔しすぎて観れなかったんですけど(笑)、
──あのライブは映画監督の
やっぱりたくさんの芸人さんが3分の持ち時間でネタをやってるライブにギター持って出ていったときに、その3分間で自分は何ができるのか。まずはそれかもしれない。もしかしたらポップミュージックは短ければ短いほどいいと思って3分の曲にこだわってきた理由も、ここにあるのかもしれないし。
──澤部さんはその舞台で、いわゆる「面白い曲」は歌わないですよね?
絶対やらないですよ。流れを見ながら選曲するのか、それもわからない。想像がつかないですよ。実際に立ってみないと。もしやるとなったら人体実験ですね。
──芸人さんは「笑わせる」というある種の傲慢さで一点突破してきますが、澤部さんの勝機はありますか?
ミュージシャンも「いい曲聴かせればいいんでしょ?」と思ってやってますからね。傲慢ですよ(笑)。
──ギター1本担いで新宿バッシュに乗り込むスカート澤部渡、絶対に観たいです。
自分にとっては、今はこれが一番自然な融合の仕方だと思います。
スカート
シンガーソングライター澤部渡によるソロプロジェクト。2006年にスカート名義での音楽活動を始め、2010年に自主制作による1stアルバム「エス・オー・エス」のリリースにより活動を本格化。以降もセルフプロデュースによる作品をコンスタントに制作し、2016年にカクバリズムから「CALL」をリリースした。2017年にはメジャー1stアルバム「20/20」をポニーキャニオンから発表。また澤部はスカート名義での活動のほか、ギター、ベース、ドラム、サックス、タンバリンなど多彩な楽器を演奏するマルチプレイヤーとしても活躍しており、yes, mama ok?、川本真琴、スピッツやムーンライダーズのライブやレコーディングに参加。これまでに藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)ら他アーティストへの楽曲提供およびドラマや映画の劇伴制作にも携わっている。2022年11月公開の映画「窓辺にて」の主題歌として「窓辺にて」を書き下ろした。
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藤井隆 @left_fujii
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