おんがく と おわらい 第5回 [バックナンバー]
スカート澤部渡が考える、音楽とお笑いの“上品さ”と“身体性”
芸人さんに囲まれたときに、自分のポップソングは何ができるんだろう
2022年9月2日 18:00 60
稀代のシンガーソングライターであり、ハードコアなミュージックラバーとしても知られる
前回の記事(※参照:おんがく と おわらい 第4回 大竹マネージャーが考える音楽とお笑いの“対立した緊張関係”)でASH&Dの大竹涼太マネージャーから投げかけられた「音楽とお笑いは完成する地点が違うから、融合できないのでは?」という問いについて、同じく板の上でライブするミュージシャンであり、とびきりのお笑いファンである澤部はどう考えるのか、たっぷりと語ってもらった。
取材・
「あれ? こんなに面白いものがあるの?」
──澤部さんはかなりお笑いライブを観に行っていますよね。
そんなに多くないと思います。いいとこ取りしているだけで。コロナ禍の前は週に2、3本観に行くこともありましたね。次々に知らなかった若手が出てきて、「今を見逃してなるものか!」という使命感がありましたから。
──音楽のライブを観るよりも断然多いんじゃないですか?
単純に大きい音が苦手なので、音楽ライブは頻繁に行けないんです。お笑いでもたまに出囃子がとんでもない爆音だったりすることがあるので気を抜けないんですけどね。明らかにYouTubeから持ってきたようなシャリシャリの音質だったりするし(笑)。
──お笑いライブに通い始めたのはいつ頃ですか?
2017年頃だと思います。中学生の頃から仲がいい松本健人という友人が、テレビのディレクターになったんです。彼はかつて「芸人報道」(2010年4月から2014年4月まで日本テレビで放送されたバラエティ番組)のADをやっていて、最近だと「有田ジェネレーション」や「有吉の壁」、「ここにタイトルを入力」のディレクターをやってるんですね。松本くんが2014年くらいから「とにかく今は面白い芸人がたくさんいるから観たほうがいい」と言っていて。
──プッシュされてからタイムラグがありますね。
実はもともとそんなにお笑いが得意じゃなかったんです。テレビで観るバラエティやネタ番組は気持ちが乗れないものが多くて。「M-1グランプリ」「キングオブコント」といった賞レースも面白いと思えないことが多かった。だから松本くんに言われても「どうせ自分にはわからないから」と話半分でした。でも、ずっと松本くんから「とにかく
──今思うと、そうそうたるメンツですね。Hi-STANDARD、bloodthirsty butchers、BEYONDSが出てた下北沢SHELTERに行っていたみたいな(笑)。
そうそう、あのときの僕は間違っていなかった(笑)。現場に行ってみたら、そこで起きていることのスピード感がすごく魅力的で。コミティアに感じたものにちょっと近かったですね。
──現場からどんどん新しいものが出てくる熱量の高さですね。
すごいクオリティのものが次から次へと出てくるんです。しかも、チケットが安い。「センバツ!!」は1200円くらいだったと思うんですけど、ライブ終わりにごはんを食べながら「音楽のイベントは平気で3000円くらい取るよな……」と思って落ち込んだんですよ。
──「ライブとはこういうもの」という前提が崩れたというか。
そうですね。芸人さんは漫才だったら2人でマイクの前に立つだけですから。それだけで面白いっていうのはすごいですよ。我々は音響にしても照明にしても、なんなら楽器もそうだし、いろんな装置に頼ってライブをしてますからね。それだけ設備が必要だから3000円くらいは必要になっちゃうってことなんですけど。
──一度観に行ってすぐハマったんですか?
そうです。そこからK-PROのライブとかにも通うようになって。
──澤部さんのブログ「幻燈日記帳」を読んでいても、マニア気質なのが伝わってきます(笑)。
Aマッソ、街裏ぴんく、
──舞台上のめくりに「スカート」と書かれていて、ハケてきた芸人さんと入れ違いで澤部さんが舞台に向かうという(笑)。
そうそう(笑)。その3分で僕はどの曲を歌うんだろうって。
街裏ぴんくとブライアン・ウィルソン、ランジャタイとルー・リード
僕は物事を間に受けちゃう性格なんですね。だからネタを観ているときも、どこかで「本当だったらどうしよう」と思っちゃう(笑)。初めて街裏ぴんくさんのネタを観たとき、「マンションの3階で虎飼ってんで! 街裏ぴんくです!」から始まったんですよ。この衝撃ですよね。そんなわけないとはわかってるんですけど、頭の中でいろんな景色がぐるぐる回っちゃって。
──街裏さんが虎を愛でている、ありもしないシーンが脳裏に浮かんでしまったと。
The Beach Boysを聴いているときに似ているというか。ブライアン・ウィルソン特有の、どこに飛んでいくかわからないあのハラハラするコードやメロディに近い。Aマッソも同じような感覚になります。
──サイケデリック感ですかね。
サイケデリックというよりは、めちゃくちゃなところもあるんですけど、まったく違う場所には行かないというか。「God Only Knows」にしても、どんなに転調しても、最後にはあのリフレインに落ち着くじゃないですか。その曲やネタの枠からは逸脱しない。そういう構造が近いと思ったんです。その目線が手に入ってからは、お笑いが一気に楽しくなりましたね。
──「この人たちは闇雲にめちゃくちゃやってるわけじゃないんだ」という気付きがあった。
そうそう、型が崩れない品があるんです。ランジャタイもめちゃくちゃなんですけど、薄皮一枚で現実とつながっているリアリティがあるような気がしていて。それが自分にとってすごく大切なんですよね。
──澤部さんにとって、お笑いに限らずどのカルチャーにおいても「品がある」というのがツボなんでしょうね。
ルー・リードの「Metal Machine Music」(1975年に発売された問題作。60分以上にわたりノイズだけが収録されている)も、ノイズだけどマジでさわやかでしょ? ノイズなんだけど、例えば小さな音で聴いてもロックとして損なわれるものが1つもない。そういう感じ(笑)。
──確かに「Metal Machine Music」は、「ギターをデカい音で鳴らしたら気持ちよくなってノイズになった」みたいなものとは違い、誰かに聴いてもらうことを意識していますよね。ランジャタイとか虹の黄昏とかも、「お客さんの前でやる」という前提からは逸脱しない。
そこが上品さだと思うんですよ。
なぜ怒っているのかわからないと、まったく面白くなくなる
──苦手なお笑いはありますか?
言葉にするのが難しいんですけど、「なんでそうなっているのか」がわからないと乗れないんです。ボケの人がすごく怒っているとして、「なぜそんなに怒っているのか?」が理解できないとまったく楽しくなくなっちゃう。新宿バティオスの疑似レンガ壁を見てるほうが楽しい。
──そんなに(笑)。
怒ってるネタが嫌いなわけじゃないんです。
──赤もみじは信じられないくらい怒ってますね。
村田さんだけじゃなく阪田さんもイカれてるっていうか、2人とも変だからバランスが絶妙で。例えば「湯豆腐」というネタがあって、「20代の男が湯豆腐好きなわけないだろ!」というところから話がどんどん変な方向にねじ曲がっていくんですよ。「ああ、この人たちはねじれちゃうと何も見えなくなるんだな」と思うとワクワクします。
※動画は現在非公開です。
──感情がリアルに感じられると面白い。
明確に線引きはできないですけど、ネタの理屈や漫才の間がめちゃくちゃうまくても入り込めないときはありますね。
──音楽を聴くときにも共通する感覚ですか?
自分にない感情を歌うことが常じゃないですか。男性が女性目線の歌詞を歌うこともあるし。そのうえでも、「どうしてそういうことが歌えるんだ?」と思うことはありますよね(笑)。
──バラエティ番組が面白いと思えなかったのも、同じ理由なんですかね?
うーん、どうなんでしょう。好きなものもあったんですよ。子供の頃は「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」は好きだけど「ダウンタウンのごっつええ感じ」は苦手、みたいな。中学生の頃は「バミリオン・プレジャー・ナイト」とか「テレバイダー」とか、そういう深夜番組も好きだったし、それ以降も「アメトーーク!」「ゴッドタン」「あらびき団」なんかも観てました。
──当時は、いわゆる「シュール / マニアックな笑い」と「ゴールデンタイムのバラエティ」には今より大きな溝がありましたよね。
当時はまだ10代で今よりもスノッブだったので、「こんなんで笑ってられるか」くらいに思ってたんでしょうね。いまだに忘れられないのが、たまたま「リンカーン」を観ていたら浜田(雅功)さんが宮迫(博之)さんの指示でビリー・ジョエルの「Honesty」を「ハマスティ」に替えて歌っていて。それの何が面白いのかわからなくて、怖くて……。
──前回の記事で大竹マネージャーから話があがった「お笑いが持つ傲慢さ」の部分ですね。芸能史的にはお笑いよりも音楽のほうが格上とされていた時代が長かったので、「あの名曲をこんなにくだらなくしてやったぜ」という、ある種の痛快さもあったのかもしれない。
そういうノリが苦手だったのかも。ライブだったら、そういうノリと関係なくネタを観れるから楽しめたのかもしれないですね。最近はライブから知っている芸人さんがバラエティにもよく出てるので、面白く観られるようになりました。
大鶴小肥満が感じたお笑いの身体性
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藤井隆 @left_fujii
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