おんがく と おわらい 第4回 [バックナンバー]
大竹マネージャーが考える音楽とお笑いの“対立した緊張関係”
「マジ歌は、音楽がお笑いを食い破ってくることがあるんです」
2022年7月5日 18:00 60
音楽は無頓着、お笑いは傲慢
──観客をコントロールしたいお笑いと、聴き手に評価を委ねたい音楽。それぞれの目指すところが違うということがだいぶわかってきました。
まったくの初心者でも聴いてる人の心を何か動かせたら音楽になるから、音楽は懐が深いですよね。でも、その崇高性に甘えて、お客さんを楽しませることに対して無頓着なミュージシャンも多いというか。MCもせずに「ボーカルの人が黙って水飲んでるのを見る、この時間、なに?」っていう(笑)。一方、お笑いはお笑いで、さっきも言ったように傲慢なところがあるので。
──音楽とお笑いを組み合わせて面白いものを作るには両者の緊張関係が必要だと。馴れ合ってはダメなんですね。
すごくダサいバラエティみたいになっちゃうと思うんですよ。音楽にもお笑いにも失礼というか。
──今ふと思ったんですけど、
面白いですよね。僕は「ブラッドピット」という曲の歌詞が一番好きです。
──あのバンドも、メンバー全員が「笑える音楽やってます!」みたいなスタンスだったら面白く感じられないと思うんです。バンド自体が音楽とお笑いの緊張関係を内包しているというか。吉田さん自身の中にも相剋がありそうですし。奇跡的なバランスのバンドのような気がしてきました。
なるほど、そうかもしれません。演奏もえげつないくらいタイトでカッコいいですもんね。
忘れられない永野の爆音ネタ
──ここまでの話とズレてしまうかもしれないのですが、音楽とお笑いが同じ方向を向いていた時代もあるように思うんです。「ポップミュージックはお客さんを踊らせて笑顔にさせてなんぼだよね」という、機能的な側面が重要視されていた時代というか。それだと音楽とお笑いを無理なく融合できたし、クレージーキャッツはその結晶なんじゃないかと。少々乱暴なまとめ方をすれば、クレージーキャッツ以降にポップミュージックが多様になって、「客を楽しませるだけじゃないぞ」というパンク的というかアンダーグラウンド的な価値観が生まれて、それが徐々に広まっていったのではないか。一方お笑いは、最近「地下芸人」という言葉も広がりましたし、もしやこれから音楽と同じようにパンク的な価値観、「客を笑わせるだけじゃないぞ」というアティチュードの芸人さんが増えていって、既成概念にとらわれない新しいタイプの音楽と融合する可能性もある気がしてきました。
なるほど! すごくワクワクする話ですね。
──「M-1グランプリ2021」で決勝まで残った
そうですね。でも難しいと思うのは、今名前が挙がった芸人さんたちもだいぶ世間一般に向けてチューニングしたことでテレビに出られているという点です。本当の地下芸人が、アンダーグラウンドヒーローのまま人気を獲得するのは今のシーンではちょっと想像できないですね。お笑い業界で働いていて、そういう市場というかシーンを作ってこれなかった申し訳なさみたいなものもあるんですけど。僕はすごく
──私も永野さんを最初に知ったのはあのネタでした。
あれも衣装を変えたりして、永野さんなりにものすごくチューニングした結果のネタなんですよね。それでもテレビに出たら“孤高のカルト芸人”みたいな扱いになっちゃうので。昔の永野さんのネタのままだったら、嫌な気持ちになっちゃう視聴者もいるだろうし。
──永野さんの昔のネタはどんな感じだったんですか?
僕が主催のライブに永野さんをお呼びするときは、「もんたよしのりさんのお葬式を想像でやってみる」という初期のネタを必ずリクエストするんです。「ダンシング・オールナイト」を流すんですけど、リハーサルのとき永野さんが音響さんに「できる限り大きい音にしてください」とオーダーして。だから本番は信じられないくらい爆音なんですよ。お葬式に来る人全員を永野さんが1人で演じて、口々に「もんたー!」とか叫んでるんですけど、客席にはまったく聞こえない(笑)。そのうち警備員とかドラム叩いてるやつとかも出てくるんですけど、ずっと爆音で。とんでもなく面白いです。
「禁断の領域」に踏み込む芸人への驚きと憧れ
──2017年には大竹さんがマネージャーをしている
やはり、コラボというよりは勝負になった印象がありました。初回はラブレターズが先にやって、次におとぎ話だったんです。最後に演奏した曲が「COSMOS」だったかな。すごくいいライブで。終演後に関係者の人が「いいイベントだったね!」と声をかけてくれたんですけど、号泣してるんですよ。音楽に軍配があがっているように感じました。
──バンドと芸人さんだとなかなか相乗効果が得られないと。
「やついフェス」は先日も現場にいったけど盛り上がってました! もちろん音楽に造詣が深いやつい(いちろう /
──大竹さんはお父様の
2015年の「燃えるゴミ」のときですね。オープニングとエンディング、ネタの間の曲も全部作りました。エンディングのクレジット映像のBGMをアンビエントっぽい打ち込みにしたんですが、音響監督に「ここは音楽の時間だから、ちゃんとメロディがあったほうがいい」とダメ出しされたんです。すごいなと思ったんですよ。コントライブとひと口に言っても「ここはお笑いの時間」「ここは音楽の時間」という区分がはっきりとあって、その組み合わせで全体ができあがっているんだなと。
──アーティストにもお笑いが好きな人が本当に多いですよね。細野晴臣さんもお笑い好きで、1980年代にフジテレビのネタ番組「THE MANZAI」にトリオ・ザ・テクノとしてYellow Magic Orchestraが出演していましたしね(笑)。音楽家のお笑い芸人へのリスペクトって独特なものがあるように思うんです。
確かに独特のリスペクトを感じますよね。もしかすると、“お客さんをコントロールする”という領域に踏み込んでいることに対するリスペクトなのかも。
──「そこに立ち入っちゃうの!?」という、ある種の驚きと憧れのような。
そうかもしれないですよね。このあたりの話をお笑い好きなミュージシャンの方にも聞いてみたいです。
──大竹さんが提示してくれた「音楽とお笑いの緊張関係」という視点はとても重要なので、今後もいろいろな人に聞いていきたいと思います。
今日お話しするにあたっていろいろなことを思い返してたんですけど、僕は高校2年生のときにThe Offspringとかメロコアのコピーバンドをやっていたんです。そのバンドが学園祭のトリとして出ることになって。僕らの前が3年生の先輩のバンドだったんですけど、ベースアンプの位置を動かしたりして、持ち時間をかなりオーバーしていて。こっちの持ち時間も削られるから、だんだんイライラしてきたところで、先輩のバンドが「アイスマン」っていうオリジナルソングをやり始めて、それが6分くらいあったんですよ(笑)。「長いぞ!」ってみんなでキレて、2年生と3年生の抗争に発展した「アイスマン事件」というのを思い出しました。
──いい思い出ですね。
後日、大学生の頃に東京厚生年金会館にジョン・ゾーンを観に行ったら、喫煙所にそのアイスマンのベースの人がいたんです。話しかけずにそっと離れましたけど。アイスマンとオフスプリングがジョン・ゾーンでまた出会うなんて、音楽ってやっぱり懐が深いですよ(笑)。
大竹涼太(オオタケリョウタ)
芸能プロダクション・ASH&Dコーポレーションの代表取締役兼マネージャー。2007年から2014年までは人力舎で
バックナンバー
関連記事
阿佐ヶ谷姉妹 ワタナベエリコ @asagayanoane
下書きに入ってしまっていました。お笑いと音楽のことをこんなに真剣に考え続け、語れる人にマネジメントしてもらえている稀有さ。事務所でも一二を争うヤバさを内包しながら、このクールな写りっぷり。それが我らが大竹涼太マネ、新社長です。
まだの方、読んでいただきたく~ https://t.co/SWUw5GHqPO