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佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 10回目 後編 [バックナンバー]

作家魂を支える“北海道のヤンキーの血”とは?

シンガーソングライター山崎あおいとアイドルソングの作家仕事を考える

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佐々木敦南波一海によるアイドルをテーマにしたインタビュー連載「聴くなら聞かねば!」。前回に引き続きシンガーソングライターの山崎あおいをゲストに迎え、後編もアイドルソングの作家仕事についてディープに語り合う。Juice=Juiceに提供した「『ひとりで生きられそう』って それってねえ、褒めているの?」の意外な制作背景とは? そして山崎の作家魂を支える“北海道のヤンキーの血”とは?

構成 / 望月哲 撮影 / 小財美香子 イラスト / ナカG

アイドルに提供した曲は、難しすぎて自分では歌えない

佐々木敦 提供曲のレコーディングに立ち会うことはないんですか?

山崎あおい ほぼないです。

佐々木 ディレクターに任せて、完パケするまで曲の最終形がわからないという。上がってきた曲を初めて聴くときはどういう感覚なんですか?

山崎 だいたいはうれしい気持ちになりますね。

佐々木 曲を提出するときって仮歌は山崎さんが入れているんですよね?

山崎 お願いするときもあります。符割がわかるように仮歌を入れるので、全然違う符割で歌われていたことはないです。

佐々木 アレンジで曲の印象ってガラリと変わっちゃいますよね。アンジュルムの「ハデにやっちゃいな!」はアレンジが相当斬新で。

山崎 全然ハデじゃないっていう(笑)。すごくストイックなアレンジでカッコいいですよね。

南波一海 山崎さんはどのくらいまでの状態でデモを渡すんですか?

山崎 曲によるのと、お渡しする相手にもよりますね。

南波 ギターの弾き語りから、作り込んだものまで?

山崎 ギターの弾き語りはないですかね。だいたいのリズム感と、「こういうことをしたいです」という方向性まではわかるような形にします。初めてお仕事する相手とかコンペの場合は、なるべくがんばって作り込むようにしていて。でもあんまりアレンジは得意じゃないんですよ(笑)。作りこんでも、まあまあって感じですね。これからの時代、さらに編曲が大切になってくると思うので、いつか自分でもチャレンジしたいんですけど。

南波 ハロプロの場合は、がっつりアレンジャーさんが入りますよね。自分のイメージと全然違うアレンジになったとしても、それはそれで面白いという感じですか?

山崎 面白いですね。まず変なアレンジにはならないので、全然想像と違うアレンジだったとしても「すごい! この音カッコいい!」ってなりますし。楽しんでいますね。

佐々木 自分のライブでアイドルに書いた曲を歌ったりはしないんですか?

山崎 したことないですね。

佐々木 そこは分けてるんですね?

山崎 いえ、難しすぎて歌えないんです(笑)。ご本人たちがめちゃくちゃ歌がうまいので、そっちを聴いてくださいってなっちゃいますね(笑)。

佐々木 自分のシンガーとしての適性とか、そういうものと違った曲が書けるというのは作家としてのだいご味ですよね。

山崎 そうですね。自分では歌えないタイプの曲がほとんどなので(笑)。私がDTMで曲を作り始めたのって、以前1回喉を壊したことがあったからなんです。ライブ活動を半年やめたんですけど、なかなかよくならなくて。そのとき、自分の喉がどうなろうとも、私が書いた曲を歌ってくれる存在がいっぱいいらっしゃるというのは、すごくありがたいなと思って。

南波 自分が歌えない時期があって、それでも歌ってくれる人がいるからいいって思えるのも、職業作家的ですよね。

佐々木 そこで「もういい!」ってなる人もいると思うんですけど、山崎さんはそうじゃなかった。

山崎 はい。自分の曲を歌ってもらえるのは、ありがたいなって。

山崎あおい

山崎あおい

アーティスト人生の岐路で生まれたJuice=Juice「『ひとりで生きられそう』って それってねえ、褒めているの?」

南波 それにしても山崎さんの書く曲って、タイトルだけ見てもパンチがありすぎですよね。

佐々木 つばきファクトリーの「涙のヒロイン降板劇」とか、こんなタイトルのアイドルソングがあるんだ!って思うよね(笑)。タイトルを見ただけで曲の中身が気になる。

南波 「『ひとりで生きられそう』って それってねえ、褒めているの?」も衝撃的でした。

佐々木 あの曲はどうやって書いたんですか?

山崎 最初は自分で歌おうと思って作り始めたメロディだったんですけど、その時期にレーベルを離れたりだとかいろいろあって、私の中でお蔵入りしていた曲だったんです。でも、いい感じのメロディができたという感覚はあって。あの曲は、サビ先行で作って最初は歌詞も全然違って、もっと薄っぺらいロックみたいな感じだったんです(笑)。一旦その状態で提出したら「薄っぺらいロック」とは言われなかったですけど、「うん、なるほど」みたいな反応だったので、「1回書き直していいですか?」ってお願いして、この歌詞になりました。

佐々木 ちょうどレーベルを離れるタイミングで、「『ひとりで生きられそう』って それってねえ、褒めているの?」という歌詞が出てきたのもすごいですね。

山崎 確かに(笑)。心のどこかに、そんな思いがあったのかもしれないですね。全然そういうつもりで書いてはいなかったんですけど。

南波 表現としてはすごく斬新なんだけど、でもタイトルを見ただけでも、シチュエーションがすぐに想像できるじゃないですか。それが独特で。

佐々木 確かに「ひとりで生きられそうだよね」ってセリフは、別れる寸前の恋人の間で普通に言われてそうな言葉ではありますよね。

南波 “あるある”ではあるけれど、まだ歌詞にはなってなかった表現ですよね。もう何年も前からなのですが、個人的に、「女の子にはこうあってほしい」みたいな男性サイドの一方的な願望を反映したような歌詞の曲がしんどくなってしまって。そういう中で山崎さんが書くリアリティのある女性像って、自分にとってはすごく自然なものに思えて。

佐々木 うん。フィクションだけど嘘はない、というか。僕がハロプロの曲をいいなと思うのも、そういう部分があるからなんです。

山崎 たぶんつんく♂さんが作り上げた世界観だと思うんですけど、この間シンガーソングライターの男友達と話していて「確かに!」と思ったことがあったんです。その友達は小さい頃にモーニング娘。の歌詞を聞いて、風呂上がりの女性のすっぴんを初めて見た気持ちになってすごくドキッとしたと言っていて。確かに、つんく♂さんが書く歌詞の世界観って、そういう感じですよね。女性の着飾った姿ではなくて、普段の部屋着姿を見せるというか。私もそういう表現に出会うとドキッとしますし。なので女性がアイドルソングの歌詞を書きやすい土壌は、私の歌詞うんぬんじゃなくて、ずっと前からできていたのかなと思うんです。

南波 それをやっていたのがつんく♂さんっていうのも面白い話ですよね。

左より山崎あおい、佐々木敦、南波一海。

左より山崎あおい、佐々木敦、南波一海。

キラーフレーズを考えるの、すごく苦手です(笑)

佐々木 最近も積極的にコンペに参加してるんですか?

山崎 はい。最近また曲を書くのが楽しいゾーンに入ってきたので、とりあえずお題があるものは全部やってみたくて。

佐々木 お題があると燃えるタイプですか?

山崎 燃えますね。

南波 最近は男性アーティストにも曲を書かれてますよね。

山崎 はい。もっと書きたいんですけど。

南波 一方で、作家としての活動が活発になるにつれ、シンガーソングライターとしての自分との棲み分けが難しくなったりする部分もあるのではないでしょうか。

山崎 そうですね……(笑)。

佐々木 浸食されていく感じ?

山崎 すごくいいメロディができたときに自分で歌うか人に歌っていただくかっていうときに、誰かに提供したほうが聴いてもらえるチャンスが増えるんじゃないかと思うようになって。そうすると自分で歌う曲がどんどんなくなってしまう。

佐々木 いい曲ほど人にあげちゃう(笑)。

山崎 いざ「シンガーソングライターとして何を歌おう?」となったとき、結局は自分しか歌えないようなメロディや歌詞が残っていって。すごくマニアックなストックが増えていくみたいな(笑)。

南波 そこは気になるところじゃないですか。シンガーソングライターである山崎さんの新曲を待っているファンの方もいらっしゃるわけですし。

山崎 ワンアイデアで突破する曲とかキャッチフレーズ的な曲はアイドルさんとか他アーティストに歌ってもらって、シンガーソングライターとしての自分が今後歌っていくのは「私は最近こういうことを考えています」みたいな、ごくごく私的なものになっていくのかなと思っています。昨年末にアルバム(「√S」)を出したんですけど、そのときいろんな方から「歌詞が抽象的になりましたね」って言われたんです。明確なテーマがあるようなキャッチーな曲は全部外にいったので。

佐々木 純化されていった部分があるのかもしれないですね。楽曲提供を続けていく過程でコアな部分だけが残ったというか。もしかするとそこで最後まで残っている曲がシンガーソングライターとしての山崎さんにとって本当に重要なものなのかもしれない。

山崎 1周して戻ってきた感じがあって。アコギ1本で弾き語りしても成立するような曲だけが自分の曲として残っている感じですね。めっちゃキャッチーだったりインパクトのある楽曲はどんどん作家仕事に回っていくっていう。

佐々木 ちなみにキラーフレーズとかボンボン思い付くんですか?

山崎 キラーフレーズを考えるの、すごく苦手です(笑)。「サビ頭でキラーフレーズもっとないですか?」って言われると「ああああ!」ってなるんですけど、常に探してはいます。

佐々木 例えばサビ先行で作ると、サビの手前まで展開を変更することが可能だったりするじゃないですか。1曲を作るにあたって、サビの部分を何パターンかストックするようなことはあるんですか?

山崎 そういうときもあります。いろんな書き方をするんですけど1回サビがバーンとできても、これをAメロにしたらゴージャスなんじゃないかとか。

佐々木 自分でハードルをどんどん上げていく(笑)。

山崎 実験してやっています。「また同じことやっちゃった」という気持ちにはなりたくないので、なるべくいろいろなやり方を試すようにして。

佐々木 山崎さんが書く曲って、すごくレンジが広いですよね。例えば「ハデにやっちゃいな!」と宮本佳林さんの「氷点下」を並べたら、まさか同じ人が書いているとは思えない。要望に応じて書き分けられる感じなんですかね?

山崎 そこに関してはアレンジャーさんの力が大きいと思いますね。「氷点下」もアレンジでガラッと印象が変わったので。バラードではあったんですけど、もうちょっと普通のポップスを想定して書いていたのをアレンジでおしゃれな雰囲気にしていただいて。私はアレンジが得意じゃないので、逆にそれがいい方向に働いているのかもしれないです。わりと隙間のあるデモなので、アレンジのしがいがあるのかなと。よく言えばですけど(笑)。

佐々木 どちらの曲が自分に近いとかあるんですか? しっとり方向と強い方向と。

山崎 たぶんしっとりのほうが慣れ親しんできた音楽ではありますね。あまりダンスミュージックとかは聴いてこなかったので。スピッツさんやYUIさんを聴いてきたので、どちらが血肉かって聞かれると「氷点下」とか、ああいうミッドバラードのほうなのかなって思います。

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私には北海道のヤンキーの血が流れているんだろうなって

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山崎あおい/Aoi Yamazaki @aoi_punclo

佐々木さん・南波さんとの対談、後半も公開されました! https://t.co/olOC5KV7aS

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