左から松崎崇、宮本浩志。

令和のアーティストとファンベース 第1回 [バックナンバー]

ファンとのつながりを太くするために必要なこと

松崎崇×宮本浩志対談で読み解くファンベースの基礎

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結局はアルバム

──例えばSNSで1曲バズったアーティストが、次の作品はあまり聴かれなかったというようなことがSNSマーケティングの課題として挙げられますが、曲単位のファンではなくアーティスト自身のファンになってもらうには何が必要だと思いますか?

松崎 僕は結局はアルバムだと思うんですよね。1曲だけ聴いていれば満足なアーティストではダメ。アーティストを好きになるかどうかって、その曲から入ったときにほかの作品もいいかどうかがすごく重要で。だから僕はアーティストと契約をする際には「アルバムが素晴らしいことがイメージできる」ということを1つの判断基準にしています。1曲だけいい人ってけっこういるんです。レーベルとしてはそこを見誤っちゃいけなくて、1曲で終わる人っていうのはそういうポテンシャルだから対策は難しいのではないかな。

──逆に言えば能力が高ければちゃんとファンは付いてくるという。

松崎 きれいごとかもしれないですけど、そう思いますね。

宮本 J.Y. Parkさんも同じことを言ってましたね。2018年の「JYP2.0」の質疑応答で、「アーティストのどのような指標を見ていますか?」という質問に対して、「アルバムセールスがもっとも重要な指標の1つ。楽曲は人気があれば多く売れることもあるけれどアルバムは熱量の高いファンが買うので、アルバムの売上が高ければライブ収益につながり、グッズ収益につながる」って。

松崎 ホントですか!? なんかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた(笑)。

宮本 でもそこは僕もすごく同感で。僕は藤井風さんが大好きなんですけど、あれだけご本人の色があって、そのうえで「HELP EVER HURT NEVER」っていうあんな全曲最高なアルバムを生み出すとか、好きにならない理由がないというか(笑)。曲以上にアーティストを好きにできるかどうかはアルバムだと思います。

松崎 藤井風さんしかり、あとはVaundyさんにも共通してますよね。やっぱり1曲だけじゃなくてどの曲もアルバムの隅々までいい。別にTikTokで流行ったからとかではなくて、彼らの魅力に気付いた人たちがほかの人にも伝えるという必然的なヒットの仕方だと思うので、あまり表面上だけを切り取ってマネしようとしても成功しないと思いますね。いろんな施策を打つよりも、まずはいい曲を作らなきゃいけないよなって。

左から松崎崇、宮本浩志。

左から松崎崇、宮本浩志。

音楽ビジネスはストリーミングだけではない

──音楽業界のビジネスの仕方も変わってきていると思うんですが、ファンベースをもとにアーティストはどうマネタイズしていくべきだと思いますか?

松崎 僕はマネタイズを軸に考えるとうまくいかないことのほうが多いと思っていて、まずは考えなくていいんじゃないかな。マネタイズのポイントを決めるとクリエイティブの制約が出て面白いものにあまりならないんです。活動初期は特に。どこにアーティストの魅力があるか最初はわからないから、アーティストの可能性を信じていろんなことに取り組んでみて、やっていく中で見えてきた強みを生かしてマネタイズポイントを形にしていくのがいいんじゃないかと思います。

──可能性に投資する感覚に近い?

松崎 そうですね。アーティストに苦しい思いをさせているんだったら、こっちも苦しくなるくらいお金使ったり体を動かしたりして汗をかかないと。その先にマネタイズポイントがきっとあって、みんなでシェアしたらいいんじゃないかと思います。

宮本 僕は既定路線に捉われることなく、どこにファンが価値を感じているかを肌感含めて知って、ファンにその価値を提供し続けるのが大事だと思ってます。「こんなことや、コンテンツ、プロダクトなら応援したい!」と思ってもらえることがきっとあるはずで。ファンにとって何がうれしいかずっと考えることが大事だし、ずっとつながり続けるためにも、運営本意すぎるマネタイズではなく、長いお付き合いを意識することが大事だと思ってます。Eveさんのharapecoもきっと同じ感覚ですよね。ファンはEveさんと一緒の服を着たいと思うでしょうし。

松崎 そうですね。

宮本 あと個人的にはファンクラブを絶対に進化させなくちゃいけないと思っていて。何が正解なのか僕もまだわからないし、うまく説明できないんですけど、メディア化を進めるというか。毎月ちゃんとファンが楽しめるコンテンツを提供しないと、同じくらいの月額料金を払うんだったらみんなNetflixやほかのサービスを選ぶと思うんですよ。

松崎 それはすごく思います。ファンクラブってライブのチケットが優先的に取れるとかメルマガが届くとか、定形のテンプレで止まってしまっていて、それだとあんなに魅力的なコンテンツがそろったNetflixには勝てない。無料でMVが観られるYouTubeもあるわけだし、もっと内容を充実させていかないと、既存のファンクラブビジネスは崩壊すると思いますね。自分自身今話していて耳が痛いんですけど。

宮本 今の音楽業界っていかにストリーミングに力を入れるかの話が主流になっていますけど、そこに偏りすぎるのもよくないと思っていて。みんながみんな100万再生されるわけじゃないし、音楽で食べていくにはどうすべきかを考えたときに、ファンとの接点を、バイアスを取り除いた状態で全部フラットな視点で設計していく必要があると思うんですよね。特に今はライブが制限されていてファンクラブを抜ける人も多くなっているので、そこをどう乗り切るかを必死に考える必要があると思いますし、僕自身も考えたいと思ってます。

松崎 本当その通りですね。これまでのやり方ではない、新しいファンクラブの形を開発しないといけないと思います。

──最後に、改めてこれからの時代にファンベースを築くうえで大切なものはなんだと思いますか?

宮本 当たり前ですけど一番大事なことは、できる限りファンを知る、感じることだと思います。我々スタッフはアーティストほどはわからないかもしれないけれど、可能な限り理解をしてファンとアーティストのつながりを太くするためのサポートだったり仕組み作りをし続けるのが重要なんだと、今日改めて思いました。

松崎 まったく同意です。まずはアーティストとファンがつながり、そこをいかに太くしていくかが重要で、その中で具体的に何がやれるのかというと、飽きさせないことだと思うんです。どんどん新しいアーティストや音楽が出てくるので、一方通行のコミュニケーションしか取っていないとみんな離れていっちゃうと思うんですよ。アーティストがファンに定期的に刺激を与え続ける存在でないといけなくて、我々スタッフはファンでありながら客観的な視点を持って、我々自身もアーティストに刺激を与え続ける存在でないといけない。そこの距離感の取り方がすごく重要だと思いました。

左から松崎崇、宮本浩志。

左から松崎崇、宮本浩志。

記事初出時、本文に誤りがございました。お詫びして訂正します。

松崎崇

トイズファクトリーでEve、マカロニえんぴつのA&Rを担当。昨年ストリーミング特化型アーティストにフォーカスした新レーベルVIAを立ち上げた。VIAには現在りりあ。、羽生まゐご、WONが所属している。
マツザキタカシ (@__electrock__) | Twitter
VIA (@via_label) | Twitter

宮本浩志

キングレコード内のレーベルEVIL LINE RECORDSにて多くのアーティスト、作品の宣伝を担当後、広告代理店でのコミュニケーションデザイナーを経て、現在はIT企業に所属。サウナ大好き。
Miyamoto164 / MUSIC - SAUNA - CYCLE (@38610164) | Twitter
Miyamoto Hiroshi | 宮本浩志|note

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Kenta🇯🇵(レーベル・マネジメント始めます) @harry_kenta

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