王道なメジャーバンドとして関わるマカロニえんぴつ
宮本 その感覚は
松崎 僕としてはそこに線引きはありません。マカロニは音楽的に素晴らしいアーティストなので、制作についてはメンバーとマネジメントに任せて僕は何も言わない。一方でMVやアートワークのクリエイティブに関して時間、お金、労力をかけてめちゃくちゃいいものを作るというのがマカロニに対しての僕の1つの答えです。あとはメディア露出、稼働が増えてきているので、対応のきめ細かさだったり媒体とのコミュニケーションだったりの部分を意識しています。マカロニはどちらかと言うと王道なメジャーバンドとしての関わり方ですね。
──マカロニはここ最近ますます規模感が大きくなっていますけど、ファンの変化みたいなものを感じますか?
松崎 そこは僕もすごく意識しているところで。もちろんアーティストによってファンの資質も違うし求めているものも違うんですけど、マカロニの場合はCDもちゃんと買うしサブスクでも日常的に聴くという、ちょうどアナログとデジタルの中間の世代だと思っていて、だから両方のファンのことを考えないといけない。CD主導でもダメだしサブスク主導でもダメ。かつマスメディアを見て育っている世代なので、しっかりメディアでも取り上げられるような活躍をしないといけないと思ってやっています。
──なるほど。
松崎 マカロニは本当にライブが最高なんですが、コロナによってライブも通常運転ではできなくなってしまったので。その代わりにメディアにたくさん出ようと思ったんですね。それもちょっと出るくらいじゃなく、バンドの中で一番出てると思われるくらい振り切らなきゃダメだと思って、昨年11月のメジャー1stCDリリースのタイミングでけっこう出させていただいて、そのときにファンのリアクションがすごくよかったんです(参照:マカロニえんぴつ「愛を知らずに魔法は使えない」インタビュー) 。そのときメディアを通じてしっかり人気者になれると手応えを感じました。今、ホールツアーを回っているんですけど、お客さんの7、8割くらい新規の方なんですよね。ライト層も入ってきてとてもいい形で広がっていると感じています。
──りりあ。さんのファン層はまた全然違いそうですね。
松崎 マカロニのファンはCDを買うしサブスクでも聴くけど、りりあ。のファンにはサブスクでしか音楽に触れてきてない子が多いので、全然違いますね。彼女の場合はそもそもCDを出さなくていいと思ってスタートしているし、いい曲ができたらストリーミングで出すということを意識しています。ファンもそれを望んでいて、リアクションが速いので新曲が出たらすぐ聴きたい層が多い。だからりりあ。の場合は新曲の情報を解禁してから聴けるまでのスパンを短くしてるんですよ。バンドは情報を知るまでに時間をかけたりして枯渇感を煽ったほうが発売日にエネルギーを生み出すんですけど、逆にりりあ。は解禁直後に沸点がくるのでそのままサブスクに突入させて機会損失をとことん減らす。そこが明確に違います。そういうりりあ。のような打ち出し方をできなかったからVIAを作ったところもあって(参照:りりあ。×VIA特集)。レーベルってリリース1つとっても編成部を通さなきゃいけないとか、いろいろ条件が多くて、これを続けていると時代のスピード感についていけなくなると思ったので。結果ファンもそれを求めていたんだと感じています。
プラットフォームに応じたコミュニケーション
──
松崎 Eveのファンは曲が好きだしCDも買ってくれるんですが、Eve本人のパーソナルも好きになってくれて、グッズを身に付けることで全身でEveを感じたい熱量が高い方が多いです。
宮本 harapeco(※Eveが手がけるユニセックスブランド)ですよね。
松崎 そうですね、自分で服をプロデュースしています。音楽以外の部分にもとてもこだわりが強いです。例えばCDの特典もチェーン店別に細かく作っています。ファンの皆さんが少しでもCDを買うために楽しんでもらえるよう、意識していますね。その一方でサブスクは時間をかけて成長させました。
──そうなんですね。
松崎 CDの仕様や特典にこだわりが強い分、手軽に聴く、何度も聴く、人に伝えるという部分、サブスクを浸透させるには時間が必要でした。当初からEveと一緒にサブスクで聴いてもらえるようにさまざまな施策にトライしました。
宮本 ストリーミングサービス別に細かく施策を打っていたのが印象的でした。
松崎 そうですね。「闇夜」という作品をリリースしたときにCDを100枚作ってサブスクで聴いたら抽選でもらえる企画をやったり、「レーゾンデートル」のときはサブスクで聴いたら無料でライブを観に行けるという施策をやりました。さまざまな施策を通じて少しずつファンの反応にも変化がありました。その地道な積み重ねもあって、テレビアニメ「呪術廻戦」のオープニングテーマ「廻廻奇譚」のサブスクでの再生回数の爆発につながったのかなと思ってます(参照:Eve「廻廻奇譚 / 蒼のワルツ」対談Eve×朴性厚監督)。
──EveさんはYouTubeのチャンネル登録者数が305万人いますよね(※2021年6月現在)。日本のアーティストでトップ5に入るほどの数ですが、何か特別な施策をやったんでしょうか?
松崎 そこはもう僕らじゃなくて本人の力です。アーティストであり、勝てないぐらい優秀なA&Rなので(笑)、動画を公開するタイミング1つとっても本人がすごく考えています。MVも、本人の合格ラインがすごく高いんですけど、そこを超えるまで絶対に妥協しない。クリエイティブでファンを絶対裏切らないという。アニメ「どろろ」の第2期エンディングテーマだった「闇夜」は、MVの制作に時間がかかって、完成したときにはもうアニメの最終回でした。でも無理やり放送に間に合わせてクオリティの低いものが世の中に出てしまうことのほうが問題だなあと。しかし、こだわったことで、多くの方が喜んでくれてまた新作も楽しみにしてくれるという信頼関係ができたんだと思います。今のチャンネル登録者数はファンを一度も裏切らなかった結果だと思います。
宮本 EveさんはTikTok全投稿のいいねの付き方がすごいですが、それもファンの期待値にずっと応え続けているからということですよね。「夜は仄か」MVの解禁予告動画に対するいいねの付き方もものすごくて、ファンの期待値の高さをいつも感じます。縦型のTikTokに合わせてMVを編集していたり、ピックアップするシーンや投稿文も素敵で、ほかのSNSへの導線もしっかりしている。新しくEveさんを知った人がファンになってくれるかどうかって、そういうわずかなところに出ると思うんです。SNSでのコミュニケーションや細かな導線設計がとても素敵だなと思いながら拝見しています。
松崎 それぞれのプラットフォームに応じたアプローチの仕方が抜群にうまいんです。曲がいいのは大前提で、SNSを縦横無尽に使いこなしてファンとコミュニケーションを取っているところが本当に魅力的だと思っていたので、そう言っていただけてうれしいです。
宮本 僕はファンと“いいツナガリであり続けられるか”を考えたときに、1つのプラットフォームではなくいくつの接点を持てるかが重要だと思っていて。TwitterだけじゃなくてTikTokやYouTube、Instagramでもつながってるし、harapecoというファッションブランドでもつながっているし、ライブでもつながっていて、このつながりの束を太くすることがすごく大事だと考えてます。例えばSpotifyで曲が聴ければYouTubeでMVを観なくてもいいという人たちもいるじゃないですか。Eveさんにはそこの垣根を超えさせるパワーとコミュニケーション力があるんですよね。
松崎 確かに。今の宮本さんの話を受けて僕自身が答え合わせできている部分もあって、たぶんEveはすごくバランスがいいと思います。例えばTwitterのフォロワー数に対してYouTubeの登録者数が少ないようなアーティストさんもいると思いますが、Eveは全部自分なりの伸ばし方を見つけて微調整しながら増やしているんです。YouTubeではこういうコンテンツが楽しめて、Twitterではこういう側面が見えて、インスタでは突然ライブやってくれるからこれも見逃せなくて、TikTokでは縦型のオリジナル動画が楽しめる。それぞれのプラットフォームに応じてやっているから全部のバランスがいい。それがすごく大事でファン目線につながっていくんだなと思いました。
──YouTubeだと英語のコメントがたくさんあって、海外のファンの人も多いですよね。
松崎 そこもすごく意識しています。アニメーションは日本が世界に誇るビックコンテンツで、そこはどんどん仕掛けていくべきだと思っているので。Eveは海外の配信だけThe Orchardにお願いしていて、YouTubeを観た海外の人がそのままサブスクで聴けるようにしているんです(参考:The Orchardが変える音楽の届け方)。2年くらい前からEveと話して、海外を視野に広げて対策を進めてきました。
結局はアルバム
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