2010年代の東京インディーズシーン 第3回 [バックナンバー]
死神紫郎×中尊寺まい(ベッド・イン)×えらめぐみ(股下89)鼎談
過激? 真面目? 謎に包まれたアンダーグラウンドシーンの真相
2020年12月8日 18:00 26
「アングラだからメジャーに行けない」はもう通用しない
──2014年の
死神 「アングラだからメジャーに行けない」という考えが通用しなくなりましたね。大森さんやベッド・インのメジャー進出で、自分のやりたいことを貫き通してもメジャーデビューできることが証明されたんです。完全セルフプロデュースで活動してメジャーに進出できたアーティストって、
まい あの頃の主な告知手段といえば、チラシでしたからね。特にこの界隈のバンドはチラシにこだわってた印象があります。イラストやデザインに力を入れたり、自分の意志を細々書き込んだり……ライブのチラシというより、アジテーションビラみたいな内容で。YouTubeもまだまだ敷居が高かったですしね。
死神 今ほど動画の投稿が簡単ではなかったですからね。その中でも大森さんはご自身の音楽の伝え方がすごくうまくて、伝えたい相手にちゃんと届くように活動している姿を見て、「アングラだからとあぐらをかいていないで、自分でミュージシャンとしての価値を作らないといけない」と痛感しました。
──ベッド・インがメジャーデビューしたとき、まいさんの心情はいかがでしたか?
まい とにかく覚悟が必要でしたね。ベッド・インは本当に趣味の延長で、活動がこんなに長く続いたり、お客さんに届くとは思っていなくて。初めて自分の活動が多くの人に届いた実感があって、反応をもらえてうれしい反面、“ベッド・インの
──「音楽履歴書」でも、学生生活は決して明るいものではなかったとお話ししてくれましたね。
まい だから、こういうシーンに共鳴したんだと思うんですけどね。でも、どこかのタイミングで“ベッド・インとしてエンタテインメントをヤりきる”という覚悟を決めたんです。その覚悟を決めてから、自分自身のしがらみから解放された気がしました。「どう思ってもらってもいい」「どんなことでも、どんなきっかけだったとしても、興味をもらえたらうれしい」って。さっき死神さんが言っていたように、
──さらに同時期では2011年、
えら 股下もメンバーの4人がいいと思う音楽性やセンスを表現し続けてきて、「周りの人が共感してもらえるようにしよう」とはあんまり考えていなかったんです。そんな状況で評価してくれる人がいたのは驚きました。あと、2010年にさいたまスーパーアリーナで行われた「EMI ROCKS 2010」に出演したのも大きくて。確か7000人ぐらいお客さんが入ったのかな? 突然大人数の前で演奏することになったんですけど、そこで股下を評価してくれる人が一定数いることがわかって、「自分たちはこのままでいいんだ」「これからも4人が面白いと思うことを追求しよう」と実感しましたね。
まい 股下は本当に、本当に、本当にカッコいい……! 初めてお客としてライブを観たとき、「こういうギャルバンがやりたかった!」って思ったんです。しびれましたね。「EMI ROCKS 2010」と「フジロック」の出演はすごくうれしかった。「ついに、俺たちの股下が認められた!」って感じで(笑)。
──もう1つ、えらさんが大森靖子さんのバンド、シンガイアズに参加されたことにも驚きました。大森さんのインディーズ時代にゆかりのあった人が多く参加しているシンガイアズの誕生は、このシーンを追ってきたファンにとって夢のような出来事だったと思います。
えら 大森さんとは2010年に新宿Motionで競演して、2012年にSound Studio DOMで行われたコピバン企画で初めてバンドを組みました。東京事変のコピバンだったんですが、ベースは私でボーカルは大森さん、キーボードがカメダタク(
まい 大森さんは同じシーンの出身者で、気持ちの面で共通点の多い人たちと演奏したかったのかもしれないですね。
えら 大森さんはライブのときにずっと「1対1でお客さんと対峙する」というスタンスを貫いていて、お客さんが1人でも1000人でも1人ひとりと対話するような演奏を心がけているように感じています。100人キャパのハコにお客さんが2人しかいない、みたいな状況でライブをしたことのある人だったら、その感覚はすごくピンとくるんです。だからこそ、このメンバーに落ち着いたのは必然だったのかも。
アングラ界のニューホープ
──皆さんが今気になっているアーティストはいますか?
死神 シンガーソングライターの
──えらさんはご自身のTwitterアカウントで、よく
えら ダンカンと逃亡くそタわけはもうすごい(笑)。最近は影響を受けたアーティストがわかりやすい若手バンドが多いと思っているんですけど、ダンカンはルーツ以上に内から湧き出るオリジナリティがものすごくて、何回もライブを観たくなっちゃうんですよ。あとは
まい 私はまだ観れてないんですが、うしろ前さかさ族が気になってます。例のKのドラマーだったムッチーがメンバーですけど、Twitterで動画が回ってきたときに、どこかこのシーンを継承してるような懐かしさみたいなものと「またとんでもないバンドが出てきたな」という衝撃を感じて。
死神 以前競演したことがあるんですけど、よくあんなに速いBPMや複雑な拍子で演奏できるなって思いましたよ。スポーティなのに理系の頭で動いている感じ。
まい あとは例のKのバンマスだった狩野さんも、
──例のK関連だと、ベーシストのヤミニさんが主宰するレーベル「サイド・カー」もダンカンバカヤロー!や
まい エミリーは昔から異色でしたね。 いろんな人に注目されて、もっと人気が出てほしいです。
社会と距離を感じている人にとっての居場所
──今回の取材に際して当時を振り返ってみたのですが、このシーン出身のバンドは音楽性が多彩で、例えば死神さんはフォークとビジュアル系、ベッド・インはディスコやロック、股下89はオルタナを土台にしつつも誰にも似ていない個性的なサウンドになっていて、簡単にジャンル分けできなかった点も特徴的でした。精神的な面でのつながりがありつつ、新たな音楽性やパフォーマンスを試すことができたのがこのシーンの魅力であり、東京のインディーズシーン内で担っていた部分だったのかもしれません。
死神 確かに、やってみたいと思ったことをそのままやらせてもらえる場所でしたよね。
──皆さんにとって、アングラシーンの魅力とはなんだと思いますか?
死神 やっぱり「こんな奴がいるのか!」という面白さでしょうね。そこには「こんな人が生きているから、あなたも生きてていいんですよ」というメッセージも込められていると思います。やっぱり好きなものは好き、嫌いなものは嫌いですし、無理して嫌いなものを好きになることもない。好きなことを突き詰めることができるのがアングラシーンの魅力ですね。あと、観客側としての魅力は、他人が干渉してこないことも大きい。いい意味でほっといてくれるんです。
えら 出演者にもお客さんにも「ああしろ」「こうしろ」という雰囲気がなかったですね。同調圧力がなかった。
まい そうだね。だからこそ自分と真正面から向き合えたし、自分らしい闘い方を見つけられたような気がしています。
えら さっきの「アンダーグラウンドシーンにいた人たちはまともだった」ということにもつながるんですけど、この界隈は自分が相入れないのはどんな人たちだとか、広く見渡すことができる場所だったと思うんです。いろんなタイプの人がいるとわかっていたからこそ、このシーンの人たちは寛容で優しかったのかもしれません。その素質を持った人はどの世代にも絶対いるから、アングラシーンはそういった人たちの受け皿になる場所となっている。そのこと自体が価値ですし、だからこそこれからも存続していくと思います。
まい そういう意味で、このシーンは社会と距離を感じている人にとっての居場所になっているのかもしれませんね。
死神紫郎 プロフィール
東京都内を中心に活動するギター弾き歌手。2004年に死神名義で音楽活動をスタートし、アコースティックギター弾き語りのほか太鼓叩き語り、舞踏、紙芝居などさまざまな形態でライブパフォーマンスを繰り広げてきた。2018年に
・死神紫郎 公式サイト
・死神紫郎 (@46shinigami) / Twitter
中尊寺まい プロフィール
“地下セクシーアイドルユニット”ベッド・インのギター、ボーカル、パイオツカイデー担当。2004年から2人組パンクバンド・かたすかしのギタリスト兼ボーカルとして活動し、同バンド解散後は例のKに加入。2012年にベッド・インでの活動を開始し、2013年4月にはグループ初の作品となるグラビア写真集「Bed In」、2014年3月に1stシングル「ワケあり DANCE たてついて / POISON~プワゾン~」を発売した。最新作は2020年3月発表のミニアルバム「ROCK」。
・ベッド・イン - OFFICIAL WEBSITE -
・ベッド・イン (@bed_in1919) / Twitter
えらめぐみ プロフィール
2009年にロックバンド・股下89、
・えらめぐみ (@era_dots_hack) / Twitter
・股下89
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レイザーラモンRG @rgizubuchi
2000年代の東京のライブハウスが○○○投げたりして80年代ばりに過激だったと!そしてそのシーンからベッド・インが産まれたと!
当時それを伝える雑誌とかがなかったから勉強になりました。
https://t.co/9azzlZH690