左からえらめぐみ、死神紫郎、中尊寺まい。

2010年代の東京インディーズシーン 第3回 [バックナンバー]

死神紫郎×中尊寺まい(ベッド・イン)×えらめぐみ(股下89)鼎談

過激? 真面目? 謎に包まれたアンダーグラウンドシーンの真相

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「アングラだからメジャーに行けない」はもう通用しない

──2014年の例のK活動終了はショッキングでしたが、その後ベッド・インやこのシーンにも関わりのあった大森靖子さんなど、メジャーシーンへと進出するアーティストが出てきました。そういった流れを死神さんはどのようにご覧になっていたのでしょうか。

2014年3月16日に東京・Flatで行われた曇ヶ原企画「電線と革靴 Vol.2」フライヤー(写真左)。例のKはこの日がラストライブとなり、終演後に活動終了を告げるフライヤーを配布した(写真右)。

2014年3月16日に東京・Flatで行われた曇ヶ原企画「電線と革靴 Vol.2」フライヤー(写真左)。例のKはこの日がラストライブとなり、終演後に活動終了を告げるフライヤーを配布した(写真右)。

死神 「アングラだからメジャーに行けない」という考えが通用しなくなりましたね。大森さんやベッド・インのメジャー進出で、自分のやりたいことを貫き通してもメジャーデビューできることが証明されたんです。完全セルフプロデュースで活動してメジャーに進出できたアーティストって、神聖かまってちゃんが代表的だと思います。SNSとか映像配信の技術が発達したことで、アーティスト本人がプロモーションを行いやすくなったのは大きかったです。

まい あの頃の主な告知手段といえば、チラシでしたからね。特にこの界隈のバンドはチラシにこだわってた印象があります。イラストやデザインに力を入れたり、自分の意志を細々書き込んだり……ライブのチラシというより、アジテーションビラみたいな内容で。YouTubeもまだまだ敷居が高かったですしね。

かたすかしのフライヤー(写真左)と中学生棺桶のフライヤー(写真右)。(写真提供:中尊寺まい)

かたすかしのフライヤー(写真左)と中学生棺桶のフライヤー(写真右)。(写真提供:中尊寺まい)

死神 今ほど動画の投稿が簡単ではなかったですからね。その中でも大森さんはご自身の音楽の伝え方がすごくうまくて、伝えたい相手にちゃんと届くように活動している姿を見て、「アングラだからとあぐらをかいていないで、自分でミュージシャンとしての価値を作らないといけない」と痛感しました。

──ベッド・インがメジャーデビューしたとき、まいさんの心情はいかがでしたか?

まい とにかく覚悟が必要でしたね。ベッド・インは本当に趣味の延長で、活動がこんなに長く続いたり、お客さんに届くとは思っていなくて。初めて自分の活動が多くの人に届いた実感があって、反応をもらえてうれしい反面、“ベッド・インの中尊寺まい”と“本来の自分”との差に悩みました。正直に言うと、今でも葛藤している部分はあります。まあ、もうお気づきの通り、実はネアカじゃないですしね……(笑)。

ベッド・インが2013年に発表したデビュー写真集「Bed In」(写真左)。翌2014年には初音源となる8cm短冊型シングル「ワケあり DANCE たてついて / POISON~プワゾン~」をリリースした(写真右)。

ベッド・インが2013年に発表したデビュー写真集「Bed In」(写真左)。翌2014年には初音源となる8cm短冊型シングル「ワケあり DANCE たてついて / POISON~プワゾン~」をリリースした(写真右)。

──「音楽履歴書」でも、学生生活は決して明るいものではなかったとお話ししてくれましたね。

まい だから、こういうシーンに共鳴したんだと思うんですけどね。でも、どこかのタイミングで“ベッド・インとしてエンタテインメントをヤりきる”という覚悟を決めたんです。その覚悟を決めてから、自分自身のしがらみから解放された気がしました。「どう思ってもらってもいい」「どんなことでも、どんなきっかけだったとしても、興味をもらえたらうれしい」って。さっき死神さんが言っていたように、かたすかし時代はあぐらをかいていたというか、とにかく尖っていたし、どこかで「届く人だけに届けばいい」と思いながら活動していました。でもベッド・インを始めてからは、お客さんにどうやったら興味を持ってもらえるか、楽しんでもらえるか、喜んでもらえるかをより意識するようになったと思います。

──さらに同時期では2011年、股下89が「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演したことも衝撃的でした。

えら 股下もメンバーの4人がいいと思う音楽性やセンスを表現し続けてきて、「周りの人が共感してもらえるようにしよう」とはあんまり考えていなかったんです。そんな状況で評価してくれる人がいたのは驚きました。あと、2010年にさいたまスーパーアリーナで行われた「EMI ROCKS 2010」に出演したのも大きくて。確か7000人ぐらいお客さんが入ったのかな? 突然大人数の前で演奏することになったんですけど、そこで股下を評価してくれる人が一定数いることがわかって、「自分たちはこのままでいいんだ」「これからも4人が面白いと思うことを追求しよう」と実感しましたね。

まい 股下は本当に、本当に、本当にカッコいい……! 初めてお客としてライブを観たとき、「こういうギャルバンがやりたかった!」って思ったんです。しびれましたね。「EMI ROCKS 2010」と「フジロック」の出演はすごくうれしかった。「ついに、俺たちの股下が認められた!」って感じで(笑)。

2011年1月に東京・音処 手刀で行われたイベント出演時の股下89。(写真提供:えらめぐみ)

2011年1月に東京・音処 手刀で行われたイベント出演時の股下89。(写真提供:えらめぐみ)

──もう1つ、えらさんが大森靖子さんのバンド、シンガイアズに参加されたことにも驚きました。大森さんのインディーズ時代にゆかりのあった人が多く参加しているシンガイアズの誕生は、このシーンを追ってきたファンにとって夢のような出来事だったと思います。

えら 大森さんとは2010年に新宿Motionで競演して、2012年にSound Studio DOMで行われたコピバン企画で初めてバンドを組みました。東京事変のコピバンだったんですが、ベースは私でボーカルは大森さん、キーボードがカメダタク(オワリカラ)、ギターが畠山健嗣(H Mountains)、ドラムを張江くん(張江浩司 / 来来来チーム)が担当しました。この時点で、シンガイアズと共通しているメンバーが多いんですよね。今思い返すとすごい一夜だったし、そんなイベントが時を超えてシンガイアズにつながったことにただならぬご縁を感じました。

まい 大森さんは同じシーンの出身者で、気持ちの面で共通点の多い人たちと演奏したかったのかもしれないですね。

えら 大森さんはライブのときにずっと「1対1でお客さんと対峙する」というスタンスを貫いていて、お客さんが1人でも1000人でも1人ひとりと対話するような演奏を心がけているように感じています。100人キャパのハコにお客さんが2人しかいない、みたいな状況でライブをしたことのある人だったら、その感覚はすごくピンとくるんです。だからこそ、このメンバーに落ち着いたのは必然だったのかも。

アングラ界のニューホープ

──皆さんが今気になっているアーティストはいますか?

死神 シンガーソングライターの魚住英里奈さんという方がすごいですよ。クラシックギターの弾き語りなんですけど、大森靖子さんを初めて観たときと同じくらいの衝撃を受けて、「格が違う」「ひさしぶりに焦る新人が出てきた」と思ったんです。そのうちメジャーシーンで活躍するかもしれない。来年東京と大阪で企画を組もうと思っていて、そこでぜひ競演してみようと思ってます。

──えらさんはご自身のTwitterアカウントで、よくダンカンバカヤロー!を話題に挙げていますよね。今日着ているTシャツも、一部メンバーが共通している逃亡くそタわけのバンドTで。

えら ダンカンと逃亡くそタわけはもうすごい(笑)。最近は影響を受けたアーティストがわかりやすい若手バンドが多いと思っているんですけど、ダンカンはルーツ以上に内から湧き出るオリジナリティがものすごくて、何回もライブを観たくなっちゃうんですよ。あとはkumagusuとか、ELEPH/ANTもずっといいので、このあたりのバンドがよく出ている新宿NINE SPICES界隈は今も注目しています。

左からえらめぐみ、死神紫郎、中尊寺まい。

左からえらめぐみ、死神紫郎、中尊寺まい。

まい 私はまだ観れてないんですが、うしろ前さかさ族が気になってます。例のKのドラマーだったムッチーがメンバーですけど、Twitterで動画が回ってきたときに、どこかこのシーンを継承してるような懐かしさみたいなものと「またとんでもないバンドが出てきたな」という衝撃を感じて。

死神 以前競演したことがあるんですけど、よくあんなに速いBPMや複雑な拍子で演奏できるなって思いましたよ。スポーティなのに理系の頭で動いている感じ。

まい あとは例のKのバンマスだった狩野さんも、PAPAPAのメンバーと新しくSHOWKYOS MEというバンドを結成しました。PAPAPAも大好きだったし、何より狩野さんが音楽活動を再開してくれたのは、アングラシーンのチルドレンとしてうれしいですね。

──例のK関連だと、ベーシストのヤミニさんが主宰するレーベル「サイド・カー」もダンカンバカヤロー!や曇ヶ原といったバンドを輩出していますね。中でもEmily likes tennisは演奏のうまさもさることながら、段ボールを使ったステージパフォーマンスにこだわったり、音源をうちわや水でリリースしたりと妙なところに力を入れていて。

まい エミリーは昔から異色でしたね。 いろんな人に注目されて、もっと人気が出てほしいです。

Emily likes tennisの作品。左からミニアルバム「My Graduation」、アルバム「全業オープン」、うちわ「BUILD THE SCHOOL ep」、水。

Emily likes tennisの作品。左からミニアルバム「My Graduation」、アルバム「全業オープン」、うちわ「BUILD THE SCHOOL ep」、水。

社会と距離を感じている人にとっての居場所

──今回の取材に際して当時を振り返ってみたのですが、このシーン出身のバンドは音楽性が多彩で、例えば死神さんはフォークとビジュアル系、ベッド・インはディスコやロック、股下89はオルタナを土台にしつつも誰にも似ていない個性的なサウンドになっていて、簡単にジャンル分けできなかった点も特徴的でした。精神的な面でのつながりがありつつ、新たな音楽性やパフォーマンスを試すことができたのがこのシーンの魅力であり、東京のインディーズシーン内で担っていた部分だったのかもしれません。

死神 確かに、やってみたいと思ったことをそのままやらせてもらえる場所でしたよね。

──皆さんにとって、アングラシーンの魅力とはなんだと思いますか?

死神 やっぱり「こんな奴がいるのか!」という面白さでしょうね。そこには「こんな人が生きているから、あなたも生きてていいんですよ」というメッセージも込められていると思います。やっぱり好きなものは好き、嫌いなものは嫌いですし、無理して嫌いなものを好きになることもない。好きなことを突き詰めることができるのがアングラシーンの魅力ですね。あと、観客側としての魅力は、他人が干渉してこないことも大きい。いい意味でほっといてくれるんです。

えら 出演者にもお客さんにも「ああしろ」「こうしろ」という雰囲気がなかったですね。同調圧力がなかった。

まい そうだね。だからこそ自分と真正面から向き合えたし、自分らしい闘い方を見つけられたような気がしています。

中尊寺まい

中尊寺まい

えら さっきの「アンダーグラウンドシーンにいた人たちはまともだった」ということにもつながるんですけど、この界隈は自分が相入れないのはどんな人たちだとか、広く見渡すことができる場所だったと思うんです。いろんなタイプの人がいるとわかっていたからこそ、このシーンの人たちは寛容で優しかったのかもしれません。その素質を持った人はどの世代にも絶対いるから、アングラシーンはそういった人たちの受け皿になる場所となっている。そのこと自体が価値ですし、だからこそこれからも存続していくと思います。

まい そういう意味で、このシーンは社会と距離を感じている人にとっての居場所になっているのかもしれませんね。

左からえらめぐみ、死神紫郎、中尊寺まい。

左からえらめぐみ、死神紫郎、中尊寺まい。

死神紫郎 プロフィール

死神紫郎

死神紫郎

東京都内を中心に活動するギター弾き歌手。2004年に死神名義で音楽活動をスタートし、アコースティックギター弾き語りのほか太鼓叩き語り、舞踏、紙芝居などさまざまな形態でライブパフォーマンスを繰り広げてきた。2018年に死神紫郎へと改名し、翌2019年に最新アルバム「さよなら平成」を発表。ロックバンド・組織暴力幼稚園のギタリストを務めるほか、役者、詩人、“説法系”YouTuberなど幅広く活動を展開している。

死神紫郎 公式サイト
死神紫郎 (@46shinigami) / Twitter

中尊寺まい プロフィール

中尊寺まい

中尊寺まい

“地下セクシーアイドルユニット”ベッド・インのギター、ボーカル、パイオツカイデー担当。2004年から2人組パンクバンド・かたすかしのギタリスト兼ボーカルとして活動し、同バンド解散後は例のKに加入。2012年にベッド・インでの活動を開始し、2013年4月にはグループ初の作品となるグラビア写真集「Bed In」、2014年3月に1stシングル「ワケあり DANCE たてついて / POISON~プワゾン~」を発売した。最新作は2020年3月発表のミニアルバム「ROCK」。

ベッド・イン - OFFICIAL WEBSITE -
ベッド・イン (@bed_in1919) / Twitter

えらめぐみ プロフィール

えらめぐみ

えらめぐみ

2009年にロックバンド・股下89、Dots Dashのベーシストとして活動を開始。東京都内のライブハウスを拠点にしつつ、2010年には埼玉・さいたまスーパーアリーナにて開催の「EMI ROCKS 2010」、2011年にはロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL」に「ROOKIE A GO-GO」枠に股下89で出演を果たすなど、大規模なライブイベントでもパフォーマンスを繰り広げてきた。2016年には大森靖子のバンド・シンガイアズに加入。現在はtheMADRAS水中、それは苦しいSP、ミノタケなどのメンバーとしても活動している。

えらめぐみ (@era_dots_hack) / Twitter
股下89

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レイザーラモンRG @rgizubuchi

2000年代の東京のライブハウスが○○○投げたりして80年代ばりに過激だったと!そしてそのシーンからベッド・インが産まれたと!
当時それを伝える雑誌とかがなかったから勉強になりました。
https://t.co/9azzlZH690

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