V.A.「KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90」ジャケット

国内で長らく“無視”されていた日本産アンビエント&ニューエイジが、今なぜ世界的に注目されているのか

“物質的”な面と“精神的”な面から分析する、環境音楽リバイバルの状況

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昨今、かつてここ日本で制作されたアンビエントミュージックやニューエイジミュージックと呼ばれる作品が、国内外の音楽ファンから熱い注目を集めているということを見聞きしたことのある方は少なくないだろう。

1980年から90年にかけて制作されたそうした楽曲をコンパイルした「KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90」(Light in the Attic)が、第62回(2019年度)グラミー賞における最優秀ヒストリカルアルバム部門にノミネートされるといった象徴的な出来事もあったし、そこに収録されていた、吉村弘、芦川聡、矢吹紫帆、尾島由郎、日向敏文、小久保隆といったアーティストたちのオリジナル作が中古レコード市場において軒並み高騰し、関連作を含め海外レーベルから次々と再発されるという事態も並走してきた。

また本年7月には、日本産音源をはじめとした新旧さまざまなニューエイジミュージックを現在的な再評価視点から網羅 / 紹介する決定的な書籍「ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド」(DU BOOKS)が刊行され、今まさに大きな話題を呼んでいるのだ。こうした状況は、Web上やコアな書籍メディアだけに限らず、TBSラジオの人気プログラム「アフター6ジャンクション」にて環境音楽の特集が組まれるなど(6月15日放送)、一般的影響力の大きい既存メディアへも波及しつつある。

おそらく、かねてよりアンビエントや電子音楽シーン等を追っていたリスナーや、Web上におけるレコードディール事情に通じる“玄人”以外にとっては、こうしたリバイバルがなぜ巻き起こってきたのかについて、はっきりとその理由をつかむことは難しいかもしれない。本コラムでは、今一度その音楽の魅力や、リバイバルを生起した状況を整理 / 紹介する。

/ 柴崎祐二 ヘッダ写真 / V.A.「KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90」ジャケット

アンビエントミュージックとは? / ニューエイジミュージックとは?

そもそも、アンビエントミュージック、ニューエイジミュージックとはいったいなんなのだろうか。両者の差異についても踏み込みながら考えてみよう。

一般的に言われるアンビエントミュージックとは、1970年代半ば、ブライアン・イーノによって提唱された概念を起源としている。

古くはエリック・サティが提唱した“家具の音楽”(Musique d'ameublement)というアイデアを参照し、環境に溶け込んだ、意識的な聴取を喚起しないような音楽であるところのアンビエントは、それまでの西洋音楽に自明的だった、外郭を伴った1個の“作品性”や、それに向かう固定的な“鑑賞”という習慣を解きほぐそうとする点で、極めて理知的なコンセプトを持った音楽概念として現れたのだ。

音響的特徴としては、弱音、持続音、反復、明示的リズムの排除等が挙げられる。また、のちにはパッド系シンセサイザーを多用した空間想起的な電子音をまとった楽曲が増えていく。ちなみにこのアンビエントの“本流”は、その後イーノ一派の地道な実践を経て、クラブミュージックの時代にKLFやThe Orbといったアーティストたちにより再解釈されてアンビエントテクノやのちのエレクトロニカへ流れ込み、アヴァンギャルド音楽的実践も伴いながら発展し続けていったが、これらの“表舞台”の動向は本稿と直接的な関係を持たないので、割愛する。

一方、ニューエイジミュージックとはなんなのだろうか。音楽的要素として上述のアンビエントミュージックと共通する部分も目立つだけに、今では混同して語られることも多いのだが、その成り立ちや背景思想からして、本来別種の音楽であると言っておいたほうがいい。古くは神智学や霊性進化論といった、いわゆる“オカルト”の始祖とされる思想にそのルーツを求められるこのニューエイジ運動は、60年代末以降のカウンターカルチャー(特に北米におけるヒッピームーブメント)と共振しながら本格的に発展してきた、既存のキリスト教的(一神教的)霊性観や西洋近代的文明観を批判的に乗り越えようとする潮流だった。ニューエイジミュージックとはまさに、個人が“全体性”へアクセス(意識拡張)せんと瞑想する際に用いられるような、ある種のプラグマティックな音楽としてそうした運動の中で享受されてきたものだ(その音楽的始祖は、米国のヤソス、スティーブ・ハルパーンといった人たちとされる)。

実を言えば、このようなニューエイジミュージックの持つ一種の“抹香臭さ”こそは、これまで多くの音楽ファン、特に先端的なクラブミュージックやオルタナティブミュージックを愛好する“良心的”リスナーからは長らく忌避されてきたものだった。では、それがなぜ(アンビエントミュージックという傍流を巻き込みながら)今になって復権していったかを見ていくことにしよう。

DJ文化とネットカルチャーが後押ししたアンビエント / ニューエイジのリバイバル

その端緒を探るには、まずダンスミュージックにおける“価値転倒”に迫る必要があるだろう。古くから、例えば“レアグルーヴ”といった概念に象徴的なように、DJ文化においては、かつて無価値と思われていたレコードをリアルタイム的聴取感覚のもと発掘 / プレイ / ミックスするという行為が称揚されてきた歴史がある。無名のソウルのシングル盤をプレイしフロアを沸かせたUKのノーザンソウルシーンをはじめとして、古いソウルやジャズのレコードからブレイクを発見したり、知られざるサンプリングソースからクールなビートを作り上げたヒップホップの発展を見るまでもなく、レコードディガーの文化圏では常に「意外なものが新鮮な文脈のもとに再生される」ということが追い求められてきたのだった。

こうした観点におけるニューエイジミュージックの“再発見”に関しては、上述の「ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド」における、Chee Shimizu氏とDubby氏による対談、動物豆知識bot氏による同書掲載コラムやnoteに詳しいのでぜひ参照してもらいたいが、ここでも大まかに説明してみよう。

まず始めにキーワードとなるのが「イタロディスコ」と「コズミック」だ。70年代末のイタリアにルーツを持ち、本場米国産のディスコサウンドをさらにエレクトロニックに進化(純粋化?)させてきたイタロディスコは、そのスペーシーな陽性のサウンドにより今も多くのコアファンを抱えるジャンルだが、同シーンで“コズミック”という路線を実践していた現地DJダニエル・バルデリらによるミックスでは、ニューウェイブやプログレッシブロックなどの(それまでダンスオリエンテッドとは考えられていなかった)異ジャンル音楽までもが織り交ぜられていたという。

そして、それら先達から触発されたのがかの巨人・DJハーヴェイで、2001年の彼のミックス「Sarcastic Study Masters Vol 2」には、その後のコズミックディスコ / バレアリック復興を先取りする要素が充満し、多大な影響をシーンへ与えることになった。筆者の記憶をさかのぼってみても、この時期以降、例えばNuディスコ等のスペーシーなサウンドの興隆や、同時期に勃興していたニューウェイブ / ポストパンクリバイバルの動きなどとも連動しながら、それまでナシだった「80年代的なシンセサイザーサウンド」が徐々にアリ(=クール)なものとして受容されていく聴取感覚の変革が起こっていたように思う。

また、それに伴い前述のChee Shimizu氏やDubby氏をはじめとする日本のDJ / バイヤー諸氏や海外DJ(のちのニューエイジミュージックリイシューの重要拠点となるレーベルを主宰する人たちを含む)の情報交換が活発化するにつれ、それまでマーケットでは無視されていたような日本産アンビエント / ニューエイジ音源を含む各種レコードの掘り起こしも、いよいよ始まっていくのだった。

こうした流れを決定的付けた作品が、冒頭で触れた「KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90」をのちにリイシューすることになる米シアトルのレーベル・Light in the Atticから2013年にリリースされた、往年の米国産ニューエイジミュージックをコンパイルした「I Am the Center: Private Issue New Age Music in America, 1950-1990」というアルバムだろう。さまざまなオリジナルニューエイジの珠玉曲を収録した本作こそ、その後の発掘ムーブメントの直接的起点というべき重要な存在だ。本作をコンパイルしたのは、DJ / レコードディーラーのアンソニー・ピアソンと、音楽プロデューサーのダグラス・マクゴワン。彼らこそは、アンダーグラウンドなDJカルチャーを抜け出て正規のリイシューワークを手がけることで、より広範なニューエイジリバイバルの土壌を耕した立役者たちと言っていい。

この十数年のインターネット音楽カルチャーに通じている読者であれば、こうしたクラブカルチャー発の動きと並行するように、さまざまなブログやそこにアップされたミックスの存在が昨今のリバイバルの形成に寄与していることもご存知かもしれない。2000年代後半から「The Growing Bin」「Crystal Vibrations」といったブログが情報発信を行っていたが、特に、今や尾島由郎や柴野さつきといったリビングレジェンド的アーティストとも活発なコラボレーションを行うVisible Cloaksのメンバーであるスペンサー・ドーランが2010年に「Root Blog」へアップしたミックス「Fairlights, Mallets and Bamboo(Japan, 1980-86)」は、のちに彼がコンパイルを担当することになる上述の「KANKYO ONGAKU: JAPANESE AMBIENT ENVIRONMENTAL & NEW AGE MUSIC 1980-90」のプロトタイプ的な存在と目すべき、モニュメンタルな存在と言える。ほかにも、積極的にアンビエント系楽曲を選曲、ミックスをオンエアしていった海外ネットラジオ局の存在や、YouTubeにおいて数々のレア作が簡便にストリーミング視聴することが可能になったこと、Discogs等のデータベースサイトで情報検索環境が整備されたことなども大きな要因だろう。

また、インターネットのフィールドとフィジカルの接点ということでいうと、Bandcampなどの配信サイトを発信元にしつつ、ごく限定された数のオリジナルカセット作品をリリースするといった草の根的なアンビエント系作家の活動があったことも見逃せない。ドローンやノイズなどの、80年代から続くアンダーグラウンドでD.I.Y.なカセットカルチャーが、アンビエントというタームへ合流してきた動きとしても興味深く、これらの流れは、現在リアルタイムで活動するアンビエント / ニューエイジ系の新録アーティストの活躍へと発展していくのだった。

そして、こうしたリバイバル機運の総仕上げとして、Light in the Atticを筆頭に、スイスのWRWTFWW、オランダのMusic From Memory、イギリスのLag Records、スウェーデンのSubliminal Soundsといった世界中の先鋭的レーベルが日本産アンビエント / ニューエイジの名作を次々と復刻リリースしていったのだ。こうした流れは現在も加速しており、ほぼ毎月になにがしかの重要作の復刻リリースが告知され、ファンを飽きさせることはない。

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「精神面から紐解くアンビエントミュージック」「ニューエイジミュージックを面白がる危険性」

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