ライブハウスができるまで 第2回 [バックナンバー]

一部住民の反対によりプロジェクトは頓挫、そして再び下北沢へ

ライブハウスの物件探しは、想像以上に厳しい

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分譲所有者たちからの反対

会社を興し、物件も決まり、いよいよ独立への第一歩を歩み始めたスガナミ。しかし内装工事の開始を1週間後に控えた2019年12月中旬、彼らの計画は頓挫することになる。上階のマンション部分の所有者数名から、プロジェクトに対して反対意見が出た。これにより予定していた内装工事を急遽中止することに。

「管理会社からは、マンションの理事会の反応は悪くないと聞いていたんです。しかし部屋のオーナーの中には、実際には住んでいないけれど資産運用を目的に購入している人もいて。その方たちから、資産価値が下がることへの懸念の声が上がったんです。ちょうどその頃に、クラブで薬物所持の逮捕者が出たという報道もあり、そのあたりも懸念材料になったようです。普段からライブハウスやクラブの文化に触れている僕らは、音楽が鳴る場所の魅力を知っていますけど、住民やオーナーの方々には関係のない話というか、静かに暮らせる街を選んでマンションを購入した人もいるんですよね。自分の周りには音楽好きがたくさんいて、その中にいるとなかなか気付かなかったけど……やっぱり多くの人にとって、住む場所と遊ぶ場所は違うんだなと。それと同時に、改めてこの業種の社会的信用の低さを思い知らされました。ただ僕たちもようやく見つけた物件ですから、マンションの部屋のオーナー向けに説明会を開けないか相談したのですが……東京に住んでいない人もいるから、わざわざ集まっていただくのも難しくて。そんな折に、別業種で僕らより高い賃料を払うところが出てきてしまって、結果として、僕らが物件を借りることができなくなってしまったんです。ライブハウスをやっている先輩に代田橋の物件について相談したときに、上階が分譲マンションの場合はやめておいたほうがいいと釘を刺されていたのですが、この一件で忠告の意味がわかりました。僕らは近隣住民との融和を目指していたし、結果として街を盛り上げたいという思いで事業計画書を練っていたのですが、それがその街に求められているかどうかはまた別の話だと気付かされました」

スガナミユウ

スガナミユウ

スピード契約

このような経緯から、地下街プロジェクトは思わぬ形で頓挫することに。スガナミたちは、またすぐに新しい物件探しを強いられることとなった。しかしそれから1カ月も空けず、下北沢の物件の契約が決まる。それが4月にオープンするLIVE HAUSの物件だ。このスピード感には驚かされるが、物件の広さは93m2。雑居ビルの地下ではあるものの、“地下街”を作るには狭すぎるというのが正直な印象だ。

「代田橋の物件が破談になったあと、気持ちを切り替えてすぐに再び物件を探し始めました。ただ当然、あんな広さと賃料の物件があるはずもなく、地下街のアイデアを丸ごと持っていけるはずがない。だからコンセプトをひっくり返すことになりますが、店長それぞれが別々で物件を探すことにしたんです。もちろん引き続き連携は取りつつ、会社としてそれぞれの独立を支援していきますけど。そして僕ともう1人のオーナー宮川が出会ったのが、今の物件です。実は以前から空いていることは知っていたんですけど、そのときは賃料が高くて、候補に入らなかった。でも改めて確認したら4分の1程度安くなっていて、すぐに契約を決めました」

紆余曲折を経て再び下北沢の街に戻り新しい拠点のオープン準備を進めるスガナミは、一連の物件探しをこう振り返る。

「地獄でしたね。僕らは独立するにあたって、勤務先に辞表を提出して準備を進めていましたし、それぞれの暮らしや人生もかかっていましたから。死に物狂いで物件を探して回って、ようやくここまで漕ぎ着けることができました。地下街プロジェクトに対しての反対は、ライブハウスとクラブ、つまり音を出す業種に対する懸念だったので、ほかのメンバーのことを思うと責任も感じました。そして結果として、僕らのような商売は繁華街や商業地域じゃないとできないことも思い知らされたというか……ライブハウスやクラブが1つの街に密集する理由もわかりました。周囲の方から『結果的に下北沢で物件が見つかってよかった』と声をかけていただくのですが、僕は諦めが悪いほうなので、地下街プロジェクトも10年後くらいに実現できたらいいなと思っています(笑)」

次回は独立開業に伴う資金について。合計金額や調達方法、返済プラン、そして現在実施中のクラウドファンディングなど、資金面についてを中心に聞いていく。

LIVE HAUSが入る予定だった代田橋の物件のフロア。

LIVE HAUSが入る予定だった代田橋の物件のフロア。

写真で追うLIVE HAUSができるまで 2020年3月5日

3月5日、壁の防音工事はほぼ完成。さらに1月末には剥き出しの状態だった壁のコンクリートはもう見えない。中央の壁の穴には防音資材が。

3月5日、壁の防音工事はほぼ完成。さらに1月末には剥き出しの状態だった壁のコンクリートはもう見えない。中央の壁の穴には防音資材が。

ステージ作りの様子。この木材はステージの土台となるもので、地面から30cmほどの高さで均等に並べられている。

ステージ作りの様子。この木材はステージの土台となるもので、地面から30cmほどの高さで均等に並べられている。

ステージ側から見るLIVE HAUSの店内の様子。壁全体に防音材を埋め込んだり、天井の配管を隠したりと工事が進み、コンクリートが剥き出しだった契約時に比べるとやや狭くなった印象。写真左端には、出演者用の楽屋が設置される。

ステージ側から見るLIVE HAUSの店内の様子。壁全体に防音材を埋め込んだり、天井の配管を隠したりと工事が進み、コンクリートが剥き出しだった契約時に比べるとやや狭くなった印象。写真左端には、出演者用の楽屋が設置される。

2020年1月の取材時点のLIVE HAUS。

2020年1月の取材時点のLIVE HAUS。

スガナミユウ

自身のバンドGORO GOLOでボーカリストを務める傍ら、レコードディレクターやイベントの企画などを行い2014年より東京のライブハウス下北沢THREEに在籍。2016年に店長に就任すると、チケットノルマ制の廃止、入場無料イベントの定期開催など独自運営方針で店を切り盛りしていく。2019年12月末をもってTHREEを退職。現在は自身が発起人の1人であるライブハウス / クラブ・LIVE HAUSのオープンに向けて準備に勤しんでいる。

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