関和亮

映像で音楽を奏でる人々 第8回 [バックナンバー]

関和亮は“映像メディアのバブル”の中で何を目指すのか

数々の名作MVを手がけてきた監督が踏み出す、新しいフィールド

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ミュージックビデオ制作をはじめ、さまざまな形で音楽に関わる映像作家たちに焦点を当てるこの連載。今回登場するのは、PerfumeのMVやアートディレクションをインディーズ時代から数多く手がけ、最近では星野源の一連のMVを制作している関和亮だ。

関の作品の特徴は、観る者に「その発想はなかった」と思わせる、アイデアに富んだインパクトのある映像だろう。そのアイデアの源泉がなんなのかを探るべく、この記事では彼に自身のキャリアを振り返ってもらった。また、最近ではドラマ制作にも積極的に取り組み始めたりと、活躍の場をさらに広げ続けている彼に、今後の展望についても話してもらった。

取材・文・構成 / 橋本尚平 撮影 / 梅原渉

あの子たちに出会ったことは僕の中で一番の転機

僕はもともと音楽好きだったんです。高校生の頃はUKロックとかが好きだったんですけど、長野の田舎に住んでたから都会みたいに情報が得られなくて、30分くらい電車に乗って長野駅の輸入レコードショップに通ってました。当時は今やってるような裏方の仕事には特に興味はなかったけど、ちょうどその頃“ジャケ買い”という言葉が使われるようになって自分もジャケットデザインに惹かれたり、情報収集の一環で夜中に毎週欠かさず観てた「BEAT UK」とか「ミュージックトマトJAPAN」でMVについて興味を持ったりした気がします。それで高校3年生になって自分の将来をどうするかとか考えたときに「これを仕事にできたら面白いな」って漠然と意識するようになって、浪人して東京の大学に入ったんです。

でも期待に胸を膨らませて田舎から上京したのに、大学の空気になじめなくて。ゼミでも一番後ろの端っこの席に座ってて、だんだん行かなくなって3カ月くらいで不登校になっちゃったんですよ。ただその頃はもう「学校を出たら映像の仕事に就きたい」って気持ちだったから、「大学行かないなら行かないで、すぐ映像制作を始めよう」って思って次の年から映像系の専門学校に通うことにしたんです。そしたら運がいいことに、アルバイト先の店長が「知り合いに映画監督がいるから紹介する」って言って現場に連れて行ってくれて。助監督さんにガムテープを渡されて「これは映画業界では“ガバチョ”って呼ぶんだ。ガバチョって言われたらお前これ持ってこい」みたいに。ちなみに専門学校の授業はもう始まってたんですけど、現場に行くほうが楽しいし、学校も「撮影現場で仕事してるんだったら一応授業に出たことにしてあげる」と言ってくれたので、半分くらいしか出席してないけど卒業させてもらいました。

関和亮

関和亮

そしてその頃に、トリプル・オーというデザイン事務所の社長、永石勝さんと出会って、僕もトリプル・オーで働くことになったんです。プロデューサーの金子富美さんから「学校卒業したらどうすんの?」って聞かれて、何も考えてないって答えたら「そんなんだったらうちで働いてみない?」って。それからアシスタントとしていろんな仕事を手伝いながら、いろいろなスキルを身に付けていきました。デザインとか写真はそれ以前に勉強したことはなくて、会社に入ってからイチから学び始めた感じです。

トリプル・オーに入ったのは20歳で、24歳くらいから女性シンガーとかバンドのMVを監督するようになりました。で、26歳の頃に初めてPerfumeを担当することになるんです。「CAPSULEの中田ヤスタカが曲を作る、女の子3人組のCDジャケットをお願いしたいんだけど、若手で誰かやれる奴いないか」って話が回ってきて、聞いた瞬間に自分から「やります!」って(笑)。それで「モノクロームエフェクト」っていうシングルのCDジャケットを作らせてもらって、スタッフの人に「僕は映像も作ってるんで、今度よかったらぜひ」みたいなことを言ったら、次の「ビタミンドロップ」ではMVを監督させてもらえて。それ以来ずっと関わらせてもらうようになりました。Perfumeが売れ始めて僕のこともいろんな人から認知してもらえるようになったので、あの子たちに出会ったことは僕の中で一番の転機ですね。

CDバブル時代より、今のMVのほうが健全でいいと思う

僕の世間的な認知度は、サカナクションの「アルクアラウンド」のMVを作ったことでもう一段上がりました。あれは広告業界の人だったり、音楽界隈じゃない人たちがすごく話題にしてくれたんです。

このMVを手がけたのは、後藤正文くん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)がやってる「NANO-MUGEN FES.」ってイベントに仕事で参加したときにサカナクションを初めて観て、「こんな面白いバンドがいるんだ」って驚いて、「この人たちと仕事をしたい」って言ったのがきっかけなんです。ちょうどこの頃“バズる”っていう言葉が使われ始めたくらいの時期で、「カッコいい映像よりもTwitterで拡散しそうな面白い映像を作ろう」っていうのを目標にしてMVを作りました。このMVが実際にバズって、話題がネットで徐々に広がっていくのを見るのは面白い体験でしたね。今じゃ当たり前ですけど、それ以前はテレビでMVが流れても作った人には評判は伝わってこないものだったので、「ここが面白かった」みたいな感想がどんどん流れてきたのは新鮮でした。MVが何を目的に作られるのかは、あれくらいの時期から明らかに変わったような気がします。ひたすらカッコいいものを作るのもいいけど、面白ければテーブルの上だけで全部済ませたような映像でもOKと言うか。「お金をかければいいってもんじゃない」って言う考えが如実に表れてきたように思います。

関和亮

関和亮

そしてこの頃から僕は、MVを作るときに「人と同じことをやっても勝負が付きづらいから、違うことをやろう」と考えるようになりました。CDバブルの時代からこの仕事を経験していたからわかるんですが、スタジオにセットを何個も組んだり飛行機を飛ばしたりみたいな、すごいお金のかけ方をしていたあの頃の映像を超えるのって相当大変なことです。

とは言え、今のほうがMVを作るのが難しいかと言うと、それは逆で。年に何枚もミリオンセラーがあった時期って、MVは「That's 宣伝物!」って感じで今よりも広告の要素が強くて、「とにかくお金をかければいいんでしょ?」って思われてたところがあるんです。だからクリエイターは「これだけお金を出すんだから絶対すごいのを作れよ」っていう圧がかけられてたし、クライアントからの理不尽なダメ出しも多かったんですよ。でも今はそんなに予算をかけられないから、クリエイターとクライアントの間に「お金がない代わりにがんばって面白いものを一緒に考えよう」っていう空気が流れるようになってきました。僕は今のほうが健全でいいと思います。YouTubeが登場して、MVを1つの作品として長く楽しんでもらえるようになったし。

予算がかけられなくなってきた一方で、機材はどんどん手頃になってきていますよね。最近だとiPhoneでMVを撮るっていうのも珍しい話じゃないし、もうどんな機材を使ってるかはクオリティとは関係ないんだなって思います。むしろ、機材が軽くて小さいことを生かせる映像が作れるようになってきて面白いです。星野源くんの「アイデア」なんて、カメラを70台以上用意して撮ったんですよ。昔だったらそんなこと考えられない。でも今は、広いスタジオにセットを作るのと比べて全然少ない予算でそれができるんです。

ちなみに星野さんはすごくダンスが好きな人で、ダンスが音楽のグルーヴ感をより際立たせると考えているように思うのです。最初に「SUN」のMVを担当することになったときに、星野さんから「踊りたいんですよね」って言われたので、「踊るなら振付師が大事になってくるから、MIKIKOさんにお願いするのはどうですか?」って提案したらすごく喜んでくれて。それ以来「アイデア」までずっと連続で僕がMVを作らせてもらっています。

今の時代だから作れたMVといえば、ドローンで全編ワンカット撮影したOK Goの「I Won't Let You Down」もそうですね。あれ、最初は全部をドローンで撮ろうなんて思ってなかったんですよ。カメラマンがクレーンに乗ってステディカメラで撮るつもりだったんですけど、撮影中のカメラを手渡ししながらつないでいくのがどう考えても難しくて。そしたらカメラマンの奥口陸さんが「頭から全部ドローン1台で撮ろう」って言い出して。最初に聞いたときは「なに言ってんだこの人」って思いました(笑)。今ではドローンで映画撮ったりするのも普通のことになってきましたけどね。

映像制作はソフトウェアもどんどん優秀になっています。昔は撮影時にフォーマットをそろえないと、編集が難しくなったりワークフローがややこしくなったりして大変だったんですけど、今はiPhoneで撮ろうが、ARRIFLEXのすごいカメラで撮ろうが、ADOBEのPremiereみたいなソフトなら、どんなデータも混在させたまま編集できちゃう。最近なんて、撮影した次の日に事務所に素材が届いて、それをそのままPCに入れてすぐ編集を始められるから、楽になりましたよ。

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僕は今「こんなMVを作ってみたいな」と思っています

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どらこ @kitune_udon15

関和亮は“映像メディアのバブル”の中で何を目指すのか | 映像で音楽を奏でる人々 第8回 https://t.co/mpERNUOPBX
"Perfumeが売れ始めて僕のこともいろんな人から認知してもらえるようになったので、あの子たちに出会ったことは僕の中で一番の転機ですね。"

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