加藤マニ

映像で音楽を奏でる人々 第1回 [バックナンバー]

年間80本以上のMVを作った加藤マニの仕事術

YouTubeが当たり前な時代の“体育会系が苦手なディレクター”

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アーティストが作り出した楽曲の世界観やイメージをよりわかりやすくリスナーに伝えるために、音楽と映像を統合して表現する短編ムービー。それがミュージックビデオだ。音楽ナタリーではそんなMVを中心に、音楽に関わる映像作品を制作するディレクターに焦点を当てる連載を開始。さまざまなディレクターの話を聞きながら、音楽を映像で表現することの面白さに迫っていく。

第1回で話を聞かせてもらったのは、キュウソネコカミやゆるめるモ!などの多くのMVを監督し、2017年には実に80本以上のMVを制作した加藤マニ。比肩する者がいないほどに多作でありながら、アイデアに富んだインパクトのある映像を次々に発表し、今やバンドシーンに欠かせない存在となりつつある彼に仕事の手法などを語ってもらった。2回に分けてお届けする。

取材・文・構成 / 橋本尚平(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 須田卓馬

MVディレクターを志した理由

今みたいにMVを撮る仕事は、最初から目指してたわけではないんです。専門学校に通っていたときは映画志望で、ヤン・シュヴァンクマイエルのようなコマ撮りアニメで「世にも奇妙な物語」みたいな“ストーリーがついた実験映像のようなもの”を撮ってたんですよ。けどやってるうちに「なんかやっぱり映画って、作るのが難しすぎるぞ」って思って。例えばバンドやるぞとなれば、とりあえずギターとベースとドラムがいれば様になるし、小説も乱暴に言えば、文章さえ書ければ最低限のものを作ることができる。でも映画って、そうした「“最低限のもの”まで到達するのマジ無理」って思っちゃったんですね。前述の映画を撮るうえで一番難しかったのが音なんです。モノローグの声とか、どうやって録ればいいのかわからなかったから、シアターで流してもセリフが全然聴き取れなくて。音声さん入れろって話なんですけどね。でもMVだったらまずそこに完成された音楽があるから、音の問題がいきなり解決するんですよ。別に「今日からMVメインにしよう」みたいなことはありませんでしたが、わたしが今この仕事をしている1つの要因はそういうことだったのかもしれないです。

とは言え、MVはMVで飛ぶべきハードルはそれなりに高く、最初はライブの撮影が多かったんです。高校の先輩にSISTER JETがいて、「せっかくだから撮りに来てよ」と言ってくれてたのでライブハウスに付いていくようになったんです。そのときに一緒に出ているバンドをいろいろ観て、「なるほどこういうふうにやると、あのくらいの規模でやれるのか」とか学んだ気になって、自分もちょっとバンドを組んだりしてました。バンドを続けていると、結局壁にぶつかって、「うーん、やっぱり難しいですね!」みたいなことの繰り返しでしたけど。

でも、そうやってバンドを組んでいたことは今の糧になってるかもしれないです。なんだかんだ、MVを撮るなら楽器はやったほうがいいとは思います。拍の概念がわかってると、カットを変えたら気持ちいいタイミングがだいたいわかるんですが、そこを無視して「なんでそこで」っていう編集をしちゃう人はいる。すごい変なタイミングでシンバルを叩くドラマーみたいな。そういう意味で、MVの編集は音楽で言うとリズムセクションのアレンジに近い気はします。あと「ギターが2本鳴ってるとき、どっちのギターがより主役なのか、つまりどちらの画を見せるべきなのか」とかは、音楽をやっていたほうが正解がわかるだろうなあと思いますね。

加藤マニ

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YouTubeが変えたMVの存在理由

ただ、音楽的な話とは逆に、いわゆる撮影機材の話が全然できないので、わたしは映像業界の人間とは言いがたいという自覚もありまして。どちらかと言うと音楽業界のほうが近いと思います。映像業界人だったら当たり前のように知ってることをなんにも知らないんですよ。カメラのF値はいまだに曖昧ですが、ドラムのハイハットは組み立てられる(笑)。撮影機材にもハイハットという別物があるのですが、それは何だかわからない。貸しスタジオの存在も知らなかったところから始まって、「背景が真っ白のスタジオがあるらしいぞ。白ホリっていうらしい」「そこは背景や床を黒くもできるらしい」「病院みたいな内装のスタジオがあるらしい」「雨を降らせることができるらしい」みたいに知識がちょっとずつ増えていって今に至ってます。映像の業界って体育会系で、師匠的な人から技術とか常識みたいなのを学んでいくものとも聞くのですが、わたしは本当に体育会系っぽいの苦手です。否定はしませんが、そういう感じじゃなきゃ作れないものでもないと思っています。

今のように仕事ができているのは、YouTubeのおかげも大きいと思います。以前はMVを作ってもCDショップの店頭で流してもらうか、VHSとかDVDのパッケージにして売るしか使いみちがなくて「俺たちが作ってどうすんの?」みたいなところがあったけど、今はYouTubeで誰でも自分のMVを流せるようになりましたよね。この15年くらいでMVの役割はだいぶ変わったし、それによって作られるビデオの数が爆発的に増えましたね。アーティストにとってMVは「それなりに売れた人だけが作るもの」から「まず名刺代わりに作るもの」に変わって、わたしはホントに助かりました。

「クイズ1人しか言いませんでした」みたいなもの

昨年は週に2本くらいのペースでMVを作ってました。でも、どんなMVを作るかっていうアイデアが常にポコポコ浮かんでたわけじゃなくて、今までの20年間で思い浮かんでいた“やりたくてもやれなかったこと”のストックをバンバン使っていたに過ぎないんです。だからちょっと前まではいくらでもアイデアは出てきたんですけど、最近はちょっと厳しくなってきました。新しいアイデアは今も思い浮かぶんだけど、作らなくてはいけないスピードのほうがちょっと速くなっちゃった。

わたしはネタ帳みたいなものを持ってなくて、アイデアは歌詞を見て考えてます。例えばフレンズの「塩と砂糖」は「塩と砂糖を間違えても愛してくれるのっていいね!」っていう歌詞から、じゃあ間違い探しのように、同じ構図で左右違うものを映してみようとか。

だから、歌詞を見て何も浮かばなかったらヤバいですね。ちなみにインストの曲だと何も思いつかないです。こういうコンセプトを考えるのって「クイズ1人しか言いませんでした」みたいなものを目標にはしたいですね。「“ち”で始まる丸いものを思い浮かべてください」ってお題が出て、「地球」て答えた多数派は席に座って、最後まで立っていた1人の回答は「血マメ」だった、みたいな。でも1人しか答えないものは、ちょっとエッジィすぎて使えないかもしれませんが、何か変わったことはしておきたい気持ちは常にあります。むしろ普段の生活では普通に、長いものに巻かれていたいタイプなんですけどね(笑)。

加藤マニ

加藤マニ

数をこなすための作業の短縮化について

編集の作業に関しては、あんまり大きい声では言えないですけど、かける時間は1、2日です。“完全にただの素材”という状態から、1日あればとりあえず形にはできて、直しの時間をもう1日もらえれば最低限度の完成形にはできます。それくらいじゃないとホントに追いつかないですね。去年は最大で12本ぐらいのMVの編集を同時に作業してました。ダイヤモンドゲームをやってるみたいな感覚でしたね。1つの駒だけを進めてたら効率が悪いけど、4つくらいの駒を同時にちょっとずつ進めておくと、5つ目の駒をぽんぽんぽーんって気持ちよく進められる、みたいな。

撮影時のアシスタントはLINEグループがありまして「この日かこの日の撮影に来れる人がいたら来て」って感じで集まってもらってます。エキストラはTwitterで募集してたんですが、それを見たほかのディレクターに「どんな制作会社がさせてるのか知らないですけど、同業としてすごく恥ずかしいです」ってTwitterでむちゃくちゃ怒られて、「あっ、これって恥ずかしいことなんだー」って知りました。知ったと言うか、「そういうふうに思う人もいるんだ。ごめんなさい!」って気持ちになりました。でもエキストラに関しては、「MVに出たい!」って人が一定数いるはずなんですよ。需要はあるはずなので今度、エキストラ登録用のメールフォームを作っちゃおうかなと思ってます。頭数が必要なときは「交通費1000円でも大丈夫です」の欄にチェックしてくれた人たちから連絡するとか、「モブじゃなくて主演やりたい」って人がいたら写真見せてもらうとか。でもそれって人材派遣業みたいな扱いになっちゃうんですかね? 何か資格がいるのかな? 調べます。

<つづく>

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加藤マニ

1985年東京都青梅市生まれ。2008年に早稲田大学川口芸術学校を卒業し、大手編集プロダクションに入社するが即時撤退。Webサイト制作会社に勤務しながら映像制作を続ける。2011年に過労で救急搬送されたことをきっかけに会社を退社し、2012年に独立。ミュージックビデオ監督として名が知られるようになり、2014年に冨田ラボ「この世は不思議 feat. 原由子、横山剣、椎名林檎、さかいゆう」、2015年にキュウソネコカミ「ビビった」で「SPACE SHOWER TV MUSIC VIDEO AWARD」のBEST VIDEOを2年連続で受賞する。2016年秋にマニフィルムス株式会社を設立した。

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加藤マニ @katomani

つづき「いえ、書面上には存在してないんです。。」「そうなんですね。。」そしてわたくしはわらをも掴む思いで、スマホでナタリーの記事をお見せしたのであります。「こ、こんな感じなんです。。」つづく https://t.co/c5keWb2gKZ

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