イラスト / 徳永明子

映画と働く 第7回 [バックナンバー]

アクション監督:谷垣健治(後編)「安全な現場で危なく見える映像を」

ドニー・イェンの現場で学んだポリシー、そして今後の日本アクション界に必要なこととは

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1本の映画が作られ、観客のもとに届けられる過程には、監督やキャストだけでなくさまざまな業種のプロフェッショナルが関わっている。連載コラム「映画と働く」では、映画業界で働く人に話を聞き、その仕事に懸ける思いやこだわりを紐解いていく。

第7回では「るろうに剣心」シリーズやドニー・イェン作品への参加で知られるアクション監督・谷垣健治にインタビュー。彼が世界で活躍するようになるまでの経緯を語ってくれた前編(参照:アクション監督:谷垣健治(前編)「香港映画の現場を見て『この中にいたい』と思った」)に続き、この後編では、アクション監督という職業について深堀りした。さらに今後の日本アクション界のために感じているという使命や、この1年で印象に残ったアクション作品についても話してくれている。

取材・/ 浅見みなほ 撮影 / 金須晶子

アメリカ映画は油断も隙もない

──後編では、アクション監督というお仕事について詳しくお聞かせください。まずはアクション監督としての作業を、順を追って伺いたいのですが。

谷垣健治

谷垣健治

人によっていろんなやり方がありますから、これはあくまでも僕の場合ですけど、まず監督と打ち合わせして、ロケハンに行って、アクション練習をします。これが準備段階ですね。アクション練習では、まずその役者さんのフィジカルな能力を見せてもらうことからですね。正直、インの前に数カ月ぐらい練習したところでフィジカルな能力が飛躍的に伸びるわけではありません。僕らも魔術師じゃないので、できる人はできる、できない人はできない、そこにちょっと技術的なことを足してあげるぐらいのことです。ただ、いいところと悪いところを共有して一緒にキャラを作り上げていくことはできるし、最終的にはそこの時間を持つことが一番重要な気がします。「るろ剣(るろうに剣心)」のときに大友啓史監督から言われたのが、「トレーナーというよりカウンセラーに近いね」ということ。確かに「今日はこれをやったから、次回はこれを処方してキャラに近付かせていきましょう」というのはカウンセラー的役割かもしれません(笑)。毎回練習した映像は1、2分にまとめて監督やプロデューサー、役者本人と共有するようにしています。監督によっては、「これいいよね! この動き使いたいね!」と返ってくるので、そういう動きはできるだけ後々のアクションに取り入れるようにします。セットのデザインができあがったら、そこに落とし込んでアクションのいわゆる“立ち回り”を作っていきます。ここからは“リハーサル”ですね。

──ビデオコンテは作ったりするんですか?

日本でやるとき僕はあまりビデオコンテを作らないんです。特に「るろ剣」シリーズに関しては、ある程度イメージをふわっとさせておいたほうが、みんなが自由にやれる空間が広がるので。作ったとしても、それはあくまでたたき台に過ぎないので、その通りに撮ることはまずないですね。

──ビデオコンテできっちり決めきらずに、余白を残す?

そうです。逆に香港やアメリカでやるときは、言葉の問題や今まで観て育ってきた映像の違いもあるので同じ画面を想像できないことが多いんですよね。例えば「ここはドリフのタライが落ちてくる感じで」と言ったって、みんなが知ってるわけじゃない(笑)。ですから、そこで無駄なやり取りを減らすためにもビデオコンテを作ることが多いです。特にアメリカ映画では、このカットは本人か吹替かどうかまで細かく指示しておかないと、返り討ちにあって勝手に決められてしまうので。油断も隙もないですよね。

──(笑)。コンテが決まったら、次は役者に手を教える工程でしょうか?

はい。準備段階は大きく分けて2つで、“アクション練習”と“リハーサル”です。具体的に立ち回りの方向が決まったら、役者にアクションを“うつす”作業になります。あとは各部署とやり取りして調整、本番で撮影して、僕がその日撮った素材をもらって編集して、監督やプロデューサー、編集部に渡します。あとはポスプロで音の作業に参加する。以上、これが「僕の思うアクション監督の仕事」です。

──人によって、アクション監督自身がどこまで編集作業をするか異なると思うのですが、谷垣さんはまず自分で編集されるんですね。

僕はプロの編集マンではないですが、プロのアクションマンなので、まずは僕が撮ったときの感覚をもとに編集をしてみる、そのうえで今度は、アクションのプロじゃないけど編集のプロである人たちが調整する。そのほうが絶対に結果はいいものになると思っています。撮影したその日の素材を撮影部からもらって、できればその日のうちに軽くつないでみます。監督が現場で「これいいね!」と言ったテイクを覚えてますから、その映像も使いつつ、イメージで仮の音楽も入れます。

──それをもとに編集部の人が本番の編集をしていくわけですか。

はい。あとは編集部に上げてもらったものを僕がチェックして、細かく修正指示を出していくという、キャッチボールが続きます。僕がいつも伝えているのは「僕が作った仮編集バージョンからシークエンスごとカットするのは構わないけど、編集点を動かすときは教えてほしい。リズムが変わってしまうから」ということ。その後、ダビング作業に立ち会って音をチェックします。漏れている音や足したほうがいい音を指示するためです。こう書いてしまうと僕が独善的にやっているように思う人もいるかもしれませんが、監督の意見は絶対的に尊重します。監督がその映画作りの中心になるべきなので、その中心がブレてしまうと絶対によくならないと経験的にわかるからです。

大友啓史監督は、最終的に自分の“味”にするからすごい

──監督とアクション監督の作業バランスは、作品によって異なるのですか?

人や作品によって違いますね。一緒にやって結果が出た作品というのは、監督が一度こっちに投げて自由にやらせてくれる場合が多いです。大友監督は、僕らに任せてくれるけど、最終的にはアクションシーンがもとの映画から浮くことなく、ちゃんと大友監督の“味”になるからすごい。アクションをわかっているつもりで技術的なことを言ってくる監督が相手だとちょっと苦労しますね。「これ迫力がないよね」とかだったらいいんですけど、「ここの蹴りをこういうふうに変えて……」とまで専門的なことを言われちゃうと、じゃああなたがやってください、と思ってしまう(笑)。

──日本と香港でも、やりやすさが違いそうです。

ピーター・チャン監督と「捜査官X」を作ったとき、彼はアクションシーンのときはほとんど現場にいなくて、トレーラーの中でモニターを観ていました。監督に「ここもう1テイク行っていいですか?」と聞いたら、「自分にしてみたら1テイク目ですでにOKだから、あとは気が済むまでやってくれればいい」って、もう完全にお任せ状態(笑)。でも彼がすごいのは、仮編集版を見せたときに「この間にクローズアップを入れて」「ここはこのカットが欲しい」と、あと何が必要かというのを次々に指示してくれたことです。最前線に立って「そうじゃないんだよ!」って言うことだけが監督の在り方じゃないんだなと学びました。一方ウォン・カーウァイみたいな人もいて。彼は「擺渡人(原題)」という作品のプロデューサーだったんだけど、あるシーンで自ら監督をやり始めて「監督の思いは、監督よりも俺が撮ったほうが画面で表現できる」と言ってました(笑)。それぞれの相性もあるし、人と人の付き合いなので、相手によって変わるものだと思います。僕の場合は毎回、最初のロケハンで「この監督はどこまで許してくれるか」という許容範囲を探っていますね。

──現場の空気を読みつつやっていくと。

場合によりますけどね。「るろ剣」のときなんかは正直な話、時間的に追い込まれても「知らねーよ!」という気分でやってます。なぜって? だって、「るろ剣」だから(笑)。

「るろうに剣心 最終章」ポスタービジュアル (c)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「るろうに剣心 最終章」ポスタービジュアル (c)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

総合的に言うと、やっぱり佐藤健はすごい

──今まで現場をともにした俳優さんの中で、印象的だったのは……?

佐藤健(即答)! 今直感的にそう思ったのは、優れた人はたくさんいるけど、彼とは5本の作品を通して“剣心”を作ってきてるからかもしれないです。まあ、役者さんはみんなすごいですよ。彼らは撮影当日の体調や気分に関係なく、その日の成績表が白日のもとにさらされる職業だから。僕らの仕事の半分くらいは、彼らがパフォーマンスしやすい舞台を作ってあげることだと思っています。そして総合的なことで言うとやっぱり、佐藤健はすごい。もともと原作が好きだったとは思うんだけど、剣を振りながら思ったこともいろいろあるはず。僕らが剣心について考えるよりもずっと長い時間、彼は緋村剣心と向き合ってくれました。

「るろうに剣心」最終章より、左から神谷薫役の武井咲、緋村剣心役の佐藤健。 (c)和月伸宏/集英社 (c)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

「るろうに剣心」最終章より、左から神谷薫役の武井咲、緋村剣心役の佐藤健。 (c)和月伸宏/集英社 (c)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

──佐藤さんとはアクションについて、どういうやりとりをされるんですか?

イメージの確認と共有が多いですね。こっちで作った立ち回りを見て、「剣心は強いから、ここでこんなに苦戦しないほうがいいのでは?」とか「ここの剣心はあまり積極的に攻撃はしないかもしれないです」とかね。単純にSNSで見つけた動画を送ってきて、「これいいですね(=やりたい)」というときも(笑)。彼に限らず、役者さん発信のアイデアはとりあえず採用して1回やってみるようにしています。

現場は安全だけど、“危なく見えるもの”を目指して

──本日、谷垣さんの現場での必須アイテムをお持ちいただきました。

谷垣健治の台本ケース(左)とウエストバッグ(右)。

谷垣健治の台本ケース(左)とウエストバッグ(右)。

このウエストバッグと台本カバーですね。もらったものなんですけど、最近の現場でよく使っています。

──イニシャル入りですね。バッグには何が入っているんですか?

ペンとかその日のショットリストとかお菓子とか(笑)。あと現場で欠かせないのは、セグウェイですね。現場は広いから、いつもセグウェイで移動してます。ただリチウム電池式だから送れなくて、北京に1台、香港に1台、バンクーバーに1台置いたままで、東京にもあって。(スタントウーマンの)伊澤(彩織)さんが、いろんな現場で置き去りにされている僕のセグウェイの写真を集めてました(笑)。でもセグウェイ、もう販売されなくなるんですよね。どうなっちゃうんですかね。

セグウェイに乗る谷垣健治。

セグウェイに乗る谷垣健治。

谷垣健治のセグウェイ(撮影:伊澤彩織)。

谷垣健治のセグウェイ(撮影:伊澤彩織)。

──放置されたセグウェイが切ないです(笑)。ではアクション監督の仕事のうち、やっていて一番楽しい作業は?

編集。それはもう、独りよがりと言われようがなんだろうが、編集です。アクションを作る作業って、準備の段階からいろんな人とのやりとりの中で進んでいくわけで、そこで頑固になりすぎてもいけないし、かと言って流されてもいけない。それに現場でうまくいった気がしてもちゃんと撮れているかわからないので、モヤモヤしている期間が長いんですよね。でもアクションシーンの編集が終わって音楽を入れてみて、自分なりに納得のいくものができたら、モヤモヤが消えて「ああ、もうやれるだけのことはやった!」という気持ちになれるんです。現場で「この人、なんでこんなところにこだわるんだ」と思われていたかもしれないけど、編集が完了すれば「ね、何回もやらせたのは無駄じゃなかったでしょ」って1つの申し訳ができて、ホッとできるんです。スタントマンだって、命懸けでやったものがいい形で作品の中に生かされてたら、それがモチベーションになるでしょうし。

──アクション監督として、自分の中で絶対に決めているルールがあれば教えてください。

ルールは別にないんですけど……誰でも安全な現場を目指すものじゃないですか。でも僕は、現場は安全だけど、作品になったとき“危なく見えるもの”を目指しています。スタントマンの頃、すごく危ないことをやったのに、画面で観たらめちゃくちゃショボい……という経験がよくあったんです。でもドニー(・イェン)がアクション監督をしたときの映像は、そんなに大したアクションじゃなくても迫力が倍増して見えるというか、ものすごく印象的なカットになっているんです。だから僕の作品でも、現場でスタントマンに体を張ってもらう分、それをさらに効果的に見せようと心がけています。

「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」メイキング写真より、ドニー・イェン。(c)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」メイキング写真より、ドニー・イェン。(c)2020 MEGA-VISION PROJECT WORKSHOP LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

──ドニーさんの作品が“危なく”見えたのには、何か秘訣があったのでしょうか?

スタントマン単独のタイミングでやらせてもらえるのが多かったからかもしれません。芝居が長く続いたあとにその流れで高度なスタントをするのではなく、カットを割ってこっちのタイミングで飛べるような撮影が多かったんです。スタントマンにとっては、やりやすいですよね。そもそも香港映画って、基本的にアクションの撮り方がうまいんですよ。アメリカのアクションスターが香港映画に出ていたのを観て「こいつ、すげえなあ」と思っていたのに、その人が本国に戻ったあとの作品を観ると、ショボく感じるということがよくあります(笑)。 それは本人の問題ではなく、香港映画の撮り方に理由があるんだと思います。

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“るろ剣の人”って決めつけられるのも嫌

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