趣里が令和の社会問題に挑むリーガルドラマ「モンスター」タイトルに込められたメッセージを紐解く

趣里が主演を務めるドラマ「モンスター」のBlu-ray / DVD BOXが6月25日に発売された。

本作は、勝つためなら手段を選ばない“モンスター弁護士”・神波亮子を主人公に据えたリーガルエンタテインメント。独自の解釈のもと裁判をかき回す亮子は、人間の理解しがたい闇を見逃さず、冷静に事件を解決に導き、周囲の価値観を覆していく。

趣里が亮子、ジェシー(SixTONES)が東大法学部卒の若手弁護士・杉浦義弘、古田新太が亮子の父で無敗の最強弁護士・粒来春明を演じ、宇野祥平、音月桂、中川翼、YOUらが出演した。橋部敦子がオリジナル脚本を手がける。

映画ナタリーではソフト発売を記念し、ライター・福田フクスケによるレビューを掲載。本作の“モンスター”とはいったい誰のことなのか、本作に込められたメッセージを紐解く。さらに、ソフトに収録される特典映像の見どころもたっぷりと紹介している。

文 / 福田フクスケ

令和ならではの社会問題を扱う意欲的なリーガルドラマ

過労自殺、盗作騒動、精子提供、代替医療、闇バイト……時に法が追いついていない令和ならではの社会問題を題材にする意欲的な設定と、視聴者の価値観をも揺さぶり覆すような意外な展開が、放送時に大きな話題となったドラマ「モンスター」。

ドラマ「モンスター」より、趣里演じる神波亮子

ドラマ「モンスター」より、趣里演じる神波亮子

本作の脚本を手掛けたのは、「僕の生きる道」「フリーター、家を買う。」「知ってるワイフ」などで、複雑な社会の様相や人間の内面を描くことに定評のある橋部敦子。そして、そんな彼女の描く世界の中で、法廷闘争にゲームのように挑んでいく型破りな弁護士・神波亮子を見事に演じたのが、朝ドラ「ブギウギ」で国民的女優となった趣里だ。

異色のリーガルエンタテインメントとして好評を博した本作だが、果たしてタイトルに冠された「モンスター」とは、いったい誰のことなのだろうか。

モンスター弁護士・神波亮子の型破りな法廷戦略

第一のモンスターは、“常識”にとらわれず、“感情を排除”して相手と向き合う得体の知れない新人弁護士・神波亮子(趣里)。高校3年生で司法試験に一発合格した異色の経歴を持つ彼女は、ある日、ふらりと大草圭子(YOU)の法律事務所を訪れ、経験もないのに「弁護士をやってみることにした」とゲーム感覚で法廷闘争に立ち向かう。

事件の手がかりを得るために、企業の清掃員や街コンに参加する女子大生に扮して潜入調査するのはまだまだ序の口。謎のコンビニ店員・城野尊(中川翼)にハッキングによる情報入手や、SNSでの世論操作を依頼する。「~なのはどうしてですか?」「~なのではないですか?」と、相手に都合の悪いことも空気を読まずにズバズバと聞き出す。挙げ句の果てには、使える材料は全部使ってこちらに都合のいいストーリーをでっち上げるなど、勝つためなら手段を選ばないそのやり口はまさにモンスター。

ドラマ「モンスター」より、趣里演じる神波亮子(左)とジェシー演じる杉浦義弘(右)

ドラマ「モンスター」より、趣里演じる神波亮子(左)とジェシー演じる杉浦義弘(右)

そんな彼女に振り回されるのが、東大法学部卒のエリート若手弁護士・杉浦義弘(ジェシー / SixTONES)だ。こうした職業ドラマでは、型破りで破天荒なやり方で事件を解決する男性主人公に、真面目で優秀だが融通の利かないヒロインが感化される、というのがお約束だが、そんなステレオタイプなジェンダーロールを逆転させているのも本作の魅力の一つとなっている。

モンスターな父親・粒来春明との奇妙な親子関係

第二のモンスターは、物語の中盤から重要な役割を果たす神波の父親・粒来春明(古田新太)だろう。12年前に姿を消して以来一度も帰ってこなかったが、神波が弁護士になったのを見計らったように、再び娘の前に姿を現す。久々の再会にもかかわらず、昨日ぶりかのようにそっけない会話を交わす2人の奇妙な父子関係が見どころだ。

ドラマ「モンスター」場面写真

ドラマ「モンスター」場面写真

富裕層向けの高額な代替医療を行うクリニックを相手どった訴訟(第5話・第6話)では、原告側を神波が、被告となるクリニック側を粒来が弁護する父子対決に。幼い頃にオセロで勝てなかった雪辱を果たそうとばかりに、父親との法廷対決を楽しんですらいる様子の神波だったが、粒来の手腕に圧倒される。彼女の型破りなモンスターっぷりは父親譲りであり、彼のほうが一枚上手のモンスターであることが明らかになる回だった。

しかし、神波に立ちはだかるヒール役かと思われた粒来が、物語のクライマックスとなる環境裁判(第10話)では彼女にさりげなくヒントを与え、最終回では原告代理人として共闘して大企業と争う展開には驚かされた。産廃物が健康被害をもたらしていることを証明しなくては勝てない難しい局面を、2人のモンスターがアクロバティックに乗り越える結末は、本作最大の胸アツ展開となっている。

ドラマ「モンスター」場面写真

ドラマ「モンスター」場面写真

本当のモンスターは私たち自身の心の中にいる

そして、本作に描かれる第三にして最大のモンスターとは、私たち現代人の心に巣食う悪意や欲望そのものではないだろうか。パワハラ・セクハラを争点に争われた裁判(第1話)では、最後に意外な人物の悪意がほのめかされ視聴者をゾッとさせるし、歌詞の盗作疑惑が取り沙汰される回(第2話)では、最終的にルッキズムの根深さを私たちに印象付ける。

精子提供というセンシティブな話題を扱った事件(第3話)では、表面上は幸せそうに見える夫婦の嘘が暴かれるし、ドラマの聖地巡礼をめぐる騒動(第7話)では、推しへの愛の暴走に戦慄させられる。少年による闇バイトがテーマかと思いきや、年齢差別に抗おうとする高齢者の悲哀が思わぬ展開を見せた時もある(第8話)。

ドラマ「モンスター」より、趣里演じる神波亮子(左)とジェシー演じる杉浦義弘(右)

ドラマ「モンスター」より、趣里演じる神波亮子(左)とジェシー演じる杉浦義弘(右)

それだけではない。悪意どころか、時には人々の善意や正義すら暴走して“モンスター”になりうることを突きつけてくるのが、本作のハイライトだろう。

サッカー部での体罰をめぐる集団訴訟(第4話)では、自分の利益のために正義を主張する集団心理の危うさが露呈するし、名画の贋作疑惑を追及する裁判(第9話)は、見る者によって変わる物事の真贋の不確かさを炙り出した。最終回では、環境裁判で争った大企業の不正義よりもむしろ、世の中の空気に動かされ、物事を都合のいいように見たり信じたりする原告側の住民たちの愚かさが浮き彫りとなり、物語に苦い後味を残した。

そう、本当のモンスターとは、自分の信念を持たずに空気に流されて幸せを見失っている、私たち自身だったのだ。

法律事務所メンバーの絆が伝わるメイキング・座談会も

「モンスター」Blu-ray / DVD BOXの特典映像には、「メイキング集」と「趣里×ジェシー×宇野祥平×音月桂 座談会」が収録されている。

「メイキング集」には、クランクインからオールアップまでの貴重な撮影風景が盛りだくさん。慣れない専門用語に悪戦苦闘しながらも、本番ではバッチリ決める趣里のプロフェッショナルな仕事ぶりや、ジェシーが撮影裏で見せるユーモラスな素顔などをたっぷり味わうことができる。中でも、YOUをムードメーカーとした法律事務所の仲間たちの、時にアドリブを交えた息の合ったやりとりは必見だ。

ドラマ「モンスター」場面写真

ドラマ「モンスター」場面写真

また、そんな彼らの絆が感じられるのが、撮影終盤で収録されたという「趣里×ジェシー×宇野祥平×音月桂 座談会」。大変な撮影の中、みんなと会えるのが癒しになっていたという趣里。その発言を裏付けるかのように、4人で食事に行ったときのエピソードなどが交わされ、彼らの和気あいあいとした雰囲気が伝わってきて微笑ましい。

ちなみに、メイキングにはジェシー演じる杉浦が、本編で何回「えっ」と言ったかをカウントするちょっとしたクイズ企画も。最後に答え合わせがあるので、ぜひ本編鑑賞後のお楽しみにしてほしい。