樋口真嗣が自身の監督作であるNetflix映画「新幹線大爆破」を新発売の4K有機ELテレビ「Z95B」で鑑賞。1975年に公開された同名映画をリブートした本作は、東京へ向けて走る新幹線・はやぶさ60号に時速100kmを下回ると作動する爆弾が仕掛けられるノンストップサスペンスだ。2年前に当時の最新モデル「MZ2500」を迎えた樋口だが、この2年間でのテレビの進化にショックを隠せず……。2025年上半期一番の話題作となった「新幹線大爆破」で「Z95B」の性能を実感してもらいながら、映画の舞台裏を聞いた。配信後の反響や限界までこだわった音響制作、主演の草彅剛に惹かれた理由も語っている。
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取材・文 / 奥富敏晴撮影 / 間庭裕基
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パナソニック・4K有機ELテレビ ビエラ「Z95B」
ビエラのフラッグシップが、画質・音質ともに6年ぶりのフルモデルチェンジ。筐体のデザインも一新し、圧倒的な映像美と立体音響による没入体験が実現した。サイズは65V型/55V型の2展開。オープン価格により6月20日に発売。進化のポイントはインタビュー内のミニコーナーでチェック!
新幹線が一番かっこいい瞬間は
──「新幹線大爆破」の配信から1カ月が経ちましたが、反響はいかがですか?(取材は5月下旬に実施)
実は……よくわからないんです。劇場の映画だったら、初日の動員や興行収入で数値化されるのでわかりやすいんですけど。配信は初めてだったので、こういうことなのかと思ってます。
──初登場では日本におけるNetflix 週間TOP10(映画)で1位、グローバル週間TOP10(映画 / 非英語)でも2位をマークしました。
Netflixの中でどれぐらいの順位にいるかはわかるんですけどね。みんな面と向かって「つまらない」とは言わないので(笑)。実は疑心暗鬼のまま1カ月経ったというのが本音です(笑)。
──今年の上半期SNSで一番話題になった邦画でもあると思います。何か感想をご覧になったりは?
感想よりも子供がプラレールで再現して遊んでいるのを見ると、とてもうれしいですよね。新幹線がぶつかりそうになるシーンとか。(スティーヴン・)スピルバーグの子供の頃みたいに、映画を観て、実際におもちゃで遊んでくれているみたいです。
──劇中でも作戦のシミュレーションとして、何度か新幹線の模型が出てきますね。
あれも完全に自分の趣味です(笑)。
──樋口監督が考える、この映画で新幹線が一番かっこよく映っている瞬間はどこでしょう?
撮り鉄の人たちなら場所を知っている、このカットですね。「はやぶさ」が奥からフレームインしてくる“インディアンカット”のところ(本編1:23:48~)。昔の西部劇でネイティブアメリカンが地平線の向こうから上がってくる定番のカットから付いた名前らしいです。この仕事をして30年以上になりますが、制作中に初めて知った用語でした。
──ちなみに、どのあたりで撮られたんですか?
栃木の那須塩原駅のホームから撮りました。新幹線の線路は音を軽減するために高い防音壁があるので、外から撮ろうとすると、車両の半分ぐらいが隠れちゃうんです。すると駅の中から撮ることが増える。駅からどう狙うかを考えるんですが、那須塩原は駅がゆるやかにカーブしているので、遠くから狙うと、レンズの軸と線路が重なるんですね。そうすると、新幹線がカメラにまっすぐ向かってくる瞬間がある。こういうカットは実はここしかないです。撮影は夏だったので、陽炎もついてますね。
限界までこだわった音響
──樋口監督には2023年に当時の最新モデル「MZ2500」で「シン・ウルトラマン」をご覧いただきました。その後、事務所にも導入されたとか。今回は新しく発売される「Z95B」ですでに映像や音響面での進化は体感されたそうですが……。
うーん……ショックでしたよ! 新しいのがいいのはわかってるんですが、自分の持っているテレビが過去のものになってしまったショックが大きい(笑)。前のも十分よかったわけで、というかよかったと思いたい……。でも、買い替えようとしている人がいるなら絶対「Z95B」がいい。とにかく最大限の性能を出し切っていると思いますし、僕は旬のコンテンツをそのとき一番いいもので観るのが好きです。
──映画監督としてテレビの進化をどう受け止めていますか?
今の「MZ2500」を導入したのは「新幹線大爆破」を準備しているときですから。映画を1本作るよりも早く進化しているわけで……この進化のスピードは末恐ろしい。お願いだから、なくならないでほしい。ビエラは国の宝ですよ。
──今回はその「Z95B」で「新幹線大爆破」をご覧いただきながら、映画の裏話をお聞きできればと思います! まずはメインタイトルから。横から飛び出してきた新幹線がタイトルを作り出す形になっていました。
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題字はデザイナーの桜井雄一郎さんにお願いしました。もともと洋画のポスターデザインで有名な図案士の檜垣紀六さんにお願いしようと声を掛けたんですが、ご高齢で受けていただけなくて。弟子筋である桜井さんを紹介してもらったんです。東映のオリジナル版は筆書きだったので、そうじゃない方向性を探りました。「ベン・ハー」みたいに文字にパースを付けるような、昔の大作映画をイメージしてましたね。
──では飛ばし飛ばしで恐縮ですが、続いてのんさん演じる運転士・松本による「ATC開放」、新幹線の自動制御を解除する場面です。
音込みでここまで家で観られるようになるのはありがたいですねえ。Netflixが対応しているのはドルビーアトモスホームという家庭用の規格で、「新幹線大爆破」の音響ではその環境でどこまでできるか?という実験を一通りやらせてもらえました。限界まで。事務所での確認用には「MZ2500」を使っていたんですが、音はドルビーアトモスで観ることができなかったんですよ。皮肉なことに、エンコードができないので配信が始まるまではテレビで観るアトモスの確認ができなかった。
──なるほど。
あと、こうして飛ばし飛ばしで観るとバレちゃうんですが、この映画って冒頭から最後にかけて、徐々に音圧を上げていってるんです。観ている間、気付かないうちに、ものすごい音圧の中にいるよう計算してました。だからいったん止めてからとか、途中から観始めると、「うわ! 音がデカい」とうるさく感じるはず(笑)。途中まで観て続きは次の日とかにすると、感覚がリセットされてしまうので、できれば一気に最後まで観てほしいですね。
──樋口監督がこのテレビで聴きたい音響的な注目シーンはどこでしょうか?
ある人物の家が盛大に爆破されるシーンですね。たぶん、爆破の直前のやり取りが、この映画で一番静かなシーンなんですね。ほかのところは基本的に走行音がベースとして入ってますが、ここは民家なのでそれがない。最初は踏切やテレビの音もあるんですが、それも消えて、静かになるんです。そして踏切音が再び聞こえ始めて、一番音がミニマムなところから爆発が起こる。その爆破音の余韻に、そのまま音楽が乗り替わるようになってます。
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──一番のこだわりが新幹線の走行シーンではない、というのが意外でした。
新幹線のシーンは入れる音がある意味はっきりしてますから。走行音は絶対に鳴ってるからそれを入れなきゃいけない、とか。ほかだと、例えば運転室のシーンは高めのキーンという音を入れています。実際に300kmぐらいで走行している新幹線を取材したときに、運転室はガラスのキャノピーが共振してキーンと鳴っていて。音響効果の荒川きよしさんに実際に現場で録ってもらったものを入れました。
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──ここまで、あらゆる音が鳴っていると、音響の作業が大変だったのでは。
今回は音楽の岩崎太整さんに、サウンドスーパーバイザーとして音響全体を見てもらったんです。通常だと音楽は音楽、セリフはセリフ、効果音は効果音とそれぞれミキサーの音量調整の担当が分かれているのを1本化しました。セリフは、音楽のミキサーとして有名な佐藤宏明さんを中心に、音楽のボーカルトラックをいじるのと同じアプローチで作ってます。
──どういった利点が?
今までは音1つひとつのボリュームの上げ下げでバランスを取っていたんですけど、そうではなく、音の帯域をすみ分けて収めるようにしてます。効果音では使わない帯域に音楽を入れたり。だから、いろんな音や音楽が入っていても、セリフが聞こえやすいんですよね。音の数は多いのに聞き取りづらくないと思います。
──確かにどんな騒音の中でもセリフはくっきり聞こえた印象があります。あと字幕付きで鑑賞していて気付いたのですが、「あれ? こんなことしゃべってたんだ」と思うような背景のセリフ、特に専門用語がとても多いですよね。
いっぱいしゃべってますね。もうセリフの半分くらいは聞かせなくてもいいと言いますか、情報としてそこにあればいいと思ってました。それで言うと、東京駅で東北新幹線と東海道新幹線の線路をつなげようとする作戦があるじゃないですか。これについて「東北と東海道は周波数が50Hzと60Hzで違うからつなげても動かないはず」という指摘も多いんですが、実は「50 / 60対応のE7の救援車両を出せるか検討してくれ」(本編1:18:56地点)という説明のセリフを入れていて。プランとして、2つの周波数に対応した北陸新幹線の車両ではやぶさ60号を後ろから押すというのはあるんです。そこは鉄オタ上がりの映画人を侮るんじゃない!と(笑)。
──そのあたりのセリフは台本には書かれていたんでしょうか?
いえ、台本に書いちゃうと、ページ数が増えるので。プロデューサーはまずページ数を見るので、ページ数が膨らむと「長いから切れ」と言われてしまう(笑)。切られたくないから、台本からは外しておいて、アフレコの段階でセリフを足してます。
──「Z95B」は低音をしっかりさせながら、上向きスピーカーと横向きスピーカーによる広大で躍動感ある立体音響も進化させ、さらに、前向きのラインアレイスピーカーによって解像感の高いクリアな音を実現しているので、背景のセリフも聞き取りやすくなっているかと思います。
あまり大きな声では言えないけど、このテレビならサウンドバーも必要ないかもしれませんね。音響をアップグレードしたい人がいたら、あれこれそろえるよりこれ1台あれば十分いい。
ビエラ「Z95B」進化した音響のポイントは?
フラッグシップモデルに搭載されてきた「360立体音響サウンドシステム+」が大幅に進化。テレビ背面上部のイネーブルドスピーカーの配置を立体音響に最適化し、間隔を約2倍に広げる新設計で音の広がりを生んだ。さらにウーハーの出力を従来モデルから向上させ、迫力の重低音も実現。部屋中が音に包まれるような臨場感を演出する。
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「やっぱいいなあ」