映画と働く 第5回 [バックナンバー]
撮影監督:山田康介「作品至上主義、作品がよくなるのならなんでもいい」
木村大作、高倉健から教わった“一流の心得”とは?東宝作品で培われた撮影監督としての姿勢を語る
2020年12月3日 18:30 9
助手も一流じゃないと駄目なんだ
──「
──場を収めるために怒ったふりをしてくれたんですね。
はい。僕は胸が苦しくなりながらそのあとに入って行って、中にいた人たちも「相当怒られたんだろうな」って感じですごく緊張していて。そのあと高倉健さんは「
──いいお話ですね……。そうした経験を経て、山田さんが仕事をするうえで決めていることがあれば教えてください。
作品至上主義というか、作品がよくなるのならなんでもいいと思っています。よくなるんだったらこれは入れたほうがいい、よくならないんだったらやめたほうがいいというふうに常に考えるようにしています。
──監督とは方向性のすり合わせをされると思いますが、どういうふうに話し合われるのでしょうか。
僕らの共通言語は映画です。例えば「
──自分の色が一番出せたと思う作品はありますか?
「連続ドラマW そして、生きる」「
──なるほど。また、
そうですね、ここ何本かはスケジュールがなかなか合わなくて実現していないんですが。最初は「僕等がいた」でご一緒したんです。年齢が近いということもあって、今まで聴いてきた音楽も似ているし、どういうものが欲しいかをよくわかり合える間柄。作品に入る前に音楽のプレイリストを作って、「この作品はこういう雰囲気でやりたい」と最初に渡されるんですよ。俳優さんにも共有されるので、あまり見たことがない演出だなと思います。
──ほかの監督との仕事で印象に残ったエピソードはありますか?
駅のホームから始まったステディカム撮影
──山田さんの撮影はステディカムを使用することが多いそうですね。
「僕等がいた」を撮ったときが最初なんです。駅のホームを人物が走るシーンがあったんですが、JRからは「カメラ用のレールをホームに敷いてはいけない」と言われていました。ホームの幅がものすごく狭かったので、ステディカムを使って自分でやってみようと思ったのが始まりですね。通常であればステディカムをレンタル会社で借りる際にオペレーターも一緒にお願いするんですが、ステディカム撮影の海外研修を受けた東宝の先輩に教えていただいていた経緯もあって、そこから自分でもちょっとずつやっていくようになりました。
──ステディカムを操れるカメラマンはたくさんはいないんでしょうか?
みんながみんなできる、というわけではないかもしれないですね。僕も一度ちゃんと学ぼうと思い、ステディカムの販売代理店Tiffenのワークショップがアメリカで年2回くらいあるのでそれを1回受けました。帰ってきてから機材を買ったんです。
──お持ちの機材は自前なんですか!? ちなみにおいくらほどするんでしょうか……。
めちゃくちゃ高いですよ……。細かい機材も含めると1000万円くらいいきますね。
──高級外車が買えるくらいですね……。ではステディカム以外で、相棒のような道具があればご紹介ください。
まずはアングルファインダー。リングでミリ数を合わせて覗くと、そのレンズの画角がわかる単眼鏡です。レンズ選びに使うほかにも、撮影用のレールを敷いたあとに「もうちょっと寄りたかった」と敷き直すことにならないよう、これでアングルを確認しています。これは(第40回)日本アカデミー賞で最優秀撮影賞を獲ったときに、お祝いでいただいたものです。現場で一番使うのはiPad Proですね。台本も全部ここに入れているので、連ドラでも10冊持ち歩く必要がなくなりました。あとはクラウドに入れてもらったラッシュ(※編集前の映像素材)も毎日確認することができるので。現場ではこれだけ持ち歩いてます。
──今日は、カメラマンを目指している人にお薦めしたい1冊も持ってきていただきました。
「マスターズ・オブ・ライト アメリカン・シネマの撮影監督たち」ですね。学生の頃から持っているもので、バイブルです。撮影部でこの本を持っていない人はいないんじゃないかな。学生時代と今読むのでは受け取り方が全然違います。本で撮影監督が話していることが今になってよくわかるというのが多々ありますね。今もたまに開いて読んでいます。
──尊敬する映画人には、撮影監督のロジャー・ディーキンスを挙げていただいていますね。
昔から好きなんです。彼が撮影監督をよく務めているコーエン兄弟の映画も好きで、作品ごとに自分の色がありますよね。一番いいルックになるよう変換していくことができる人だなと思うんです。「
それってフェアじゃない
──今回のコロナ禍で映画業界も大きな打撃を受けました。文化支援要請の声も上がりましたが、これから日本で映画を撮っていくうえで、もっとこうなってほしいという点はありますか?
もし国にお願いしたいことがあるとすれば、もっとロケがしやすい状況にしてほしいということですね。この場所でロケをしたいと思っても、許可が下りないことがめちゃくちゃいっぱいあるんです。韓国で高速道路での撮影をしたいとなったら、国が支援して高速道路の交通止めをしてくれるんですね。でも日本では高速道路で撮影するなんてまず許可が下りない。もちろん迷惑をかけてしまうこともわかってるんですけど、そうやって最初からこれはできませんよとなってくると……。本当はこの場所がよかったけど、違うどこかでという工夫って、結局代案でしかないのでやっぱりイコールにはならないんですよね。もう少し理解が欲しいなというのはあります。行政がいいと言っても、警察には駄目だと言われたりもしますから。
──あちこちに許可申請が必要なんですね。
そうなんですよ。許可をもらうにしても、申請先がいくつもあったりするので、その連携がうまく取れてロケをしやすい状況になればいいなと思います。東京都内は本当に厳しいので。
──ここで撮りたいという場所はありますか?
渋谷ですかね。撮影監督で参加した「
──では最後に若い方へメッセージがあればいただけますか?
スマホでも映像が簡単に撮れるようになりましたし、昔よりは撮影のハードルは下がりましたよね。手軽に撮れるとはいえ、フィルム時代のRGBしか動かせないような時代のノウハウから学べば、今のツールがより使えるようになりますし、もっと楽しくなると思いますよ。
山田康介(ヤマダコウスケ)
1976年5月21日生まれ、福岡県出身。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、東宝映画に入社。「単騎、千里を走る。」「
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