人間国宝の狂言師・
狂言の第一人者であり、94歳となる今もなお現役で舞台に立ち続ける万作は、2023年に文化勲章を受章した。「六つの顔」では、受章記念公演が行われた特別な1日に寄り添いながら、3歳の初舞台から長きにわたり狂言と向き合ってきた彼の軌跡が映し出される。作中には、万作がライフワークとして取り組んできた狂言「川上」の模様や、萬斎、裕基らとともに舞台に立つ姿も収められた。アニメーションを山村浩二、監修を万作と萬斎、ナレーションをオダギリジョーが担当している。
万作はまず最初に「狂言には『このあたりのものでござる』という言い方が大半でございまして、どこの町や村でも通用するということです。しかし『川上』は『大和の国、吉野の里に住まいいたす者でござる』という言葉で始まります。私はこの言葉を大変大事にしており、『大和の国、“この”吉野の里』と言葉を入れています。この役の個性が非常に強いということを考えながら演じました」と観客に伝える。公開を迎えた気持ちを尋ねられると万作は「(狂言を)知っている方も、知らずに観て感動したとおっしゃってくださる方もいるわけでございます。600年の伝統がある狂言の、しかも『川上』を取り上げたことの意義が充分にあったのではないかと思います」と答えた。
犬童は「万作先生は『狂言はまず美しくなければいけない。そのあとに面白さが付いてくる』とおっしゃっています。その言葉に準じた映画になるように心がけました。万作先生のシルエットや佇まいをできるだけ作品の中に残しました」と言及。萬斎は「(万作は)まれに見る存在なわけですよね。監督が(そんな万作を)『美しく撮る』とおっしゃった。映画作家としての腕の見せどころですし、妙な手札を尽くすわけではなく自然体を撮るということだと思います。世阿弥は老木に桜が咲くことが究極の美だと言っていますが、うちの父はそのような現況に入っているわけです。それを観察者・犬童監督が眺めている、これがこの映画のあり方だと思います」と語った。
また萬斎は「世阿弥が書いた『風姿花伝』は能の技術本でもありますが、人生になぞらえる哲学書でもあるんです。この映画では父(万作)の祖父から裕基までつながっていて、“芸の人生とは”ということが描き出されています」と述べる。「川上」について万作は「もちろん、師匠である父から習ったのがスタートでした。そして父や叔父と共演することによって違った感想になっていくし、2人のやり方の違いを見ながら研究してきた気はいたします。幸いにというか、不幸にというか、大蔵流には『川上』がないのです。私たちの和泉流にしかない。それだけこの演目を大事にしていくべきだと思っています」と口にした。
裕基は万作について「おそらく、気持ちとしては僕と同い歳くらいでいたいんでしょうかね。普段から人に頼らずに生活をなさっているんです。人の手を借りずに自分ですべてこなそうとします。舞台の上においても妥協を許しません。日常生活からお手本です」と言葉を紡ぐ。7月に行われた完成披露試写会で「当たるといいですねー!」と発言し場を盛り上げた万作。裕基と萬斎から「締めの言葉は?」と促されると、「『当たるといいな』は下品ですから言わないことにして……当然、当たる!」と大きな声で意気込んだ。
映画「六つの顔」は全国で順次公開中。
映画「六つの顔」本予告
野村万作の映画作品
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向 由佳🇯🇵 | Yuka Mukou @yuka_mukou
【イベントレポート】「六つの顔」野村万作が狂言「川上」への思い語る、萬斎・裕基と舞台挨拶に登壇 https://t.co/DAKzDCFPcK