第75回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を受賞した
ノルウェーの首都オスロを舞台に、自身の心の奥底にある欲望に気付いた人々がウィットに富んだ会話を繰り広げる3作。「DREAMS」では、女性教師に恋をした17歳の少女ヨハンネの赤裸々な手記をめぐる物語が展開する。また「LOVE」では、女性医師のマリアンヌと男性看護師のトールがしっくりくる愛し方を探し、「SEX」では妻子のいる男性が“ある体験”から自身の“男らしさ”を疑い、自分が何者なのかを再考していく。
また「DREAMS」を鑑賞した
ビターズ・エンドが配給する「オスロ、3つの愛の風景」は東京のBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次ロードショー。なお本作と北欧ライフスタイル体験施設「メッツァビレッジ」とのコラボキャンペーンが8月30日から10月19日まで開催される。詳細は続報を待とう。
特集上映「オスロ、3つの愛の風景」へのコメント
玉田真也(劇作家・演出家・映画監督)
社会によってジャンル分けされない感情を解放すること。
ハウゲルードによるこの3部作の登場人物たちは皆、こうした期待を抱き、葛藤している。そしてどの作品でも、人ではない、完全に中立な存在が、社会や人々の考え方が変わっていくその過程を、温かさと好奇心とを持ってただ観察していくような感触を持っている。だからこそ、様々な社会規範、価値観から自由に、ただただ「人は面白い」と、人間たちの行き交い、ドラマを見るような豊かさがある。
Ed TSUWAKI (アーティスト)
引き込まれて3本立て続けに観た。
淡々とした空気の中に立ち現れる、
恋慕や友情や性衝動や猜疑心や夢。
すべての登場人物に自分と重なる
面をどこかしらで見出してしまう。
平凡な人などひとりもいないのだ。
深い洞察に富んだ脚本にしびれた。
川口敦子(映画評論家)
夢、愛、性。いかにもシンプル、そっけなくもあるタイトルから3部作をめぐって勝手に膨らんだイメージを小気味よく裏切って、不思議に魅力的な掴みどころのなさみたいな感触が迫ってきた。親密さと厳格さ、軽やかさと重さ、微視と巨視、主観と客観、若さと成熟、人の暮らしと暮らしの街、人の想いと事物の眼差し──
そうしたものがやわらかにまじりあい、融け合い滲んで誰にも無縁ではないような“クィアネス”に肉薄するそこで「競うべき唯一のことはやさしさ」との洞察を浮上させる──
後藤岳史(映画ライター・編集者)
「DREAMS」は、息せくようで沈着な少女の初恋の手記が、違う時代相を生きた祖母や母の感想へ、無二の体験を勝手に腑分けされる少女の違和感へと視点移動。3つの旋律が重なり響いて雲間に立ちのぼるよう。
「LOVE」では、看護師と医者(泌尿器科という設定が絶妙!)めいめいの一見気軽な恋路が高架下や港の突発事をテコに、あけすけな中にも献身や羞恥を含んで匂い立つ。
屋根の空間が粋な「SEX」もともに、息苦しいほど鋭敏な対話劇も、恋をめぐる気まずさや悪びれも、ふっと窓辺の陽だまりに解き放たれ、都市の余白に溶け出すようで、その涼やかな余韻が跡を引く。
北欧映画には何でもない風景に映画の真髄を見出そうとする遥かな系譜があって、その脈動を感じる。
雪原や樹海の自然美ではなく、カモメが鳴き、鐘が鳴る都市オスロのカームフルな日常風景に。
「DREAMS」へのコメント
今泉力哉(映画監督)
とても好きな作品でした。心が痛かったしずっと苦しかったです。
人を好きになることはどうしてこんなに苦しくて美しいことなのでしょうか。
自分の心に空いた埋められない穴を想いながら見ました。
佐伯ポインティ(マルチタレント)
例えばオーディション番組で
同じ課題曲なのに違う振付だと
全く似て非なるダンスになるように
少女、母、祖母という3世代の女性が
「初恋と性的欲望」をテーマに
異なる価値観で対話していく。
静かに、でもユーモアも忘れずに。
正しさ議論スレ化したSNSに疲れた人を
優しく包み込んでくれる北欧映画~!
鴻巣友季子(翻訳家・文芸評論家)
体験したのは私で、夢見たのも私、書いたのも私なのに、それは文字にして印刷すると、他人のものになってしまう。それが「書く」ということ。それが「語る」ということ。そんな理不尽な世界との衝突を経てひとは生きていくのだと思った。
主演のオーバービーの眼差しの揺れがすばらしい。
清田隆之(文筆家・「桃山商事」代表)
恋のみずみずしさ、嵐のような感情運動、表現に伴うリスク、妄想の持つ暴力性……。
社会的なまなざしを無視して恋愛を描けなくなった時代の、新しいラブストーリーだと感じました。
山崎まどか(コラム二スト)
少女のモノローグで進行していた物語から、三世代の女性たちの声が交錯するディスカッション映画へ。
分かりやすいキーワードに飛びついて自分の娘の経験をカテゴライズする母と、
言葉を選び、本質を抽出するヨハンネの才能に感動し、孫娘に手記の出版を勧める祖母。
世代や女性の権利、性の表現に関する考え方の違いが分かって興味深い。
「LOVE」へのコメント
世武裕子(映画音楽作曲家・演奏家)
私たちは賢くなるほど、本音を隠すのが上手くなる(と、思い込んでいる)。
本当は、愛したり、愛されたいだけなのに!
多様な私たちの等しく平凡な悩みこそが「ここは戦場ではなかったはずだ」と教えてくれる。
映画を通して対話ができる世界を、とても嬉しく思う。
森百合子(北欧ジャーナリスト)
正しい家族の在り方とか、人の愛し方を押しつけてくる社会に息苦しくなったら、
夜のオスロでフェリーに乗って何往復もしながら、「LOVE」の会話を思い出したい。
ゆっきゅん(DIVA)
愛についての、静かで豊かな会話の連続。
周りの友人たちはよくマッチングアプリで出会ったどうでもいい男とのどうでもいい話を面白く教えてくれるけど、本当は「LOVE」のような複雑で優しい機微があったのかもしれない、そうだったらいいのにと思った。
ブルボンヌ(女装パフォーマー)
独身の女性医師がゲイの看護師に教わる出会いアプリの刹那なLOVE。
バツイチのパパがもう一度懸けるLOVE。心を閉ざした年配ゲイが気づくLOVE。
社会が少しでも良くあってほしいと願うLOVE。
街じゅうに瞬くLOVEが愛おしくなる、ノルウェーからの美しい贈り物を見逃さないで!
「SEX」へのコメント
松尾スズキ(作家・演出家・俳優)
人を愛することと、心が自由であることは両立しうるのか。
濃厚で、しかも要所要所で笑える会話劇。
演劇でも見てみたい。
みうらじゅん(イラストレーターなど)
口は災いの元。そして言葉は不確かなもの。
「人間ってやつぁ、本当困ったもんでね」、そんな落語(これは艶笑落語)を聴いた気分。
哀愁もあって名人芸と呼ぶに相応しい映画だ。
五十嵐太郎(建築史家)
煙突はファルス(男根)の象徴である。
だが、二人の男は、心理学の煙突掃除療法さながらに、感情を解放し、性に揺らぎをもたらす。
本作では、常に背後に映し出されるスタイリッシュな都市の風景も見逃せない。
岡野あつこ(夫婦問題研究家)
中年の危機、一線を越えれば愛の脆さを知り、信用が裏切りに変わり、家族を失うこともある。
妻よ、競いあえるのは優しさだけ。多くの期待から俺を解放してくれ。
映画ナタリー @eiga_natalie
「オスロ、3つの愛の風景」玉田真也、世武裕子、松尾スズキら17名のコメント到着
今泉力哉「人を好きになることはどうしてこんなに苦しくて美しいことなのでしょうか」
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#オスロ3つの愛の風景 #ダーグ・ヨハン・ハウゲルード https://t.co/xW4uCDMUwu