舞台「
本作は、山崎豊子の小説「大地の子」を舞台化するもの。脚本をマキノノゾミ、演出を
主人公の一心(勝男)を演じる井上は「『大地の子』は、子供の頃、上川隆也さんが陸一心を演じられたテレビドラマを家族と一緒に毎週泣きながら観て、それから原作小説を何度も読みました。僕自身にとっても大事な物語だったのでその舞台を演じられるのは奇跡のよう。今回の出演が決まったとき、まず両親に知らせました」と思い入れを語る。主人公の一心については「日本と中国の戦中・戦後の歴史を体現するような人物」と言い、「僕たちが演じる姿を観ていたただくことで、他人事ではないというか……自分たちと同じ人間が経験したことなんだと実感してもらえるよう精一杯演じたい」と思いを語った。
会見冒頭では、初公開となる本作のプロモーションビデオが上映され、広大な砂漠に立つ井上の姿などが映し出された。井上は「南房総でドローンを使って撮影しましたが『僕、中国に行ったっけ?』と思ってしまうほどの壮大な仕上がり。撮影に半日ほどかかりましたが、その甲斐があったな(笑)」とコメントした。
一心の妹である張玉花(あつ子)役の奈緒は「舞台化にあたり、私が演じる玉花の目線で物語が進むように脚本が作られました。観客の皆さんと同じ目線に立つ、ストーリーテラー的な役割は初めてなので、大きな挑戦になると思う」と明かす。また奈緒は、「栗山さんがやりたい作品を書きためている秘密のノートがあると聞いたことがありますが、栗山さんはその中から今の時代に届けたいものを選び、正しく届けることを大切にしておられると思います。演劇にはいろいろな届け方があり、自由に受け取っていただくほうが良い作品もたくさんありますが、『大地の子』は私たちが一種の“正しさ”を強く持って届けなくてはならない作品だと思っています」と決意を述べた。
一心の妻となる江月梅役の上白石は、「中国の僻地をめぐる巡回医療隊員で一心さんの命の恩人となる役なので、この物語全体を通じて、1つの灯火のように温かく照らすような存在になれたら」と意気込む。また上白石は、2020年にゲルニカ無差別爆撃を題材とした栗山演出の舞台「ゲルニカ」に出演したことに触れて、「栗山さんのことを演劇の神様のように崇めているので、また稽古場でご一緒できるのが何より楽しみです」「今回も史実を元に作られた物語ですが、戦争を実際に経験した方が減っている中で、役者が語り部として伝えていくべきものがたくさんあると思っています。改めて“平和ってなんだろう”“争うことにはどんな意味があるんだろう”と考えながら皆さんにお届けできたら」と思いを語った。
一心の育ての親となる中国人教師・陸徳志役の山西は「栗山さんとは10年以上、10本ほど一緒にやらせていただいていて。もし自分の年表を作ったら、栗山さんに出会う前と後が“紀元前・紀元後”のように違う(笑)」と信頼を寄せ、「最初は『こんな大作を舞台にできるのか?』とも思いましたが、栗山さんの“マジック”ですごい作品になるのではと楽しみにしています」と笑顔を浮かべる。記者に栗山とのエピソードを聞かれた山西は、「栗山語録という本を出版できるくらい、稽古場で発する言葉が名言ばかり。一番印象に残っているのは『稽古はその役の声を探す時間なんだよ』という言葉。俳優がやるべき仕事の範囲を明確に示してくれ、それをつかむきっかけになる言葉をどんどん投げかけてくださる演出家です」と紹介した。
益岡が演じるのは、中国に残した家族に自責の念を抱き続ける松本耕次の役。益岡は「松本耕次は、私の父とほぼ重なる人生を歩いてきた。テレビドラマ版を観たときも、残留孤児たちが中国で温かい親を見つけて人生を歩んだ姿に胸を打たれたのを覚えています」と述べる。テレビドラマ版で仲代達矢が松本役を演じていたことへの思いを記者に問われると「仲代さんに『同じ役をやるんですよ』という報告すらできなかったことは悲しいですが、(役を)ちゃんとまっとうしたい」と言葉に力を込めた。
さらに会見では、井上が演出の栗山のコメントを代読する場面も。井上は「今日はこの瞬間が一番緊張する(笑)」と姿勢を正しながら心を込めて読み上げたあと、「栗山さんはいつも千秋楽にカンパニー宛の手紙をくださるのですが、それを思い出す素晴らしいお手紙でした」「この場にいないのにカッコ良くて、なんだかずるいですね」と述べて場を和ませた。
会見後、井上、奈緒、上白石の囲み取材が行われ、3人が互いについてトークを展開した。奈緒は「井上さんは同郷・福岡の先輩ですし、萌歌さんも九州出身。近い土地で生まれた私たちがこういった役を演じるのは奇妙な偶然」と喜びを口にし、上白石は「芳雄さんは、姉(上白石萌歌)と何度も共演していたり、私自身も2016年に音楽劇『星の王子さま』で共演させていただいたこともあり、勝手に親戚のお兄さんのような気持ちを抱いています」と明かす。井上は「萌歌ちゃんは一般的に“妹”のイメージがあるので、(奈緒と上白石萌歌)のどちらが妹役かがわからなくなる」と正直に述べて笑いを誘い、12月に上演されるミュージカル「ダディ・ロング・レッグス」では上白石萌歌と相手役を演じるため、「上白石姉妹のファンからは『あいつ~』と疎まれていると思います(笑)」とおちゃめに話した。
本作は来年2月26日から3月17日まで東京・明治座で上演される。チケットの一般販売は12月6日11:00にスタート。栗山のコメント全文と、公演のプロモーションビデオは以下の通り。
栗山民也コメント全文
戦争によってかけがえのない命を奪われた人々に、もう一度言葉を送り、全身を与える。これが演劇の一つの仕事だと、ある劇作家の強靭な姿勢から教えられたことがある。生者と死者は、いつも重なり合う。そのことが私の中に「記憶」という大切な言葉となって強くへばり付き、稽古場でのあらゆる事象と出会うたびに、それが今を映し出す「記憶の再生装置」なのだと考えるようになった。
この山崎豊子さんの「大地の子」を随分と前に読んだとき、広く限りなく拡がる黄色の大地の上を、幾万人もの人たちが並んで歩む姿が、生まれては消える影のような運命の残像に見えた。その歴史をどこまでも深掘りした文章の奥には、その時代の陰惨ないくつもの光景が刻まれている。満蒙開拓団のリアルな歴史が、一人の青年を通して明らかにされていくのだが、お国のためという大義のもと、それは国を上げて推し進められた開拓という占領政策であった。そして、棄てられていった。
写真と文章で綴る江成常夫さんの「シャオハイの満州」という、旧満州の姿を写し出した記録の本が、わたしの机の上にある。この物語を考える中で、何度もページを開き、そこに写された残留孤児たちの顔を見つめる。今、何を語り掛けようとしているのか。そのぼんやりとどこか漂うような目の奥から、こちらに向かって厳しく無数の感情で問いかけてくる。
──誰も置き去りにしてはいけない。誰もが世界から必要とされているのだから──
そんな死者たちの無数の声が聞こえてくる。
この「シャオハイ」という言葉は、中国語で子供のことである。
稽古に入る時、いつもこんなことから始める。物語に描かれた時代を見つめるため、その時代のその場所の真ん中に自分を立たせてみる。そこで見えてくるもの、聞こえてくるもの、肌で感じるものすべてを、全身で受け止める。時の記憶、場所の記憶を自ら体験してみることから始める。
素敵な俳優たちが、揃った。みんなで、この物語をしっかりと丁寧に力を込めて、嘘のない舞台にしたいと思う。
舞台「大地の子」プロモーションビデオ
大地の子
開催日程・会場
2026年2月26日(木)〜3月17日(火)
東京都 明治座
スタッフ
原作:山崎豊子「
脚本:マキノノゾミ
演出:
出演
陸一心(松本勝男):
張玉花(あつ子):
江月梅:
陸徳志:
松本耕次:
袁力本:飯田洋輔
黄書海:浅野雅博
増子倭文江 / 天野はな / 山下裕子 / みやなおこ / 石田圭祐 / 櫻井章喜 / 木津誠之 / 武岡淳一 / 薄平広樹 / 岡本敏明 / 加藤大祐 / 越塚学 / 西原やすあき / 咲花莉帆 / 清水優譲 / 武市佳久 / 田嶋佳子 / 常住富大 / 角田萌果 / 内藤裕志 / 松尾樹 / 松村朋子 / 丸川敬之
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