草彅剛が主演を務める「
本公演は、
舞台上は、木製の壁と床に囲まれ、その奥には、腰をかけることができる長椅子が設置されている。壁には上手から下手にかけて、切り裂いたような割れ目があり、その裂け目は舞台上にアクセントをもたらすほか、演出にも巧みに活用された。幕が開くと、下手から俳優たちがぞろぞろと舞台上に現れ、舞台奥の長椅子に次々と着席。客電が落ちると、おもむろに忍成が立ち上がり、アントーニオとして、自分の財産を積んだ船の話をしながら、舞台前方へと歩みを進める。その様子を、長椅子に座った俳優たちは無表情で見つめているが、自分の役の出番になり、立ち上がると一転、表情に生気が宿り、それぞれの役を生き生きと演じ出す。物語はテンポよく進み、俳優たちがセリフに連動した、オーバーでコミカルな身体表現をすることで、作品全体はシュールな笑いに満ちていた。
草彅演じるシャイロックが登場するのは、バサーニオとアントーニオが友情を確かめ合うシーンや、ポーシャが各国の男性から求婚され、辟易しているシーンなど、主要な登場人物が一通り現れたあと。舞台奥の長椅子から草彅が立ち上がり、満を持して舞台前方に歩き出すと、それまで舞台上にあった明るい空気感は消え失せ、緊張感が漂う。白髪交じりで、クラシカルなスーツ姿にオーバーサイズのブラウンのコートを羽織った草彅は、緩急ある芝居で、シャイロックの皮肉めいた性格を表現。アントーニオに金を貸すシーンでは、アントーニオを挑発するように犬のモノマネをしたり、人好きのする笑顔を浮かべつつ、瞳は冷徹さをたたえたりと、ギャップのある演技で観客をぞっとさせる。一幕のラスト、娘のジェシカ(華)が、バサーニオらの友人の1人・ロレンゾー(小澤)と駆け落ちしたあとの場面では、草彅は、シャイロックの悲哀を、観客の胸を打つような切々とした語り口で述べ、単に“悪人”とは決めつけ難い、シャイロックの複雑な胸の内を細やかに描き出した。
忍成は、敬虔なキリスト教徒であり、無利子で人に金を貸す親切さを持ち合わせたアントーニオを、品の良い佇まいで、やや神経質そうな男として立ち上げる。バサーニオに対しては、表情や言葉に優しさを感じさせるが、毛嫌いするシャイロックに対しては、軽蔑した眼差しを向け、高慢さを演技に漂わせた。野村は、長い黒髪に濃い紫のスーツ姿で、ポーシャへの思いに胸を高鳴らせるバサーニオを、ロマンチックな男として演じる。また、ドレッドヘアーに、黒とショッキングイエローの衣裳に身を包んだ大鶴は、バサーニオの友人・グラシアーノを明るい青年として表現。バサーニオからその軽薄さを咎められた場面では、心を入れ替えたことをハキハキと宣言したあと、三点倒立を披露し、そのトリッキーな動きで観客の笑いを誘った。
佐久間演じるポーシャが、各国の男たちから求婚されるシーンは、見どころの1つ。佐久間は美しさと聡明さを併せ持ったポーシャを説得力を持って演じ、世界各国からやってきた男たちを「悪く言ったらいけないのはわかっていますが」と前置きしつつ、その悪点を辛辣に述べていく姿や、求婚のためベルモントにやってきた男たちを迎えるときの、丁寧な言葉遣いとは裏腹の嫌そうな態度で、客席を笑いで包む。長井は、侍女・ネリッサを愛らしくもコミカルに立ち上げ、佐久間と息の合ったセリフのやり取りで、シーンに笑いを足した。シャイロックの娘・ジェシカ役の華は、シャイロックとのシーンでは従順な娘として、同役を楚々と演じるが、ロレンゾーと駆け落ちするシーンでは、ジェシカの弾ける恋心を身体いっぱいで表現。ロレンゾー役の小澤も、バサーニオらといるときは同役を冴えない青年として表現するが、ジェシカを前にしたときはその瞳を輝かせ、存在感を発揮した。
開幕に際し、草彅は「森さんの演出にくらいつき高みを目指して、一生懸命毎日稽古に励みました。これだけ汗と涙を稽古場で流していれば、必ずいい初日を迎えられると思います! 皆さんにはシェイクスピアが400年も前に書かれた、喜劇と悲劇の冥利に酔いしれて頂きたいです!」とコメントした。
上演時間は、休憩ありの約2時間45分。東京公演は12月22日まで。このあと本作は、26日から29日まで京都・京都劇場、来年1月6日から10日まで愛知・御園座で行われる。
ヴェニスの商人
2024年12月6日(金)〜22日(日) ※公演終了
東京都 日本青年館ホール
2024年12月26日(木)〜29日(日) ※公演終了
京都府 京都劇場
2025年1月6日(月)〜10日(金)
愛知県 御園座
スタッフ
脚本:
訳:
演出:
出演
※草なぎ剛のなぎは弓へんに前の旧字体、その下に刀が正式表記。
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