AI音声、偽物、キャラクター…市原佐都子が新作「キティ」を語る

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2月17日に開幕する市原佐都子 / Q「キティ」の会見が、昨日1月17日に京都・ロームシアター京都で行われ、作・演出を手がける市原佐都子とロームシアター京都プログラムディレクターの小倉由佳子が登壇した。

市原佐都子 / Q「キティ」記者会見より、市原佐都子。

市原佐都子 / Q「キティ」記者会見より、市原佐都子。

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市原佐都子 / Q「キティ」記者会見より。左から市原佐都子、ロームシアター京都プログラムディレクターの小倉由佳子。

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まず、小倉が企画の概要を説明。「市原さんとロームシアター京都が共に創作するのは、『妖精の問題 デラックス』に続き2回目です。『妖精の問題』はすでに上演され評価も得ていた作品のリクリエーションでしたが、今回はロームシアター京都にとって初の、市原さんの書き下ろし。“市原さんと作品を作る”という話をすると、国内外から問い合わせがくるほど、市原さんは今、世界から注目されている方です。そんな市原さんの新作をロームシアター京都で上演できるのは光栄なこと」と思いを述べた。

市原佐都子 / Q「キティ」記者会見より、市原佐都子。

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本作の構想段階では、韓国でのリサーチも行われた。小倉は「近くて遠い、似ているけれども違う国をリサーチすることで面白いことが出てくるのではないか、と考えてのことだったのですが、リサーチの具体的なテーマや何にフォーカスするかは市原さんご自身が見つけてくださいました」と説明。作品については「タイトルの『キティ』は、“かわいい”を象徴する子猫の意味です。主人公の猫が、パパ、ママ、ペットと暮らす家庭の中、そして家庭の外で違和感を増幅させていくようなストーリーとなっています」と明かす。また昨年12月には、市原が芸術監督を務める兵庫・城崎国際アートセンターでクリエーションと成果発表が行われた。小倉は「これまでの市原作品の中でも、かなり大きな世界観で描かれる作品となっています。戯曲の面で取り上げられることが多い市原さんですが、今回は演出的な挑戦もかなり盛り込まれています」と期待を煽る。なお本作には、音楽・サウンドデザインを担当する荒木優光、衣裳を手がけるお寿司の南野詩恵、出演者の花本ゆかと、京都を拠点に活動するアーティストが多数携わっており、小倉はその点についても注目してほしいと話した。

市原佐都子 / Q「キティ」成果発表の様子。(photo by bozzo、提供:城崎国際アートセンター(豊岡市))

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続けて市原があいさつ。市原は「韓国についていろいろな書籍を読んだ中で、性売買に関する考え方が書かれたシンパク・ジニョンさんの『性売買のブラックホール』という本に興味を持ちました。性売買については大きく分けると2つの考え方があり、1つは性売買を仕事として認めることでその人たちの権利を守っていこうという考え方、もう1つは性売買は性的虐待だからその人たちを保護していこうという考え方があり、両者の間には高い壁があります。その問題に対して、私は作家としてどう向き合えるかを考えたいと思い、韓国のアクティビストの方に会いに行ったり、作家の方に会いに行ったりというリサーチを韓国で行いました」と話した。さらにそのリサーチの過程で、商品として消化される“キャラクター”の存在が気になったといい、「何でも商品化されていく社会で、性もキャラクターも商品化されていく……そこからインスピレーションを得て、創作を始めました」と明かした。

市原佐都子 / Q「キティ」成果発表の様子。(photo by bozzo、提供:城崎国際アートセンター(豊岡市))

市原佐都子 / Q「キティ」成果発表の様子。(photo by bozzo、提供:城崎国際アートセンター(豊岡市))[拡大]

今回の見どころの1つとして、日本、韓国、香港の俳優が出演することが挙げられる。韓国よりソン・スヨン、日本より青年団の永山由里恵、香港よりバーディ・ウォン・チンヤンが参加しており、花本以外の3人は、2018年に韓国で上演された市原作・演出作「私とセーラームーンの地下鉄旅行」に出演している。市原は「3人とも東アジアの人間で外見は似ているけれど、話す言葉がまったく違う。その3人がそれぞれの母語でセリフを話し、字幕を付ける……だけでは面白くない。もっと面白がれるやり方はないかと考えました。そんな中、サウンドアーティストの荒木優光さんがAI音声を提案してくださって。AI音声って、例えば私の声を採取し、そこからAI音声を生成すれば、私の声で好きなように好きな言語でしゃべらせることができるんです」と説明する。

市原佐都子 / Q「キティ」成果発表の様子。(photo by bozzo、提供:城崎国際アートセンター(豊岡市))

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さらに市原がヒントを得た出来事として、「先日インドネシアに仕事で行ったときに、さまざまなキャラクターの“偽物”がいっぱい売られているのを見かけました。その“偽物”の中には面白いものもたくさんあって、そんな“偽物のキャラクターみたいな演技”ができないかと考えたんです。オリジナルからアイデアだけ抜き取られてコピーが増えていく状況が、今のAI技術を巡る状況とすごく似ているんじゃないかなと。そこから、俳優の生の声から生まれたAI音声がセリフをしゃべる、という演出を考えました。なので俳優は今回、自分の肉声では発語しない予定です」と構想を語った。さらに本作では「かわいい」が1つのキーワードになっている。その点について市原は「『かわいさ』って、生き残るため、庇護してもらうための戦略的なものでもあって……そう考えると、かわいいって全然かわいいことじゃないんじゃないか、と感じています」と話した。

市原佐都子 / Q「キティ」記者会見より、市原佐都子。

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市原にとって本作は、「どうなるのか見えないまま、予感に従って進んでいる作品」だと言う。「もちろん、作品を作るということは毎回毎回チャレンジなので、常に『どうなっちゃうんだろう』と思いながら作っていることに変わりはないのですが、今回は特にそのチャレンジが多く、正直なところ作品として成り立つのだろうかという思いはあります。俳優の方たちも『こういうふうに舞台に立ったことはない』と言っていて……(笑)。でも、『演劇ってこういうものだ』というイメージが裏切れたら良いなと思います」と爽やかな表情で語った。

公演は2月17日から24日までロームシアター京都 ノースホールにて行われる。また3月1・2日には「シアターコモンズ'25」でも本作が上演される予定だ。東京公演の詳細は今後の発表を待とう。

ロームシアター京都 レパートリーの創造 市原佐都子/Q「キティ」トレーラー

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市原佐都子 / Q「キティ」

2025年2月17日(月)〜24日(月・振休)
京都府 ロームシアター京都 ノースホール

2025年3月1日(土)・2日(日)
東京

スタッフ

作・演出:市原佐都子
音楽・サウンドデザイン:荒木優光
衣裳:南野詩恵

出演

ソン・スヨン / 永山由里恵 / バーディ・ウォン・チンヤン / 花本ゆか

※京都公演はU-25割引、リピーター割引あり。車いす席、ポータブル字幕機などの観劇サポートあり。

公演・舞台情報
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薙野信喜 @nonchan_hg

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