「MPAD2023」3日目となる11月17日には、
2011年に始まった「MPAD」は三重県内の飲食店・寺院を会場に、料理と俳優の身体を通じて名作・古典のリーディング公演を楽しめる企画。「芋虫」は石川県を拠点に活動する演芸列車「東西本線」の西本浩明と、金沢舞踏館の
「芋虫」の会場となったのは、津駅から徒歩約10分の塔世山 四天王寺。広い庭が印象的な四天王寺は「MPAD」でおなじみの会場で、今回は津市大門のおばんざいバルすみすの料理が振る舞われた。
“すみすおばんざいシリーズ”と題されたこの日のメニューは、スパイスの香り漂う煮込みハンバーグ、ナスと豚肉が味わい深いのナスの豚しそ挟み煮、松坂牛の赤身肉を使ったカッパ煮込みなど6種が載ったワンプレートご飯。全体的に食べやすく、ボリュームたっぷりのメニューが、すみす店主の気遣いであることは、配膳時に自らお茶を淹れたり、食後のクッキーを配ったりしている様子を見て伝わってきた。
食後は本堂に移動。会場の準備を待つ間、四天王寺住職の説法を聞いた。住職は四天王寺の由来や、画家・塩澤文男が奉納した天井絵について説明しつつ、「これから上演される演目にも、命の中の苦しみや悲しみを感じながら見ていただきたい」と結んだ。
再び座敷に戻ると、縁側のふすまがすべて取り外され、紅葉が美しい庭が目の前に広がった。縁側の中央には、台の上に4枚の畳が置かれ、張り出し舞台のようになっている。その部分は照明に照らされているが、庭はライトアップされた一部を除き闇に包まれていた。
まずはプログラムディレクターの志賀があいさつ。続けて西本が庭から姿を現し、「芋虫」の作者・江戸川乱歩が三重県名張市の出身であること、本作が今年5月に三重県名張市で開催された「ココカランポ#2」で好評を博した作品であることなどを説明した。そしてもう1人の出演者である松本を呼んで来ますね、と一度引っ込み、再び出てきたときには、手足と顔が着物の中にすっぽり包まれた“何か”を連れ、それを畳の上に乗せた。
「芋虫」では、戦争で手足と五感のほとんどを失って生還した須永と、彼に尽くす妻・時子のグロテスクかつエロティックな物語が描かれる。聞いているだけで情景が浮かんでくる西本の語りに、松本のぬめっとした動きが、妙な具体性と奇怪さを加える。特に、どさっどさっと脚を踏み鳴らす様や、亀のように首を伸ばしながら顔を歪める動きは、須永の無言の存在感や内なる呻きを表しているようで、観客の想像力を掻き立てた。物語の後半は、庭全体を使った演出となり、暗闇の中、樹々の間から垣間見える松本の白い身体が不気味に光った。
「MPAD2023」は11月24日まで行われる。
「MPAD2023」
2023年11月15日(水)~24日(金)
三重県 各所
林英世「犬を連れた奥さん」
2023年11月15日(水)※公演終了
三重県 radi cafe apartment
作:アントン・チェーホフ
訳:小笠原豊樹
演出・出演:林英世
田中遊×広田ゆうみ×行灯社「『耳で楽しむ古事記』~その3 因幡素兎」
2023年11月16日(木)※公演終了
三重県 キッチンワークペコリーノ
編纂:太安万侶
現代語訳:橘雪子
出演:田中遊、広田ゆうみ
演奏:行灯社
西本浩明「芋虫」
2023年11月17日(金)※公演終了
三重県 塔世山 四天王寺
作:江戸川乱歩
演出:
出演:西本浩明、
うさぎ庵「十二月八日」
2023年11月22日(水)
三重県 うなぎ料理 はし家
作:太宰治
演出:工藤千夏
出演:大井靖彦
theater apartment complex libido:「残像に口紅を」
2023年11月23日(木・祝)
三重県 中津軒
作:筒井康隆
演出:岩澤哲野
出演:松本一歩
大谷朗×角ひろみ「藤十郎の恋」
2023年11月24日(金)
三重県 割烹旅館 八千代
作:菊池寛
演出:角ひろみ
出演:大谷朗
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油田 晃 @yudaakira
圧倒的な上演となったMPAD・四天王寺での江戸川乱歩「芋虫」。その様子、レポート頂いております。 https://t.co/089brrgiew