三谷幸喜の染五郎推しに幸四郎が牽制「主役は僕ですけどね！（笑）」

「六月大歌舞伎」夜の部で上演される「三谷かぶき『月光露針路日本（つきあかりめざすふるさと）』風雲児たち」の稽古が、本日5月22日に報道陣向けに公開された。

三谷幸喜が作・演出を手がける「月光露針路日本」は、みなもと太郎のギャグマンガ「風雲児たち」を題材とした新作歌舞伎。三谷が歌舞伎を手がけるのは2006年の「PARCO歌舞伎 決闘！高田馬場」以来約13年ぶりとなり、歌舞伎座で三谷の作品がかかるのは今回が初となる。

物語の舞台は、鎖国によって外国との交流が厳しく制限される江戸時代後期。大黒屋光太夫（松本幸四郎）は、商船の船頭として伊勢を出帆するが、嵐に見舞われ大海原を漂流することに。乗組員17人での漂流は、8カ月におよび……。本日公開されたのは、1幕の1場。波幕の上に設置された船のセットの上で、物語は進行していく。幸四郎ら出演者は、歌舞伎の所作を交えつつ、コミカルな演技で舞台を盛り上げていった。

稽古後には囲み取材が行われ、幸四郎、市川猿之助、片岡愛之助、松本白鸚、そして三谷が参加した。三谷は、「パルコ劇場で上演した『決闘！高田馬場』は、“歌舞伎っぽく作らないと歌舞伎でなくなってしまう”という不安がどこかにありました。でも今回は、歌舞伎座で上演する時点で、何をやっても歌舞伎。好きにやらせてもらおうと、逆にかなり自由な発想で作らせていただきました」と自信をのぞかせる。

さらに三谷は、「『三谷幸喜の作品をやるから……』と今回初めて歌舞伎座に足を運んでいただく方には、歌舞伎の面白さとすごさを知っていただきたいし、普段歌舞伎をご覧になっている方にも『こういうのもあるんだ。これも歌舞伎なんだ』と思っていただきたい。そうでないと、挑戦する意味がないと思うので」と、本作への思いを真摯に語った。

「決闘！高田馬場」にも出演した幸四郎は、「歌舞伎座で三谷さんと再会できてうれしい。三谷さんの演出を受けるのは本当に楽しいです」と笑顔を見せる。白鸚も「『高田馬場』は素晴らしかったです。今回、出演させていただけてワクワクしています」と声を弾ませ、愛之助も「『高田馬場』を観て、こういう歌舞伎に出演できたらと思っていたので、実現してうれしいです」と続いた。

一方、猿之助が「我々は歌舞伎座でやるからこその怖さもありますけど、そこは三谷さんが責任をとってくれるので（笑）。三谷さんを信じて、全員で力を尽くしていきたいと思います」と述べると、共演者たちも同意する。すると三谷が、「怖さ？ なぜ今急に言うんですか？ ……歌舞伎座だからというプレッシャーはなかったんですが、今ちょっと不安になりました」と動揺を見せ、記者たちの笑いを誘った。

歌舞伎という普段と違うフィールドでの稽古について三谷は、「皆さん、冗談を言って不真面目な感じを出すこともありますが、いざ舞台の上に立ったら、とてつもない力を発揮される。僕はただ見てるだけです」と出演者に全幅の信頼を寄せつつ、「歌舞伎俳優さんは皆さん演出家でもあるわけですから、たまに僕を通さず、勝手に音楽の方に交渉していることがあります。一応、僕を通してください（笑）」と釘を刺す一幕も。出演者たちが「すみません（笑）」と苦笑すると、会見場は再び笑いに包まれた。

最後に三谷は、「犬ぞりでシベリアの雪原を走る、歌舞伎座始まって以来のスペクタクルシーンも見どころです。あと、市川染五郎さん。今日は学校の関係でいらっしゃらないんですけど、彼が出ているだけで、お客様は“元が取れる”みたいな。ずっと彼を見ていたいですね。肌がつやつやなんですよ。いい子です」と磯吉役で出演する幸四郎の息子を絶賛。これを聞いた幸四郎が、「主役は僕ですけどね！（笑）」と隣でツッコミを入れ、取材は締めくくられた。

「三谷かぶき『月光露針路日本（つきあかりめざすふるさと）』風雲児たち」が披露される「六月大歌舞伎」は、6月1日から25日まで東京・歌舞伎座にて。昼の部では「寿式三番叟」「女車引」「梶原平三誉石切」「恋飛脚大和往来 封印切」が上演される。