京都のラッパー・ヒビキがEP「Solids」配信、怒りや渇望を力強くスピット

京都を拠点とするラッパーのヒビキとビートメーカーのzyagyoによるEP「Solids」が昨日2月28日に配信リリースされた。

本作には2人がコライトして制作した全5曲を収録。UKヒップホップやダンスミュージックを中心としたサウンドに乗せて、怒りや渇望を力強くスピットした作品となっており、ayumu haradaが手がけたアートワークはアーティスト自身の沸々とした感情を感じられる仕上がりになった。

また本作のリリースに合わせて、文筆家・ライターのつやちゃんが紹介文を寄せている。

つやちゃん ライナーノーツ

音楽を聴いていて感情がたかぶる瞬間はたくさんあるけれど、感性がほとばしるような光る原石を見つけた時の興奮は、何ものにも代えがたい。それは、才能があるか否かという次元を超え、「お前らこっち向けよ、絶対見つけろよ」という強い意思が発された音の塊としてエナジーを発している。

彼より巧いラッパーはたくさんいるし、もっと「それっぽく」完成されたサウンドとして聴かせられるミュージシャンも多くいる。だが、これほどまでラップすることの必然性を帯びた楽曲というのはなかなかない。ラップが当たり前のものとして鳴っていない。這うように生きながら、たった今この瞬間にラップと出会ったことで命を救われたようなアクチュアリティがみなぎっている。

ロンドンの薄汚いクラブのフロアを淫靡に揺らすようなダビーさで始まる本作は、いきなり「スーツに袖通した18 通さなかった22 / 筋を通す歌詞」という強引な押韻から始まる。まずこの時点で、zyagyoというビートメイカーとラッパー・ヒビキの鋭いキレが伝わるだろう。そのまま2曲目の「Solids」では、声色を変え性急なラップでまくしたてる。息継ぎのタイミングを頻繁に配することで、宙吊りのままシンセになぶられるような暴力性が香り立つ。じっとしていられない気ぜわしさは、3曲目の「Local」で「Local Local ここはどこ？」というリリックにより京都という土地性をあぶりだし、4曲目の「DND feat.TERU」では具体的なリリックが日常を照射する。この曲はいくつかのアイデアを繋げたような構成になっており、ラップにおいて多くの技巧が尽くされている点で、本作のハイライトに挙げたい。ドリル / ジャージードリルのビートの上で揺れながら「食う寝る食うを縫うグルーヴ」といったパンチラインを不規則な息継ぎで披露し、フックで気持ち良い / 悪いのギリギリを綱渡りするパフォーマンスは圧倒的だ。5曲目の「So What?」もそうだが、ベースミュージックのリアルな猥雑さが、粗暴なフロウと相まって緊張感を演出している。

聞くところによると、彼らにとっては現在住んでいる京都のNC4K、大阪のFULLHOUSEといったチームが展開するパーティの存在も大きいらしく、全身でサブウーファーを浴びる経験が本作のビートを駆動させているようだ。まだまだ正体のつかめないラッパーだが、影響源を尋ねると実に幅広いミュージシャンが返ってきた。StormzyにVince Staples、Rudimental、KID FRESINO、KM、小袋成彬、そしてKanye Westの「Yeezus」。本作と通じる要素もあるし、繋がらないものもある。まだ才能が断片的にしか見えてこないからこそ、今後どのような全貌を見せるのかが楽しみで仕方ない。間違いなく言えるのは、星の数ほどのラッパーが活動する現行シーンにおいて、最もラップを必要とし、最も息をつかせぬラップをしているのがヒビキであるということだ。果たして、ヒップホップに救われた私たちがこの熱量を見過ごすことができようか。新たな才能の登場に、胸の高鳴りがとまらない

ヒビキ & zyagyo「Solids」配信ジャケット

01. Solids Intro
02. Solids
03. Local
04. DND feat. TERU
05. So What?