この日の湿度は高めだったものの、梅雨時の週末には珍しい好天。雲から美しい夜空が顔を出す瞬間もあり、今の彼らに吹く追い風と“晴れバンド”ぶりを証明しているようだった。
開演時間を5分ほど過ぎた頃、野音独特の穏やかな空気を引き裂くようにものものしいブザーが響く。始まりを告げる音にせき立てられるようにオーディエンスは席を立ち上がる。そして観客の興奮が最高潮に達したとき、ステージ後方の真っ青なカーテンがゆっくり開き、純白のスモークに包まれメンバーが横並びで登場。その予想外の出現方法に観客はどよめき、続いて大きな拍手で4人を迎えた。
4人はサプライズが成功したとばかりに会心の笑みを浮かべステージ前方に移動すると、ツアーのテーマ「Tinyfoot ~theme of Turkeyism~」を鳴らす。野音に立っていることの興奮を隠しきれない光村龍哉(Vo,G)は雄叫びを上げ、オーディエンスの熱気を急上昇させる。そして、そのテンションを保ったままライブの定番ナンバー「THE BUNGY」へとなだれ込んだ。
もともと「All, Always, Walls」シリーズは「古い曲も新しい曲もごちゃ混ぜでお届けしよう」(光村談)というコンセプトで行われていることもあり、この日のセットリストも新旧の楽曲を取り入れたバラエティに富んだ内容。さらに攻撃的なロックチューンの後にラブバラードを持ってきたりと、起伏の激しい曲順にオーディエンスは圧倒されっぱなしだった。
「THE BUNGY」に続いて披露された「武家諸法度」で骨太なグルーヴを紡ぎ出し、「3年目の頭痛薬」では古村大介(G)のキレ味の鋭いギターに光村のねっとりとした歌声が絡み合う。4曲目の「アボガド」の途中で光村は「もっと来い! もっと来い!」と煽り、序盤からトップギアを入れっぱなしの状態でライブは進んだ。
光村の「この場所にふさわしい曲をやります」という言葉に続いて披露された「(My Sweet)Eden」では、ギターの美しいディストーションが空気を伝い野音を“楽園”へと変えていく。「病気」では野間康介(Key)を迎え、楽曲の持つ色気と不穏さを倍増。「B.C.G」では古村、坂倉心悟(B)、対馬祥太郎(Dr)のエッジが効きまくったプレイが生々しく耳を突き刺した。しかし、なんといっても中盤のハイライトは、夕暮れどきに演奏された「トマト」だった。真っ赤なライトがステージ全体を染め、心地良い風が吹く中、野間の繊細なキーボードから始まったこの曲は、粋な照明の演出と楽曲の情感豊かな世界観、野音独特の空気が見事に溶けあい観客を酔わせた。
ライブに華を添えたキーボディストを送り出した後は、放課後の部室さながらの牧歌的なMCコーナーに。まず光村がツアー開始前に、日本一周の旅をバーチャル体験できる歩数計を全員で購入した旨を説明。大阪、名古屋、東京でツアーが行われることを受け、1カ月前に大阪から東京まで歩くという目標を掲げたことが明かされ、本日めでたくツアー最終日ということで結果発表の場が設けられた。
まずは坂倉が「和歌山県和歌浦」まで到達したことを発表し、続いて対馬が光村のクチドラムロールに乗せ「和歌山県広川町」にいることを宣言。光村は「大阪府貝塚」に留まっていることを明かし、「まぁ、ゆったりとね」とお茶を濁す。そして、最後の発表者古村は声高に「東京都!」と叫ぶ。しかしステージ上のメンバーはその功績を称えるどころか、半笑い気味。光村に「何歩歩いたの?」と突っ込まれると、古村は「今日が7130歩。累計歩数が7130歩……」と小さな声で答え、野音直前に歩数計をなくし急遽新しい物を購入して来たことを告白。さらに、光村の口からトドメと言わんばかりに「出発地点を大阪じゃなくて、東京に設定したんだよな」と暴露されると、ステージにつっぷし場内を爆笑させた。
メンバー間の仲の良さをうかがわせる微笑ましいMCの後は、再びライブモードへと突入。軽やかなドラムから始まる「バニーガールとダニーボーイ」でコール&レスポンスを展開し、楽曲のイメージに合わせた青白いライトがステージを照らした「Broken Youth」では強靱なプレイで観客を圧倒。「GANIMATA GIRL」ではステージサイドに設置された筒から金のテープが爆発音とともに発射され、野音に漂うお祭りムードに拍車をかける。しかし、その陽気な空気は「夜の果て」で急転。悲鳴のようなギターと重々しいリズムが闇を切り裂き、狂気を感じさせるボーカルが夜空にこだました。
本編の終盤を飾ったのは「風人」「そのTAXI,160km/h」「ビッグフット」の3曲。「音楽で抑圧されているものをぶち破りたいと思って書きました」という光村の言葉に続いて披露された映画「蟹工船」の主題歌「風人」では、ハードなサウンドと確信に満ちた言葉が耳と心を震わせる。その勢いを保ったまま剛速球ナンバー「そのTAXI,160km/h」を畳みかけ、「ビッグフット」でバンドの持つダイナミズムをあますことなく表現した。
本編の熱気と興奮を残したまま始まったアンコールは、この季節にふさわしい「雨のブルース」からスタート。控えめな照明に浮かび上がる4人のシルエットは大人びた色気を匂わせ、この日何度目かのため息を誘った。極上のポップネスを放つ直球のロックチューンに仕上がった新曲「ホログラム」を東京のファンにプレゼントした後は、ライブ告知を経て、ラストナンバーの「image training」に。ライブには欠かせないナンバーを、いつになく堂々と響かせ2時間半におよんだライブに幕を下ろした。
初の野音を盛り上げるべく、大がかりな仕掛けや演出を随所に用意しつつ、それに引けを取らぬパフォーマンスを披露した4人。バンドの持つ底力とスケール感は昨年末の赤坂BLITZ公演に比べ格段に増幅し、彼らがまだ進化中であることを確信させた。
「NICO Touches the Walls LIVE2009 All, Always, Walls vol.3 ~Turkeyism~」日比谷野外大音楽堂公演セットリスト
OP. Tinyfoot ~theme of Turkeyism~
01. THE BUNGY
02. 武家諸法度
03. 3年目の頭痛薬
04. アボガド
05. (My Sweet)Eden
06. 葵
07. 病気
08. B.C.G
09. トマト
10. バニーガールとダニーボーイ
11. Broken Youth
12. GANIMATA GIRL
13. 夜の果て
14. 風人
15. そのTAXI, 160km
16. ビッグフット
EN1. 雨のブルース
EN2. ホログラム
EN3. image training
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ノスタルジー鈴木 @nikutaino_akuma
NICO Touches the Walls 野音ライヴ※を楽しんでから10年、彼らがひとつの時代に幕を下ろすという報あり。
いつもナイスなバンド・サウンドを届けてくれましたね。
※野音 2009.06.20
https://t.co/Wq4ZcruiHj