奇妙礼太郎アルバム「オールウェイズ」インタビュー|バンドとともに鳴らす2年ぶりアルバム

奇妙礼太郎のアルバム「オールウェイズ」がリリースされた。

「オールウェイズ」は2023年6月に発表された「奇妙礼太郎」以来およそ2年ぶりのオリジナルアルバム。奇妙礼太郎BANDのバンマスも務めている中込陽大がプロデュースを担当しており、映画「私にふさわしいホテル」の主題歌「夢暴ダンス」を含む全10曲が収められている。本作のリリースを受け、音楽ナタリーは奇妙にインタビュー。アルバム全体の構想から、各楽曲の制作の裏側まで、リラックスしたムードで語ってもらった。

取材・文 / 小松香里撮影 / YURIE PEPE

もっと意味がなくていいのに

──「オールウェイズ」では、前作「奇妙礼太郎」に続いてご自身が全曲の作詞に携わっています。プロデュースは中込陽大さんが担当されていますが、どういった経緯でこの座組みでアルバムを作ることになったのでしょうか?

これまでも中込さんとご一緒することがあった(2017年リリースのアルバム「YOU ARE SEXY」)し、バンド編成でライブをやるときもバンマスを中込さんにお願いしていたんです。「オールウェイズ」は、バンド編成でアルバム制作に挑戦してみたいなと思ったところから始まったアルバムで。中込さんとベースの村田シゲさんに「次のアルバムはバンドで録りたいと思ってるんやけど」と相談したときに、「どんなものを作ろうか」と話が発展していく中で「古めのソウルミュージックっぽくするのがいいかも」というアイデアが出て。その頃、「私にふさわしいホテル」という映画の主題歌の依頼が来て、「夢暴ダンス」をバンドで制作しようということになり、そこからアルバム作りが始まりました。

奇妙礼太郎

──作詞の面でトライしたことはありましたか?

うーん。毎回そこまで伝えたいことがないので、歌詞はずっと「どうしよう?」って悩んでいます(笑)。

──サウンドとしては古めのソウルミュージックを目指した、と。

そうですね。「夢暴ダンス」は、まんまそういうサウンドやと思いますし。昔のソウルミュージックは好きなんですけど、僕自身詳しくはなくて。ただ、中込さんが詳しいので、いろんな引き出しを開けてトラックを作ってくれました。そのトラックを聴きながら、音をいろいろ当てはめていく形で作っていきましたね。

──2曲目の「スケベなSONG」もバンドでレコーディングした曲ですよね。

そうですね。「夢暴ダンス」と同じ日に録りました。最初は全然違う歌詞とメロディやったんですけど、なぜか「スケベなSONG」と歌う曲になりました。

──「スケベ」という言葉を聞く機会は減ってきていますけど、なぜあえてそのワードをチョイスしたんですか?

最初はもっと真面目な歌詞を書いていたんですけど、途中で「この真面目な歌詞はなんだ? もっと意味がなくていいのに」と思い始めて。トラックを聴きながら「印象に残って、そのうえで楽しめるような言葉はあるかな」と考えていたら「スケベ」という言葉が浮かびました。いろんなニュアンスがある言葉な気もするし、そういう点でもいいのかなって。

──奇妙さんの中で「こういう曲がスケベな歌なんじゃないか」という具体的なイメージはあったんですか?

特になかったんですけど、この曲を作ったあとに好き好きロンちゃんと下北沢でツーマンをやらせてもらって。そのとき「これがスケベなSONGか」と思いました(笑)。

──(笑)。現在進行形の話かと思ったら、「あなたとなら ありふれた 幻さえ うれしかった」という歌詞が差し込まれて、終わった関係性への未練を歌った曲にも聞こえるなと。

なるほど。友達でも恋人でもなんでもいいんですけど、好きな人と一緒にごはんを食べに行くのはどんな店でも楽しいなと思っていて。自分の中ではそういう意味合いで書いたんですが、どう受け取ってもらってもいいですね。

──アレンジはチェンバーポップっぽいサウンドですね。

この曲に限らず、編曲はだいたい中込さんにお任せで。自分には絶対できないアレンジなので、毎回「すごいな」と思いますね。

命を懸けて吸ってる戦士

──3曲目の「愛と性」は何か具体的にイメージした景色があったんですか?

これも語感の気持ちよさを優先して作っていきました。その結果、歌舞伎町で遊んだことなんてほとんどないのに、歌舞伎町が舞台の曲になっちゃって(笑)。新宿はロフトや映画館ぐらいしか行かないし、ゴールデン街も数年に1回くらい、誰かに誘われたら行くくらい。何かを狙って歌詞を書くというチャンネルは自分の中にないし、そういう訓練はしてきてなくて、ぽろっと出てきた歌詞を順番に入れていくことが多いんです。「愛と性」もそのうちの1つですね。

──これまでも作詞はそういうやり方をされていましたよね。

そうですね。自分でなんのことを書いているのかはっきりとわかってない。でも、たまに気に入るフレーズがあったりして。「愛と性」は「タバコを夢で吸いながら 煙にのって旅に出るんです」という歌詞が気に入っています。僕は10年以上前に禁煙して以来、全然吸いたいと思わないんですけど、最近めちゃくちゃタバコを吸っている夢を見て。その影響かもしれないですね。

奇妙礼太郎

──吸いたいと思っていないのに夢では吸っているんですか?

不思議ですよね。10年以上前、大阪に住んでいた頃に、嵐みたいな天気の夜にタバコがなくなって。「この天気の中、買いに行ってまでタバコ吸う?」「ここで買いに行かなかったらやめられるし、ここで行ったらこれからも吸うだろうな」と思って、結局その日を機にタバコをやめたんです。本当はもっと吸っていたかったけど、そこまでの元気がなかったという(笑)。ずっと吸い続けている人ほどの根性や忍耐力が自分にはなかった。自分は負けた側です。

──勝ったのか負けたのかわからないですけど(笑)、これだけ嫌煙の動きが進んでいるのに吸っているのはたくましくはありますよね。

みんながんばって吸っていると思ってます。命を懸けて吸ってる戦士やと思ってる(笑)。

──ぽろっと出てきた言葉をいいと思うか違うと思うか、そのジャッジはどんな線引きのもとに行われているんですか?

映像的なフレーズはすごくいいなと感じますね。自分がそういう歌詞を書くのが得意というわけではないけど、映像が次々と浮かんでくるような歌詞を書ける人はすごいなあと。映画を観ているみたいな歌詞が書ける人。

──例えば誰の歌詞ですか?

真っ先に思い付くのはユーミン(松任谷由実)です。「翳りゆく部屋」とか、出だしの「窓辺に置いた椅子にもたれ」という歌詞からグーッとカメラが寄っていく感じがありますよね。

5年ぐらい前の出来事がにじみ出ている

──「Bye Bye Bluebird」の歌詞はほぼ「Bye Bye Bluebird」という言葉で構成されていますね。

この曲も歌詞を書いたという感覚はなくて。ライブのリハーサル中にピアノを弾きながら適当に歌ってみた歌詞とメロディをそのまま採用しています。中込さんと「なんか日本語入れてみませんか」という話になって、あとから日本語の2行分だけ考えました。

(マネージャー) 「この曲の『Bluebird』はTwitterのアイコンだった青い鳥のことで、それにさよならしているのかもな」とレコーディングのときに言ってましたよ。

ああ、確かに。Twitterのアイコンはすごくかわいいマークだったのに、Xになった途端怖いアイコンになって「えー?」と思ったんですよね。中身もどんどん殺伐とした感じになっていってるし。

──本当ですね(笑)。どんどん奥深い曲に思えてきました。

急に意味のある曲に感じてきた(笑)。

奇妙礼太郎

──カントリー調の「ヤンキーBE MY BABY」の曲名は、COMPLEXの「BE MY BABY」を思い浮かべました。

ライブなどをよく一緒にやってるSundayカミデさんが吉川晃司さんをリスペクトしていて、ライブ中によく「BE MY BABY」って言うんですよ。なので僕は人よりたくさん「BE MY BABY」という言葉を聞いていて、それが自然と出てきたんだと思います。Sundayさんの10代の頃のエピソードとかも面白い話がいっぱいあって。

──Sundayさんはヤンキー文化に馴染み深いんですか?

本人は全然ヤンキーじゃないですけど、よくないことをしている人を取り締まる立場だったと言ってました(笑)。僕はヤンキー文化には馴染みがないですね。この曲の歌詞は、好きな人に会いに行ったヤンキーが警察に追いかけられるみたいな流れがかわいいですよね。「誰々命」とか服に書いてありそう。

──Twitterのアイコンだったりヤンキーだったり、自分がインスピレーションを受けるものはどういうものが多いと感じていますか?

どうなんでしょうね。普段暮らしている中で映画を観たり、マンガを読んだり、本を読んだり、人に会ったり……そういうことは好きだけど、歌詞に反映されているかと言ったらそうでもないと思っていて。5年ぐらい前の出来事がじわっとにじみ出ている気がします。