怒髪天のニューアルバム「残心」が、増子直純(Vo)の誕生日である4月23日にリリースされた。
アルバムと銘打ちながら収録曲は6曲。曲数だけで判断するとミニアルバムかEPの位置付けでは?と思ってしまうが、中身は50代ロッカーのリアルをこれでもかと詰め込んだ濃厚な内容だ。そんな怒髪天入魂の1作の完成を記念して、音楽ナタリーでは増子と、彼を敬愛する宮藤官九郎(グループ魂、画鋲)の対談をセッティング。50代を迎えてなおロックバンドにこだわり続ける2人に、存分に語り合ってもらった。
取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 関口佳代
結局バンドやりたいんじゃなくて怒髪天をやりたかった
宮藤官九郎(グループ魂、画鋲) 怒髪天のニューアルバム、増子さんの誕生日にリリースされるんですね。
増子直純(怒髪天) そうそう。4月23日。阿部(サダヲ)と同じ誕生日。しかも俺、来年還暦だよ。
宮藤 今、資料見たんですけど……すごい本数のライブをやりますね。
増子 自分で忙しくしてるだけだからね。誰かに頼まれてやってないから。恐ろしくない? この自家発電。
宮藤 (笑)。怒髪天は去年結成40周年ですよね。グループ魂は今年30周年なんですよ。
増子 長くやってるといろいろあるよね。クビになったり逮捕者が出たり。Sex Pistolsみたいだよ(笑)。
宮藤 怒髪天って活動やめてた期間あるんですか?
増子 あるよ。3年間。その間、メンバーとはほとんど会ってない。
宮藤 なのに同じメンバーでまた始めたんですか?
増子 「もう1回やりたい」って言うからね。
宮藤 それは増子さんじゃなく?
増子 うん。再開したのが33歳のときで、そこから25年くらい経つからけっこう長いね。当時は「俺はバンドはもうやらない」って言ったんだよ。働いてるし、カードも作れるし、貧乏はヤだから。そしたら「遊びでいいから、ちょっとやろうよ」って誘ってきてさ。でも新曲作ったらもうダメだね。「これは人に聴かせなければいけない!」となって、メンバーみんな仕事辞めちゃった(笑)。
宮藤 増子さんと初めてちゃんとお会いしたのは、2002年にナンバーガールが解散を発表した日なんですよ。向井さんとかeastern youthの吉野(寿)さんがいる飲み屋に呼ばれて。別に暗い感じでもなかったんですけど、そこに増子さんと(上原子)友康さんが盛り上げようとしたのか裸で店に入ってきたんです(笑)。
増子 「解散か。これは俺たちが脱いで盛り上げてやらなきゃ」と思ったら全然盛り上がってるからなんだよって。ただ寒いだけだった(笑)。
宮藤 そのとき周りの人に「あの人、怒髪天の増子さんだよ」と言われて、「えー!! これが」って。それが最初でした。しかも友康さんはブリーフだった(笑)。
増子 飲み会で脱ぐのはLAUGHIN' NOSE仕込みだからね。
宮藤 増子さんと出会う前にDMBQのライブは観てたんですけど、怒髪天は観たことがなかったので「あの人が(増子真二さんの)お兄さんなんだ」と思ったのを覚えてます。
増子 怒髪天がそんなに活動してなかった時期だもんね。休止ししてた頃、「うちで歌ってくれ」とかいろいろ呼ばれて行ったけど、どこもあんまりピンとこなくて。俺は結局バンドをやりたいんじゃなくて、怒髪天をやりたかったんだなって。
宮藤 ああ、なるほど。
増子 のちにそれがわかる。うまいやつとやっても「そうじゃないんだよな」みたいな。
宮藤 俺はグループ魂がやりたいんじゃなくて、バンドがやりたかったですけど(笑)。
増子 わはははは。画鋲(宮藤、三宅弘城、LTD EXHAUSTのベーシストよーかいくんの3人からなるショートコアパンクバンド)はバンドじゃないの?
宮藤 あー、そうですね。画鋲はフットワーク軽いのがいいんですよ。3人集まればすぐできるし、曲が短いから、間違えたら頭からやり直せるし。怒髪天、3人になってからどうですか?
増子 大変だよ。俺じゃなく友康がね(笑)。曲作りとレコーディングで完全に作業が倍だもん。
宮藤 今、ベースは亜無亜危異の寺岡(信芳)さんですよね。
増子 そう。ライブはほぼやってもらってる。ただ、今回のレコーディングは友康がベースも全部弾いてるから。やってみて初めてわかったけど、ベース弾いたあとにギター弾けないみたい。楽器のタッチの違いの問題で。
宮藤 ああ、なるほど。
増子 ベースは弾くのにすごい力が入るから、ギターを軽く弾けなくて収録の日にち変えなきゃいけないから大変だったみたい。でも、友康がレコーディングは怒髪天の3人だけでやりたいって言うから、だったらいいよって。俺、別にそこに関してはこだわりないから。
「残心」に込められた意味
宮藤 今回のアルバム、友康さんの存在感がすごい前面に出てますよね。
増子 出てるね。一番イニシアチブを取ってたのが友康だから。気合いが入ってたよ。逆に俺はこれだけ長くバンドをやってきて、今回初めてなくらいアルバムを作るのに乗り気じゃなかったの。今はどんな歌詞を書いてもメンバーの解雇の問題に絶対つながるし、連想させちゃうじゃない? 関係ないのに連想されるのはイヤだから、「どうかなあ?」とか言ってたけど、友康がすごいやる気だったから、じゃあとりあえず作るかと。パーソナルなものになりすぎないように、過去最高にメンバーとスタッフに「どうしたい?」ってそれぞれの意向を聞いて作ったもんね。でも、曲を作っていく中で自分のモヤモヤが解消されて、ひとつずつ気持ちにケジメがついていったから、音楽の力ってすげえなと思った。
宮藤 サウンド面での「俺たちはこれしかない感」がすごいですね。友康さんはもうストラトキャスターしか弾かないんだな、というのがすごく感じられました(笑)。この音でいくっていう決意が。
増子 今回の「残心」ってタイトルは武道の言葉で、何かしらやり終えて次に向かうときの油断しない心構えという意味なんだけど、言ったらこれ、人を斬ったあとの姿勢なんだ。まあ実際、人、切ってるんだけど……。
宮藤 なるほど。深い意味があったんですね。
増子 ちょっとしたユーモアというか、シニカルなタイトルではあるんだけど。
宮藤 アルバムだけど全6曲構成というのは、最初から決めてたんですか?
増子 決めてたね。ここ何年かそうだけど、配信とかになってくると12曲入りでも聴いたり聴かなかったりする曲があるじゃない? だから12曲作っても6曲、6曲で分けるぐらいがちょうどいいかなって。なかなか12曲入ったアルバム、ちゃんと聴けなくない?
宮藤 聴けなくなりましたね。
増子 別に時代に合わせたわけじゃないけど、実際に聴く方法そのものが変わってきてるから。
宮藤 ライブでもやらなくなる曲、出てくるじゃないですか。どうしても。
増子 もったいないよね。12曲あると詞の内容かぶりも出てくるし。思ってることを2曲に分けるのもどうなんだろうと思ってさ。そうすると、やっぱり6、7曲かなと。
宮藤 そういう時代になったってことですね。アルバムだからって別に10曲なくていい。
増子 そうそう。もともと曲数っていうよりはレコードとかCDに収録可能な分数だから。
宮藤 グループ魂の「ぱつんぱつん」ってアルバムは、最初からぱつんぱつんにしようと思って80分ギリギリまで入れましたけど(笑)。
自分にできることで勝負するだけ
増子 1曲目の「決意の朝に」は友康が珍しく、ちょっと大げさな曲を作りたいって言い出して作った曲なんだよ。坂さん(ドラマーの坂詰克彦)と2人して音を合わせて。そしたら何も言ってないのに坂さんが「これは決意の曲ですね」と言ってきて、友康が「おっ、伝わった!」となってた。40年近く一緒にいて初めてだよ、坂さんが一発で正解出したの(笑)。
宮藤 おおーっ!
増子 じゃあその意図を汲んで“決意”の要素を残しといてあげようと。今回のアルバムは先行配信した「エリア 1020」を核にして、周りを固めるものを作ろうと思って始めたけど、結局作ってるうちに全然違う方向に行っちゃったね。意外なまとまり方をするというか、逆に先行で出した曲が浮く感じになることも多々ある。
宮藤 ハハハ。
増子 やっぱり前に作ったものより、今作ってる曲のほうが絶対いいからさ。常にいいものを作って前にできなかったことをやろう、もっとこうしようと思ってるんだよ。アルバムの世界観をつなぐのは歌詞でもあるから、違う曲で同じワード使ったりしてね。書いてて面白かったよ。
宮藤 ただ、歌詞はわりとシリアスですよね。
増子 最初に書く歌詞は基本的にシリアスなんだよ。それをちょっとずつ柔らかくというか、面白い要素を入れていく。大概、俺の場合は怒りから制作が始まってるからね。もともとハードコアだからさ。「銃刀法違反」も元から今と同じ内容で。普通はあの歌詞を乗っけると、ラップかポエトリーディングになるわけよ。そうじゃなく、ちょっと歌メロに歌詞を乗っけていく日本のロックの未熟さみたいなところに俺は痺れるんだ。
宮藤 すごくわかります。
増子 ラップはラッパーがやらないとダサいし、ましてやポエトリーリーディングは歌じゃないから。そこに寄せない潔さというか、自分にできることで勝負するというかね。俺はバックビートのオケで歌っても全部頭拍になるから。黒人が唯一できないノリ方だよ(笑)。優れたリズム感を持ってしても。
宮藤 確かに怒髪天の曲でラップってないですね。
増子 俺がやってもカッコよくならないし、地に足ついてない感じするからね。「流行りを取り入れてみました」みたいなさ。だったら最初からラップの人を呼んでやったほうがいい。
宮藤 若い人はみんなカラオケでラップやってるからうまいんです。ノリ方が全然、僕ら世代とは違いますよ。
増子 早口言葉だもんね。あれができるのはすごいと思う。だけど自分でやろうとは思わない。そもそも自分の中にないものはできないよ。
宮藤 俺らは歌詞のオリジナリティがありすぎるので、逆に曲調はマイケル・ジャクソン風とか思いっ切り寄せて開き直ってますけど(笑)。
増子 面白いし、よくできてるよ。グループ魂とレキシは本当にすごい。レキシはもうなかなかネタが見つからないって言ってたけど、そもそも歴史的な出来事そんなにないから(笑)。
宮藤 俺もグループ魂の曲を作るとき、「下ネタの曲がないとダメかな?」と思ってる自分にものすごく腹が立ちます。誰も求めてないのに、なんでこんな絞り出してまで下ネタ考えなきゃいけないんだろうって(笑)。でも、やんなきゃいけない。自分で決めたことだから。
増子 自分で縛りを作っちゃってるからね。
宮藤 最近はどんどんコンプライアンスが厳しくなってますけど、うちはおかげさまでメンバーと同じような考えのお客さんが多いので、今のところワンマンライブは大丈夫です。フェスとかイベントに出たら、たぶん引かれるだろうけど。
増子 引かれるだけならまだいいよね。
宮藤 SNSでMCのことをつぶやかれて炎上したり(笑)。俺が20代の頃はライブハウスで「こんなこと歌っていいのかよ!?」ってところに何度も立ち会ってます。それは観に行った人だけの特権であり、共犯関係みたいなものがあった。でも今は外に向かってつぶやけちゃうから。観に来た人は面白かったと感じても、観てない人は「何言ってんの?」って思うこともある。そこが難しいところですね。
増子 なかなかね。SNSでつぶやかないように強制もできないし。まあ、うちはそういう空気をわかってるお客さんばかりだから。SNSの使い方もわからないような。
宮藤 そもそもつぶやこうにもつぶやけない(笑)。
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