吉澤嘉代子「あなたに歌いに来たんです」不思議な商店街で繰り広げたデビュー10周年公演

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吉澤嘉代子のデビュー10周年を記念した単独公演「夢で会えたってしょうがないでショー」が、4月20日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)で開催された。17歳の頃に野音で観たサンボマスターのライブに感銘を受け、アーティストの道を志した吉澤。それから17年、彼女はソロアーティストとして自身2度目の野音のステージに立ち、約3000人のファンと多くのアーティスト仲間たちからデビュー10周年の祝福を受けた。

吉澤嘉代子「夢で会えたってしょうがないでショー」の様子。(撮影:山川哲矢)

吉澤嘉代子「夢で会えたってしょうがないでショー」の様子。(撮影:山川哲矢)

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「鮨 よし澤」開店祝いに3000人

「鮨 よし澤」の看板犬・ウィンディ。(撮影:山川哲矢)

「鮨 よし澤」の看板犬・ウィンディ。(撮影:山川哲矢)[拡大]

この日の野音は、昭和の香り漂う架空の商店街「夢で会えたってしょうがないで商店街」と化しており、ステージ上には「すなっく嘉代子」「パーラー氷菓子」「雀荘 ニュー香港」「エステサロン ケケケ」などのネオンが並ぶ。開演前の場内には「ご通行中の皆様、『夢で会えたってしょうがないで商店街』へようこそ」と郷愁を誘うアクセントのアナウンスが流れ、「このあと、あの伝説の寿司屋『鮨 よし澤』がいよいよオープンします! どうぞご期待ください!」というアナウンスののち、ステージ下手に設置された寿司屋のカウンターには、吉澤のライブにたびたび登場する愛犬・ウィンディ(人形操演・山田はるか)の姿が。「あがり一丁、あいよっ!」と「鮨 よし澤」の看板犬として張り切るウィンディは、“開店祝い”にやってきた3000人の観客に向けて、この寿司屋の名物である生演奏を担当するバンドメンバーを呼び込む。

ずらりと並ぶ10人の吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)

ずらりと並ぶ10人の吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)[拡大]

しゃもじを持って現れた本物の吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)

しゃもじを持って現れた本物の吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)[拡大]

「そしていよいよお待ちかね、ボーカル吉澤嘉代子」とステージに呼び込まれたのは、吉澤のお面を着けた黒装束の人物。「続いてボーカル吉澤嘉代子」「3人まとめてボーカル吉澤嘉代子」「どんどん出てくる吉澤嘉代子」と都合10人、身長も体格もさまざまな黒づくめの吉澤嘉代子が並ぶ異様な事態で、10人はそれぞれ我こそは吉澤嘉代子だとアピールしたが、本物の吉澤は謎の爆発音とともに10人の背後から板前ルックで現れ、大きなしゃもじ片手に「ガリ」を歌い始めた。ご機嫌な「鮨 よし澤」の大将・吉澤は「鬼」で3000人とともにダンスし、「月曜日戦争」を歌いながら軽やかに舞う。白い開襟の従業員シャツでそろえたバンドメンバーの伊藤大地(Dr / グッドラックヘイワ、サンフジンズほか)、伊賀航(B)、伊澤一葉(Key / 東京事変、the HIATUS)、弓木英梨乃(G)、ゴンドウトモヒコ(Bandmaster, Horns, Sequence)は職人らしく黙々とパフォーマンスを盛り立てた。

青果商と中学生も一緒に

野菜を持って現れた「ヤオハマ」のハマ・オカモト。(撮影:山川哲矢)

野菜を持って現れた「ヤオハマ」のハマ・オカモト。(撮影:山川哲矢)[拡大]

おもむろにベースを演奏する「ヤオハマ」のハマ・オカモト。(撮影:山川哲矢)

おもむろにベースを演奏する「ヤオハマ」のハマ・オカモト。(撮影:山川哲矢)[拡大]

吉澤嘉代子と共演する私立恵比寿中学の真山りか(左)と小林歌穂(右)。(撮影:山川哲矢)

吉澤嘉代子と共演する私立恵比寿中学の真山りか(左)と小林歌穂(右)。(撮影:山川哲矢)[拡大]

そこにふらりと現れた「ヤオハマ」のハマ・オカモト(OKAMOTO'S)は、大きなカゴから注文の品を取り出していく。「大根、ネギ、キュウリ、でアボカド、アボカド、アボカド、んでアボカドが3、あとアボカド……露骨に多すぎですよアボカド」と次に歌う楽曲を匂わせ、「いっぱい野菜買ってくれたんでお礼に」とおもむろにベースを手にすると、「ハマさんよ、アボカドは野菜じゃなくて果物やで?」と江戸っ子なのか関西人なのかわからない大将の言葉を合図に、ハマもレコーディングに参加した2016年の楽曲「アボカド」の演奏へとなだれこんだ。さらに、アボカド寿司を食べたらニキビが増えたとクレームを伝えに来た中学生・私立恵比寿中学の真山りか、小林歌穂が合流し、吉澤がえびちゅうに提供した2016年の楽曲「面皰」を3人で歌唱。ハマは次の配達のために立ち去るも、真山と小林はもう1曲、吉澤から提供された「曇天」を3人で歌い上げ、日暮れゆく野音をセンチメンタルな色に染めた。

生年月日が同じ巡査部長が乱入

「すなっく嘉代子」に立ち寄るファーストサマーウイカ巡査部長(右)。(撮影:山川哲矢)

「すなっく嘉代子」に立ち寄るファーストサマーウイカ巡査部長(右)。(撮影:山川哲矢)[拡大]

いつの間にか極悪同盟スタイルになっていたウィンディ。(撮影:山川哲矢)

いつの間にか極悪同盟スタイルになっていたウィンディ。(撮影:山川哲矢)[拡大]

中学生2人を見送った大将吉澤はアコースティックギターを弾きながら「恥ずかしい」を歌うと、「恥ずかしい、アー!」と叫びながらステージを退出。カラスの泣く夕闇の商店街に続いて現れたのは、「すなっく嘉代子」のママ・嘉代子。きらびやかなドレス姿のママはピアニスト伊澤の演奏に乗せて「たそかれ」をアンニュイに歌う。そこに商店街の治安を守る巡査部長・ファーストサマーウイカが登場するとおだやかな空気は一変。ポリスハットに網タイツ、レザージャケットで竹刀を振り回す極悪同盟スタイルのウイカ巡査部長は「この店は『警察官立寄所』。今日も立ち寄るで~」と勤務時間にもかかわらずスナックで酒を煽り、「1曲歌っていい?」とカラオケをリクエストする。出自もキャラクターも大きく異なる吉澤とウイカだが、実は生年月日がまったく同じ1990年6月4日。「まったく同じ誕生日やのに、なんでこんなに性格が違うかね。星占いどうなっとんねん、バグってんのか? でも誕生日が一緒ってことは、ウチらマブダチやな」と意気投合したウイカ巡査部長と嘉代子ママは、3000人の“常連さん”に向けて「化粧落とし」を披露した。

尊敬する先輩占い師と涙で抱き合う

謎の球体を手に現れた占い師・阿部真央。(撮影:山川哲矢)

謎の球体を手に現れた占い師・阿部真央。(撮影:山川哲矢)[拡大]

泣きじゃくる吉澤嘉代子を抱きしめる阿部真央。(撮影:山川哲矢)

泣きじゃくる吉澤嘉代子を抱きしめる阿部真央。(撮影:山川哲矢)[拡大]

ウイカ巡査部長が去り、すっかり夜のとばりが降りた野音のステージがブルーの照明でライトアップされる中、嘉代子ママはギターをかき鳴らしながら「シーラカンス通り」を熱唱。続く「地獄タクシー」のカオティックな演奏で野音は怪しげなムードへと誘われてゆく。物憂げな表情の嘉代子ママは「もしもし、真央さん? また占ってほしいことがあるんだけど……」おもむろに電話をかける。バラードにアレンジされた「綺麗」を歌い上げた嘉代子ママのもとに現れたのは、占い師・阿部真央。嘉代子ママは同じ商店街の人々の安否を占いで確認するよう要求するが、占い師は「嘉代ちゃんはいろいろ感情移入しすぎなんだよ。それが嘉代ちゃんのいいところだと思うけどね」とアドバイスする。阿部と吉澤はかつて同じ事務所に所属していた仲。尊敬する先輩に10周年を祝福された吉澤は「自信のない自分にとって、真央さんの声がほの暗いところを照らしてくれる光になっていて、がんばってこられた」と思いを伝え、「ホントによかったよね。ウチらがんばった」という阿部の言葉に設定を忘れて涙を流した。そして2人は一緒に「泣き虫ジュゴン」を歌い、阿部は泣きじゃくる吉澤を優しく抱きしめた。

夢で会えたってしょうがないでしょう?

「ぶらんこ乗り」を歌う吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)

「ぶらんこ乗り」を歌う吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)[拡大]

ウィンディと対話する吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)

ウィンディと対話する吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)[拡大]

「夢で会えたってしょうがないでしょう」のコールが響く日比谷野音。(撮影:山川哲矢)

「夢で会えたってしょうがないでしょう」のコールが響く日比谷野音。(撮影:山川哲矢)[拡大]

ガットギターとウッドベースの穏やかな調べに乗せて歌われた「ぶらんこ乗り」では、ステージ背面に浮かんだ満月のような灯りにブランコに乗った少女の影が投影され、幻想的なムードに。椅子に腰掛けて歌っていた吉澤はゆっくり立ち上がると、繊細さと力強さの入り混じった声で「残ってる」を歌う。演奏とストーリー、現実と虚構を行ったり来たりしながら進行してきた「夢で会えたってしょうがないでショー」だが、ウィンディは「嘉代子ちゃん、そろそろ気付きなよ」と、この商店街の中のすべてが吉澤の作り出した楽曲に登場する空想の世界であることを伝える。「本屋 春樹」が閉店しているのは、吉澤がデビュー前に作りながらも没にしていた楽曲をモチーフにした書店だからだと明かしたウィンディは、その没曲「村上春樹がわからない」のデモテープを再生した。「わかったでしょ。この商店街の人たちは吉澤嘉代子の作り出した夢の世界の住人に過ぎないのさ」と諭すウィンディ。それでも吉澤は「違う、私はここに立ってる!」とかぶりを振り、そしてひと言「だって……夢で会えたってしょうがないでしょう」とつぶやくと1stインディーズミニアルバム「魔女図鑑」のオープニングを飾ったナンバー「未成年の主張」を歌い出す。この楽曲の歌詞であり、ライブのテーマにもなった「夢で会えたってしょうがないでしょう」を3000人でコールし、この不思議な物語の幕を下ろした。

「私は3000人に歌いに来たんじゃない。あなたに歌いに来たんです」

「ものがたりは今日はじまるの」を歌う吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)

「ものがたりは今日はじまるの」を歌う吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)[拡大]

大量のシャボン玉が舞う日比谷野音。(撮影:山川哲矢)

大量のシャボン玉が舞う日比谷野音。(撮影:山川哲矢)[拡大]

受話器越しに「らりるれりん」を歌う吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)

受話器越しに「らりるれりん」を歌う吉澤嘉代子。(撮影:山川哲矢)[拡大]

アンコールを受けて再び登場した吉澤は、サンボマスターに憧れて「ステージの向こう側に行きたい」と願った17歳の自分を思い出し、野音のステージから満員の客席に向けて「私は3000人に歌いに来たんじゃない。あなたに歌いに来たんです。私を見つけてくれてありがとう」と思いを告げると、サンボマスターに提供された「ものがたりは今日はじまるの」を、無数のシャボン玉が夜空に浮かぶ野音いっぱいに響かせた。改めて観客への感謝を伝えた吉澤は、新曲「メモリー」が5月14日に配信リリースされること、秋にツアーが決定したことを報告すると、最後にその新曲「メモリー」を披露。「ドラムス伊藤大地、大好き。ベース伊賀航、大好き。ギター弓木英梨乃、大好き。キーボード伊澤一葉、大好き。そしてバンドマスター、ゴンドウトモヒコ! 大好き。そして私の愛犬、ウィンディ! だーい好き!」と愛情たっぷりに紹介してバンドメンバーを送り出したが、吉澤は1人ステージに残り、突然ベルを鳴らした電話の受話器に向かって「らりるれりん」を歌唱。「おやすみなさい」とつぶやいてステージをあとにした。

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ライブレポート

セットリスト

吉澤嘉代子「夢で会えたってしょうがないでショー」2025年4月20日 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)

01. ガリ
02. 鬼
03. 月曜日戦争
04. アボカド
05. 面皰
06. 曇天
07. 恥ずかしい
08. たそかれ
09. 化粧落とし
10. シーラカンス通り
11. 地獄タクシー
12. 綺麗
13. 泣き虫ジュゴン
14. ぶらんこ乗り
15. 残ってる
16. 未成年の主張
<アンコール>
17. ものがたりは今日はじまるの
18. メモリー
19. らりるれりん

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