テレビアニメ「マクロスF」の放送から17年──劇中に登場する2人の歌姫、シェリル・ノームとランカ・リーによる楽曲をまとめたベストアルバム「マクロスF オールタイムベストアルバム『娘々グレイテスト☆ヒッツ!』」が、ランカの誕生日である4月29日にリリースされる。
テレビアニメと劇場版を合わせて多数の楽曲が制作された「マクロスF」。シェリルの歌を担当したMay'n、ランカの声と歌を担当した中島愛は、17年にわたって「マクロスF」の楽曲を大事に歌い続けてきた。7月26、27日に神奈川・Kアリーナ横浜で開催されるライブ「SANKYO presents マクロスF ギャラクシーライブ☆ファイナル 2025」は2人が制作段階から深く関わり、構成やセットリストなど練りに練って臨むという。
出自も性格も異なるMay'nと中島。「マクロスF」という作品で運命的に出会った2人は、今もなお奇跡のような関係で結ばれている。音楽ナタリーではそれぞれソロアーティストとして過去に何度も取材を行ってきたが、今回は2人そろってインタビュー。2人だけが持ち得る不思議な関係性とその軌跡に迫った。
取材・文 / 北野創撮影 / Kyutai Shim
シェリルとMay'n、ランカとまめぐ──それぞれの向き合い方
──「マクロスF」のテレビ放送から今年で17年。お二人もそれだけの時間、シェリル&ランカと向き合ってきたわけですが、彼女たちの楽曲を歌う際の心持ちに変化はありますか?
May'n 私とシェリルは一心同体ではあるけど、かといって素の私のままでシェリルの楽曲を歌えるわけではなくて。レコーディングでもライブでも、私の中にいるシェリルが「私の歌を聴け!」という感じで出てきて、私の体と喉を通して声を出す瞬間があるんです。そういう意味で、自分からシェリルに寄せて歌ったことは過去に一度もない。自分の体の中に眠っているシェリルが自然と歌い出す感覚です。
中島愛 そうなんだね。私はその感覚を知らないかも。
May'n しかもなぜか自分のワンマンライブでも、会場が横浜のときはシェリルが降りてくる確率が高い。なのでシェリルは横浜に眠っているんだと思います(笑)。私は自信を持って歌うことが、何よりもシェリルだと思うんですね。だから少しでも不安な気持ちを持ってステージに立ちたくないし、命を懸けた世界観の歌詞が多いのもあってか、シェリルの歌を歌っていると「こここそが私の生きる場所!」「もうこれで死んでいいかも」と思う瞬間がたまにあって。逆に言うと、これからもその瞬間を味わいたいからこそ死ねないし、シェリルの歌を歌えるのは私だけと自信を持って言えるので、これからもシェリルを歌で生かし続けていきたいです。
──中島さんはもっと演じる感覚でランカの歌を歌っているのでしょうか?
中島 私は、声優としてキャラクターソングを歌うときは、喉や体の使い方を意識してそのキャラクターを技術的に表現するのですが、ランカに関しては自分として歌っているときとあまり区別がつかないんです。だからライブで歌うときも特別に意識することはないかもしれない。この間、ABEMAの生配信番組(「マクロス×サンライズ 新作大発表スペシャル」)に出演したとき……自分でも口にしてびっくりしたんですけど、「私はランカになるために生まれてきたんだと思います」みたいなことを言ったんです。
May'n それはどういうこと?
中島 ランカと私はイコールでつながれているけど(アーティスト表記は「ランカ・リー=中島 愛」)、二次元のキャラクターであるランカと三次元の人間である私が記号でつながれることに確固たる思いを持てずプレッシャーに感じていたことがあって。もちろん一心同体なのは誰も否定できないし、私も否定したくないけど、私はこの先、おばあちゃんになってもずっと“ランカ・リー=中島 愛”であることから離れることはない。そんなことをうちの母に話したら「私はランカ・リーを産んだんだと思う瞬間がある」って言われたんですよ。
May'n すごいね、その言葉(笑)。
中島 「あなたはこの先も一生ランカ・リーなんだから、いい加減それを受け入れなさい」とも言われたんだけど、私も「親がそう思うんだ、なるほど」と思って。それまでは「マクロスF」のオーディションに受かったことで自分の人生が変わったと思っていたけど、実はそのオーディションに受かるまでの18年間は準備期間で、受かってからが私の実人生の始まりだった、みたいな(笑)。でも、私にとってイコールの記号はそれくらい重たいものなので、自分とランカの区別は私にはつかないし、ライブで歌ったあとに「今日の私はランカだったな」と冷静に思い返したこともない。きっとそれくらい一体化しているんだと思います。
「すごく練習してきたね。それを全部捨ててもう1回歌って」
──その意味ではお二人とも、シェリルとランカの楽曲を歌えば意識せずとも勝手にシンクロしてしまうんですね。
May'n そもそも菅野(よう子)さんが作る楽曲自体が「シェリルの声で歌おう」と冷静に意識しながらでは歌えない曲ばかりなんですよね。本能で歌わないと楽曲に取り残されてしまう。
中島 確かにね。考えている暇はないかもしれない。
May'n それに菅野さんはレコーディングでも、あらかじめ考えて持っていったものを歌うと「つまんない。もっと何かないの?」みたいな感じになるので(笑)。本能的に思わずこぼれてしまったものを「面白い」と言って採用する方なので、アーティストとして最初からそういう育てられ方をしたのも大きいかもしれないです。
中島 今回のベスト盤にも収録される「ランカとBrand New Peach」のレコーディングのとき、私はめちゃくちゃ練習したうえで現場に行ったんです。そうしたら菅野さんは第一声で「すごく練習してきたね。それを全部捨ててもう1回歌って」って。
May'n 言いそう(笑)。
中島 私は「マクロスF」がデビュー作だったので、商品として世の中に出る歌を録ったりライブをしたりする経験が初めてで。最初の1、2年は技術や知識がほぼないまま1000本ノックを受けるような状態で食らい付いていたんですけど、そこからソロデビューをして、自分の名義で楽曲を出していくにつれて、歌をうまく聴かせるための知恵が付いてきた。でも菅野さんとのレコーディングでは、その身に付けてきたものが邪魔になったりするんです。でも今さらまっさらにはできないから、それですごく悩んだこともあって。特に20代後半は楽曲との向き合い方でかなり壁にぶつかった記憶があります。
May'n シェリルにしても、ストーリー的には最初からスターだけど、まだまだ上を目指してがんばるタイプのキャラクターだから、その気持ちを歌声でキープし続けなくてはいけない難しさは、キャリアを重ねれば重ねるほど感じますね。
中島 私もです。ランカの場合は「一生無垢であれ」ってことなので。レコーディングでもライブでも、ランカとしてマイクの前に立ったときは、それまでの自分の人生経験を1回捨てて、絶対に無垢じゃないといけない。
May'n でも愛ちゃんの歌声はいつも無垢だから、私はそれにいつも衝撃を受けている。
中島 やったー! こうやってMay'nちゃんが褒めてくれたり励ましたりしてくれるから、なんとか気持ちを保てています(笑)。でも、シェリルさんは逆に最初から成熟していないといけないキャラクターだから、May'nちゃんは私とは逆のプレッシャーがあったと思う。“銀河の歌姫”であることを第一声から納得させなくてはいけないわけだから。
May'n 当時の私は歌手デビューはしていたけど(※中林芽依としてのデビューは2005年)、まだ17歳だったので、銀河ナンバーワンのスターとしての歌にちゃんとなれているのか心配で、必死に食らい付いて歌ってた。
私たちがシェリルとランカになれている理由
──May'nさんと中島さんも出会ってから17年以上になるわけですが、お互いの存在についてはどのように感じていますか?
May'n 言葉にするのは難しいですけど……性格的には正反対だけど凸と凹みたいな感じで、全部がカチッと合わさる瞬間があるから、シェリルとランカとして歌を歌えているんだと思います。2人でデュエットしているときは「最強!」という気持ちになりますし、お互いに個性があるからこそ、気を使ったり寄り添う必要がないんですよ。ありがたいことに「ライオン」はいろんな方が歌ってくださっていて、すごく幸せに思うのですが、私たちシェリルとランカの「ライオン」に勝てる「ライオン」は絶対にないと思う。たまにイベントで別の方とのコラボで「ライオン」の歌唱オファーをいただくことがあるのですが、私は愛ちゃんとしかこの曲を歌わないと決めていて。この2人でしか歌えない曲だということを、一緒に歌うたびに再確認するんです。
中島 私も同じ気持ちです。これは私の特技でもあり、よくないところでもあるんですけど、私は誰かと一緒に歌うときに相手の声に合わせて馴染ませるのが得意で、逆に馴染みすぎるのでいろいろと考えながら歌うことが多いんです。でも、May'nちゃんの声と私の声は声質的に馴染まないので、一緒に歌うときに打算や計算をする必要がない。ただ楽曲に食らい付いて歌えばいいので、その意味では、戦闘態勢ではあるけど気が楽で、安心できるホームっていう感じなんですよね。声質の違いや歌のアプローチを意識することなく、伸び伸びと歌えるので気持ちいいです。
May'n 特に「ライオン」を歌っているときは、お互いが100%前を向いている感覚だよね。どっちのパートとかハモリとかも関係なく、常に自分が100%だから、寄り添うことはない。でも、それがシェリルとランカであり、私たちがシェリルとランカになれている理由なんです。