SEPT presents「SANZ:0」インタビュー|重厚なテーマとエンタメ性の両立とは?星名美怜、宮里ソル、ピコ、杉浦タカオが語る

星名美怜と宮里ソル(ENJIN)が主演を務める舞台「SEPT presents『SANZ:0』」が、5月1日から6日に東京・こくみん共済 coop ホール / スペース・ゼロで上演される。

SEPTは、杉浦タカオが「音楽と芝居のコラボレーション」をテーマに発足させたエンタテインメントユニット。今回上演される「SANZ:0」は2016年8月に東京・新宿村LIVEで上演された舞台「SEPT Vol.6『SANZ』」をセルフリメイクした“ファンタジーライブステージ”だ。自分の名前以外何も思い出せないまま生と死の狭間の世界・SANZにたどり着き、そこでそのまま働くことになった主人公・ユウ。現世と幻世の間でさまざまな人々に起こる試練、それらを見届けるたびにもたらされる記憶の断片を通じ、ユウは自分がSANZにたどり着いた理由に気付いていく。

星名と宮里が演じるのは主人公・ユウを構成する2人のキャラクター、優羽とユウト。「SEPT」公演の常連である歌い手のピコや、桃戸もも、夏芽、雨宮大晟(UNiFY)、鷲尾修斗、野田真理愛、小林正典、村田寛奈、花澤桃花らも出演し、バンドの生演奏や歌、芝居やダンス、アクロバット、プロジェクションマッピング、殺陣などをミックスさせたパフォーマンスを繰り広げる。メインストーリーの間には、ユウが見届けるさまざまな人々の試練を各公演ごとに日替わりエピソードとして上演。複数回鑑賞しても楽しめるシステムとなっている。

本作の上演に際し、音楽ナタリーでは主演の星名と宮里、キャストであり脚本の一部も手がけたピコ、SEPT主宰の杉浦へのインタビューを実施。「SANZ」のセルフリメイクに至った経緯や作品に対する思い、上演に向けた意気込み、SEPTチームの雰囲気、5月4日に予定されているファンミーティングの見どころなど、さまざまな切り口で語り合ってもらった。また特集後半には主要キャスト陣から寄せられた意気込みコメントも掲載する。

取材・文 / 小松香里

SEPTが新しいことに挑戦するときに選ばれる「SANZ」

──今回上演される「SANZ:0」は2016年に上演された「SANZ」のセルフリメイク作とのことですが、初演時に杉浦さんが抱いていたのはどんな思いでしたか?

杉浦タカオ そもそもSEPTはライブハウスを舞台に、45分から50分のオムニバス作品を1公演で3作品上演する形で活動していたんですが、初めて劇場で上演したのが2016年の「SANZ」でした。各公演ともメインストーリーを中心に、昼公演では日替わりのエピソード1と2を上演して、同じ日の夜公演ではエピソード2と3を、翌日の昼はエピソード1と3を上演する……みたいな。ほかの舞台ではやらないようなことをやる、という挑戦からスタートしたんですね。「SANZ」には「やり直すことに遅すぎることはない」というテーマがあるので、そういった思いにふさわしいと考えて、2018年には続編「SANZ II」という形で向き合ってみることにしました。

「SEPT Vol.6『SANZ』」上演時の様子。

「SEPT Vol.6『SANZ』」上演時の様子。

──「SANZ」に改めて向き合った続編はどんな内容になりましたか?

杉浦 オムニバス形式にして、海外の方をキャスティングさせていただいたり、これまでやってないことをやってみたんです。そして、一昨年SEPTが10周年を迎え、12周年に向かって走っている最中に、改めて過去の作品を振り返ったらどうなるのかを試してみたかったので今回セルフリメイクすることにしました。SEPTが何か新しいことに挑戦するときに「SANZ」を選ぶことが多いのかもしれません。

──今回ピコさんは出演者としてだけでなく、脚本にもクレジットされています。

ピコ はい。3つあるエピソードのうち1つのエピソードの脚本を担当させていただきました。「SANZ」の大きな物語から脱線しない範囲で書いた大枠のプロットを提出して、そこからタカオさんと細かい辻褄合わせをしたり、盛り上がるポイントを定めていったりしましたね。その中でいろいろなアドバイスをいただいて、演出を担当するウチクリ内倉さんにも相談しながら脚本を膨らませていきました。けっこう自由に書かせてもらいましたね。

──ピコさんはSEPTの作品には何度も出演していますが、初出演となる「SANZ」にはどんな印象を持って脚本執筆に臨みましたか?

ピコ 「SANZ」は生と死の狭間を描いた物語ですよね。脚本を書くにあたっては全然悩まずに、自分の体験をもとにして書いたんですけど、実体験を舞台作品として表現するところが、脚本の経験も浅いので一番難しくて。

杉浦 体験談というのが一番大きな鍵であり、ピコくんにしか書けない話だろうなと思いながら読ませていただきました。実際に体験したからこその臨場感のあるセリフがあったりして。「自分だったらこういうやりとりは思いつかないな」というシーンもありましたね。

ピコ タカオさんはハッピーエンドの作品が好きだということはずっと聞いていたので、SEPTの作品である以上、自分もハッピーエンドの作品を書いたほうがいいとは思ったんですが、ちょっとぼやかしましたね。生と死がテーマになっている作品なので、その両面を表現したエンディングになればいいな、と思って。タカオさんのこれまでの作品の雰囲気とは違うエンディングになっているかもしれないです。

杉浦 幸せな未来を思い描けるものにはなっているけど、実際にどう受け取るかはお客さんの想像に任せるようなエンディングだよね。

“生と死の狭間”というテーマと自分の状況がリンク

──星名さんは出演オファーを受けて、率直にどう思いましたか?

星名美怜 グループでの活動を終了したタイミングで声をかけていただいたので、正直「なんで声をかけていただけたんだろう?」と思いました。当時の私は芸能活動を続けるかどうかも迷っていた時期だったんですが、作品の内容を伺って、生と死の狭間という作品のテーマと自分の状況がリンクしましたし、「まだ私は舞台に立っていいんだ」と思って出させていただくことにしました。

星名美怜

星名美怜

杉浦 歌って踊れてお芝居もできる人を探していたんです。星名さんに演じてもらう優羽はかなり特殊なキャラクターなので、誰に演じていただくのがいいかけっこう悩んでいました。いろいろな人に「誰かいい人いませんか?」と相談していく中で星名さんを推薦していただいて。経歴を拝見して「星名さんは優羽にぴったりかもしれない」と思ってオファーさせてもらったんです。

星名 私は明るく見られることが多いんですが、実はけっこう考え込むタイプで。外からのイメージと実際の自分にギャップを感じることもあったんです。そこも優羽に通じるところがあるんじゃないかと思って、うまく自分を優羽というキャラクターに落とし込んでいけたらいいなと考えてます。

──宮里さんはオファーを受けたときどう思いましたか?

宮里ソル 僕はENJINというダンス&ボーカルグループに所属して、歌、ダンス、アクロバット、ラップなどいろいろなことをやっているのですが、「SANZ:0」にはそういう要素もあるし、過去にはENJINのメンバーみんなで舞台を上演したこともあるので、自分の経験を生かすことができるすごくありがたいお話だと思いました。

杉浦 ソルくんに演じてもらうユウトに関しても、お芝居ができて、あとダンスがうまい、できれば男性の方を探していたんですが、なかなかいい巡り合いがなくて。

宮里 女性キャストになる可能性もあったんですか?

杉浦 ありました。星名さんが演じる優羽とソルくんが演じるユウトは本人とその影みたいな関係性なので、女性と女性の組み合わせだとストレートすぎるので男性にしたかったんです。なかなかいい男性の候補がいなかったんですが、粘っていたらソルくんにたどり着きました。

宮里 僕までたどり着いてくれてありがとうございます(笑)。ユウトはわりとダークなキャラクターという印象があるんですが、僕はおちゃらけたイメージが強い一方でテンションが低いときはかなり低いので、ユウトにもそういうギャップを少し盛り込んでいけたらいいなと思ってます。めっちゃ笑顔のシーンもありますし。

宮里ソル(ENJIN)

宮里ソル(ENJIN)

杉浦 あえて明るく生きる優羽というキャラクターと、人間の本質を宿したユウトというキャラクターというふうに棲み分けています。かといってユウトがずっと暗くなきゃいけないわけでもないし、優羽がずっと明るくなきゃいけないわけでもない。優羽はどちらかといえば明るいけれど、ユウトはどちらでもいけるキャラクターなので、ソルくんには新たにいい笑顔をキャラクターに入れてもらえたらいいなと思います。

──星名さんと宮里さんは「SANZ:0」への出演に向けて、今どんな思いを抱いていますか?

星名 「SANZ」と「SANZ II」の映像を観させていただいて、出演者の方それぞれの武器を使ってまっすぐ戦っている印象を持ったので、本当にがんばらないと皆さんに置いていかれてしまうんだろうなと思いました。舞台のお仕事は毎回自分を高められますし、映像を拝見したときはあまり人に会っていなかった時期でもあったので、ちゃんと自分の背中を押して皆さんと戦えるだけの位置にいかなきゃと、とても鼓舞されました。

宮里 僕は「SANZ:0」の台本を読んで、生と死に対して改めてシビアに向き合いました。大好きだったおじさんやおばさん、祖母が亡くなったりするたびに涙を流してきましたが、「SANZ:0」にはそういった身近な人の死という、誰しもが体験するようなことが描かれていて。それに加えて、当たり前のことですが、まだ経験していない「自分の死」も描かれているので、お芝居でその体験ができるのはすごく貴重でありがたいなと思いました。