夏川椎菜「417の日」を前に、自由な発想で作り上げた「Ep04」リリース

夏川椎菜が新作EP「Ep04」を4月16日にリリースした。本作にはこれまでも夏川とタッグを組んできた川口圭太、HAMA-kgn、やぎぬまかな、長谷川大介、sympathyらが制作した全5曲を収録。大切に温めていた楽曲と新曲を詰め込んだ1枚となっている。

さらにEP発売翌日の4月17日には、夏川が企画および脚本を手がけるイベント「LAWSON presents 令和7年度 417の日」が開催される。これまで「417の日」でカラオケ大会、“1人ミュージックレインフェスティバル”、手の込んだ謎解きなどさまざまな企画を行ってきた夏川。今年はイベントに「夏川椎菜の萌え萌え大作戦 悶絶可愛いカバーライブしちゃうもん♡」というタイトルを冠し、開催に向けて「今年は萌え萌えしてキュンキュンしてドキがムネムネ、かーわいい感じでお届けしちゃうぞっ♡ この日のために、可愛いダンスの勉強を始めましたっ♡」というコメントを寄せている。

音楽ナタリーでは夏川にインタビューを行い、EPの収録曲と「417の日」について語ってもらった。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作

EPはなんでも自由にやっていい

──「Ep04」はフィジカルとしては2枚目のEPになりますが、EPというフォーマットは夏川さんに向いているかもしれないと思いました。

私の中では、EPは何をしても許されるというか、なんでも自由にやっていいみたいな認識で。「今年も『417の日』のタイミングで何かリリースできたらいいね」という話をしたときに、やりたい曲も溜まっていたし、でもアルバムにはまだ早いから、EPという形になりました。

夏川椎菜

──「やりたい曲も溜まっていた」とのことですが、このEPのために書き下ろされた曲は?

5曲目の「テノヒラ」だけです。それ以外の4曲は、3rdアルバム「ケーブルサラダ」(2023年11月発売)のときに「並び的にちょっと違うかもね」「やりたいけど今回じゃない」と惜しくも選考から漏れてしまった楽曲や、もっと前から出すタイミングを窺っていた楽曲を大放出しちゃった感じですね。

──一聴して、最初の2曲はわりと間口が広いというか、夏川さんがおっしゃるところの“スキマ産業”感が薄いように思いました。

うんうん、私もそう思います。1曲目の「つよがりマイペース」は私の大好きなやぎぬまかなさんに作詞作曲していただいた楽曲で。やぎぬまさんの楽曲としては「サメルマデ」(2022年2月発売の2ndアルバム「コンポジット」収録曲)、「消えないメランコリー」(「ケーブルサラダ」収録曲)に続いて3曲目になるんですけど、この中では比較的とっつきやすいというか。リズムも変則的ではなかったりして、スッと聴けると思うんです。それでいて、メロの流れとかハモり方に、そこはかとないやぎぬまイズムを感じるんですよ。

──編曲は「サメルマデ」と「消えないメランコリー」と同様にめんまさんですが、「つよがりマイペース」はアレンジも過去2曲と比べてシンプルにポップですね。

素直にノれますよね。やぎぬまさんの楽曲は基本的に地声で表現していて、それを好きだと言ってくれる人も多いので、喜んでもらえるんじゃないかなという期待感はあります。一方、2曲目の「スキ!!!!!」の作編曲は長谷川大介さんなんですけど、長谷川さんも「ケーブルサラダ」で1曲書いていただいていて。

──「Bluff 2」ですね。

そうです。「スキ!!!!!」もそのとき一緒にいただいた楽曲なんですけど、あまりにもまっすぐすぎて。ちょっとアメリカンな王道さわやかロックで、夏川椎菜ではあえてやってこなかったタイプの楽曲なんですよね。それを今さらやるとなると……仮に「スキ!!!!!」をシングルの表題で切ったら「あ、路線変えたな」みたいに思われちゃうかもしれない。でも、こういう楽曲も1回やっておきたいし、「EPだったらちょうどいいのでは?」ということでリリースが実現した楽曲です。

EPとはなんたるかを体現している「つよがりマイペース」

──今お話に上がった2曲も含め、収録曲について詳しく伺っていきます。まず「つよがりマイペース」のボーカルは、言い方が難しいのですが、中身が詰まっていない感じというか……。

地声なんですけど?(笑)

──いや、空っぽとか空虚という意味ではなくて。僕は、例えば「ライダー」(「ケーブルサラダ」収録曲)のような脱力した歌い方が好きなのですが、「つよがりマイペース」はより軽やかで角がないように思いました。

はいはいはい。確かに力は抜けているかなと思います。ただ、脱力系を狙っているんじゃなくて、単に自分の声にメイクをせずに、すっぴんのままの声を出すような感覚で歌いました。タイトルに「マイペース」とあるように、至ってマイペースに。

──マイペースって、比較的いい意味で使われることが多いんですかね。

どうなんでしょう? 私に関していえば、ここ最近「私って、実はマイペースなのか?」と思うようになりました。それまで自分がマイペースであるという自覚はなかったんですけど、よくよく考えたら他人に合わせるのが好きじゃないし、1人が一番気楽だし、周りのスピード感についていくのが大変だったことがけっこうあったりして。でも、マイペースって必ずしもいいことではないですよね。協調性はあったほうがよくないですか?

──僕は、仕事が遅いことのやんわりとした言い換えみたいに捉えてしまいます。

それもあるかもしれない(笑)。マイペースという言葉に対する印象って、人によってよくも悪くもなると思うんですけど、私自身はマイペースなんだからしょうがない。

──そんなよくも悪くもとれる言葉にフォーカスしたやぎぬまさんの歌詞は、今回も独特の憂鬱さがありますね。曲はポップなのに。

そこがやぎぬまさんのすごいところであり、私が大好きなところで。難しい単語とか遠回しな表現を多用しないで、むしろまっすぐな言葉で、自分の伝えたいことを匂わせるにとどめているというか。聴き手にふんわり投げる感じの、優しい歌詞だと思います。実は、「つよがりマイペース」は「消えないメランコリー」と同時にいただいた曲なんですよ。つまり「ケーブルサラダ」のときにやぎぬまさんは2曲書いてくださって「どっちもやりたいけど、アルバムに入れられるのは1曲だね」という話になり、最終的に「消えないメランコリー」を選んだんです。だから「つよがりマイペース」が「ケーブルサラダ」に入っていた未来もあり得たんですよね。

──結果として、先ほど「間口が広い」と言いましたが、「つよがりマイペース」はEPの1曲目としてうまくハマったのでは?

全5曲をどう並べるか考えたとき、一応、リード曲としてミュージックビデオを作ったのは「テノヒラ」で、もちろん「テノヒラ」を押したい気持ちはあるけれども、それだけにしたくなくて。このCDのタイトルは「Ep04」であって、EPとはなんたるかを体現しているのが、私にとっては「つよがりマイペース」だったんですよね。これが1曲目にあることで5曲がうまく調和しそうだと思ったし、歌い出しが「ラララララララ」というのも開幕感があっていいなって。

──夏川さんは、アルバムでは「ハレノバテイクオーバー」(「コンポジット」リード曲)に「メイクストロボノイズ!!!」(「ケーブルサラダ」収録曲)と、フルスイングで殴りかかるような曲を1曲目に置いていたので、意外性もありました。

アルバムだとこういう入り方はしないし、もっと言えば収録曲を並べてみたときに「もう1曲ぐらいゴリゴリの、ブイブイ盛り上がる楽曲を入れたほうがいいのかな?」って、どうしてもバランスを見ちゃうんですよ。でも、今回はEPなのでそういうのは一旦忘れて、その結果、EPだからこその顔ぶれになったと思います。

「好きだ!」と叫ぶのって、気持ちよくないですか?

──2曲目の「スキ!!!!!」は、先ほどおっしゃったように本当にまっすぐで。夏川さんがひねくれすぎて、1周して見かけ上はまっすぐになったのかと思いました。

そういう受け取られ方もあるんだ(笑)。「スキ!!!!!」は自分で作詞したんですけど、CMソングとかに採用されそうなぐらいまっすぐなイメージの曲だったから、歌詞で夏川椎菜の色を出さないと曲に食われるというか、ただまっすぐなだけで終わってしまう。かといって、あまりにもひねくれたことを言うと詞と曲がちぐはぐになっちゃう。自分らしさを出しつつ、楽曲のイメージを損なわないようにするにはどうしたらいいか考えたとき、私は「シャドウボクサー」(2024年4月発売の8thシングル表題曲)あたりで暑苦しい言葉を使うようになったんですけど、その暑苦しさをさわやかなほうに寄せられないかなと思って。

夏川椎菜

──その結果なのか、僕はほどよい青臭さを感じました。

よかった。青臭いのはいいけれど、青臭くなりすぎるのは避けたくて、まさに「ほどよい」ところに着地させるのがけっこう大変だったんです。ディレクターの菅原拓さんにも歌詞を見てもらって「この表現はさすがに青臭すぎるかも」「ちょっと夏川っぽくないかな」といった意見を参考にしつつ、言い回しを訂正したり微調整したりしましたね。

──歌詞の趣旨としては、自分の「好き」に嘘はつけないみたいな話ですよね。

うんうん。私は自分の好きなものを隠さないし、みんなに「私はこれが好きです!」と言うことに快感を覚えるタイプなんですよ。好きなものに対して「好きだ!」と叫ぶのって、気持ちよくないですか? 勝手な想像なんですけど、きっとライブに来てくれてる人たちも同じだと思うから、今後「スキ!!!!!」をライブでやったら、会場のみんながひとつになって、同じ気持ちでバカみたいに叫べるんじゃないかなって。

──サビではコール&レスポンスが起きそうです。

そう、「キライ スキ キライ スキ」と「ダイスキ ダイスキ ダイスキって」のところですね。最後に「声の限り ダイスキ!!!!!」っていう本当にバカみたいな歌詞があるんですけど、そこもみんなと一緒に声の限り叫びたいです。

──バカみたいに叫んだほうがいい。なぜなら「カッコつけなかったヤツから 返事はかえってくるから」。

そうそう。自分の中の好き、嫌いを素直に表に出さない人って、たまにいません? 答えは「好き」か「嫌い」かの二択なのに、何かと理屈をこねてどっちともとれる感じに濁すみたいな。そういう人に対する「ごちゃごちゃ言ってないで、好きか嫌いかはっきりしたら?」「自分に正直になりなよ」という青臭いメッセージでもあります。

──夏川さんの、ややラフなボーカルも歌っていて気持ちよさそうですね。

レコーディングのとき、テストで何回か歌ったあとに拓さんから「こういう感じで歌ってほしいんだよね」と、とあるアメリカのバンドの音源を聴かせてもらったんです。そのボーカルがとにかくがむしゃらに歌っている感じで、上手ではないかもしれないけどカッコよくて。「スキ!!!!!」は丁寧に歌おうとすると小綺麗にまとまってしまう楽曲で、そうはしたくなかったから、ピッチとかリズムを気にせず歌詞の通り「好きっていう気持ちを叫びたくてしょうがないんだ!」というテンションで歌いました。

──歌うとき、自分の好きなものを具体的に思い浮かべたりしたんですか?

はい。例えば、ウサギとかヒヨコみたいな小動物ですね。かわいすぎて「ういいいいい!」って奇声を発してしまうような感覚、思わず抱きしめたくなってしまう衝動を歌に乗っけた感じです。